上生菓子(じょうなまがし)とは、和菓子の芸術。その種類と楽しみ。

      2017/08/14

上生菓子

 上生菓子(じょうなまがし)は、和菓子の芸術作品です。

 上菓子主菓子(おもがし)とも呼ばれる上生菓子は、お茶席や正式な行事の席で、最上のおもてなしとして出される、伝統と由緒あるお菓子です。

 ふつうの和菓子と上生菓子は、どこがどう違うのか? また上生菓子にはどんな種類があるのか?

 日本人ならではの感性や美意識にあふれる上生菓子の特徴や歴史について、最低限知っておきたい基礎知識をまとめました。

上生菓子の特徴と魅力

 上生菓子とは、どういうお菓子でしょうか? 

 文字通り「高級な生菓子」のことに違いないのですが、実は、上生菓子は、お菓子の種類や素材や作り方だけで簡単に分類できるものではありません。

 上生菓子は、次のような特徴をもった和菓子の一種です。

上生菓子とは?

・上生菓子は、テーマに基づいてデザインされた芸術性の高い和菓子。

・上生菓子のテーマは、四季の移り変わりや、古典文学などが多い。

・上生菓子には必ず「菓銘」がある。「菓銘」は、テーマが四季の場合は「季語」のようなもの。

・上生菓子は、白あんベースの「練切(ねりきり)」や「こなし」などの生地で作られることが多いが、使われる生地は多種多様。

・お茶席では、上生菓子は主菓子と呼ばれ、干菓子とともに茶道では欠かせないもの。

・上生菓子は江戸時代に生まれ、御菓子司と呼ばれる特別な菓子屋だけが作っていた。

・現代の上生菓子は、常に進化しつづけ、伝統的なものだけでなく、革新的なデザインや技法を取り入れて、世界に発信されている。

 このような上生菓子の特徴について、以下に、詳しくみていきましょう。

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▲上生菓子は、テーマを表現する芸術作品。

上生菓子は芸術だ!

 上生菓子(じょうなまがし)は、美しい造形で、季節の移ろいなど日本人の琴線に触れるテーマを表現している和菓子です。上生菓子は「立体感のある俳句や和歌のようなもの」と言われたりもします。

 菓子職人の技巧とコンセプト、そして客人をもてなすホストの思いが込められたお菓子の芸術作品なのです。

 和菓子の中でも最高クラスとされる上生菓子は、
茶席での主菓子(おもがし)
として発展してきました。

 客人をもてなす茶会の主人が、わざわざその日のために、新しい上生菓子を、和菓子職人と一緒に考えながら創作することも少なくありません。

 上生菓子は、おもてなしの心を、和菓子の意匠のなかに託し表現した、奥の深い芸術文化なのです。

 現在では、茶道や行事とは関係なく、日常のなかのちょっとした贅沢や自分へのご褒美的な感じでいただくことも多い上生菓子。ちょうと、洋菓子のケーキを買うような感覚で、日常的に自由に楽しめるのが、現代の上生菓子です。

 かしこまった作法や格式にとらわれずに、思い思いにお菓子を楽しめば良いのですが、いただく上生菓子が、どういうコンセプトで生み出されているか? そこに意識を向けると、目の前のお菓子が、五感で感じるアート作品に見えてくるのです。

 少なくとも、上生菓子は、テーマをもって作られているお菓子だ、ということは最低限おさえておきましょう。

▲季節の定番のテーマの例。菓銘は「菊」

上生菓子には必ず「菓銘」がある

 上生菓子が、一般のお菓子と異なるのは、必ず、「菓銘」が付けられていることです。

 「菓銘」がテーマになっていて、そのテーマが、お菓子の造形にどのように表現されているか?を、見て・感じることが、上生菓子ならでは楽しみです。

 何も考えずにペロリと食べてしまうのではなく、まずはテーマをどう表現しているのか?鑑賞するのが、上生菓子をいただく最低限の作法です。

 ですから、上生菓子でおもてなしする時はもちろん、自分ひとりで楽しむ場合でも、必ずお菓子の「菓銘」をチェックしてからいただくようにしましょう。

季節にまつわる菓銘

 上生菓子の「菓銘」で、スタンダードなのは、季節にまつわるものです。

 和菓子屋さんの店頭では、月ごとに、あるいは、二十四節気にあわせて半月ごとに上生菓子のラインナップが入れ替わります。上生菓子は、まるで「季語」をもつ俳句や和歌のような存在ですね。

