ロングトレイルとは? 装備を軽くして、歩き続ける旅に出よう。

      2017/09/29

ロングトレイル

 ロングトレイルは、何日にもわたって歩き続けるトレッキング・ルートのこと、そして、そのルートを歩く旅のことです。

 山、森林、尾根、峠、高原、湖畔、川、雪渓、里山、古い町並み・・・バラエティに富んだ道のりを歩きながら楽しむ旅が、世界的にブームになっています。

 ロングトレイルは、映画でも有名になったアメリカをはじめ、ニュージランドやヨーロッパ、そしてもちろん日本国内にも整備されていて、多くのハイカーたちが、自然と出会い、そして自分と出会う素晴らしい体験をしています。

 この記事では、ロングトレイルの特徴や魅力、装備やコツなどについて、まとめてみました。歩き続ける旅に、挑戦してみませんか?  (コース例については、→「世界のロングトレイル代表的コース」を参照してください)

ロングトレイルとは? その特徴と魅力

ロングトレイルは登山の縦走となにが違う?

 最低限必要な装備だけをバックバックに詰め込み、奥深い大自然に抱かれ、時には見たこともない風景に出会い、時には里山で人情にふれながら、歩き続ける時間をたっぷりと楽しむロングトレイル。

 おもにテント泊をしながら、数日から数週間かけて、100km前後から1000kmを超えるコースを歩き通す旅です。(野山を駆ける「トレイルラン」の長距離をロングトレイルと言う場合もありますが、ここでは、歩き旅の「ロングトレイル」について説明していきます。)

 これまでも、登山スタイルのひとつとして「縦走」がありました。縦走は、キャンプや山小屋に泊まりながら山頂をアタックするものですが、イメージとしては、ロングトレイルは、登山の縦走ほどはハードではないトレッキングです

 ロングトレイルの場合は、登山の縦走にくらべると、高低差も比較的少なく、高山地帯は少ないので、比較的軽装備で歩くことができますし、初心者でも安心して楽しむことができます。

 ロングトレイルのコースは大自然のなかだけではなく、時には人の生活圏に近いところを歩きます。多くのコースは、低山と里山のあいだを縫うようにして設定されて、里山や農村、古い巡礼の道や街道など、自然だけではなく、村の暮らしに触れることができます。

 このようにロングトレイルは、街に付かず離れずのコースが設定されているので、コースの途中で一時エスケープして、そこで資材を調達したり休息したりして、またコースに戻ることが比較的簡単です。

 また、何日もかけてコースをぶっとうしで歩き通す「スルーハイク」だけではなく、コースの途中から入り途中から抜ける「セクションハイク」がやりやすいのも特徴です。

 従来の登山の縦走にくらべると、リスクやトラブルを限りなく低くして、しかし、たっぷりと自然を味わうことができるのがロングトレイルの人気の理由なのです。

ロングトレイルが映画の題材としても人気の理由は?

 
登山は、山頂を究めるという目的のために歩きますが、ロングトレイルでは、歩き続けるために歩きます
。もちろんロングトレイルを完歩するという目標もありますが、それよりも、ゴールではなく、歩く時間そのものを楽しむのが、ロングトレイルの魅力です。

 ゴールが山頂か? それとも歩くことが重要か? この違いは、とても大きいです。登山もロングトレイルも、一見おなじ山歩きのようでも、感じるもの、見えてくるものが、違っているのです。

 とくに、ロングトレイルの場合は、むしろ「自分に出会う旅」という側面があります。

 最近では映画の題材としてもロングトレイルが舞台となっています。アメリカの代表的なロングトレイルであるアパラチア・トレイルを舞台にしたロバートレッドフォード主演の「ロングトレール」、また、こちらも有名なコースであるパシフィック・クレスト・トレイルを舞台にした「わたしに会うまでの1600キロ」。

 どちらの映画も主人公がロングトレイルを踏破するなかで、自分自身を再発見する物語です。実際に、映画の世界だけではなく、ロングトレイルの経験で人生観や価値観、その後の生活スタイルが大きく変わったという人も、少なくないようです。

 歩きながら考えることは、ひとつの瞑想のようなものかもしれません。実際に、仏教の瞑想のスタイルには「歩く瞑想」というものがありますし、日本でも山伏の修験道のように、歩くことと精神世界は、深いつながりがあるのです。

▲ロングトレイルは自己を見つめる旅でもある。人生の価値観が大きくかわるかも?

