スプリングエフェメラル(春植物)の種類と時期。見れる場所や特徴。

   

キクザキイチゲ

スプリング・エフェメラルは「春の妖精」とも呼ばれる、山野草です。

落葉樹の林で、木々が葉を茂らせるまでの春先の短い間に、花を咲かせ、夏になると姿を消してしまうのが特徴で、学術的には「春植物」と呼んでいます。

雪解けと同時に花を咲かせる山野草には、いろいろな種類がありますが、そのなかでも、春の一瞬だけ姿を現すものが「スプリング・エフェメラル」です。

この記事では、スプリングエフェメラルの代表的な種類や見れる時期と場所、特徴などについてお伝えしていきます。

なお、森林についての基礎知識として、
⇒「雑木林とは?その種類と成り立ち」
⇒「日本の原生林一覧」
の記事も参照してください

春のはかなさ〜スプリングエフェメラルの種類と時期

スプリングエフェメラルとは

スプリングエフェメラルは、落葉樹の林にはえる山野草の一種です。Spring Ephemeralを直訳すると「春の儚(はかな)さ」の意味です。

雪解けと同時に地面から顔を出し、いちはやく花をつけ、落葉樹の葉が茂るまでの短い期間に活動し、夏になると枯れてしまいます。

夏の間はシダなど他の植物の葉に覆われた涼しい地面の下で地下茎は生き残り、また、春になると、まっさきに姿を現します。

1年のうち、春先の短い1カ月半~2カ月の間だけ、地上に姿をあらわす、儚(はかな)く健気で、したたかでもある野草なのです。

スプリングエフェメラルの開花時期は、もちろん場所によって違ってきます。また、同じ場所でも、たとえば、最も早く咲くのが、セツブンソウとフクジュソウ、続いて、イチリンソウとカタクリ、それを追うようにニリンソウ、と種類により咲く時期が違っています。

以下に、各種類ごとに特徴や開花時期の目安などについて見ていきましょう。

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カタクリ

●ユリ科カタクリ属 ●開花期:4〜5月頃

 紫やピンクの花を咲かせる春植物の代名詞。関東以北の比較的冷涼な落葉樹林帯の北斜面などに群生します。開花期間は2週間、地上に姿をあらわしているのも4~5週間だけの間です。根からデンプンがとれ「片栗粉」になりますが、希少作物のため、現在の片栗粉は芋類のでんぷんです。自生地の群落としては、北海道の突哨山、岩手県西和賀町の安ヶ沢、栃木県佐野市の三毳山、三重県いなべ市の藤原岳などが有名ですが、果樹園の下草に植えるなどした観光カタクリ農園も盛んです。

セツブンソウ

●キンポウゲ科セツブンソウ属 ●開花期:1〜3月頃
●種類:セツブンソウ、キバナセツブンソウ

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 1月~2月にまっさきに咲き始める春植物。草丈10cm花径2㎝の可憐な白いガク弁で中心が黄色と青のとてもチャーミングな花です。花言葉が「人間嫌い」というのも人気の理由のひとつですが、乱獲されて、絶滅危惧種に指定されています。なお、キバナセツブンソウは同じセツブンソウ属ですが、こちらはヨーロッパ原産の園芸品種です。

フクジュソウ

●キンポウゲ科フクジュソウ属 ●開花期:2〜4月頃
●種類:「秩父紅」「孔雀紅」など園芸品種がある

 スプリングエフェメラルのなかではもっともポピューラーで、目にしやすいもの。直径4~5cmの黄色〜オレンジの花が、雪解けがはじまった林にいち早く花開きます。光沢のある明るい黄色の花は、パラボラアンテナのようなかたちで、花の中心に熱を集めて温かくして、昆虫を誘う働きがあります。旧正月の頃から咲き始めるため、お正月のおめでたい花として「福寿草」の名前がついています。今では、園芸用に品種改良もされて、、さまざまな色合いのものが鉢植えなどでも楽しまれています。

イチリンソウ(イチゲ)の仲間

●キンポウゲ科イチリンソウ属 ●開花期:3〜4月頃
●種類:
イチリンソウ、キクザキイチリンソウ(キクザキイチゲ)、アズマイチゲ、ユキワリイチゲ(ルリイチゲ)

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 イチリンソウのなかまでは、全国に分布する白アズマイチゲと、その近縁種のキクザキイチエ、西日本に自生する雪割イチゲの3種類があります。比較的ポピュラーなスプリングエフェメラルで、カタクリと一緒に自生したり栽培されていることが多いです。いずれも花茎15cmの先端に2-3cmの白や淡い薄紫の花が、一枝に一輪咲きます。花びらの枚数や花びらの幅はいろいろなバリエーションがあり、花弁が細いものはキクのような、花弁の幅が広いものはアネモネのような花です。アズマ、キクザキ、ユキワリの見分け方は葉っぱのかたちの違いで見分けます。

