中小企業のBCP(事業継続計画)策定。復興事例に学ぶ戦略とは。
2018/03/15
BCP(事業継続計画)は、必ず起きる震災に備えて、大企業から中小企業まで、準備しておくべきものです。2016年4月からは国家強靭化基本法にもとづくレジリエンス認証もはじまり、BCP策定の重要性やメリットが、ますます高まっています。
平成27年の総務省の調査では大企業のうち60%が、すでにBCPの策定を終えています。一方、中小企業ではいまだ30%にとどまっています。
やはり、BCPの必要性を感じながらも、「その時はその時」「とても考える余裕がない」という中小企業が多いのが現実でしょう。
この記事では、ともすれば義務的になってしまいがちなBCPを、ポジティブにとらえて、より実効性のあるBCPにするためのアイデアとポイントについて考えてみたいと思いす。また、BCPとは区別しつつもセットで見直したい防災対策についても、ポイントを説明しています。
BCP策定が進まないのはなぜ?
BCPは、マニュアルにとらわれない発想が必要なことも
「BCPをどこから手を付けて良いかわからない」という担当者や経営者も少なくないでしょう。
BCP策定が、すんなり見えてこない場合は、マニュアル作りという発想に捕らわれずに、
「災害というマイナスを、プラスに転換するための作戦」
と、ポジティブに考えることが大事です。
具体的には、災害からの復興事例に学ぶことで、より実効性のあるBCPのイメージが見えてきます。
まずは中小企業庁などが提供するBCP指針などを参考にするべきですが、それで、イメージが湧かないようであれば、復興庁などがまとめた復興事例集を手に取ってみてください。
いずれも無料でダウンロードできます。(下記リンクをクリックで、pdfがダウンロードされます)
それでは、以下にもう少し詳しく、BCP策定のポイントを見ていきましょう。
一般的に想定されているBCP
中小企業のなかには、大手とのサプライチェーンのなかで、BtoB取引を中核事業にしている企業もあると思います。そうした企業の多くは、すでにBCPを策定していることが、ほとんどでしょう。場合によってはBCPのISO認証であるISO22301を取得して、取引先の要求に応えていることでしょう。
BCPの目的のひとつは、「取引先に対して、災害時に供給を切らさない対策をしている証明」です。BCPを策定することが、ビジネスの取引において、信用度アップにつながるわけです。
一般的に言われるているBCPの基本的な構成としては、次のようになります。
1.災害時の対応・防災対策
2.中核業務(重要業務)の絞り込みと復旧目標の設定
3.中核業務の復旧を達成するための重要資源の洗い出し
4.重要資源をバックアップする代替案や分散化策
5.復旧期間のキャッシュフロー・復旧再建資金の調達
大手企業からBCP策定の要請があるような場合は、その大手企業へ提供している製品やサービスを「中核業務」と位置づけ、BCPを策定していきます。
取引先からBCP要請があるということは、サプライチェーンのなかで、当てにされている、ということでもあります。つまり、顧客である大手にとって製品やサービスが代替不可であり、オンリーワンの価値を提供できているからこそBCPの要求が来るわけです。
このような場合は、全力でそれに応えるべきで、復旧の期限を定めそれを実現するための手順をBCPにまとめていきます。代替案や分散化については、取引先の協力を得ることもできるでしょう。
こんなふうに、
大手との安定した取引で事業基盤がしっかりしている中小企業であれば、それほど悩まずにBCPが作れると思います。
逆に言えば、BCP事例やマニュアルは、中核事業が、サプライチェーンのなかで安定感のあるポジションを確立している前提で作られています。
ですので、中核事業がBtoCであったり、BtoBでも小さな取引を数多く重ねているような企業にとっては、どうしても、BCP策定がピン来ない、進まない、という状況になってくるわけです。
BCPは災害時にほんとうに役に立つのか?
