吉日の由来。天赦日、鬼宿日、一粒万倍日、母倉日など吉日の根拠は?
2018/06/17
吉日といえば、「大安」が有名ですが、最近は「一粒万倍日」とか「天赦日」とかも目立ってきて、宝くじ売り場やお財布売り場などで、縁起を担ぐのに良い日としてアピールされていますね。
「吉日なんて迷信でね?」と思いつつも、やっぱり少しは気にしたほうが良いのかな? と迷ってしまうこともあります。
そもそも吉日は「暦」のなかで、どのようにして決められているのでしょうか? はたして科学的な根拠があるのでしょうか? 気にする必要はあるのでしょうか?
この記事では、暦のなかの代表的な吉日の種類や、その由来や根拠について確認していきます。吉日に、どの程度こだわったほうが良いのか・・・その参考になれば幸いです。
なお、手紙や案内状での「吉日の使い方」については、⇒「手紙や案内状での吉日の使い方は?」についての記事を参照してください。
暦のなかの吉日のなりたち
吉日とお日柄の歴史
古来より、暦のなかで、いくつもの吉日が決められてきました。
暦のなかの吉日は、為政者や民衆たちに信じられていて、ひとびとの暮らしに大きな影響力を持っていました。
「お日柄」などとも言われる吉日や凶日が、古来より日本人の社会や暮らしに浸透してきたのは、日々の運命を受け入れて謙虚に生きるという日本人ならではの価値観の表れだとも言われています。
情報が限られていた時代に、ものごとの判断をする基準として、「お日柄」が一定の役割をはたしていたのでしょう。
ただ、あまりに暦の吉凶にこだわるあまり、弊害が出てくることも少なくありませんでした。
実は、暦の吉凶がブームになりすぎたため、時の為政者は、たびたび吉日・凶日を暦に書くことを禁止してきた、という歴史があります。
それくらい、ひとびとがハマりやすいのが、「お日柄」や「お日にち」なのですね。
現代でも結婚式や建築、登記や開業など、生活の節々では「お日柄」を重視することが多く、身近な例では、宝くじやお財布の購入時に「吉日」を選ぶ人も少なくないと思います。
ただし、現代の社会生活では、吉日などのお日柄を気にすることの弊害のほうが大きいので、「お日柄」はネタや知識として知っておく程度でよいでしょう。
ガチで信じてハマりすぎないように、気をつける必要があります。
吉日が決まる仕組み
吉日の決定方法には、いくつかのパターンがありますが、代表的な、吉日を決める根拠は、干支(えと)です。
干支は生まれ年をあらわすために今でも使われていますし、江戸時代までは時刻や方位を表す欠かせない単位でした。
暦のなかでの干支は、吉凶を占う基準として、大きな意味を持っていました。
日付に割り当てられた干支をベースに、占星術や方位学や陰陽五行説などを組み合わせて、一定の法則にのっとって、日の吉凶は決められていきます。
計算や法則を用いて日を決めていくので、そこには何か、科学的な理由があるかのように錯覚していまいますが、吉日に科学的な根拠はいっさいありません。
よく、風水が関係しているなどとも言われますが、陰陽五行の仕組みをあてはめているだけで、直接的には、風水と吉日には関係がありません。
気の流れをコントロールする環境学である風水には、ある程度の科学的根拠がありますが、吉日の算出方法は、ただの周期や組み合わせに過ぎません。
つまり、「吉日はすべて占いや迷信のたぐい」だということです。
吉日はあくまで遊びやネタとして楽しむもの
科学的な根拠が無い吉日ですので、吉日を選んで宝くじを買えば当たる確率が高まるとか、お財布を吉日に使いはじめれば金運が向いてくるとか、お日柄の良い日に結婚式をあげれば夫婦生活が上手くいくとか、そんなことは、いっさいありません。
ただ、ネタとしてそういのを楽しんだり、縁起を担いだりすることは、個人の自由ですので、あくまで、本人の納得のために、吉日うんぬんというのは考えていくべきです。
くれぐれも、他人の行動について、お日柄や吉凶をもちだして、今日が吉日だからどうしたら良いよ! みたいなことは言わないほうが無難です。
吉日を気にしたり、吉日に験(げん)を担いだりするのは、あくまで遊びの範囲です。
吉日の種類と特徴
吉日は、計算方法によって、いくつもの種類があります。
なかには、月のうちに10日〜15日と、数多く出現する吉日もあります。あまり多すぎる吉日は、ありがたくないので、ここでは除外していいます
