クリスマス・ページェントの意味は? 世界各地と日本のページェント

      2018/11/28

クリスマスページェント

 クリスマス・ページェント(パジェント)はイエス様の誕生のストーリーを劇や仮装行列などで再現して、イエス様の生誕を祝う行事です。

 日本のクリスマスは、一般的にはサンタのコスプレでパーリーしてウェーイみたいなことになっていますが、もちろんクリスマスは本来、イエス・キリストの誕生を祝うもの。

 キリスト教は、とても多くの宗派があり、国や地域によっても行事の内容や盛り上がり度はさまざまですが、クリスマス・ページェントは、宗派や国を超えて、どこでもいちばん大切にされている定番のクリスマス行事と言えます。

 実は、キリスト教徒が1%しかいないと言われる日本でも、クリスマス・ページェントは、案外、盛んです。クリスマスを祝うなら最低限知っておきたい、ページェントについてまとめました。

クリスマス・ページェントとは?

ページェント(パジェント)の言葉の意味

 クリスマス・ページェント(Chritstmas Pageant)はイエス・キリストの誕生シーンを描いた劇などのことです。

 英語ではNativity Play(ネティヴィティ・プレイ)とも呼ばれます。

 ページェントと言えば、日本では、クリスマス時期に行う光のイルミネーションのことを指すことも多いので、「クリスマス・ページェント」をイルミネーションのことと誤解している方もいるかもしれませんが、あくまでもページェントとは聖誕劇・降誕劇という意味です。

 光のページェントとの混乱を避けるため、劇の方を「パジェント」と呼ぶこともありますが、ほんらいはどちらも同じPeagentという単語です。

 なお、イルミネーションの方については「光のページェント」の記事を参照してください。

イエス様の誕生の話

 イエス・キリストの誕生シーンを演じることは、まさにクリスマスの趣旨にふさわしいことです。

 クリスマスと言えば「サンタとトナカイ」と思っている人も多いですが、それはアメリカで生まれた俗習です。ほんらいのクリスマスでは、イエス様誕生のストーリと、それにまつわるアイテムがもっとも重要です。マリアとヨセフ夫婦、羊飼いたち、三人の博士、ベツレヘムの星などなど、イエス聖誕にまつわるキャラクターこそが、クリスマスのシンボルなのです。

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 クリスマス・ページェントのストーリは、超ざっくり言うとこんな感じです……

イエス様誕生の物語の超概略

 神の子を身ごもったマリアは、ロバの背中にのり、夫ヨゼフの故郷ベツレヘムへと旅をします。

 ベツレヘムへ着くと、宿が満員で、しかたなく馬小屋に泊まります。

 その夜、イエス様が生まれ、マリアとヨゼフは飼葉桶(かいばおけ)のなかにイエスを寝かせます。

 神の子が生まれたことを、天使が荒野の羊飼いたちに知らせ、羊飼いたちは馬小屋にお祝いにかけつけます。

 一方、ベツレヘムの星が西の空に輝くことで、イエス(=新しい王)の誕生を知った東方の三博士は、貢物をもって、ベツレヘムの馬小屋を訪ね祝福します。

ストーリーのより詳しい説明は⇒イエス様誕生秘話の章をごらんください。

 このイエス様生誕にまつわるシーンを、寸劇や、クリスマスキャロルに乗せた音楽劇とし、あるいは仮装パレードとして演じるのが、クリスマス・ページェントです。

ページェントと聖書

 ページェントのストーリーは、新約聖書のなかのマタイ福音書・ルカ福音書で断片的に語られてているイエス誕生の寓話をベースに、その時々の解釈で、わかりやすい物語にまとめたものです。

 微妙に、いろいろなストーリが存在するのは、もともとの福音書が、わりと断片的だからです。いろいろな解釈が生まれるのは、そのためです。

 またポイントとして抑えておきたいのは、キリストの誕生については、旧約聖書のなかでも預言されていたことだ、ということです。

 ベツレヘムの三博士が「ベツレヘムの星」を見つけて、それをキリストの誕生と結び付けて考えたのも、旧約聖書の預言に書いてあったからこそです。

 いずれにせよ、聖書に書かれていることですので、カトリック、プロテスタント、正教会と宗派を問わず、共通してクリスマスのシンボルになっているのが、ページェントのお話なのです。

