山火事は熱波や温暖化が原因で増えているか? 山火事と森林の関係。

      2018/08/05

山火事

 大規模な山火事が世界各地で後をたちません。つい最近(2018年現在)も、ラップランド(スウェーデン)、ギリシャ、米カリフォルニアと、続けざまに大規模な原野森林火災がおきています。

 こうした大規模山火事は、温暖化による「熱波」の影響で起きる?とも言れていますが、そもそも、暑さで自然発火するものなのでしょうか?

 この記事では、ほんらい燃えにくいはずの森林が燃える山火事の仕組みや原因についてまとめてみました。

 また、樹木が持つ、山火事と共存する不思議な力についても、みていきます。

山火事が怖いのは何故?

ワイルドファイアーのすさまじい規模

 山火事が何より恐ろしいのは、ひとたび勢いがつくと、人の手で消火することはほぼ困難になること、そして、加速度的に火災が広がっていくことです。

 日本以上に大規模な山火事が多い、カナダ、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパなどでは、山火事、森林火災、原野火災をあわせて「ワイルドファイアー(Wild Fire)」と呼んでいます。

 ワイルドファイアーは、消火することはもちろん、延焼を防ぐことも不可能になり、何日も何週間も燃え続けます。森林や草原だけでなく、アラスカやシベリアのツンドラ地帯の泥炭層が燃え続けるツンドラ火災も、頻繁に起こっています。泥炭は、枯れた植物が堆積してできた石炭の一種ですので、森林以上に燃え続け、想像を絶する広大な面積を焼き続けるのです。

▲ワイルドファイアーの消火活動の主役はヘリ。粉末状の消化剤を散布する。

樹木は燃えにくい? 燃えやすい?

 さて、山火事ってどうして起きるのでしょう? 生きた植物は水分もあり、燃えにくいのでは? というイメージがあるかと思います。

 実際のところ、通常の火災では、樹木は重要な防火帯として機能します。大都市では、火災から安全に避難するために⇒防災公園には、樹木が整備されています。

 しかし、旱魃(かんばつ)となり、森や樹木そのもの水分が少なくなると、事情は違ってきます。

 樹木は、さまざまな工夫により、少量の水分でも生き残る仕組みをもっています。逆に言うと、旱魃の時の樹木は、枯れてはいないものの、水分は極度に少ない状態だということです。

まして、多くの樹木は可燃性の油分=テルペンを含んでいます。

テルペンは、マイナスイオンを発生させるフィトンチッド効果の素になってる物質です。テルペンが森林浴の効果の科学的な根拠なのですが、実は、ガソリンなどにだいぶ近い物質でもあります。トウダイグサ科のアオサンゴやホルトソウなどテルペンを大量に含む植物は、燃料を作り出す研究がされていたほどです。

 一般の樹木でも、下記のように、多くのテルペンを含んでいます。

樹木が含む可燃性のテルペン油
葉100gあたりのml量
トドマツ 8
ネズコ 4.2
スギ 3.1
ニオイヒバ 4.1
ヒノキ 4
アスナロ 2.4
シラベ 2.1
エゾマツ 2.1
ハイマツ 2
クスノキ 2.4
ヤブニッケイ 2
タブノキ 2.2

これらのテルペン含有量が多い森林の上空には、テルペンが常に揮発されています。つまり森林の空気は、高度の可燃性物質で満たされているのです。湿度のある時は問題ありませんが、旱魃になると、テルペンは山火事起こす、大きな原因となります。

このように、水分が豊富な時は防火帯として働く樹木も、旱魃時には、燃えやすい性質に変わる、ということなのです。

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クラウニングという樹冠が燃え出す状態

 山火事では、はじめは、森の地面に落ちている枯葉や枯枝が燃えます。いきなり樹木が燃え出すわけでもありません。地面の枯草や枯れ枝が燃えている段階であれば、山火事は、まだ消し止められる可能性があります。

