車椅子マークの駐車場のマナー。妊婦や高齢者が使うのはオッケー?

      2017/02/12

車椅子用駐車場

 車椅子のマークが書かれた駐車場が、最近は、小さなコンビニなどでも必ず見られるようになりました。この駐車場は、車椅子の人だけではなく高齢者や妊婦まで含めた、「優先スペース」という位置付けになっています。

 ただ、「ここに健常者は絶対に止めてはいけないのか?」というと、実は、そのへんは曖昧なのです。道路交通法の管轄外ですし、法的な規則はなく、あくまでもわたしたち市民の「モラル」に委ねられているということなのです。

 車椅子駐車場に何も気にせずに止める健常者ドライバーが多すぎて、ほんとうに必要な車椅子ドライバーが困っているようです。が、なぜ困っているのか?そのへんを正しく理解している人が少なすぎる・・・だから、みんな平気で止めちゃうような気がします。

 この記事では、車椅子駐車場の意味や規則について、見ていきたいと思います。なかなか答えが出ない問題なのですが、この車椅子駐車場問題を考えるきっかけになれば良いと思います。

車椅子駐車場が広まった歴史

 まず、車椅子駐車場の導入の経緯を簡単にたどってみましょう。

 平成6年(1994年)にハートビル法が制定されてから、「バリアフリー化」に、国が本腰を入れて取り組むようになりました。続く平成12年(2000年)の交通バリアフリー法で、公共交通機関でのバリアフリー義務化が制定されて、バリアフリーという概念が広く国民に浸透してきました。

 そして、平成18年(2006年)のバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)で、民間の商業施設などでのガイドラインも設定されて、一気にバリアフリー化が進みます。

 

車椅子駐車場が広まった歴史

大規模商業施設やコンビニの駐車場に車椅子用駐車場がどんどん設置されるようになったのも、このバリアフリー新法ができてからです。

 新法では、公共施設や有料駐車場では車椅子駐車場の設置は義務になっていますが、商業施設に関しては、県や市町村の条例で定められることになっています。

 実際のところ、ほとんどの自治体では「義務」ではなく、あくまで「努力目標」的な位置づけとなっています。

 それでも、実際には「車椅子駐車場を作らないとマズい」という雰囲気がかなり広がっているので、大小を問わず、ほとんどの商業施設に、車椅子用駐車場が設けられるようになったのです。

車椅子ドライバーはどれくらいいる?

 こうして、法律でガイドラインを示したことで、「車椅子用駐車場を作る」という認識が一気に広まったのは、良いことだと思います。

 そもそも、わたし自身、「車椅子の人も車を運転するんだ」ということを意識したのは、(古い話ですが)常盤貴子さんとキムタクの「ビューティフルライフ」(2000年に放映のTBS系日曜劇場ドラマ)でした。

 実際、車椅子で免許を取る人は、ちょうど2000年前後に増加したようですね。1998年には約18万人だったのが2003年には20万人を超えています(身体障害者用車両限定付き免許保有者数・警察庁運転免許統計など)。

 両足が不自由な人は、オートマ車に手動運転装置を設置して運転しています。左にレバーがあり、押すとブレーキ引くとアクセルになる装置ですが、足ペダルと機械的に連動しているので、健常者もそのまま運転できる仕様になっています。

 さらに、片手ハンドルでも安定するような旋回補助装置を併用することで、両足を使わずに安定して運転できるようになっています。

 この車を運転する免許を取るために、障害者専用の寮がある合宿免許所も全国にいくつかあります。

 このように、車椅子の人が自動車を活用する流れは、すっかり定着しています。車椅子の人にとっては、公共交通機関を利用するより、一人でマイカーで移動できた方がはるかに便利です。今や、車椅子の人の自動車運転は、ある意味、当然のことですし、ぜんぜん珍しいことではないわけです。

 平成27年現在で、身体障害者用車両限免許の人が約20万人、総免許発行数が約8,200万ですので、約0.24%の人が、車椅子利用者でかつ自動車を運転しています。単純計算すれば400台に1台の割合ですが、ペーパードライバーの割合は、一説では35%以上とも言われていていますので(2012年マイナビニュースによる)、そのへんを勘案すると、300台に1台くらいは、車椅子ドライバーがいてもおかしくない、という計算になります。

車椅子駐車場のニーズとは?