日本のクリスマスとミッション系スクール

ミッション系の幼稚園や学校のクリスマスページェント

 クリスマス・ページェントは、教会の日曜学校の出し物として行われるのが、定番のパターンです。

 子供たちを中心にしたキャスティングで、手作りの衣装や、オリジナルの脚本で、世界中の教会で演じられています。

 日本では、教会以上に、ページェントが盛んな場所があります。

 それが、ミッション系(キリスト教系)の幼稚園や学校です。ほぼ必ずといっていいほど、なんらかのかたちでクリスマス・ページェントがとり行われています。

 自分はクリスチャンではないけれども、ミッション系の幼稚園や学校に通っていったために、クリスマス・ページェントを体験したことがある人は決して少なくないはずです。

 それもそのはずで、実は、日本の私立学校のうち18%はキリスト教系なのです。

ミッション系スクールの社会的意義

 キリスト教信者の数は日本の人口の1%に満たないのに、幼稚園や学校では、キリスト教が多いのが、日本のキリスト教普及の特徴です。

 これは、江戸の鎖国時代に禁止されていたキリスト教を、明治になって、西洋の宣教師たちが再布教のために、学校設立に力を入れたことが原因です。

 戦前は、学校での宗教教育が禁止されていた時代もあり、ミッション系学校の日本での歩みは、決して平たんなものではなかったといえるでしょう。

 しかし、女性の教育の場としてミッション系スクールが果たしてきた役割はとても大きと言えるでしょう。

 また、幼稚園にキリスト教系が多いのも、もともとドイツでフリードリッヒ・フレーベルがキンダーガーデンとして誕生した幼稚園の主旨と関連があります。キンダーガーデンでは、子供達を「神の創造により作られた存在」として、大切に扱うというコンセプトです。今では当たり前のことですが、当時としては「幼児の主体性を尊重して、それを伸ばす」というような考えは、斬新だったのです。

 このように、日本では、キリスト教そのものは普及していませんが、幼児教育や学校教育を通して、キリスト教の精神が、社会に少なからず影響を与えてきた、とも言えるのです。

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世界のクリスマス・ページェント

 さて、クリスマス・ページェントは、日本では、キリスト教系の幼稚園・学校や教会の日曜学校のなかでの、うちうちの催しといった感じです。

 一方、キリスト教国では、国民的な行事となっているところも多く、世界各地にそれぞれ、いろいろな表情をもったクリスマス・ページェントがあります。

 以下に、世界の特色あるページェントをみてみましょう。

アメリカ ブロードウェイスタイルのクリスマス・ページェント

 アメリカでも教会の日曜学校のこどもたちを中心にクリスマス・ページェントが開催されますが、「ブロードウェイ・スタイル」と呼ばれる、ショーアップされた降誕劇もあります。

 有名なのはフロリダ州の別荘地フォートローダーデールで毎年12月に開催されるフォートローダーデール・クリスマス・ページェント・ショーです。30年以上の伝統があるこのショーは、地元のバプティスト教会が主催しているものです。

 伝統的なクリスマスキャロルからポップなオリジナルソングとダンスをふんだんに取り入れたステージは、宗教行事だということを忘れてしまうほどです。

中南米 ラスポサダス

 スペインとインディオとアフリカの文化がミックスした中南米のクリスマス・ページェントは「ラス・ポサダス」と呼ばれます。

 クリスマス近くの夜に、宿を探すマリアとヨセフを先頭に、キャンドルをもった子供たちが町を練り歩きます。

 メキシコを中心とした中南米だけでなく、アメリカ合衆国でも、行われているところが多い催しです。

オーストラリア・アデレードのクリスマス・ページェント

 夏にクリスマスがあるオーストラリア。南オーストラリア州の州都アデレードで80年の歴史があるクリスマスパレード。60組の山車や総勢1000名近いパフォーマーが、繰り広げる地元のお祭り感あふれる行事。

 オーストラリアと言えばラクダ(⇒『ラクダの基礎知識』を参照。)本物のラクダにのった三博士がパレードに登場し、オーストラリアと中近東との思わぬ関係はおもしろいですね。パレードでは本来のページェントのキャラクターだけででなく、サンタクロースや流行りのキャラクターも多数登場する、何でもありのクリスマス・ページェントです。