しかし、やがて、炎は、樹冠(クラウン)の方へ登っていき、木の上で火が広がるようになります。この段階を「クラウニング」と呼びますが、こうなると、火はより速度を上げ、森林を駆け巡り、完全に手が付けられない状態になります。

 勢いがついた火のスピードは想像を絶するものがあり、たとえば草原火災では時速22kmというスピードで火が燃え広がります。

 ワイルドファイアーは、火の勢いが早く、あっと言う間に広がるので、「逃げ切るのが難しい」のが特徴です。

恐怖のファイアーストーム

 クラウニングで森林の樹冠部分に広範囲に広がった炎は、やがて周囲の空気を温め、強烈な上昇気流を作り出します。

 この上昇気流によってもちあげられた空気のすきまに、周囲から空気が流れ込みます。これがファイアーストーム(火災旋風)です。ファイアーストームは1000度Cにもなり、熱風が30m/s以上の強さで吹き荒れます。

 上昇気流はやがて、⇒積乱雲を作ります。極度に空気が乾燥している場合は、雲すら作られないこともありますが、樹木に残された水蒸気の供給があれば、山火事の上に、積乱雲が発達するわけです。

 山火事の上にできた積乱雲に雷が発生し、火災をさらに拡大させていきます。積乱雲の雨は多くの場合、地上に到達する前に蒸発してしまいます。たとえ地表に届いたとしても、もはや火を鎮めるのには充分ではありません。このように、ワイルドファイアーは、悪循環で拡大し、何週間も燃え続けるのです。

 ファイアーストームから発達した積乱雲は、時に、竜巻を起こし「火炎竜巻」という、世にも恐ろしいものが出現することもあると言われています。

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▲シベリアやアラスカでは泥炭が燃え続けるツンドラ火災が定期的におきている。

世界のワイルド・ファイアー

 大規模な山火事や原野火災は、想像を絶する火の勢いで、森林や原野を何日もかけて焼き尽くしていきます。海外のワイルドファイアーでの消失面積は、数十万~数百万ヘクタールに達するものが少なくありません。東京都の面積が約21万ヘクタールですので、東京都の何倍・何十倍もの森林や原野が、火災により燃えていっているのです。

世界と日本の大規模な山火事・原野火災
火災発生年 地域・火災名 消失面積
万ヘクタール
失面積
東京都の何倍?
2003年 ロシア シベリアバイカル湖周辺 1902 86.9
2014年 カナダ ノースウェスト準州 340 15.5
1939年 オーストラリア ブラックフライデー 202 9.2
1950年 カナダ チンチャガ 162 7.4
1871年 アメリカ ペシュティゴ 150 6.8
2010年 ボリビア ボリビア 150 6.8
1910年 アメリカ グレイトフィアー 121 5.5
2017年 カナダ ブリティッシュ・コロンビア州 122 5.6
2011年 カナダ リチャードソン・バックカントリー 69 3.1
2016年 カナダ フォートマックマーリー 58 2.7
2008年 アメリカ カリフォルニア・ロサンゼルス 56 2.5
2005年 アメリカ テイラー 53 2.4
2009年 オーストラリア 黒い土曜日 45 2.0
(日本の過去の大規模山火事)
1961年 岩手県沿岸部 三陸大火 4 0.2
1909年 北海道 興部 2.5 0.1
(日本の最近の大きめの山火事)
2002年 岐阜県 各務原市 0.041 0.002
2013年 長野県 諏訪市 0.022 0.001

日本の山火事

 日本では、湿潤気候ですので山が極度に乾燥することが少ないこともあり、海外に比べると山火事の面積そのものは少ないです。

 しかし、日本の山火事の件数自体は決して少なくなく、ここ十年でも毎年平均1500件以上の山火事が起きています。消失面積は毎年約1000ヘクタール。ひとつひとつの山火事は小さくても、あなどれない件数です。

 それでも、林業が盛んだ昭和30~50年代には、年間5000~8000件もの山火事が起きており、その頃にくらべると、だいぶ減っていると言えます。山火事防止の啓蒙運動や、初期消火技術の向上など、地道な消防活動の成果だと言えましょう。

 ただ、温暖化の影響で山火事が増えているのではないか?というイメージはついてまわります。次章で、山火事の原因を調べつつ、温暖化と山火事の関係についてみていきます。

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山火事は熱波や自然発火で起きる?~山火事の原因は?