BCPは、取引先への災害対応保証としての役割があることは前項で述べましたが、ISOや認証が盛んになっていることで、その面ばかりが強調され、BCPがほんらいもつ、もうひとつの役割が見落とされがちです。
BCPは取引先うんぬん以前に、まずは、
「自社の強みや事業の意義や目的」を再確認することに他ならないのです。
必ずしも相手がある前提でなくても、まず、「我が社はどうしたいか?」という理念に基づいて、基本的な方向性を固めるべきなのです。
そもそも、震災後に、既存の取引先があるかどうか? 実は、はっきりと言えません。
実際、東日本大震災で被災した、東北の企業の再建事例などをひもといていみると、案外多いのが、
「震災によって、既存の取引先は、全部失った」
という事例なのです。
マニュアルでは、被災で供給が止まった場合でも、取引が継続できることを前提にBCPを策定するのですが、現実は、そう簡単でもなさそうです。
たとえば、BCPでの想定以上に、復旧まで時間がかかってしまえば、取引先も苦い決断のうえ、他社に乗り換えることもあるでしょう。
震災の規模によっては、さまざまな条件が積み重なって、「想定外の連続」になることは間違いありません。
もし、自社が提供している商品やサービスが、代替が可能なものであれば、被災していない企業に調達先を乗り換えられても仕方がない、ということです。
つまりBCP策定とは、「自社の商品やサービスが、代替不可能なワン・アンド・オンリーの価値を提供できているか?」が問われることだとも言えるのです。
もし、BCPの策定が「ピンとこない」「進まない」のであれば、まず、自社の、主要事業・中核事業をしっかりと見つめなおすことだと思います。
BCPで浮き彫りになる主要事業の実力
自社の事業は、現在どんな価値が提供できているのか? 必ずしも「ワン・アンド・オンリー」だけが価値だとも言えませんが、ひょっとすると主要事業のスタイルを見直すタイミングに来ているかもしれません。
実際に、東日本大震災を期に販売チャネルの方向性を変えたり、主力製品を変えたり、業態そのものを変えた企業も少なくないのです。
未曾有の非常時に直面した時に、自社の中核事業がどう生き残れるのか? まさにそのことを見つめなおすのがBCPなのです。
マニュアルありきではなく、そこをいちばん考えなくてはならないのですね。
ですから、BCPで想定するべきことは、必ずしも、中核事業の早期復旧だけではありません。
ひょっとすると、被災を期に、中核事業をリスタートさせたり、新規事業に参入したりというチャンスが訪れるかもしれません。
そこまで視野に入れて、災害に備えることが、ほんらいの「事業継続」のプランなのです。
そこで、次章では、東日本で被災した中小企業が、どのように中核業務を柔軟に変化させて、危機を乗り越えていったか?いくつかのパターンに分けて整理してみました。
災害復興事例にみるBCPのヒント
販売チャネルの転換
BtoBからBtoCへ
東北地方を旅すると、10年ほど前にくらべ、どことなく活き活きしている印象を受けます。
もちろん、被災を乗り越えた人々の強さがにじみ出ていることもあるのですが、ひとつ言えることは、特産品などの商品の点数が、震災前に比べて格段に増えている、ということです。
もちろん、これは東北の人たちの努力の賜物でもあるわけですが、震災を機会に、それまでのBtoB中心の業態からBtoC戦略へ転換した事業者が少なくないことも、その理由です。
そうした、販売戦略の転換に成功した事例には、たとえば次のようなものがあります。
・工場を津波で消失⇒再建後も既存の原料供給ルートは復活できず、自社ブランドの直売商品を開発した。[水産加工]
・取引先の閉鎖で、自社販売部門を強化、分社化。輸出なども視野に入れた商品開発。[水産加工]
・3カ月で工場操業再開するも、BtoBの既存販路は失う。被災前から少しずつ取り組んでいたBtoCへの業態転換。[食品加工]
とくに津波被害を受けて、生産基盤を失った水産加工業では販売チャネルの転換を行った業者が多数あります。
もちろん必ずしもBtoCがすべてではなく、卸しルートの拡大を実現した例もあります。
・復興支援の雑誌掲載を機に大手外食への食材提供を開始。[食品加工]
・復興支援の物産展を契機に、百貨店ルートへの新規チャネルを開拓。[製菓製造]
また、震災を期に産地全体の業界再編を行った石巻漁港の例も、興味深い事例です。
・震災前は零細の水産加工業者の8割がBtoB取引をバラバラにおこなっていたが、震災を期に地域のサプライチェーンを再構築し、地域内OEMを活性化させた。
このように、大きな災害の後は、取引チャネルの変更や拡大をふくめた、業界の商流が再編されるような動きになることが予想されます。
