救世軍の社会鍋は怪しい?募金して大丈夫?歳末たすけあいとの関係は?

      2017/11/11

社会鍋

 年末の駅前で、軍服風の格好に赤いタスキをまいた人たちが、ラッパを鳴らしながら、鍋の横に立っている姿を、見かけたことないでしょうか?

 これは、「救世軍の社会鍋」というものです。「なんか怪しくね?」と思っている人も、もしかしたらいるかもしれませんが、実は、100年以上の歴史がある伝統ある年末恒例の募金活動なのです。

 年末になると必ずあらわれる救世軍とはいったいどんな団体なのでしょうか? 社会鍋とは何の目的なのでしょうか?

 この記事では、救世軍と社会鍋の活動について述べながら、「歳末助け合い」などとの違いについてもみていきたいと思います。

社会鍋とはいったい何?

社会鍋の歴史は100年以上

 救世軍の社会鍋は、東京・大阪をはじめとする各地の都市では、年末には、駅前などで必ず見られる光景です。

 救世軍の社会鍋は、募金活動です。その歴史は古く、100年以上の歴史と伝統があり、日本の募金活動の草分け的存在ともいえます。

 明治の終わりごろにはじまった、鍋をつるした募金活動は、当時まだ日本では募金そのものが少なかったこともあり、国民的支持を得ることになります。大正時代には「慈善鍋」と呼ばれ、広く親しまれ、俳句の季語になるほどでした。

 大正時代を代表する俳人・高浜虚子も、「来る人に我は行く人慈善鍋」と詠んでいます。

社会鍋のルーツは「クリスマス・ケトル」

 鍋を吊るして募金をするこのスタイルは、もともとは米国のサンフランシスコではじまったものです。19世紀末にサンフランシスコの港地区で、不景気のために失業した船員とその家族が、クリスマスを前に、厳しい冬を迎えようとしていました。

 彼らを支援しようと、スープの炊き出しをするための募金活動がはじまりました。その時、街角でスープ鍋を吊るして、募金をアピールしました。それは「クリスマスケトル」と呼ばれ、話題となります。クリスマスケトルの募金活動は多くの人に支持され、数年で全米に広がり、年末の募金行事として定着していったそうです。

 日本の社会鍋は、このクリスマスケトルを和風にアレンジして、スタートしたものなのです。

 

Pドラッガーも認めた救世軍の機動力とは?

 さて、米国でのクリスマスケトルや日本での社会鍋を主催している団体があります。それが「救世軍」です。

 独特のネーミングなので少し怪しさを感じる人もいるかもしれませんし、「軍」ということで少し過激な組織なのか?と誤解している人もいるかもしれません。

 筆者自身も、救世軍の社会鍋募金というのは、昔から目にして知っていたのですが、ミリタリー系の格好ですので、てっきり太平洋戦争で亡くなった兵士の遺族とかそういう関係かと思っていました。それにしても、戦後70年もたつのに、まだやるのか〜と、てっきり勘違いをしていました。

 実は、救世軍は、キリスト教プロテスタンのひとつの宗派なんですね。

 19世紀半ばのイギリスで、メソジスト派から分かれてできた宗派です。「救世軍」という名前ですが、別に過激な宗派というわけではなく、ただのプロテスタントのひとつで、世界127カ国で活動をしています。「バプティスト教会」とか「ルーテル派」などと並ぶ、正統的なごくふつうのプロテスタントなんですね。

 でも、なぜただのキリスト教・プロテスタンの宗派が、ミリターリースタイルなのか?というと、ボランティア活動などを迅速かつ効果的に行うため、ということなのです。

 キリスト教では、「人を助けることで自分自身をより深く知る」というのが信仰のベースとなる考えです。ですから、ボランティア活動と信仰は切っても切り離せない深いものがあります。その大切なボランティア活動を、最も効率的に行えるように、軍隊式の組織マネージメントを取り入れた教会、それが救世軍なのです。

 マネージメントの権威ピーター・ドラッガーは、経済誌『フォーブス』のなかで「救世軍は全米で最も効率の高い組織のひとつ」と語っているほど、その行動力と実践力には定評があります。

 実際、日本の救世軍は、常にボランティア活動の最前線にたっているようです。東日本震災や神戸震災のときも、どこの組織よりもいち早く現地に支援に入り、現地のニーズに柔軟に対応しながら支援を行っています。その活動は、小規模ながらとても高い評価を受けています。

 救世軍は歴史的にみても、常に、日本のボランティア活動の最先端にいました。

 明治時代に廃娼運動をリードし女性の人権擁護のさきがけとなったり、結核の療養所を日本ではじめて開設したり、日露戦争後の不景気の時に職業紹介所を作りハローワークの前身となるなど、日本の福祉活動の草分けとして、つねに救世軍は先頭を走ってきたのです。

「歳末たすけあい」と社会鍋

 さて、年末の募金といえば、救世軍の社会鍋よりも「歳末たすけあい」のほうが、スタンダードというか有名だと思います。

 実は、この「歳末たすけあい」の運動も、はじめたのは救世軍なのです。

 日露戦争直後の不景気の時代、正月を迎えられない貧困家庭が沢山ありました。そこへ、募金したお金で餅やみかんなどの物資をつめた「慰問籠」をプレゼントする活動がありました。この活動をはじめたのが救世軍で、この慰問籠の流れが、戦後に中央共同募金会の「歳末たすけあい」に受け継がれていったという歴史があるわけです。

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 さて、同じルーツをもつ救世軍の社会鍋と、中央共同募金会「歳末たすけあい」。みなで助け合って、「誰もが良い新年を迎えられるように」という活動精神は共通していますが、現在では、それぞれ違う仕組みで行われています。