歩くことは本能? ノマド志向を満足させてくれる各地のロングトレイル

 ロングトレイルのもうひとつの魅力は、人類が本能的にもっている「ノマド志向」を満足させてくれるところです。

 農耕をすることで定住生活をはじめた人類ですが、それ以前は、人類は「旅する動物」だったといわれています。

 われわれ現代人が、旅のなかで人生を送るノマドスタイルに強く憧がれるのは、ほんらいの人間のスタイルに回帰しようという本能のあらわれかもしれません。

 歴史的に見ても、人々は歩く旅を好みました。聖地を巡礼するために歩く道は世界各地にあります。日本でも、熊野古道や四国お遍路をはじめ各地の札所巡りなど、巡礼の歩き旅が、根強い人気です。

 また、江戸時代に確立された、日本人の歩き旅の文化、つまり「東海道五十三次」や「奥の細道」に代表されるような、何日も歩き続ける旅が、日本人のDNAには刻まれているのかもしれません。

 こうした巡礼の古道や、古い街道などは、実際に、今のロングトトレイルのコースに取り込まれています。

 先人の歩いた道をたどりながら、「ノマド生活」の時間を送ることは、その人の人生のなかで、とても意味のある時間になるはずです。

ロングトレイルは地方活性化の起爆剤にも

 ロングトレイルのコース作りは、環境省や地方自治体を中心に積極的に進められています。日本を再発見し、自分を再発見する道の整備が、国民・市民の生活を豊かにするものとして、公共性が高いと考えられているのです。

 また、ロングトレイルが地方活性化の起爆剤になることも期待されています。

 ロングトレイルが盛んなアメリカでは、地元のひとたちが旅人たちにさりげなく差し入れをしたり何かのときはサポートする「トレイルエンジェル」という習慣が根付いています。

 旅人へのちょっとした善意は、最終的には、地域に人を集め、田舎が活性化するかたちで、自分のところへ帰ってくるようです。

 ロングトレイルは、コースがある地域の人たちにとっても、メリットが大きいわけです。

 日本のロングトレイルは、環境省(当時厚生省)が1970年代から整備をはじめていた「東海自然歩道」などをはじめとする、全国8ブロックに作られた(一部は現在も整備中)自然歩道が有名です。環境省が整備する自然歩道の総延長は2万7千kmにおよんでします。

 ほかにも、最近では「日本ロングトレイル協会」などの団体によって整備されているロングトレイルも人気です。

 代表的な71.4kmの北根室ランチウェイ、131kmの国東半島峯道ロングトレイル、80kmの信越トレイルなど、牧場を通る里山の道、巡礼の道、峠道などバラエティに富んだ全国18箇所のロングトレイルが整備されています(一部整備中)。

 そのほかにも、各自治体などが、ロングトレイルの整備を着々と進めています。

 歩く旅を楽しむ人が増え、それをサポートする地域が活性化して、ロングトレイルの文化が、日本でも盛り上がってくるきざしが、見えはじめているのです。

ロングトレイルの特徴と魅力

・何日もかけて歩き続けられる旅

・大自然のなかはもちろん、里山や歴史のある街道など、自然と人に出会う歩き旅

・がっつり歩くスルーハイク、気軽に歩くセクションハイクと、目的やスタンスによっていろいろなアプローチができる

・スルーハイクは数十キロから時に1000kを超えるコースを踏破する。テントや山小屋などで宿泊。

・セクションハイクは地元の温泉宿なども利用してロングトレイルの一部を気軽に利用

・日本のロングトレイル・・・環境省の自然歩道、「日本ロングトレイル協会」による全国18のコースなど、

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・海外のロングトレイル・・・映画でも有名なアメリカのアパラチンアン・ロングトレイル、パシフィック・クレスト・トレイルをはじめ、世界各地に。ニュージーランド、ヨーロッパ各地のロングトレイルが人気

・ロングトレイルをサポートする「トレイルエンジェル」が地方活性化もつながる

ロングトレイルの装備の基本

装備を減らすことそのものが、ロングトレイルの楽しみ

 ロングトレイルを歩くには、基本的には登山やトレキングのスタイルになりますが、ポイントは、とにかく装備を軽くすること

 何日にも渡って歩くには、少しでも負担がないように、なおかつ、ノマド生活が最低限可能となるように、装備を絞り込むことが、「最重要テクニック」ともいえます。できるだけ軽くすることは「ウルトラ・ライト・スタイル」呼ばれます。

  どういうふうに「ウルトラライト」には、とくに決まったセオリーがあるわけではありません。必要な道具や快適なノマド空間の基準は人それぞれですので、ロングトレイルの装備もひとそれぞれで、その人の個性をあらわすものになります。

 失敗をしながら、経験をつみ、仲間と情報を交換し、コツコツと自分なりのロングトレイル・スタイルを作り上げていきます。経験や知恵をフル動員して、装備をシンプルにしていくことそのもが、ロングトレイルの楽しみのひとつにもなっているわけですね。

 また、ロングトレイルは、登山の縦走のように深山に入るわけではないので、街を上手く利用して、いざとなればエスケープするこで装備を軽くすことができます。

 ガチでサバイバルライルにこだわるのではなく、郵便局局留や街のお店など便利な仕組み利用しながら、物資の補給や荷物の交換を合理的におこない、快適に歩き旅を楽しむのがロングトレイルなのです。

▲とにかく装備を軽くすることも、ロングトレイルの楽しみのひとつ。

ロングトレイルならではの装備ポイント〜具体例

 では、次に、軽い装備を目指すロングトレイルならではの、装備のポイントをみてみましょう。数あるアウトドアギアのなかでも、ロングトレイルの場合は、次のようなポイントにこだわることが多いですね。