適度な頻度で出現して、それなりにありがたく思える、現代でも用いられている、おもな吉日とその特徴を、以下にまとめてみました。
- 立春(りっしゅん)
- 暦の分類:二十四節気
- 旧暦なかでは重要な節目で吉日。二十四節気や雑節の起算日となる。禅宗で「立春大吉」の札をかかげ祝う習慣があり、それが広まり、立春は吉日とされてる。
- 天赦日(てんしゃにち)
- 暦の分類:暦注下段
- 何事も吉となる、1年のなかで最大の吉日。「よろず大吉」とも呼ばれる。季節ごとに干支の組み合わせが良い日が、次のように選ばれて天赦日となっている。春:戊寅、夏:甲午、秋:戊申、冬:甲子。1年に5日前後
- 干支の吉日 甲子(きのえね) 己巳(つちのとみ)
- 暦の分類:十干十二支
- それぞれ60日周期で訪れる干支のなかの吉日。1年に6日ほどある。
甲子は大黒様の縁日。十干十二支のサイクルのいちばんはじめにあるため「何かをはじめる吉日」とされる。
己巳は弁天様の縁日。金運関係の吉日。年に6日ほど
- 二十八宿の吉日 鬼宿日(きしゅくび)
- 暦の分類:暦注下段
- 天の赤道を28に「星宿」に分割して、そのエリアで最も明るい星をシンボルにして、日付に当てはめたのが二十八宿。なかでも「鬼」にあたる鬼宿日は万事に吉。また牛(ぎゅう)の日も「吉祥」とよばれて正午付近の時間帯以外は大吉とされる。それぞれ28日に1日。年に12〜13日ほど。
- 十二直の吉日 健(たつ)
- 暦の分類:暦注中段
- 十二直は、北斗七星の柄の方向にある星座を表したもので、建(たつ)、除(のぞく)、満(みつ)、平(たいら)、定(さだん)、執(とる)、破(やぶる)、危(あやぶ)、成(なる)、納(おさん)、開(ひらく)、閉(とづ)の12が順番に割当られています。なかでも健の日が万事大吉の日とされています。今ではあまり使われませんが、目的ごとに細かく吉凶が定められているため、明治時代までは最もポピュラーな運勢歴だった。年に30日ほど
- 一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)
- 暦の分類:雑注
- 物事をはじめる吉日とされ、仕事始め、種まき、開店などによいとされた。最近は、宝くじやお財布売り場で盛んに購入に良い日として宣伝されている。干支の組み合わせで月に2回、年に24回ほどある。
- 母倉日(ぼそうにち)
- 暦の分類:暦注下段
- 神様が人を慈しむとされている吉日。入籍など、とくに結婚関係に良いとされる。干支のうち十二支だけで選ぶため、月に4〜5日ある。7月と8月は月に10日ほどある。年に60日以上
他にも、吉日はたくさんありますし、組み合わせることで、吉日がパワーアップするという仕組みになっています。
また、複数の吉日が重なるだけでなく、干支の組み合わせの相性(風水の五行による「相生」)や、月の満ち欠けなども考慮することで、さらに強力な吉日であると占うことができます。
いろいろな条件を組み合わせれば組み合わせるほど複雑になってくるので、なんとなく真実味が増してきますね。
ですが、繰り返しになりますが、こうした吉日には、科学的な根拠は一切ありません。ただの、干支などの組み合わせで吉凶を占っているだけです。吉日を定める理由に、何か特別な理由や根拠はありません。
一見、暦のなかに記されていると、季節などの意味があるかのように思えてしまいますが、干支や吉日は単なる組み合わせのゲームみたいなものです。
一方、暦のなかの二十四節気や七十二候などの節目は、季節を表す指標として、意味を持っています
。
吉日も二十四節気も暦に書かれるために、同じように捉えられてしまいますが、まったく違うものですので、その辺をしっかり整理していく必要があります。
そこで、「暦注」というものをちょっとみていこうと思います。
科学的な根拠がある暦日 (暦注上段) |
二十四節気 | 立春 雨水 啓蟄 春分 清明 穀雨 立夏 小満 芒種 夏至 小暑 大暑 立秋 処暑 白露 秋分 寒露 霜降 立冬 小雪 大雪 冬至 小寒 大寒 | 五節句 | 人日(じんじつ)、上巳(じょうし)、端午(たんご)、七夕(しちせき)、重陽(ちょうよう) | 雑節 | 節分、春社日、春彼岸、春土用、八十八夜、入梅、半夏生、中元、お盆・盂蘭盆、夏土用、二百十日、二百二十日、秋彼岸、秋社日、秋土用、冬土用、元日、寒の入り | 七十二候 | 二十四節気をさらに5日おきの「初候」「次候」「末候」に分けて、詳しく季節の状態を記したもの |