ドイツ クリッペンシュピール

 クリッペンは馬小屋の「飼い葉桶(かいばおけ)」の意味です。ドイツでは、キリスト生誕のシーンを描いた木製玩具を「クリッペン人形」と呼び、クリスマスのマストアイテムになっています。アドベント期間のクリスマスマーケットの目玉のひとつが「クリッペン」です。(【参考記事】→クリスマスマーケット

 降誕劇は「クリッペン・シュピール(Krippenspiel)」と呼ばれ、日曜学校の子供たちを中心に教会で行われます。

 ドイツは、かつて東ドイツが無宗教を掲げる共産主義国だったこと、プロテスタントが多いこともあって、毎日必ず教会に行く人は、思ったほど多くはないようです。

 それでも、このクリッペンシュピールの生誕劇には、とても多くの人が集まるとのこと。日本の初詣でのような感じだそうです。

グルジア(ジョージア)1月7日のクリスマス

 キリスト教が盛んな国では、イエスが生まれたクリスマスだけではなく、東方の三博士が訪れた日を「公現祭(こうげんさい・エピファニー)」として祝ます。イエスの誕生が公に知れ渡った日という意味です。

 公現祭の時期は、宗派や国によって違いますが、だいたい1月6日前後におこなわれることが多いです。

 また、東方教会(正教)のなかでも、ユリウス暦を用いているロシア正教などでは1月7日がクリスマスにあたっています。

 黒海沿岸のキリスト教国(ジョージア)で1月7日におこなわれるクリスマスの行進「アリロAlilo」は、5世紀から伝わる市民によるパレードです。

 天使に扮した子供たちを中心に、羊飼いや東方三博士に扮した人々が、寄付を集めながら町を練り歩きます。

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日本で観れるクリスマスページェント

 さて、前項でみたように、世界のキリスト教国では、それぞれの地域の伝統と文化と融合しながらさまざまなページェントが行われてきているわけです。

 日本では、うちうちで行われることが多いクリスマス・ページェントですが、是非見てみたい場合は、次のようなアプローチが考えられます。

日曜学校のクリスマスページェント

 日曜学校が行われている教会であれば、クリスマス前の週末などに、礼拝のあとにページェントが行われていることが多いです。

 教会は基本的に信者以外の人も拒みませんので、まず、近所の教会にクリスマス・ページェントの予定について問い合わせてみましょう。

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光ケ丘女子高校クリスマスページェント

 愛知県岡崎市のカトリック系の女子校による伝統あるクリスマスページェントのステージ。

 合唱部、ダンス部、吹奏楽部、実行員会など総勢300人の生徒がともに作り上げる、時空を超える大スペクタクルとして地元で評判。

 楽曲は、吹奏楽界で有名な作曲家・江原大介氏によるもの。

 2018年の公演は12月15日(土)2017年12月16日(日)岡崎市民会館

同志社女子中学高校クリスマスページェント

 京都のプロテスタント系の女子校「同女」での大正時代から受け継がれるクリスマスの催し。同女は制服なしの自由な校風で知られる名門女子校です。

 毎年、校内のチャペル栄光館でおこなわれるクリスマスの特別礼拝では、ページェントの無言劇が、聖書の朗読と、全校生徒による合唱とともに繰り広げられます。

 一般の入場も自由ですが、先着順のため、なかなか見ることができないと評判の催しです。2018年12月17日(月)(予定)栄光館ファウラーチャペル。 

洛陽中学高校クリスマスタブロー

京都のカトリック系の男子中高一貫校、進学校で知られる洛陽。タブローはフランスでできた降誕劇のスタイルのひとつで、活人画とも言われ、祈りの要素が強いものです。

 ボーイソプラノの中学校聖歌隊や実力派の高校聖歌隊の歌声も評判です。

 例年12月23日に学内の洛陽大聖堂で行われ一般の入場も可能です。

バッハ・コレギウム・ジャパンのクリスマスコンサート

 世界的なオルガン・チェンバロ奏者でありJSバッハ研究者である鈴木雅明氏が率いるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のクリスマスコンサートでは、毎年、音楽劇仕立てのページェントが評判です。

 毎年12月23日のメサイア公演の翌日、イブには、少しカジュアルな雰囲気で、古楽器を使った、オリジナルのクリスマス楽曲が披露されます。

 

 以上、クリスマスページェントについて、みてきました。

 キリスト教信者が少ない日本では、大々的な催しは少ないですが、全国の教会で、さりげなく子供たちによるページェントがおこなわれています。

 クリスマスだけ「にわか信者」になるというわけではありませんが、ほんとうのクリスマスの意味を、きちんと理解するために、ページェントを観覧することは、決して悪いことではありません。

 キリスト教徒でなくても、人々が「救い」を求める気持ちと、常に救いが必要な世界について、思いを馳せるのも、クリスマスのひとつの過ごし方ではないでしょうか?