ニリンソウ

●キンポウゲ科イチリンソウ属 ●開花期:4月頃
●種類:ニリンソウ、ウスベニニリンソウ、ミドリニリンソウ

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 イチリンソウに比べると花が小さく、花びらも幅が太めで枚数が少ないです。二輪草の名のとおり、一枝にふたつの花がつきますが、ふたつめはやや遅れて咲くので、花とつぼみがセットになったような感じです。時期的には、イチリンソウ(アズマイチゲやキクザキイチゲ)よりも少しあとに咲いてくることが多いようです。花がうっすらとピンクを帯びたウスベニニリンソウや、花の中心が鮮やかな緑になっているミドリニリンソウの亜種があります。

エンゴサク

●ケシ科ケマン属 ●開花期:4〜5月頃
●ヤマエンゴサク、ミヤマエンゴサク、ムラサキケマン、エゾエンゴサク、ミチノクエンゴサク(ヒメヤマエンゴサク):

 草丈10㎝~20㎝の先端に、とんがり帽子のような独特の形の細長い薄紫〜赤・ピンクの花をつけます。エゾエンゴサク、ミチノクエンゴサク(ヒメヤマエンゴサク)、ムラサキケマンなど、花の色の濃さや葉っぱのかたちが異なる品種がたくさんあります。園芸用の改良種もありコリダリスと呼ばれます。根茎を薬草として用いていましたが、有毒ですので注意が必要です。

エンレイソウ

●ユリ科エンレイソウ属 ●開花期:4〜5月頃
●種類:ミヤマエンレイソウ オオバエンレイソウ

 3枚の輪生する広い葉の上に、3枚花びらの小さな花が咲く独特の姿をした春植物です。花はムラサキや白や茶色など。同じグループに北海道に多いミヤマエンレイソウやオオバエンレイソウがあります。オオバエンレイソウは北海道大学の校章デザインのモチーフになっています。根は有毒ですが薬として使われていたため「延齢草」と呼ばれます。

キバナノアマナ

●ユリ科キバノアマナ属 ●開花期:4〜5月頃

 北海道に多い春植物です。草丈10㎝~15cmの細長い葉っぱで、一見イネ科の雑草のように見えますが、2㎝ほどの黄色い花を咲かせます。咲き始めは緑~白っぽい色で徐々に黄色くなります。花の開花は日中のみです。

コバイモ

●ユリ科バイモ属 ●開花期:4月頃
●種類:ホソバナコバイモ、コシノコバイモ、トサコバイモ、ミノコバイモなど

 草丈10-20㎝の4枚ほどの細い葉っぱの下に、角ばたったあんどんのようなクリーム色の花が下向きに咲きます。地味ですが清楚な花。本州の一部にみられる希少な日本固有種です。

ハシリドコロ

●ナス科ハシリドコロ属 ●開花期:4〜5月頃

 茶色っぽい釣鐘状の花を咲かせます。キチガイイモ、キチガイナスビなどの異名をもつように、幻覚性のある強い毒性があります。猛毒の草であるため、「春の妖精〜スプリングエフェメラル」のなかまに入れてもらえないことが多いですが、夏から冬に休眠する春植物です。山菜に混じって食べてしまう中毒事故が多いため注意が必要です。

スノードロップ

●ヒガンバナ科マツユキソウ属 ●開花期:2〜3月頃
●種類:コモン・スノードロップ、ジャイアント・スノードロップ

 東ヨーロッパ~中央アジア原産の春作物で、ヨーロッパでは修道院の庭などに植えられていて、早春の花として定番です。日本にも、明治頃から2品種が流通して定着していて、「待雪草」との和名もあります。

チオノドクサ

●ユリ科ヒヤシンス属 ●開花期:3〜4月頃
●種類:チオノドクサ・ルシリエ

 青〜紫の、ユリ状の小さな花を群生して咲かせるため「雪解けユリ」とも呼ばれます。もともとヨーロッパ原産の外来もので、ブルージャイアント、ルシリアアルパなどの園芸品種があります。庭に植えると、春の山野草の雰囲気が楽しめるためガーデニングで人気の品種です。