占い・迷信・俗説 | 十干 | 甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと) | 十二支 | 子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥 | 旧暦時代からのもの | 暦注中段 | 十二直(にじゅうちょく) | 暦注下段 | 二十八宿(にじゅうはっしゅく)鬼宿日(きしゃにち) 天赦日(てんしゃにち) 母倉日(ぼそうにち) 神吉日(かみよしにち)など | 雑注 | 甲子(かっし)、己巳(つちのとみ)、一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)、など | 新暦以後出てきたもの | 六曜 | 「大安」「仏滅」など | 九星気学 | 「一白水星」「七赤金星 」など九星を使った開運日 |
暦注を理解して、吉日と季節の節目を区別しよう
暦は月や日付を示したものですが、月日以外にも、「暦注」というものが暦には記載されています。暦注は、その日がどんな日かを記すものです。
伝統的な暦注の書き方では、上段・中段・下段の3つに分けて記されます。
暦注のうち上段には二十四節気などの暦日、中段・下段には吉日や凶日が書かれる決まりになっています。
上段に書かれていることは、旧暦、つまり太陰太陽暦の重要な指標で、科学的な根拠があることですが、中段・下段はいわゆる「お日柄」の吉凶占いで、ただの迷信です。
そこをはっきり区別して理解することがだいじです。
暦注上段 太陰太陽暦に欠かせない季節を表すもの。
伝統的な暦の書き方では、暦注上段には、二十四節気や五節句や雑記など、歳時記などでもおなじみの暦日が書かれます。
二十四節気はとくに重要な暦日で、旧暦のなかで、季節の訪れを告げる役割をはたしていました。旧暦、つまり太陰太陽暦には不可欠な暦日が二十四節気です。
旧暦の1カ月は月の満ち欠けにあわせた28日周期ですが、これで月を刻んでいくと、1年365日とズレてしまいます。そのズレを補正するために、旧暦では1年に同じ月が2回ある閏月を4年に一回入れて調整しています。これが太陰暦です。
太陰暦では、1年周期の季節の移り変わりと、月日がずれてしまいます。
そこで、1年を基準にして、季節の変わり目を示している二十四節気や七十二候が暦注として記載されるようになりました。
二十四節気は地球の公転が基準になっています。昼と夜の長さが同じ、春分・秋分の日、昼間が最も長い夏至、夜が最も長い冬至。それをさらに細かく分類していったのが、二十四節気と七十二候です。
二十四節気や七十二候は、太陽の動きが基準ですので「太陽暦」です。
旧暦は、太陰暦の月日と、太陽暦による暦注を組み合わせることで出来ています。
この仕組みを「太陰太陽暦」とよんでいるわけですね。
だからこそ、旧暦、つまり「太陰太陽暦」では、二十四節気などの暦注上段が欠かせないものなのです。
暦注上段には二十四節気、五節句、雑節 、七十二候があります。これらの暦日は、季節の変化の様子や、それにあわせた農作業や生活のポイントなど、先人の知恵が詰まったものになっています。天文学や自然科学からみても根拠がある暦日となっています。
二十四節気や雑説は、季節の事象を統計的にまとめたものですので、科学的根拠があるものと言ってよいでしょう。
これらの、上段の暦日は原則は、吉凶を占うものではありませんが、なかには「立春」「八十八夜」「重陽の節句」など吉日とされる日も含まれています。
暦注中段・下段の吉凶占いの仕組み
暦注のうち中段・下段は、古い占星術や干支の組み合わせで導き出される「吉日」や「凶日」が記載されます。
占星術的な星の動きから決められるものに、中段の十二直(にじゅうちょく)二十八宿(にじゅうはっしゅく)があります。
十二直は、北斗七星の柄の方向にある星座を表したもので、建(たつ)、除(のぞく)、満(みつ)、平(たいら)、定(さだん)、執(とる)、破(やぶる)、危(あやぶ)、成(なる)、納(おさん)、開(ひらく)、閉(とづ)の12が順番に割当られています。
毎月、決まった十二支の日から健のサイクルがはじまり、二十四節気の節と重なる場合は、同じ十二直が繰り返されます。なかでも、満(みつ)と平(たいら)の日が吉日とされています。