 車椅子ドライバが、車椅子と自動車に乗り換えるためには、車のドアを全開にして、折りたたみ車椅子を出しセッティングして、乗り移る必要があります。

 車の横に一定のスペースがないと車の乗り降りが無理なため、車椅子駐車場は、通常の駐車場よりも1m幅が広い3.5メートルに設定されているのです。

 つまり、車椅子駐車場は「幅が広い」のがポイントだということです。

 ふつうの狭い駐車場だと、同乗者がいない限り、絶対に、乗り降りは無理なわけです。

 車椅子の人でも、一人で自動車で外出するのがあたりまえの時代ですから、そこに幅が広い駐車場のニーズがあるわけです。

【ここまでのまとめ】車椅子ドライバーの状況

・車椅子駐車場は2006年バリアフリー新法で広まった

・車椅子ドライバーは約20万人。免許数からの推定では平均で300〜400台に1台の割合。

・手動運転装置や身体障害者用の合宿免許が普及。車椅子ドライバーは、もはや普通のこと。

・車椅子ドライバーには乗降にドア全開できるスペースが必須。

車椅子駐車場の基準が曖昧で法的効力も薄い

民間施設の車椅子駐車場の利用基準はない⁉︎

 さて、車椅子駐車場は、車椅子のマークが書かれていますが、法令上は「障害者用駐車場」という位置付けで、身体障害者以外でも、高齢者・妊産婦・内部障害者等が優先的に駐車して良いスペースとして位置付けられています。

 ただし、この制度について、法律は、かなり曖昧です。

 まず、障害者駐車場の設置について、国の法律(バリアフリー新法)では、民間の無料駐車場ではガイドラインのみで設置の「義務」まではありません。

 市町村でごく一部で義務化しているところがあるようですが、ほとんどのところは、努力目標という感じです。

 で、問題は、設置の基準は法律で定められていますが、「利用」については、法律では、とくに定めが無いということです。

 車椅子マークの駐車場は、誰が利用するべきもので、誰が利用したらダメなのか?といことについて、実は、明確な基準も法的根拠もない、ということなのですね。

 管轄はバリアフリー新法に関わる国土交通省になるので、警察や道路交通法も一切無関係です。

 ですので、法的には、健常者が車椅子駐車場に止めたからといって、実は誰も規制できないのです。

 まさに、車椅子駐車場の運用は、市民の皆様の「モラル」に委ねられている状態なのです。

 一方、諸外国では、車椅子駐車場をきちっと法制化して、違反者には高額の罰金を課すようにしているところも多いです。

 日本では、法制化の要望などが国会に上がっているようですが、曖昧なまま現在まで来ています。

さらに混乱を招いている曖昧さと不理解

 法的根拠や罰則が無いだけに、車椅子駐車場の利用は「市民のモラル」が試されるものとなっています。

 現実には、ほとんど無視して車椅子駐車場に止めまくる、人が後を絶ちません。

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 このことについて、ただ単に「市民のモラルが低すぎる・・・」と嘆く意見も多いのですが、実は、車椅子駐車場の意味を理解している人が、少なすぎるというのもの原因のひとつになっているようです。

 ただんに入り口に近いところを障害者や高齢者に優先して使わしてあげるスペース、と思っている人がほとんどだと思います。

 実際は、車椅子ドライバは、幅が広いスペースが無い限り乗降ができない・・・そのために車椅子駐車場が不可欠なのです。

 ある見方をすれば、車椅子駐車場は車椅子ドライバーだけではなく、「高齢者や妊婦も利用する」というのが、よけい混乱を招いている原因のような気もします。

 たとえ、車椅子ではない人が車椅子駐車場を利用していても、何らかの内部障害がある人であれば利用権があるので、見ただけではわかりません。

 そこに目をつけて、悪用する人すらいるわけです。マイカーに車椅子シールを貼って、「障害者を偽装」して、車椅子駐車場を都合良く利用する人たちが後を絶たないのです。

 ほんとうに嘆かわしいことですが、そういうズルをやる人たちが、果たして、ほんとうに車椅子駐車場の意味を知っているのだろうか?というのは疑問です。

 ただの「優先駐車場」と思っているので、「別にそれほど混んでないし、すぐ出るからいいんでね? 別に法律違反でもないし」という考えになってくる人が多いのでしょう。

ニーズを明確にして、合理的に整理してみると・・・

これって意味ある駐車場?