 たとえば季節の花鳥風月をあらわしたテーマでは、定番の菓銘には次のようなものがあります。

「紅梅」「花衣」「菖蒲」「紫陽花」「向日葵」「光琳菊」「月兎」「綾錦」「落葉」「雪平」・・・

 これらの定番のテーマでは、いろいろな和菓子屋さんが同じ菓銘で作っているので、それぞれ、どういう表現をしているのか、和菓子屋さんごとに見くらべ・食べくらべるのも、上生菓子を楽しみのひとつです。

古典にまつわる菓銘

 また、平安時代の古典文学や当時の貴族文化に沿ったテーマの菓銘が多いのも特徴です。

▲菓銘「唐衣」。有名な和歌「から衣きつつなれにしつましあれば はるばるきぬる旅をしぞ思ふ」にちなんだ上生菓子

 これは、江戸時代には、武家を中心に教養のひとつとして上生菓子がたしなめられていたことが理由のひとつです。

 現代のわたしたちも、上生菓子を通して、古典に触れてみるのも良いことだと思います。日本の伝統や美意識を再確認してみる、良いきっかけになると思います。

 たとえば、5月の定番の菓銘「いだし衣」(いだしぎぬ)・・これは、平安時代の貴族の女性が牛車からのぞかせる衣の裾をあらわしたものです。

 「唐衣」(からごろも)は、古今和歌集・在原業平の有名な和歌にちなんで、かきつばたの造形を模したものです。

 初夏の季語になっている「落とし文」(おとしぶみ)は、密かな恋心をいだく相手の近くに文を落として気持ちを伝える風習を、昆虫のオトシブミと掛けて表現しています。

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上生菓子は一期一会

 ここまであげた菓銘の例は、いわゆる定番として、多くの和菓子屋さんが作り、お茶のお点前などでも、よく出されるものです。

 一方、そもそも菓銘は、和菓子職人や、あるいはオリジナルを発注する茶会の主人などが、自由に、考えて名付けるものです。

 ですから、これまで、無数の菓銘の上生菓子が生み出されていきているわけです。

 毎年同じデザインで作られる定番の上生菓子もありますが、ひと月や半月ごとに入れ替わるのが上生菓子の基本。

 つまり、どんな上生菓子に出会えるか?は、ほんとうに一期一会だということです。

 一期一会の出会い・・・これも、上生菓子を楽しむポイントのひとつです。

▲上生菓子との出会いは一期一会。写真はとらやの「雲の峰」

進化を続ける現代の上生菓子

 上生菓子のテーマは、日本の花鳥風月や古典に基づくテーマだけでなく、近年はクリスマスやハロウィンなど新しい年中行事にちなんだ上生菓子作りも盛んです。

 和菓子の世界は、決して保守的ではなく、時代にあわせて常に進化しているものです。

 最近注目されているのは、和菓子屋の若主人や後継者など、若い職人が作るグループ「WAKATAKU」(若い匠という意味)。

 デーパートなどとタイアップして、和菓子の「グループ展」のようなキャンペーンを展開しています。

▲若い和菓子職人のグループ展「ワカタク」が、上生菓子の新境地を拓いている。

 こうしたムーブメントに代表されるように、日々、新しい上生菓子が、新しい感性から誕生している点にも注目していきましょう。

 進化しつづける姿を追いかけるのも、上生菓子の楽しみなのです。

上生菓子の種類や素材

 ここまで、上生菓子は、四季折々のテーマを「菓銘」とともに楽しむ、芸術作品だ、ということを説明してきました。

 ここからは、角度を変えて、その素材や製法から、「上生菓子とはどういうものか?」を見ていこうと思います。

上生菓子と朝生菓子

 上生菓子の対になる言葉として、朝生菓子という言葉があります。

 2〜3日、日持ちがする上生菓子に対して、当日しかもたない、草餅、大福、団子、饅頭などのことを朝生菓子(あさなまがし)とする分類の方法です。

 お茶席で食べられる上生菓子に対して、庶民が街道沿いの茶屋などで食べる、お餅や団子や饅頭が「朝生菓子」というイメージですね。

 しかし、饅頭や団子が上生菓子になることもありますので、お菓子の種類の違いで、「上生菓子」かどうか?は判断できません。

上生菓子の生地は?