 あくまでコース次第ですが、「軽い装備」をめざす具体例をみてみましょう。

ロングトレイルで装備を軽くする工夫

シューズ…低山のコースであれば、シューズばローカットのトレイルランシューズなどでも十分だし、軽いぶん疲れも少ない。しかし、歩き慣れない初心者はまずハイカット・ミドルカットの方が足への負担が減る。

テント…テントは軽めのものかタープで。ロングトレイルは低山が多いので、タープ+シュラフ+モスキートネットの組み合わせでも宿泊が可能。天候が悪化の場合は無理をせずエスケープする。

食料…軽量でかさばらないフリーズドライを中心に、エネルギーバーでカロリーを補給。コース中の里山などを利用して、地元での調達。また、中継地の郵便局局留や宿に補給物資を送っておくこと補給や交換をして、軽量の旅を続ける。(ロングトレイルの食料についてはアルファ米とフリーズドライ米の記事も参照ください。)

燃料…夕食には必ず暖かい食事をしっかりとるのが歩き続けるための基本。クッカー(調理器具)は、火力の安定した定番のバーナーとガスカートリッジが良い。一泊などのセクションハイクの場合は、簡易なアルコール燃料・固形燃料などでも可。

下着…アウトドア用の下着やベースレイヤーを使用。多少高価だが、アウトドア用品は吸汗・速乾・消臭機能が高いため、着替えが一組あれば、何連泊でも可能になる。

インナーウェア…重ね着が基本となるので、長袖Tシャツやフリースなど昼夜の気温差を考慮して準備する。素材は、夏はポリエステル、晩秋〜冬〜早春にはメリノウールがよい。街着の「アウトドア風」の服ではなく、きちんと機能を考えられた服を選ぶこと。

アウターウェア…ハードシェルかレインウェアの上下、宿泊時の防寒着は、シーズンによっては必携だが、コースやシーズンによってはよりライトなものでも可能。コースの気温などの情報収集をしっかりすることで必要最小限の荷物にしぼりこめる

ロングトレイルのウェアについては⇒マウンテンパーカーの選び方
⇒防寒着の選び方に一通り目を通しておくことをおすすめします)

 このように装備をできるだけ絞り込んでいく「ウルトラライト・スタイル」が、ロングトレイルを楽しむコツのひとつといえます。

 ただし、コースによっては、高山を通るものもありますし、夏でも急な天候変化による低温など、遭難する危険がないとは言えません。早春や秋には、それなりの防寒対策や場合によっては雪対策が必要な場合もあります。 

 ロングトレイルは登山の縦走より気軽とはいえ、自然相手である以上、けっして侮ってはいけません。

 登山保険に入ることも含めて、装備についても安全管理をしっかりとおこなっていきましょう。

ロングトレイルこんな時どうする?

 ロングトレイルの旅に出ると、日常では何気なくこなしていることが簡単にできずに、一大イベントになったりします。

 その不便さをも楽しむのが旅の魅力ですが、ある程度備えが必要なものもあります。

 そうしたロングトレイル・ハックを簡単にみてみましょう。

ロングトレイルこんな時どうする?

トイレ…近年の本格登山コースでは環境保護のめんから有料トイレが整備されていることが多いが、ロングトレイルの低山を歩くコースでは、どちらかといえばトイレ事情はあまり良くないことも。コースガイドでトイレの位置を事前にチェックしてのがベター。また、野外での用足しも視野に入れて小さな穴を掘るスコップなどを用意しておくのも。もちろん紙は持ち帰り。携帯トイレは使用後の持ち運びが問題になるが、安心のためにもっておくと良い。

お風呂…コース途中に温泉や宿を取り入れて入浴。それ以外では、体をタオルで拭く程度で。必要最小限の枚数のタオルを使いこなす、「タオル使い」がポイントで、このあたりは経験と慣れ。吸水・速乾性の登山用タオルで効率良く。

…もっとも必要にして、重量がもっとも重いもの。とくに夏場は熱中症対策のためにケチらず半日で2リットルを携行することを目安に。コースガイドの水場をきちんとチェックして、効率良く吸水することが重要。近年は温暖化の影響で山の動物が増えていることもあり、特に低山のコースでは、湧き水や沢水を生で飲むのは危険と考えたほうがよい。飲み水とは別に、野営地で調理用の水を入れる折りたたみのフィルム水筒があると何かと便利。浄水器も便利。

危険生物…温暖化の影響で増える山の動物たち。自然が戻っている!ということで嬉しいことだが、ロングトレイル中に遭遇することはもちろん想定しておくように。クマに対してはクマ鈴は必携。山ヒルを落とすためのライターも不可欠。ヒル・ハチ・ブヨなどの毒虫に刺された場合、被害を軽減してくれる「@ポイズンリムーバー」も、できれば装備のなかに加えておきたいところ。

 

 

 以上、ロングトレイルの楽しみ方や装備のポイントについて、かいつまんで紹介しました。

 ロングトレイルとはどういったものか、具体的なイメージがついたと思います。

 新しい世界と新しい自分を再発見するために、ロングトレイルを歩く旅に出てみませんか?

 なお、ロングトレイルのコースについては、→「日本や海外のロングトレイルの代表的なコース」の記事を参照してください。

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