今ではまったくみかけない十二直ですが、明治までは最もポピュラーな吉凶占いでした。
二十八宿は、下段に分類されますが、天の赤道を28に「星宿」に分割して、そのエリアで最も明るい星をシンボルにして、日付に当てはめています。28の星宿は、7つごとに東西南北に分類されて、それぞれ東方青龍・北方玄武・西方白虎・南方朱雀という風水の四象に結びつけられています。「鬼宿日(きしゅくび)」二十八宿のなかの吉日です。
十二直や二十八首宿は、天体の動きを取り入れた星占い的なものですが、それ以外の吉日は、すべて干支の組み合わせで吉凶を占うものです。
最近、復活している「一粒万倍日」は、十干十二支を基準に選び出されている吉日です。
これらの吉日は、こよみの分類としては、雑注や暦注下段として分類されます。
「十干十二支」は、陰陽五行から導き出される甲(きのえ)、丙(ひのえ)などの十干(じっかん)と、子・丑・寅・卯〜でおなじみの十二支を組み合わせたもので、全部で60通りがあります。
「丙午(ひのえうま)」など生まれ年を表すのも、この「十干十二支」のひとつですね。
また、還暦は60年で一回りするというサイクルですが、これも「十干十二支」が一巡することを表しています。
陰陽五行は風水の基本概念ですので、「吉日」「凶日」が風水であるかのような誤解もされていますが、あくまで風水とは関係ありません。陰陽五行というコンセプトが共通しているだけですので、そのへんは混同しないように気をつけましょう。
現代社会によみがえる吉日の迷信
ここまでのべてきた、吉日は、江戸時代前から用いられていた旧暦のなかで決められていたものですが、実は、明治以後にできた比較的新しい吉日や凶日があります。
江戸時代以前からあるのが、天赦日(てんしゃにち)、鬼宿日(きしゅくにち)甲子(かっし)、己巳(つちのとみ)、一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)、三隣亡(さんりんぼう)などです。
一方、「大安」「仏滅」などの六曜や、「一白水星」「七赤金星 」などの九星気学による開運日は、明治以後にまとめられて、暦のなかに取り入れられたものです。大安などは古くからの言い伝えのように思ってしまいますが、実は、案外その歴史は新しいものなのですね。
明治時代になって、新しい暦注が生まれた背景には、実は、それまでの暦注が、明治政府によって禁止されてしまったからです。
暦による天赦日、鬼宿日、一粒万倍日、三隣亡などの吉凶占いは、江戸時代に大流行して、ひとびとの生活に浸透していました。
近代のなかで合理性・科学性を重んじる明治政府からすると、しょせん占いである吉日・凶日が生活の基準になってしまっているのは問題があるとして、暦注を禁止したのです。
ところが、庶民は、やはり占いが好きで吉凶を求めるニーズが無くなりません。
そこで禁止令をかいくぐるようにして、古い中国の選日法を整理して「六曜」や「九星気学」が新たに広まっていったのです。
現代でも、大安仏滅など六曜は冠婚葬祭の日取りを決める重要な要素ですが、それには伝統や歴史があるわけでもなく、もちろん根拠もありません。そのわりには、いまだに気にしている人が少なくないのは、ほんとうに、吉日というもの魔力といわざるをえませんね。
また、とくにここ数年は、神社仏閣ブームなどから、古い暦が復活してきて、その流れで、「天赦日」「一粒万倍日」などが言われるようになっています。とくに縁起をかつぐ宝くじや金運関係では、こうした吉日が宣伝に利用されるのが目につきます。
古い伝統を見直して楽しむことはけっこうですが、きちんと歴史的背景や意味を理解したうえで、吉日に向き合っていきましょう。
以上、吉日の歴史や特徴などについて見てきました。
最近は、古いものを見直すブームのなかで、寺社仏閣にふれる機会も多く、そうした流れで、吉日や干支の縁日など、古い暦に出会うことも多いと思います。
それはそれで良いことなのですが、ただし、注意したいのは、暦の中には、季節にかかわる根拠のある暦日と、ただの占いで迷信である吉日・凶日があることを、しっかり区別して理解することです。
先人の知恵から学ぶべきことと、ただの占いとして遊びやネタとして扱うものと、きちんと整理したうえで、古い暦に向き合っていきたいものですね。
なお、最近、吉日がとやかく言われる財布の購入日について。⇒「春財布の由来や風水との関係」についての記事を参照してみてください。