商流再編のなかで、自社の強みを活かしていかに柔軟に対応できるか? そこを、BCP策定で中核事業を考える場合に、加味していく必要があるのです。
新商品が再興の鍵に
ここまでみてきたように、震災後に起こるであろう業界再編に耐えうる中長期計画が必要です。
ただ、あまり難しく考えずに、たとえば製造業であれば、常に新商品を開発できる体制を整えておくことも、中長期的に足腰の強い事業基盤を作ることになります。
実際に、震災を期に新商品を打ち出している業者も多数あります。
・復興での取引先減を補うために、コラーゲンを活かした化粧品分野への参入。[食肉加工]
・避難所支援で提供した滋養効果の高いカレーを商品化。[食品卸]
・被災直後に商品を購入してくださったサポーター顧客のニーズにあわせて、新商品を定番化し主力商品に。[水産加工]
・被災後に、工場ラインやサプライチェーンが復旧していない混乱状態のなかで、むしろ自由な発想で、手作業で新商品開発を行うことができた。[食品]
・温泉地で、震災前にすでに衰退しはじめていた宿泊型観光を改め、震災を契機に、県内の日帰り客にターゲット変更し、成功。[観光]
大きな災害の後には、少なからず「業界再編」が起きるわけですから、既存の中核事業を継続する前提ではなく、その機会に展開する新規事業や新商品のアイデアや温めておくことも、とても重要だといえそうです。
リスタートをチャンスに変える
被災することで、生産ラインをゼロから構築し直す必要を迫られるケースもあります。
その際、多くの企業では「今まで、やりたくてもなかなかできなかった再構築」を行うことで、再スタート後の収益をアップさせているところも少なくありません。
・それまで多すぎた商品点数を、被災を期に、大幅に絞り込み、結果利益率が向上した。[酒造メーカー]
・被災を期に、念願だったドライ化・減菌化した工場に抜本的にリニューアルした。ロスを減らし粗利が2倍に。[食品加工]
・ピッキング部門のアウトソーシングへの転換をすることで、コストダウン・スリム化ができた。[機械部品メーカー]
・被災復旧を期に、マーケティングや財務の外部専門家の受け入れを行い戦略を再構築。[観光業]
震災でリスタートしなければならないタイミングを逆手にとった発想です。日頃はいろいろなしがらみでやりにくい大きな改革やテコ入れを実行するのには、ちょうどよいタイミングとポジティブに捉えています。
こうしたことを常日頃考えておくこともBCPの一環とも言えるわけです。
新規事業への業態変更
ここまで震災を契機に、販売チャネルの見直しや新商品開発を行った事例について見てみましたが、震災をきっかけにまったく別事業に乗り出した中小企業も少なくありません。
・震災後からブドウを植えはじめ、ワイナリーを創業。
・木材チップを使った再生可能エネルギー事業を起こし、災害に強いライフラインの構築。
・下請け半導体メーカーがクリーンルームを野菜工場に転換。
こうした思い切った業態転換など、震災というアクシデントをばねにして新たな起業を模索するという考えも、BCP策定の過程で、視野に入れることも選択肢です。
思い切ることで、かえってビジョンが見えてくる場合もあることでしょう。
中小企業にとっては、コアとなる中核事業を、被災状況に応じて、柔軟に変化させていく必要がありそうです。
BCP策定では、現在の中核事業を継続する前提で考えてもよいのですが、自社の強みをベースにした事業転換を想定しておいたほうが、より現実感のあるBCPになってくるでしょう。
協業・同業者の支援
経済産業省では、東日本大震災や熊本震災について「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」を行っています。
これは、中小企業のグループの復興計画に対して、生産施設や共同店舗の整備費用の3/4を国や県が補助するものです。
この制度を利用するしないにかかわらず、震災後の復興では、それまでライバル関係にあった同業者が協業関係を結ぶことで、復興のスピードを加速させている事例も多く見られます。
・系列の別会社3社の各工場から使用可能な機械類を持ち寄り、工場を一か所で再稼働。その機会に三社を統合。[水産加工]
・もともと競合しない魚種を得意とする同業4社がグループを組み、施設・商流・人的資源などバリューチェーンを共有。[漁業]
ライバルである同業者は、危機の時には助け合う友となり得ます。
日頃から、同業他社とどのようなセーフティーネットを築いておくか?は、BCPを考えるうえでも、とても重要な鍵となりそうですね。
また、地元ではなく、遠隔地の同業者とのつながりも、いざという時に頼りになります。
・三陸の工場が全壊したため、3月20より青森の工場を借り一部の生産開始。[岩手・水産加工]