 実際、上生菓子は、ありとあらゆる菓子の技法を組み合わせて作ります
 素材を説明するときに「きんとん製」「ういろう製」などのように「○○製」というう言い方をしますが、これは生地が何でできているか?をあらわしています。

 下のリストに、上生菓子でよく使われる生地の種類をまとめてみました。

上生菓子に使われる生地

・練切(ねりきり)……白あんに、求肥(ぎゅうひ)や山芋を加えて練り上げたもの。造形がしやすく、上生菓子の生地の基本になっている。

・こなし……白あんに小麦粉などを加えて蒸したものをもみほぐして造形する。関西でよく使われ、練り切りよりやや硬い。もみ羊羹とも言う。

・外郎(ういろう)……うるち米を生のまま粉にした上新粉を蒸して砂糖と練りこんだもの。歯切れがよい。

・求肥(ぎゅうひ)……もち米を水につけて粉にした白玉粉を蒸して砂糖と練りこんだもの。餅のような伸びる弾力が特徴。練り切りの材料にもなる

・薯蕷(じょうよ)……山芋、つくね芋、ヤマトイモをすりおろし、上用粉(うるち米を生のまま細かくした粉。上新粉よりも細かい)と砂糖と混ぜ、蒸した皮。きめの細かいねばりのある食感となる薯蕷饅頭の皮として使われる。

・軽羹(かるかん)……すりおろした大和芋やつくね芋に、うるち米を半渇きで粉にした「かるかん粉」を混ぜて蒸した皮。純白で柔らかい生地が特徴

・道明寺(どうみょうじ)……蒸した餅米を乾燥させ粗引きにした道明寺粉。つぶつぶの食感が特徴的で、練り切りや、寒天とあわせるなど様々に使われる。

・羊羹(ようかん)……溶かした寒天に砂糖や餡を入れて練り上げ、型に流し固めたもの。寒天と練り羊羹が江戸時代に発明されたことが、菓子技法を一躍向上させた。

・錦玉羹(きんぎょくかん)・琥珀羹(こはくかん)……溶かした寒天に水飴や砂糖を入れて、固めたもの。夏の上生菓子のベースになる

・村雨(むらさめ)……米粉と餡を混ぜて蒸した、ほろほろとした蒸しパンのような生地。

・浮島……和菓子では珍しく卵を使う。メレンゲに、米粉や小麦粉や餡を入れ、蒸したもの。カステラの仲間と考えてよい。

・金団(きんとん)……素材というよりは、製法の名前。まるめた餡にうらごしした細かい餡をまぶしたもの。つなぎに寒天が使われることもある。

 このように、上生菓子で使われる代表的な生地の種類には、実にさまざまなものがあります。

 上生菓子の生地のヴァリエーションの豊かさは、原料そのものを細かく使い分ける、日本人の繊細な感性によるものです。

和菓子で使う米粉は11種類

 たとえば、米粉ひとつにしても、餅米とうるち米から、粉の挽き方の違いにより、「上新粉」「上用粉」「かるかん粉」「もち粉」「白玉粉」「道明寺粉」「新引粉」「上南粉」「寒梅粉」「みじん粉」「氷餅」と、実に11種類もの粉が作られます。

 これらを使い分けて、餡や皮を作りあげる奥の深い技術も、上生菓子の大きな魅力です。

 あんに使われる豆類も、種類や産地についての知識を深めることで、上生菓子の楽しみがより深まります。

 たとえば、老舗の「とらや」は、練り切りなどのベースとなる「白あん」に白小豆を使っています。

 通常、白あんは手亡(てぼう)などの白いんげん豆から作られていますが、より風味の強い白小豆の餡にこだわって、希少価値の高い白小豆を契約農場で作っています。

 このように、上生菓子は、日本の風土にあった農産物の魅力を美味しく引き出した「農産加工品」でもあるわけですね。

 上生菓子の、幅広い素材や原料へのこだわりが、上生菓子の魅力を、よりいっそう深いものにしているのです。

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御菓子司と上生菓子の歴史

 上生菓子の歴史を知ることは、日本の歴史のなかで、日本の美意識や伝統がどうやって形成されていったか?を知ることになります。

 和菓子の歴史は、中国から鎌倉時代に伝わった饅頭などの点心、17世紀の戦国〜安土桃山時代に南蛮から伝わったカステラなどの洋菓子、このふたつの源流がベースになっています。

