インフルエンザ予防接種を打たないとどうなる?リスクとベネフィット
2017/11/22
インフルエンザの季節ですね。毎シーズン話題になるのが「インフルエンザの予防接種」。受けようと思ったけど「高いしどうしよう?」と感じる人や「効果が無いって噂が・・・」など迷っている人もいるでしょう。
また、受けるつもりだったけど「今シーズンは締め切りました」と間に合わなかった場合もあるかと思います。
でも、ほんとうのところ、インフルエンザの予防注射を受けないと、どうなるのか? あやふやな点も多いと思います。
そこでこの記事では、インフルエンザの予防接種の効果や予防接種をしなかった場合の対策などについて見ていきたいと思います。
インフルエンザの予防接種は受けなくても大丈夫(幼児・高齢者をのぞく)
インフルエンザの予防接種を受けないとどうなるか? 結論から先に言えば、「受けなくてもおおむねは問題ない。(ただし、幼児や高齢者は要注意)」ということになります。
というのも、実は、インフルエンザの予防注射は、予防効果はそれほど高くないからです。
そもそも、厚生省は、インフルエンザの予防効果について次のような見解です。
体の中に入った(インフルエンザ)ウイルスは次に細胞に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいますが、ワクチンはこれを完全に抑える働きはありません。
(厚生労働省HP・インフルエンザQ&A)。
インフルエンザ予防接種が100%の予防効果が無い理由はふたつあります。
ひとつは、インフルエンザは常に変異を繰り返しているため、用意したワクチンと流行するウイルスの型が一致しないことが多く、そのため効きにくいかまったく効かない場合が少なくない、ということです。
もうひとつは、インフルエンザ予防接種で作られる抗体は、IgG抗体と呼ばれるもので、この抗体には予防効果はなく、「かかっても軽くてすむ」効果のある抗体です。
感染を確実に予防するには生ワクチンのIgA抗体を喉に直接投入する必要があります。生ワクチンとはウイルスそのもののことですが、日本ではインフルエンザの生ワクチン使用は認められていません。日本のインフルエンザ予防接種には、不活性ワクチンと呼ばれるインフルエンザから毒性をとりのぞいたものが使われます。不活性ワクチンでは予防効果のあるIgA抗体が生成されません。
以上のことから、「インフルエンザの予防接種に感染を予防する効果は、ほとんど無い」ということが言えます。
インフルエンザ予防接種の狙いは、「予防」ではなくあくまでも「かかった場合に、悪化させにくくする」ということなのです。
ですので、インフルエンザの予防接種を受けなかったからといって、かかりやすくなることも無いのです。
インフル予防接種のメリット・デメリットは?
予防接種という名称からして、「受けておけば、かからない」と誤解している人もいるかもしれませんが、それは、完全に間違いですね。
予防効果が無いわりには、数千円の自己負担です。はたして割りにあうのでしょうか? メリットとデメリットをまとめてみました。(乳幼児や高齢者の場合については→こちらをご覧ください)
メリット
1・重症化しにくい(個人差はあるので受けても重症化する場合はある)
2・重症化する人が減ることにより、インフルエンザの蔓延をある程度抑制する(とくに家庭内の蔓延防止)
デメリット
1・料金が決して安くない。平均で3,000円前後。
2・ごくまれに副作用(副反応)が起こる可能性がある。アナフィラキシー症状、急性散在性脳脊髄炎、急性多発性神経炎(ギランバレー症候群)など。
このように、インフルエンザの予防注射は、感染を避ける絶対的な効果がないとこから、リスクとベネフィットをどう評価するか?は、各個人の主観や価値観の問題になってくると思います。
重症化するどうか?は、個人差があります。日頃から免疫力を高める食生活や生活習慣をすることで、重症化を自然治癒力でカバーできると考える人も多いと思います。
蔓延を抑える効果については、重症化する人が減る分、多少の抑制効果が期待できます。とくに、感染して寝込んでいる患者との接触が避けれらない家庭内での蔓延防止効果は高いでしょう。
また、予防接種には、インフルにかかっている時間を短くする効果もあります。会社などで集団予防接種を受ける場合の期待できる効果は、この時間短縮です。
よく考えればわかるのですが、集団接種には蔓延防止という効果は、あまり無いと思われます。なぜなら、感染している間は、出社しないのが原則だからです。むしろ、会社で集団接種をするばあいは、できるだけ社員の病欠日数を減らし、業務への影響を最小限におさえることを狙いとするべきです。
結局のところ、インフルエンザの予防接種の効果が、3,000円の価値があるかどうか? は、ケースバイケースなのです。
たとえば、受験生とか、社内で重要なプロジェクトを抱えていて絶対に遅らせたくない!とか、そういうケースでは予防接種の価値は高いです。
逆に、日頃から免疫力を意識していて健康に自信のある人や、インフルになったら2〜3日休めばいい・・・そういう考えの人には、インフルエンザの予防接種の価値はそれほど高くはありません。