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スプリンフエフェメラルが見れるところと見る時の注意点

スプリングエフェメラルは里山や公園など、全国各地で見られます。

ただ、どちらかといえば、常緑樹林(照葉樹)の多い西日本よりは、落葉樹の広がる東日本~東北のほうに、名所は多いです。

次の表は、スプリングエフェメラルが観られる、比較的有名な場所です。もちろん、この他にも全国各地に自生地や栽培されている公園があります。

スプリンフエフェメラルが見れるところの例
所在地 場所名 スプリングエフェメラルの種類 同時に見れるその他の春の山野草・備考
北海道札幌市 前田森林公園 キクザキイチゲ、アズマイチゲ、キバノアマナ、エゾエンゴサク、カタクリ ナニワズ、ライラック
北海道紋別市 森林公園 アズマイチゲ、ヒメイチゲ、キバナノアマナ、ニリンソウ、エゾエンゴサク
岩手県滝沢市 鞍掛山 キクザイチゲ、エンレイソウ ウスバサイシン
秋田県仙北市 カタクリ群生の郷 カタクリ 日本最大の20ヘクタールの群落地
山形県山形市 山形市野草園 フクジュソウ、キクザキイチリンソウ、キバノアマナ、オオバナエンレイソウ、ニリンソウ オオスミソウ、ザゼンソウ、ショウジョウバカマ、シラネアオイ、クマイソウ
福島県福島市 四季の里 スノードロップ
新潟県燕市~長岡市 国上山~弥彦山~雨乞尾根 キクザキイチゲ、ニリンソウ、コシノコバイモ、カタクリ スミレサイシン、セリバオウレン、コシノカンアオイ、ショウジョウバカマ、オオミスミソウ
群馬県みどり市 上神梅 フクジュソウ 3万本の福寿草畑
栃木県佐野市 三毳山(みかもやま)・万葉自然公園 カタクリ、アズマイチゲ 1.5ヘクタールに150万株のカタクリ。アズマイチゲも同時に
栃木県栃木市 花の江の郷 セツブンソウ、フクジュソウ、アズマイチゲ、エンレイソウ、カタクリ 雪割草、ザゼンソウ、シラネアオイ、ショウジョウバカマ
栃木県栃木市 四季の森星野 セツブンソウ、フクジュソウ、アズマイチゲ、エンレイソウ、カタクリ 珍しいセツブンソウの自生地
栃木県那珂川市 カタクリ山自然公園 カタクリ
栃木県那須塩原市 出釜遊水地 フクジュソウ
埼玉県皆野町 むくげ自然公園 フクジュソウ 幻の福寿草と言われる品種「秩父紅」
埼玉県川口市 万葉植物園苑 フクジュソウ、キクザキイチゲ 水芭蕉
千葉県千葉市 昭和の森 カタクリ
調布・小金井・三鷹 野川公園自然観察園 セツブンソウ、フクジュソウ ミスミソウ
東京都あきる野市 小峰公園 カタクリ セリバオウレン、ネコノメソウ
東京都国分寺市 殿ケ谷戸庭園 カタクリ、ニリンソウ
東京都青梅市 御岳山 カタクリ、アズマイチゲ、ニリンソウ
東京都町田市 小山内裏公園 カタクリ
東京都調布市 神代植物園 セツブンソウ、アズマイチゲ、イチリンソウ、キバナセツブンソウ
東京都八王子市 高尾・大垂水~城山 ニリンソウ、アズマイチゲ、キクザキイチゲ、エンゴサク タチツボスミレ、フデリンドウ
神奈川県相模原市 城山カタクリの里 カタクリ
神奈川県箱根町 箱根湿性花園 カタクリ ミツマタ、ミスミソウ、ナニワズ
長野県白馬村 姫川源流自然探勝園 フクジュソウ、カタクリ、ニリンソウ、アズマイチゲ
長野県立科町 軽井沢津金寺 ヤマエンゴサク カタクリ アズマイチゲ
長野県飯綱町 むれ水芭蕉園 ニリンソウ ミズバショウ、リュウキンカ
三重県いなべ市 藤原岳 フクジュソウ、アズマイチゲ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、カタクリ タチツボスミレ、キランソウ、セリバオウレン
兵庫県神戸市 六甲高山植物園 フクジュソウ、キクザキイチゲ、カタクリ、エンレイソウ ザゼンソウ、ショジョウバカマ、コガネミズバショウ、シラネアオイ