 海外からの流入文化をベースに、そこに日本のコメや豆類、海藻などの食文化がハイブリッドにミックスされて和菓子は生まれてきた…それが、和菓子の歴史のポイントです。

 お菓子は古来、公家や寺社などの式典の折に食べられる特別なものでした。

 一方、庶民の間には、ハレの日に餅を食べる習慣などがありました。

 そして、武家や上級町人の間で社交として広まった「茶道」のなかでも、お菓子が欠かせないアイテムとして位置づけられていました。

 こうしたなか、南蛮文化の流入で、砂糖が日本に入ってきました。

 砂糖は江戸時代に入り鎖国がはじまった後も、輸入されています。この輸入砂糖を使って、お菓子づくりが盛んにおこなわれるようになったり、元禄時代に、京都を中心に和菓子文化が花開きます。

 上生菓子が誕生したのも、そのころです。

 当時、砂糖(なかでも白砂糖)は貴重品でした。限られたお菓子職人「御菓子司」にだけ、白砂糖が配給されていました。

 白砂糖を使うことを許された「御菓子司」が、上生菓子を発展させていったのです。

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▲上生菓子のルーツを今に伝える「御菓子司」。

 京菓子としてはじまった上生菓子は、宮中や寺社の行事だけでなく、武家の間でも急速に広まります。

 四季折々の花鳥風月や古典文学をテーマにした上生菓子は、江戸時代の武家にとっては、必須の教養とされました。

 そのため、各藩の藩主は、京都より職人を招き、地元の菓子職人の上生菓子の技術を学ばせました。

 こうして、上生菓子が、日本全国に広まって行ったのです。

 江戸中期になると、それまで輸入に頼っていた砂糖が国産で生産されるようになりました。

 砂糖の供給が潤沢になったことで、上生菓子以外の庶民のためのお菓子作りも盛んになり、江戸時代の人々にとって、お菓子は、生活のなかで欠かせないものとなっていったのです。

 明治時代に、牛乳やバターなど動物性の素材を使った洋菓子が入ってきて、お菓子といえば洋菓子のイメージが強いほど、普及しました。

 しかし、近年、植物性原料を中心とした、ヘルシーでローカロリーな和菓子が、より健康的な食べ物であることが見直されています。

 海外でもグルテンフリーやローファットのスイーツとして、和菓子の人気が高まっています。

 近年、日本を訪れる外国人観光客も急増しているなかで、上生菓子が日本の素晴らしい文化として、あらためて再認識されているのです。

上生菓子と茶道

▲最近の茶席では、上生菓子と干菓子が同時にだされることも多い。

 上生菓子は、とくに、戦後に、「茶道」が庶民のあいだにも広がったことから、庶民が気軽に食べれるお菓子となりました。

 もともと茶道のなかでは、上生菓子と干菓子(ひがし)がもちいられます。

 干菓子は和三盆などを固めた砂糖菓子や、落雁などですが、こちらも上生菓子と同様、四季折々の風情をお菓子で表したものです。

 正式な茶道では、濃茶と薄茶の2回がふるまわれ、濃茶の時に上生菓子、薄茶の時に干菓子が出されるのが、本来の流れです。

 近年では、薄茶だけをいただくことが多いので、薄茶と同時に上生菓子が出されることも増えてきたようです。

 いずれにせよ、上生菓子は、抹茶をいただくことを前提に、味も甘めに設定されています。

 日々のおやつとして、煎茶で上生菓子をいただいてももちろん構いませんが、時よりは、本来の楽しみ方である、茶席で上生菓子を味わってみたいものですね。

 忙しい日常のなかに、和の伝統を取り入れて、日本人の美意識を、しっかりと受け継いでききたいものです。

  

  

 以上、「上生菓子とは何?」というテーマを通して、日本文化のひとつの特徴が見えてきたのではないでしょうか?

 伝統的な和菓子が、案外、進化しつづけていて、ベースには異文化を取り入れた歴史があることは、意外だったかもしれません。

 「和菓子と洋菓子の接点」で言えば、上生菓子ではない和菓子にも、その特徴があらわれています。たとえば、今話題の「生どら焼き」なんかもすごいですよね。こちらの記事⇒「究極の和洋折衷菓子・生どら焼きと日本文化」もぜひ参照してみてください。

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