 それから、車椅子駐車場を設置するお店側にも、車椅子ドライバーにとって必要なことは何か?というのが理解されていないこともあるようです。

 たとえば、こんな無茶苦茶、幅の狭い車椅子用駐車場・・・

 これは極端な例ですが、車椅子駐車場を設置する店舗が、車椅子ドライバーのニーズを理解しないまま、「とりあえず車椅子駐車場を用意しないとまずい時代だから、ただやっている」という感がいなめません。

必要なのは幅が広いこと? それとも入り口に近いこと?

 ここで考えたいのは、車椅子ドライバーのいちばんのニーズは何か?ということです。

 車椅子ドライバーにとっては、「幅の広い駐車スペース」こそが、最も必要なものです。

 もちろん店舗の入り口に近いことに越したことはないですが、たとえ離れていてもいいから、幅が広い駐車場が確保できる方が良いという意見も、車椅子ドライバーのなかには少なくないようです。

 ある意味、車椅子駐車場は、入り口に近いところに設置されるから、健常者ドライバーの不正利用が後を絶たないわけです。

 逆の発想で、入り口から離れたところに、車椅子駐車場を作るという方が、合理的な考えなのかもしれませんね。もっとも、店の入り口までの安全な動線が確保されている必要がありますが。

車椅子ドライバーと高齢者ではニーズが違いすぎる

 また、車椅子と、高齢者や妊婦とニーズが違う人たちを、ひとつの駐車場にまとめて優先利用と定めることも、とても非合理なことです。

 高齢者や妊婦などは、店の入り口に近い方が良いでしょうが、車いすドライバーにとっては「幅」が最も大事なのです。

 このへんをごっちゃにしてしまうことが、車椅子駐車場の意味を、薄れさせていることは間違いありません。

 実際、最近では、幅の広い車椅子駐車スペースと、高齢者や妊婦専用の普通の幅の駐車スペースを区別して併設すること(=ダブルスペース)が、ガイドラインでも示されています。

 この方法をとれる大型駐車場では、効果があるのではないか?と思います。車椅子駐車場と、高齢者・妊婦など優先の駐車場を、しっかりと分けていくことで、自然に、車椅子駐車場の趣旨が多くの人に理解されるようになり、不正利用も減ってくるのではないでしょうか?。(参考→国交省・障害者等用駐車場の適正利用のために

 ただ、逆に小さな駐車場では、別な工夫が必要だと思います。たとえば、
車椅子以外に高齢者や妊婦使えるということがわかるマークをつける、
車椅子から降りる部分を、車線ではなく「車椅子乗り換えスペース」などもっとわかるようにする。
などの工夫を加えることで、多くの人の理解を深めることができるのではないでしょうか?

 さらに、小さな駐車場では、何が何でも「健常者は使用不可」ということではなく、「混雑時には、健常者も併用できるが長居はしない」など、臨機応変な使い方が理にかなっているような気もします。

【ここまでのまとめ2】車椅子駐車場の曖昧さと、それぞれのニーズ

・車椅子駐車場の利用は、法的規制がなく罰則もない。道路交通法も無関係。

・車椅子ドライバーに最も必要なニーズ…駐車スペースの幅

・高齢者や妊婦などのニーズ…入り口にできるだけ近い駐車スペース。

・車椅子駐車場の意味が、もっと明確に伝わるような工夫で、不正利用が減らせるのでは?

 

 

 

 以上、車椅子駐車場について、見てきました。

 法的な規制が無いのを良いことに、何が何でも店の入り口近くに止めようとするマナーやモラルが欠けた人が多いです。

 が、そういう人たちは、車椅子駐車場の必要性とその理由を、正しく理解できていない部分もあるように思います。

 また、「何が何でも車椅子駐車場を入り口横に作ればいんでしょ」的な行政やお店側の発想にも問題があるかもしれません。形式的に車椅子駐車場を作るのではなく、ほんとうのニーズをしっかりと捉え直して、ニーズに合わせた機能や規模で対応していくことが、あらためて問われているのではないか?と思います。

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