公園や野草園のスプリングエフェメラルは気軽に見に行くことができますが、やはり、森のなか一面に広がる花の風景を、トレッキングがてら見に行きたいものです。

ただし、里山や雑木林にスプリングエフェメラルを見に行くときは、次のことに注意しましょう。

スプリングエフェメラルを山に見に行く時の注意点

・花を踏みつけないように細心の注意で

・残雪が残っている可能性があるのでそれなりの靴で

・春先の天候が変わりやすい時期のため、雨具などを必携

・クマが活動をはじめる時期。出没地帯では熊すずなど必携

スプリングエフェメラルとふつうの山野草との違い

スプリングエフェメラルは、広い意味では、春咲に花を咲かせる山野草すべてを指すこともあります。たしかに、イメージ的にいえば、スミレやフキノウトウなどの春に咲く野草もスプリングエフェメラルと呼びたくなりますが、ただ、「春植物」という生態のめんから区別すると、スプリングエフェメラルは、おおむね以下の一覧にあげる系列のものに限られてきます。

日本でよく見られるスプリングエフェメラル

セツブンソウ
フクジュソウ
カタクリ
イチリンソウ(イチゲ)
ニリンソウ
エンゴサク
エンレイソウ
キバノアマナ
コバイモ
ハシリドコロ
スノードロップ(外来園芸種)
チオノドクサ(外来園芸種)

間違いやすいのは、雪割草(ミスミソウ)やセリバオウレン、ザゼンソウなど。これらの山野草は、雪解け時にまっさきに花を咲かせますが、夏も葉を茂らせています。スプリンフエフェメラルは「夏のあいだは地上部が枯れてしまう」のが特徴です。ですから、以下にあげる春の山野草は、スプリングエフェメラルには含まれません

スプリングエフェメラルではない春の山野草

ミスミソウ(雪割草)
ザゼンソウ
タチスボスミレ
ショウジョウバカマ
シュンラン
クマガイソウ
セリバオウレン
シラネアオイ
スミレサイシン
ヤマノネコノメソウ
ミヤマカタバミ
フキノトウ
……etc

スプリングエフェメラルの特徴と共生関係

スプリングエフェメラルは、春先のごく短いあいだに花を咲かせ、種を作り子孫を残さなければなりません。

わずか数週間〜2ヶ月ほどの短い期間で、芽を出し花を咲かせ、種まで作るために、さまざまな工夫がされた合理的な仕組みがあります。たとえば、次のような特性があります。

スプリングエフェメラルの特徴

10㎝~15cmほどの低い草丈

葉っぱが1~2枚ですぐ花を咲かす

低い温度でも光合成活動が盛ん

昆虫との共生関係

人との共生関係

昆虫とスプリンフエフェメラルの共生

これらの特徴のなかでも、昆虫との共生関係は、春先のチャンスを最大限に生かすために、よくできた仕組みです。花が少ない時期ですので、昆虫たちにとっても、蜜源や食草としてスプリンフエフェメラルは頼もしい存在です。そうした春の昆虫たちと春花のコラボレーションには、生命力の強さを感じます。

たとえば、カタクリは、生まれたばかりの新女王蜂に蜜を与えます。新女王蜂が自分の城を築く第一歩にカタクリはなくてはならない存在なのです。また、春先だけ姿を現す蝶であるギフチョウは、カタクリの蜜で栄養をとり、春のうちに子供を産みます。幼虫は春の草を食べて、夏前には蛹になり、春の羽化まで落ち葉の下でずっと待ちます。ちょうど花のスプリングエフェメラルと同じ生態ですので、ギフチョウなど春先だけに現れて活動する昆虫のことも「スプリングエフェメラル」と言います。

スプリンフエフェメラルは人間とも共生(?)している

スプリングエフェメラルは、山奥の森ではなく、人の手が入った雑木林や里山・果樹園などに多く見られるのも、大きな特徴です。

落葉樹の自然林では、シダやササなどの下草の力が強くなりがちで、小さくか弱いスプリングエフェメラルは、生存競争に負け、やがて消えてしまいます。

人が山菜取りなどで山に定期的に入ったり、畑のたい肥作りのために落ち葉を集めたりと、里山として利用しているところでは、強い下草が生えにくくなります。また、落ち葉があまり深く積もっているところでは、スプリングエフェメラルは芽を出しきれません。このように、ある程度、人の手が入っている林の方が、スプリングエフェメラルにとっては、すごしやすい環境なのです。

人にとっては、春先の森に一面に広がる可憐な花を見ることで、心を動かさせれ癒されます。スプリングエフェメラルは人間のメンタル面にとてもいい影響を与えてくれるので、人と共生している、と言えるわけです。

以上、春の妖精「スプリングエフェメラル」について、ぜひ知っておきたいことをまとめておきました。

開花の時期については、毎年違いますので、公園や観光協会が発表する情報や、twitterの最新情報をつかんで、春の妖精に出会いにいきましょう。

なお、春のお花畑情報として、以下の記事も参照してください。
⇒「ネモフィラのお花畑を見に行こう!」
⇒「ポピーの種類と名所」

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