熱中症対策で塩分補給するべき量/とり過ぎは禁物
2018/07/19
熱中症対策として、「塩を補給しましょう!」といわれていますよね? 夏になると、ドラッグストアやコンビニの棚に、塩飴や塩タブレットが並ぶのが、もはや風物詩的なくらい。
この記事では、何故塩が必要なのか? どれくらい塩をとったらいいのか? について説明していきます。
塩とミネラルとイオンの関係
まず、塩とはどんなものか? 理科の復習です。
塩は、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)が結合してできています。化学式はNaClで、塩化ナトリウムが正式名称。
熱中症対策で塩が必要、という場合、特に、だいじなのはナトリウムの方です。
ナトリウムは、人間の体液のなかに、電解質(=イオン)というかたちになって溶け込んでいます。
体液にはナトリウム以外にもカリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル分が、電解質(=イオン)のかたちになって溶け込んでいます。このミネラルのイオンが、人間の体のなかで重要な役割をはたしています。ミネラルウォーターやイオン水が体によいといわれるのも、このたためです。
体液中のミネラルのなかでも、特にナトリウムイオン(Na+)は、重要です。
塩とミネラルとイオンの関係
ナトリウムイオンには、体液(=生命活動の舞台)を一定に保つ働きがあります。
人間の60%は水分です(新生児では90%)。人の体を構成している細胞のなかは、体液でみたされていて、そこで、栄養が運ばれたりエネルギーが生まれたりと、生命の活動が行われています。
生命活動の舞台ともいえる体液が、常に一定の濃度になるように調整しているのがナトリウムイオンです。
体液にはイオン以外にもタンパク質・アミノ酸・糖類・脂肪酸・ホルモン・神経伝達物質などなど、生命維持に必要な物質がいろいろ含まれていますが、それらの体液中の成分が体のなかで、かたよらずに一定の環境をたもつ仕組みがあります(=恒常性・ホメオスタシス)。
この体液の環境を一定に保つ調整機能で、重要な働きをしているのが、ナトリウムなのです。
ナトリウムが不足して脱水症状に。「水中毒」にも要注意。
もし、体内のナトリウムが不足すると、体液の恒常性をたもつ仕組みが失われ、体型の濃度のバランスが崩れ、結果として脱水症状になります。
ナトリウム不足で脱水症状になる過程を、もう少し詳しくみていきましょう。
ナトリウムが不足すると、体は、ナトリウムの濃度を一定にしようとして、水分を放出するようになります。この現象は、「自発的脱水」と呼ばれています。
たとえば、暑い時に、塩分(ナトリウム)を補給せずに、水ばかり飲み続けるとします。
すると、ナトリウムの濃度がさらに薄くなるので、どんどん水を放出するようになります。
この場合、体から水が減っていっているのに、喉はかわかないという、矛盾した状態になってしまいます。こうした状態を「水中毒」などとも呼びます。
塩分不足で熱中症となる場合、この水中毒のパターンがあります。
熱中症対策として、喉が乾く前に、水分と塩分を補給したほうがよいのも、この水中毒の状態を防ぐためです。
ナトリウムが不足すると、足がつる「熱痙攣」に
ナトリウムイオンは、体液の濃度を一定にコントロールするはたらきの他にも、次のような働きをしています。
- 栄養素の消化・吸収をサポートする働き
- 筋肉の動きに必要
- 神経伝達に必要
とくに、筋肉の動きとナトリウムの量は、案外、影響が出やすいです。
熱中症で「熱痙攣」という症状があります。
熱痙攣は、足やふとももなどを中心に痛みをともなう痙攣がおこったり、足がつったりするようになります。
これは、ナトリウム不足により、筋肉が萎縮してしまうために起こるものです。
熱痙攣がおこるような場合は、たいてい、めまいや貧血など、熱失神の症状も併発します。ただ、熱痙攣や熱失神は、熱中症の段階としてはまだ軽度のI度の段階ですので、慌てず、涼しいところで休息し、塩分と水分を補給するようにしましょう。
なお、熱中症の段階については、以下の記事も参照して、正しく判断・対処をしていきましょう。⇒熱中症の段階I度〜III度について
ナトリウム(塩分)を補給する適切な量は?
ナトリウムが不足すると、「水中毒」のような脱水症状の悪循環がおきたり、けいれんやこむらがえりが起きるようになります。
では、どんな時にナトリウムがどれくらい不足するのか? 適切な補給量はどれくらい? をみてみましょう。
ナトリウムは体に必須の成分ですので、体内から流出しないよう再吸収する仕組みがあります。尿からのナトリウム流出は腎臓で再吸収することで防いでいます。
また、汗からナトリウムが流出するのも、皮膚の毛細血管が再吸収する仕組みがあります。
しかし、大量に汗をかくと、この再吸収が間に合わなくなり、ナトリウムが流出してしまいます。
ポイントは、ナトリウム流出の理由は「大量の汗」だということ。
逆にいえば、暑さにさらされていも「大量の汗」をかいていなければ、ナトリウム不足にはならないので、塩分補給も必要ないわけです。
通常の生活では、毎日8g程度の塩分をとることが必要とされています。よっぽどの減塩食をしない限り、毎日8g程度の塩分はふつうに摂れています。
ですので、大量に汗をかかなければ、いくら暑くても、とくに塩分の補給は必要ありません。
注意したいのは、長時間(1時間以上)の野外作業や激しい運度をする場合です。
長時間の野外作用で塩分がどれくらい流出するかをみてみましょう。
汗の塩分濃度は0.3~0.9%ほどです。
夏の炎天下10分歩くと約100mlの汗をかくといわれています。なので、たとえば野外で100分作業すれば、1リットル汗をかくことになります。
汗の濃度が0.3%としても、これだけで3gの塩分が流出するわけです。
長時間の炎天下の野外活動で大量の汗をかく場合は、塩分の補給は必須です。
炎天下大量の汗をかく場合は、早めの水分補給プラス、塩分補給をこころがけましょう。
ナトリウム(塩分)を補給する現実的な方法
野外作業やスポーツをして、大量に汗をかく場合は、塩分補給がかかせません。
では、どうやって塩分を補給するのがよいでしょう?
市販の塩飴などは製品にもよりますが、塩分は一粒あたり0.1gも入っておらず、ほとんどが糖類です。塩分補給としては、正直、効率が良いとはいえません。
数時間の運度の水分をおぎなうなら、スポーツドリンクや経口補水液でもいいのですが、一日中野外作業をする場合、水は2〜4ℓくらい飲むことになります。
現場で働いている人なら、毎日そんなに大量のスポーツドリンクや経口補水液を飲むわけにもいきません。
ですので、現場作業などで毎日大量の汗をかく場合は、ふつうの水を飲み、飲んだぶん、ふつうの塩を舐めたり梅干を食べて塩分補給するのが現実的な方法で、最も効果的です。
逆に、野外作業やスポーツが1時間程度であれば、あえて塩を補給する必要はありません。ふつうの水で充分です。
以上、熱中症と塩分の関係について、詳しくみてきました。
大量に汗をかかない人は、暑いからといって必要以上に塩をとりすぎないようにしましょう。
一方で、現場作業の人などはしっかり塩分補給をおこない、熱中症や水中毒を予防してください。