人によって価値が違うということです。だからこそ、「任意接種」になっているわけですね。
予防接種を受けなかった・・・その後の対策
予防接種を受けない場合、どのような対策をすれば良いでしょうか? 予防接種を受けなくても、以下の4つをおさえておけば、心配なくインフルエンザ・シーズンを乗り切れるでしょう。
1.感染防止
インフルエンザ予防接種じたいに感染防止効果が無いため、感染防止策は、予防接種を受けても受けなくても、誰しもがやるべき対策です。
マスク、手洗い、うがいなど一般的に言われている対策には一定の効果があります。
インフルエンザ・ウイルスは、原則、動物の細胞に寄生するかたちでそのなかで活性化しています。動物の体を出ると15分ほどで壊れて不活性となります。
空気中を伝わって、みるみる広がっているかのようなイメージがありますが、空気中で活性化しているウイルスに出会う確率はかなり少ないです。インフルエンザは空気感染ではなく飛沫感染するといわれるのはこのためです。
つまり、感染者に近づいた時以外は、それほど感染リスクが高いわけではありません。逆に言えば、マスク、手洗い、うがいなどを徹底していれば、かなりの部分、感染を防げるのです。
また、部屋の湿度を50%〜55%ほどにキープすることも効果的と言われています。理由は50%以下だと、喉の粘膜が乾燥して、ウイルスに侵されやすくなるからです。喉の粘膜は、免疫機構の、第一関門ともいえる、重要な部分です。その粘膜を守るだけでも、防除率は確実にアップする、というわけです。
よく湿度が高いと「インフルエンザウイルスが死ぬ」という記述がありますが、そもそもウイルスは「生物」に分類されていません。なので、死ぬというのは間違いです。ただし、湿度が高いと、空気中のウイルスが水分に捕まって、伝播しにくくなります。
以上のように、基本的な予防策は、効果がありますので、予防接種を受けた受けないとは関係なく、流行シーズンには誰もがきちんと行いましょう。
2悪化防止
予防接種を受けても受けなくても、「かかる時はかかる」のがインフルエンザです。
ですので、かかった場合に、重症化させない対策が大切です。重症化させないためには予防接種の効果が期待できますが、予防接種を受けていなくても、自然の免疫力を高めることで、インフルエンザの重症化阻止は、充分に可能です。
重症化させないためには、免疫力を高める食生活や生活習慣に気を配ることです。
食事や生活習慣などは「今さら改善しても・・・」とあきらめてしまう人もいますが、睡眠を十分にとったりビタミンを接種するなど、短期間で免疫力アップにつながることもたくさんあります。詳しくは、こちらの記事⇒
「免疫力を高めインフルエンザを予防するヒント」をご覧下さい。
3感染した後の対策
免疫力が高ければインフルエンザにかかっても、急な発熱や関節の痛みなど、インフルエンザ特有の強い症状が出ずに、ただの風邪程度でおさまってしまう場合もあります。
また、高熱が出ても1日寝込みさえすれば、2〜3日で回復に向かいます。
このように、インフルエンザを受け入れて、免疫に働いてもらい、自然治癒を待つのも、ひとつの方法です。
一方、薬の力を借りてでも少しでも早く治したい人は、タミフル、リレンザ、イナビルなどの抗インフルエンザ剤を医院で処方してもらいましょう。ただし、感染から48時間以内に飲まないと効果がないということと、検査費と薬代で5,000円前後かかります。
ふつうに健康であれば、インフルエンザにかかったからといって必ずしも、受診する必要も投薬する必要はありません。厚生省でもインフルエンザにかかった可能性がある場合、必ずしも受診しなくてもよいとの見解を示しています。受診するかどうかの判断の参考材料にしてください→「インフルエンザかな?症状がある方へ」(厚生省)
(注;厚生省のこのページはA/H1N1型についての記述ですが、H1N1型は当時は新型でしたが、現在は季節性インフルエンザとして2016年〜17年も流行が予測されている型です)
抗インフルエンザ剤は、寝込む時間を1日ほど短縮する効果がありますが、1日の短縮に5,000円支払う価値があるかを考えて、そうでもなければゆっくり寝て自然治癒で治せば良い、という考え方で良いと思います。
4周囲への気遣い
インフルエンザの予防注射が職場で推奨されていたり、小児がいる場合はママ友などの間で「受けないとひんしゅく」となるケースもあるかもしれません。
予防接種に感染を抑える決定的な効果がない以上、「受けない=悪」とする考え方は、間違っています。おうおうにして、「予防接種が常識」などとドヤ顔で言う人は、不活性ワクチンに予防効果が無いという事実を知らない人です。
ですので、受けないことに文句を言う人がもし周囲にいたら、「厚生省も予防効果を認めていない」「受けている人は25%〜50%程度」という事実を、その人に教えてあげましょう。
ただし、インフルエンザの蔓延防止は、みなで気を遣っていかなけれならいことは事実です。
周囲での流行時にはマスクをすることや、完全に治るまで人との接触を避けることなど、そこはマナーですので基本的に守っていきましょう。
みんなインフル予防注射は受けているの?