山火事の原因のほとんどは火の不始末

 まず、山火事が起きる現象についてみてみましょう。

 山火事の原因で最も多いのは「人為的な火の不始末」です。日本でも海外でも90%以上の山火事やワイルドファイアーの原因は、人為的なものだと考えられています。

 たき火、野焼き、たばこなど火の不始末が、広大な森林を焼き尽くす原因のメインとなっているのです。

 温暖化で山火事が増えるうんぬん以前に、人為的な火の管理を徹底すれば、世界中で山火事は10%にまで減る、ということですね。

「熱波」で自然発火するのか?

ところで、「温暖化で山火事が増える」というのは、どういうことでしょうか?

よく、「熱波による山火事」という言い方があり、気温の上昇が直接、木を燃やしているようなイメージもあるかもしれませんが、さすがに、それは違います。

たしかに物体は「自然発火」します。物体の温度が上がることで、火種が無いのに、発火する現象が自然発火です。

物体には発火点というものがあり、その温度に到達すると燃え始めます。自然発火しやすいものとして、古タイヤや、アロマテラピーなどでよく使う亜麻仁油を含ませたウェスが知られています。

しかし、森林の樹木が、暑さだけで自然発火することはありません。樹木の発火点は250度です。いくら温暖化の熱波が暑いからといって、気温の上昇だけで、自然発火することはさすがにありません。

自然発火温度
ディーゼル 259
ガソリン 300
古タイヤ 150~200
木炭 250~300
泥炭 225~280
ココア 180

山火事の原因と温暖化の関係は?

ここまでみてきたように、何もしない純粋な自然状態で森林が自然発火することは、考えられません。ただ、摩擦による発火は、少なからずあります。

摩擦は、ものが擦れることで、表面温度があがり、やがて、熱暴走というかたちで加速度的に温度があがり、発火点に到達して自然発火するものです。自然発火を誘発する現象が、摩擦、だというわけです。

実際に、木々が強風で擦れて、摩擦熱を生じて、熱暴走を起こして、発火点に達する、という現象は、起こります。

もうひとつ、自然発火を誘発するものとして、発酵熱があります。牧草を発酵させるサイレージの発酵熱が原因となる火災は、ヘイファイアー(hayヘイ=干し草)と呼ばれるくらい、よくあることです。

 泥炭地で泥炭が発酵して自然発火する現象も見られます。

 ほかにも、水滴やゴミで捨てたペットボトルの水がレンズの働きをして収斂(しゅうれん)発火すること考えられます。

 以上のように、人為的なきっかけがないのに、自然発火が誘発されて起こる火災は、実際にあるわけです。

 こうした非人為的な発火原因は、いずれの原因も温暖化以前からあるものです。

 ですから、あくまでも、出火の原因そのものは、温暖化とは直接関係が無いということですね。

温暖化がもたらす乾燥状態とは?

 熱波による乾燥は、土壌の水分を極端に減らします。そうなると、植物が、水分を体外に出す「蒸散」が減ります。結果、土や植物からの蒸発がそのものが減ります。蒸発する時は、気化熱が奪われるため、蒸発活動がそのものが気温を下げてくれます。しかし、乾燥で蒸発が減ると、もちろん雨雲も作られなくなり、なおかつ、気化熱が奪われないぶん、さらに気温が上がる…そういう悪循環に入っていくのです。