【番外編】イエス様誕生秘話

 この記事の前半で、イエス様の誕生の話を、超ざっくり説明しましたが、話が見えなかたっと思います。そこで、この番外コラムでは、もう少し詳しく、イエス誕生にまつわる話を解説していきたいと思います。

 【注】なお、この解説は、あくまでもいかなる宗派や信仰とも関係なく、無宗教者である私が無宗教者の読者向けに記しているものであることを、あらかじめご了承ください。

●そもそも神の子とは?…神の子とは旧約聖書で語られている「メシア(=救世主)」ことです。メシアはユダヤ語で、ギリシア語がクリストス、それが日本語読みでは「キリスト」となります。

●マリア様はどうやって妊娠?…神の子を処女のまま宿しているので正確には妊娠ではないようです。天使ガブリエルは『精霊があなたに降り、いと高き力があなたを包む』(ルカ福音書)と、マリアに神の子の受胎を告げています。

●マリア様が妊娠したのはいつ?…カトリック3月25日、東方教会は4月7日が受胎告知の日とされています。受精から266日が出産日の目安とされていますので、それによれば、12月14日〜29日あたりが予定日です。

●ヨセフはどうやってマリアの妊娠を知ったの?…先に妊娠を知ったらしいです。一瞬マリアの不貞を疑ったのですがその晩枕元に天使が立ち、マリアが神の子を宿したことを告げられます。

●ベツレヘムへ行ったのはなぜ?…当時ローマ帝国の支配下にありましたが、出身地の街へ行き住民登録をするように告示が出たためです。ヨセフの出身地であるベツレヘムへのたびをすることになったのです。

●天使がはじめにイエス様の誕生を知らせたのは、なぜ羊飼いたちなのか?…羊飼いは、当時は最下層の貧しい人たちの象徴でした。神の救いは、貧富の差がなく平等に訪れるという意味で、社会的弱者の代表として、羊飼いたちに真っ先に知らせたようです。

●ベツレヘムの星とは?…東方の三博士が、キリストの誕生を告げるものと確信した星。彗星であるとの説、くじら座の変光恒星ミラとの説、木星と金星が重なった時、などと諸説あります。

●東方の三博士はいつ来た?…宗派によりますが東方の三博士が馬小屋を訪れた時を、1月6日として、その日を「公現祭」として祝います。イエス・キリストの誕生が、ユダヤだけでなく、東方の三博士の承認により、全世界に広がり認められたことを記念する日です。

●その後のイエス様は?…イエス生誕の物語は新約聖書のマタイ・ルカの両福音書に書かれていますが、その後のイエスの成長については12歳の時の記述が一瞬書かれているだけです。聖書の記述は、その後30歳で洗礼を受け、実際に奇跡をおこすなど活動をしていくところがメインです。つまり、イエスは30歳まではふつうの人として暮らしていました。父親ヨセフと同じく大工をしていたのです。

●その後のマリアとヨセフは?…マタイ福音書とマルコ福音書によれば、イエスには4人の弟と2人の妹がいました。つまり、マリアとヨセフの子供で、イエスを産んだあと、マリアとヨセフは一般の夫婦にもどって子供をもうけた、というわけです。プロテスタントではこの聖書の通りの解釈をしますが、カトリックと正教会では、「永遠の聖処女マリア様」を信奉することから、マリアとヨセフの子供ではなく、ヨセフの連れ子や親戚の子、という解釈をしています。

 以上、ページェントのストーリにまつわる話をいくつか書きましたが、これは、いろいろ突っ込むときりがありません。

 マリアの受胎やイエスの誕生について、ほんとうにいろいろな説があって、そこから新しい新興宗教が生まれてたりもします。

 まぁ、もっとも興味深いネタですので、人々の関心を引くきっかけとしては、とても有効に機能しているのが、このページェントの物語だと言えるでしょう。

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