・千葉の取引先の関係する工場を間借りして営業を続けた。[宮城・機械メーカー]
・石川のお菓子メーカーから資材などの支援を受け事業再開[宮城・製菓メーカー]
大手であれば、製造拠点の分散化・バックアップなどを事前にヘッジしておくことが可能ですが、中小企業では、なかなかそうもいきません。
そこで、遠方の同業者と友好関係を結んでおくことが、とても重要なリスクヘッジとなるわけです。
被災直後の対応と企業の社会的価値
ここまで、主にメーカーなどが、取引ルートや商品や業態を変えることで、危機を乗り切っている事例をみてきました。
一方で、サービス業など顧客により近い位置で企業活動をしている場合を見てみましょう。
店舗などお客さんが常にいるような業態では、災害直後の初動をどうするか?に、より重点を置いたBCPを考えるべきです。
とくに、小売り店舗では、災害直後には「食料品や日用品などのライフラインの供給」という社会的責任をどのように果たしていくか?に主眼をおいた、事業継続をイメージしてみましょう。
災害復旧の食料用や日用必需品で商活動を行うことは、ともすれば悪いことのように思えてしまうかもしれませんが、被災直後の避難者は、「ほどこしを受ける」という気持ちは、まったく持っていません。
避難所に全国から送られてきた「善意」の衣類などが、ほとんど無駄になったことは、そのことを示しています。
ですから、コンビニやスーパーでは、一刻も早く業務を再開し適正価格で販売することが、長期的に見れば、顧客の信用を勝ち取ることになります。
・阪神淡路大震災の直後は、便乗値上げで食料や必需品を売る商店が多く現れた。そうしたななか、イトーヨーカードは、大手ではいち早く業務を再開し、通常価格で販売することで、市場が混乱することを防いだ。ヘリや海路など独自のバックアップ供給網を使って商品を補充した。
・岩手県三陸の地元スーパー・マイヤは、日頃から年2回の津波を想定した防災訓練を行っていたため、避難所が被災した陸前高田でも、従業員・顧客の被害は皆無だった。
・宮城の個人商店は、震災後の混乱のなか、業務を再開。現金を持っていないお客さんが多かっため、回収は期待せず掛け売りをした。後日、落ち着いてきてから、販売額以上の金額が戻ってきた。
・岩手の酒造メーカーでは、震災後、原料の米で炊き出しができるように、訓練を兼ねた社内イベントを年2回、開催するようになった。
・避難所にお菓子を無償で届け続けた。はじめの1週間ほどはお菓子のニーズは低かったが、その後はとても喜ばれた。
このように、地元のお客様との関係のなかで、どのように被災支援ができるのか? 社会貢献ができるのか? 日頃の企業スタンスを再確認するとともに、BCPプランのなかに盛り込んでいくことが重要です。
もちろん、被災後の混乱のなかで商品供給を続けるためには、輸送体制・仕入先の緊急時対応、銀行など運転資金確保先について、綿密なBCP策定をしておくことが前提となるでしょう。
以上、復興事例のなかから、BCP策定のヒントととなるものをピックアップしてみました。
BCP策定が行き詰った時には、復興事例のなかに、イメージできる方向性やヒントが数多く得られることを、ぜひとも頭に入れておいてください。
BCPと防災計画
防災対策とBCPはどこが違う?
BCPは、あくまで災害後の事業継続や事業転換の経営方針を具体的なアクションプランに落とし込むものです。
ですので、災害時の対応や防火耐震対策などをプランニングする「防災対策」と「BCP」は、ほんらいは、別に用意するべきものです。
ただ、実際は、BCPと防災対策を同時に策定する場合も少なくないでしょう。
また、サービス業などでは、災害時や災害直後の来店客の対応が、以後の経営展開にも大きく関わってくるので、防災対策とBCPが不可分の場合もあります。こうした場合は、BCPとセットで考えていきます。
一方で、製造業などで、直接の来客対応などがとくに必要がない防災対策は、ある程度マニュアル通りにやれば、担当者レベルで充分にまとめることができます。
防災対策で気を付けておきたいポイントを、いくつかピックアップして紹介しておきましょう。
社員の安否は社員⇒会社
・社員の安否確認…災害時には社員から本部へ、なんらかのかたちで安否連絡を入れることを義務付けましょう。使える通信手段がケースバイケースになるため、本部⇒社員の方向への連絡は無理なので、社員⇒本部とするしか、安否確認をする方法はありません。
衛星電話で通信を確保・非常電源も
・インフラのバックアップ…災害時と直後に必要になるのが、通信施設と非常電源です。