 まず極度の乾燥状態が作られることが、山火事が起こる大前提であることは、記事の冒頭で述べたとおりです。

 ですので、温暖化が山火事やワイルドファイアーが起きやすい条件を増やしていることは、間違いありません。

 ただ、出火原因の90%以上は人為的なものです。つまり、「温暖化=山火事が増える」と短絡的に考えるよりも、まず、人為的な失火原因を無くすことが、先決だということですね。

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▲山火事の上昇気流によって雲が発生し、やがて積乱雲となる。

ドライサンダーストーム

 さて、人為的なこと以外の山火事の原因として、もうひとつ注目したいのが「雷」です。雷は、積乱雲で発生するものですので、通常は、大量の雨を伴います。ですので、通常の落雷では火災になっても、積乱雲自体の雨で消火されることがほとんどです。

 ところが、極度に乾燥状態が続くと、ドライ・サンダーストームという、雨を伴わない雷雲が発生します。ドライサンダーストームでは、積乱雲の中では雨は降っているのですが、地上の乾燥があまりにも激しいため、雨が地上に届くまで、蒸発してしまいます。

 そのため、落雷による山火事が発生するのです。北米西部の山火事の原因は、ドライサンダーストームによるものが多いです。

 ドライサンダーストームは、温暖化すると、増えてくる現象と言えます。その意味では、温暖化が一層進むことで、山火事やワイルドファイアーが増える可能性はあるわけです。

山火事やワイルドフィヤーの出火原因

・火の不始末

・摩擦熱

・発酵熱

・収れん発火

・雷(ドライサンダーストーム)

●熱波が直接の原因になることはない(乾燥状態を作り出し山火事になりやすい条件は増える)

山火事をあてにする植物とは?

 山火事は90%以上は人為的な原因によるものとされますが、逆に言えば残りの数パーセントは、自然現象として起こるものです。

 つまり、人間が炎を使い活動をする以前から山火事は定期的に起こっていたわけです。

 そんななかで、いくつかの樹木は、山火事を、自分たちの繁殖に利用しています。

 有名なのはオーストラリアのユーカリ。ユーカリは精油成分としてテルペンを大量に含む樹木ですが、テルペンは可燃性です。ユーカリは乾燥地帯に生える樹木です。つまり、ユーカリ林は、とても山火事になりやすいのです。

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▲ユーカリ森林が出すフィトンチッドは、可燃性物質のテルペンでもあるため、火災になりやすい。

 オーストラリアではアボリジニが移住する4万年前から、ユーカリ林は定期的に自然発火をしてきました。そのため、ユーカリをはじめ、バンクシア、アカシア、ボトルブラシなどいくつかの植物の果実や種子は、火災の高温にあうことで、発芽が促進されな性質をそなえています。

 ユーカリ以外にも、北米に多い、ジャイアントセコイア(セコイアデンドロン)や、コントルタマツ(ロッジパールパイン)は、山火事にあって、はじめてマツカサが開き発芽可能になるという、山火事前提の繁殖システムになっています。

 ですので、ジャイアントセコイアやコントルタマツを管理している北米の森林公園では、ファイアーマネージメントまたはコントロールファイアーと呼ばれる、人為的な山火事をわざと起こしています。わざと山火事をおこし、樹木の繁殖を管理しているのです。

 日本の山にある樹木でも、ヌルデ(白膠木)は、山火事の後に生えやすい樹木として知られます。他にもパイオニアプランツのヤマハギ、タラノキ、タケニグサの種子は火災に強い。つまり、日本の森林でも、山火事が起こりそこから再生することを、植物は計算済みだというわけです。

 以上、植物と山火事の不思議な関係をみてきました。山火事は実は、自然現象のひとつだったということが、わかったと思います。ただし、繰り返しになりますが、現代の山火事の原因のほとんどは人為的なものです。

  

  

 以上、山火事はの原因と温暖化の関係についてみてきました。

 いちばんだいじなことは、温暖化うんぬん以前に、ほとんどの山火事の原因となっている火の不始末を無くすことです。

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