 それぞれの募金活動について、もう少し具体的にみていきましょう。

「歳末たすけあい」の仕組みと問題点

 まず、中央共同募金会の「歳末たすけあい」。これは、赤い羽根を主催している中央共同募金会が主体となっていて、「NHK歳末たすけあい」で集められた募金も同じ「歳末たすけあい」へ繰り入れられています。

 全国で集められる歳末助けあい募金の額は、ここ数年は50億円前後です。

 募金は、最終的に、各都道府県にある「社会福祉協議会」に配分されて、一人暮らしの高齢者ケアや障がい者支援など地域にねざした福祉活動などに使われます。

 使い方はほとんど「社会福祉協議会」に任されているようですね。歳末助け合いの募金は、地域の福祉団体やNPO法人が活動の助成金として申請して受け取ることができます。

 地域の高齢者との交流活動などにも助成されますので、たとえば、福祉施設の行事としておこなわれる「忘年会」「新年会」などにも助成されたりします(職員の忘年会ではないですよ。あくまで行事として)。

 他にも、自治会の「新年もちつき&ビンゴ大会」とか認知症高齢者施設の「クリスマスイルミネーション」などにつ使われたりする例もあります。

 ・・・でも、正直なところ、こうした使われ方は、ほんとう募金してまで必要な使われ方なのでしょうか?と、個人的には疑問に思います。

 「歳末たすけあい」は、自治会の回覧が回ってきて、半ば強制的な雰囲気で集められているわりには、使われ方がゆるいというか、なんというか・・・。

 そもそも、中央共同募金会や社会福祉協議会の活動は、規模がでかすぎて不透明なところがあります。もちろん募金は適正に使われているのでしょうが、数字だけ観ると、いまいち不透明感がぬぐえません。

 たとえば平成27年度の「歳末たすけあい」募金総額は49億7千2百万円。これらの募金額のうち、使用されたのは93%の46億4千3百万円です。

 で、差額の3億2千8百万円の行方が、少なくとも中央共同募金会のHPをくまなく調べても、どこに行ったかわかりません。

 もちろん、原則として適正に使われているのでしょうが、共同募金を運用する全国の社会福祉協議会(略して「社協」)には、実は、不祥事も定期的に起こっています。

 つい最近も、残念なことに着服事件がありましたね。

・2016年10月 滋賀県湖南市・社協の職員が200万を不正引き出し
・2013年3月 静岡県・焼津市の社協の職員が不正に41,000千円
・2012年 宮城県・山元町の社協会計責任者の男性が約2,430万円を着服

 社協の職員は、ほとんどの人たちが高い志を持ち、まじめな人たちだと思います。筆者の知り合いにも社協の職員が一人いますが、とても真面目で信頼できる人間です。

 ですが、中央共同募金会や社会福祉協議会は、組織の規模が大きくなりすぎて、細かい所までほんとうに正しく機能しているのかどうか? 個人には、けっこう疑問です。

救世軍の社会鍋は明朗会計

 一方、救世軍の社会鍋の方は、規模が小さいだけに、明朗会計です。

 平成27年度の救世軍の社会鍋の募金額は東京地区で1千4百万円。使い道は以下のようになっています。

救世軍社会鍋の収支(東京地区)
募金総額 ¥14,061,475
次期活動準備金 ¥294,597
収入合計 ¥14,356,072
児童・母子 ¥2,450,531
高齢者 ¥1,335,058
病人・障がい者 ¥480,785
保護家庭 ¥632,936
受刑者更正保護 ¥806,468
街頭生活者 ¥5,096,360
酒害者回復支援 ¥88,344
女性保護 ¥379,397
緊急災害・海外支援 ¥2,000,000
募金費用 ¥1,086,193
支出合計 ¥14,356,072

 けっこう具体的で、わかりやすいかなと。

 なかでも、街頭生活者支援は力を入れているようで、定期的な炊き出しや必需品供給などを行っているようです。

 ホームレスは自己責任なので支援する必要はない!という意見もあるかもしれませんが、ホームレスにならざるを得ない理由として、なんらかの心身的問題を抱えている、というのが救世軍としての見解のようです。

 たしかに、ホームレスのなかには、会社の一線で働いていたけれども、なんらかの事情で、正義と自分の信念を曲げずに、正しさを貫いた結果、会社を追われ、ホームレスになった、というようなタイプの人も少なくないようです。

 正義を貫くことが、必ずしも報われないのが、今の世の中のシステムです。ですから正しい行いの結果、ホームレスになったような人たちを救済する、という考えも、一理あるかもしれませんね。

 救世軍は、ホームレスの人たちに物的支援をするだけでなく、自立・社会復帰の手助けのためのバックアップもしているようです。

 

 

 以上、年末の風物詩である、救世軍の社会鍋とその支援活動についてみてきました。

 もとは同じルーツである「歳末たすけあい」との比較もしてみましたが、筆者個人的には、救世軍の方が活動内容や会計がクリアなので、募金するなら救世軍にしようかなぁと思います。ただ、個人的には、今年も勤め先からはボーナスが出ないので、募金できるかはわかりません。

 「歳末たすけあい」の方は、柔軟に有効に活かすために地域にねざした社協で運用する仕組みになっているようですが、それが裏目に出ているような気がしないでもありません。ほんとうに支援が必要なところへしっかり届くように、運用の仕組みを見直したほうがよいのではないかと、個人的には思いました。

 それでは、みなで助け合って、よい新年が迎えられますよう。

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