通信施設は、衛星通信電話を契約しておけば、災害時でもほぼほぼ使えます。取引先への連絡、代替資材や分散拠点との連絡などBCPを遂行するのに、通信手段は欠かせません。とくに、取引先への連絡は、先方のBCPにもかかわってくることなので、積極的に行います。
非常電源には、通常、
ディーゼル発電機またはガスタービン発電機が使われます。消防法で定められた防火設備を動かすための予備電源とは別に、業務用に用意しておく必要があります。
震災で顧客データを喪失しないように
・データーバックアップ…顧客データを震災で喪失した企業も少なくありません。顧客データーは努力の積み重ねの結果でお金で買えるものではありません。分散拠点が用意できない場合アは、クラウド型データーバックアップシステムなどを利用しましょう。
サービス業の防災対策
・顧客の避難誘導…サービス業などでは、震災発生直後の来店客の避難誘導なども重要です。集合商業施設の場合は、自営消防組織などが避難をリードすることになっていますが、単体の店舗などでは日頃の避難訓練が欠かせません。
陸前高田では避難所として指定された役場や学校が津波で被災しましたが、平素から避難訓練を徹底している地元スーパーでは、来店客を高台に避難させて、従業員・来客とも、犠牲者を出しませんでした。
おざなりの避難マニュアルではなく、的確な避難誘導ができたのは、「防災意識をもつこと」に強い信念が、あったからです。
こうしたところにも、会社が常日頃もっている「社会的責任」への考えが、にじみ出てくるわけです。
耐震対策の徹底
・耐震対策…建物の耐震基準はもちろん、機材類の耐震対策を徹底させます。
耐震対策については以下の記事
⇒耐震基準の変遷。建築年代別の安全性
⇒耐震基準の義務化。
も、参照してください。
社用車の取り扱い
・社用車の運用規定…車の運転中に大地震が来た場合、「左によせ停車しキーをつけたまま、車両を放置して徒歩で避難すること」と、よく言われていて、交通規則や震災マニュアルにも必ずそう書かれています。
しかし、東日本大震災の時、首都圏では車両の運転をやめた人はほとんどいなかったようです。
これは、主には、社用車を運転しているドライバーが事前に会社より震災時の行動様式を伝達されていなかったためです。社用車を放置してもドライバーには責任が生じないよう会社側があらかじめ明言しておくことが必要です。
災害時の就業に関する法律的問題
労働者の安全配慮義務…労働契約法第五条の安全配慮義務では、会社は従業員の安全を守る義務があるとされています。
・建物の耐震対策
・管理者の安全教育
・避難訓練実施
・防災マニュアルの整備
万が一、震災時に業務中の社員に何かがあった場合、こうした基本的な防災対策を会社側やっていたのか?責任が問われ、最悪、賠償問題に発展します。
近年は社員と会社の関係はドライになってきていますし、帰属意識も希薄です。事前に自己責任の範囲や、会社が非常時にどこまで指示に強制力をもたせられるのか?など、労使間で充分に話し合い合意しておくことが望ましいでしょう。
また、東京都では「帰宅困難者対策条例」のなかで、震災後の退社タイミングとして3日ほどは社内に留まるよう推奨しています。
ただし、家族と連絡が取れない社員を拘束する権利は会社にもありません。
その場合は、災害直後の混乱の中で社員が帰宅することになります。社員がもし帰宅途中に二次災害や何らかのトラブルに巻き込まれた場合、会社での待機をさせなかった責任を、会社側が問われる可能性もあります。
ですのであらかじめ、帰宅タイミングについてのルールを定めて、あくまで自己責任など、責任の所在をあきらかにしておくことも、見落とせないポイントとなってきます。
このように、労使間の不要なトラブルを避けるためにも、防災対策には万全を期すことが必要です。
以上、ここまで、BCPについて、通常のマニュアルにはあまり書かれていない視点から、考えてみました。BCP作成に行き詰った場合にぜひ、参考にしてみてください。
日本では、とくに震災は、「もしも」ではなく「必然」で訪れる危機です。
災害のなかでも、とくに地震については、必ず来るものとして、備えていかなければなりません。
インフラが壊滅したり、従業員に犠牲者が出るようなレベルの大きな災害が起きれば、「もう立ち直るのは無理……考えたくない」、というのが本音かもしれません。
しかし、その時こそ、トップの強い意志やリーダーシップを発揮すべき時です。
災害を乗り越えて、従業員の生活を守り、企業の社会的責任を果たすためにも、事業継続計画をじっくりとシュミレーションすることは、とても意義のあることなのです。
BCP認証を取引先から求められているかどうか?にかかわらず、BCPは会社の理念を体現するべきものです。
自社の強みや社会から求められている事業を、もう一度見つめなおすことで、自然に生まれてくるのがBCPだとも言えるのです。