費用対効果をどう考えるか、微妙ラインであるインフルエンザ予防接種。どれくらいの人が受けているのでしょうか?
少し古いデータですが、日本公衆衛生誌2014年の調査では以下のようになっています。
シーズン | 13歳未満 | 一般 | 高齢者 |
2000-01年 | 12% | 4% | 17% |
2003-04年 | 30% | 13% | 48% |
2008-09年 | 54% | 27% | 55% |
2009-10年 | 43% | 24% | 51% |
2010-11年 | 59% | 29% | 59% |
また、2013年のインフルエンザ予防接種率が25.5%というアンケート調査結果もあります(雪印メグミルクの調査)
これらの調査から、乳幼児や高齢者では受けている人が安定して多いのが見てとれます。
一方で、一般の人の場合は年によってばらつきがありますね。「今年はインフルが流行る!」みたいな報道に左右されて、増えたり減ったりしているようにも見受けられます。
ところで、過去には、学校でインフルエンザの予防接種を「義務」として実施していた時代もありました。が、これは、予防効果が不明瞭とういうことがあり、副作用の起きる事件やそれについての訴訟があり、結局は、学校での義務接種は中止されました。
そうした流れをうけて、厚生省は1994年の予防接種法の大幅改正をおこない「予防接種を受けるかどうかは自己責任で判断」という原則にかわています。義務接種も、現在では努力義務ということになり、個人の判断で必ずしも受けなくてもよいことになっています。
自己責任で決めていきましょう! ということなのですね。
ですから、周囲に流されるのではなく、自分自身のポリシーとして、インフルエンザをどう予防するか? まずそこを考えていきましょう。
その流れのなかで、インフルエンザの予防接種を受けるかどうか自己責任で判断していきましょう。
乳幼児や高齢者のインフルエンザ予防注射について
一般成人については、インフルエンザ予防注射はどちらでも良いので自己責任で決めていきましょう、とこれまで述べてきました。
しかし抵抗力が弱い乳幼児や高齢者にとっては、インフルエンザ予防接種の効果は高いので、もう少し積極的に考えていくべきです。
高齢者の場合
とくに、高齢者の場合は、予防接種により発病リスクを34~55%抑え、合併症の二次性細菌性肺炎などにかかるリスクが減ります。その結果、死亡リスクを82%減ずる効果があるとされています。ですので、65歳以上の高齢者は、厚生省が接種を推奨している「定期接種」に指定されていて、無料で受けられます。
乳幼児の場合
乳幼児の場合は、あくまで自己責任で接種する「任意接種」に指定されていますが、かかった場合に悪化させないことのメリットは多いと考えられています。
とくに、致死率が10%であるインフルエンザ脳症にかかるリスクが低くなるメリットは大きいと言われています。
インフルエンザ脳症については、予防接種が原因で起こるという噂がありますが、それは完全に間違いです。一方、解熱剤がインフルエンザ脳症の引き起こす原因になっている可能性は高いので、乳児小児の解熱剤の使用は、必ず医師の指導を受けるようにしましょう。
いずれにせよ、予防接種の効果が出て、解熱剤を使うようなこともなければインフルエンザ脳症のリスクを低下させることができます。
その意味から、インフルエンザ予防接種を受けておけば、安心です。
ただし1歳未満の乳児への接種は効果が期待できないこと、卵白アレルギーの場合ショック症状などの副作用(副効果)のリスクが高いことも考慮して、判断していきましょう。
副反応の具体例などについては厚生省のインフルエンザQ&Aなどを参照ください。
以上、インフルエンザ予防接種の効果についてみてきました。
必ずしも誰もが受けているわけでもない予防注射です。
受けていない人のせいで広がる、ということもありません。
ですので「インフルエンザ予防接種を受けていても受けていなくても、気にしなくても大丈夫、と言えそうです。あくまで自己責任でリスクとベネフィットを考えて、インフルエンザに対策をしていきましょう。
なお、予防を考える場合に話題になる「インフルエンザの型」については⇒インフルエンザの型と種類の記事も参照してください。