ロングトレイルのコース。アメリカ、日本、世界の代表的トレイル。

      2017/11/21

ロングトレイル

 最小限の道具と食料をバックパックに詰めて、ひたらすら何日も歩き続ける究極の旅、それがロングトレイルです。

 アメリカをはじめとする海外の本格的なロングトレイルを一度は歩いてみたいと夢見るハイカーも多いですが、日本でも数日間のスルーハイクを体験できるコースが整備されてきました。

 この記事では、海外と日本のロングトレイルの違いなどをみながら、代表的なコースを紹介していきます。

 なお、ロングトレイルの基礎知識や装備については→「ロングトレイルの魅力と装備」の記事をご覧ください。

アメリカ、日本、海外のロングトレイルの違いと特徴

 ロングトレイルといえば、アメリカのパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)やアパラチアン・トレイル(AT)が代表的なもので、数ヶ月以上をかけて歩き続ける旅をするルートです。厳しい大自然のなかで、自分の限界に挑戦し、自分と出会うための、かなりハードな旅です。

 日本でも近年、ロングトレイルが整備されてきましたが、アメリカのロングトレイルトとは、だいぶ性質が異なります。日本では、数日間のテント連泊ができるルートはごくわずかです。原則、日本では、テント泊が自由にできないため、一旦ルートを離れて宿に泊まったり、何回かに分けてルートを踏破する「セクションハイク」が主流になっています。

 アメリカのロングトレイルはあまりにも壮大すぎて、気軽に挑戦できるものではありませんが、日本のロングトレイルは、ロングとはいえ最長3泊程度で標高の低いところを歩くので、比較的気軽に歩けます。また、標高の高い山ではなく、里山や農村地帯、歴史的な古道を進むルートなどもありバラエティに富んでいます。

 自然を満喫する目的のロングトレイルであれば、ニュージーランドやラップランドがおすすめです。手付かずの自然、いわゆる「ウィルダネス」のなかを、安心安全に歩けるとして、近年、人気が急上昇しています。

世界のロングトレイルの特徴

・アメリカのロングトレイル…数ヶ月〜半年かけてアメリカを縦断するワイルドでハードな旅が魅力

・日本のロングトレイル…里山や1000mレベルの尾根を数日かけて歩くルートが、各地で整備されている。テント泊がなかなか自由にできないなのが難点。

・海外のロングトレイル…ニュージーランドや北欧など手付かずの自然=ウィルダネスに抱かれるルートが人気。

 では、以下に、アメリカ、日本、その他海外のロングトレイルの特徴と、代表的なコースを紹介していきたいと思います。

アメリカのロングトレイル

 ロングトレイルといえば、アメリカを縦断するパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)アパラチアン・トレイル(AT)が、世界的に最も有名です。

 長距離自然歩道(ナショナル・シーニック・トレイル)としてアメリカには8つのロングトレイルが整備されていますが、なかでも、アメリカ西部をメキシコ国境からカナダまでを結ぶ4000キロメートルのパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)は、世界最長の一本のつながったハイキングルートで、歴史も古く、ロングトレイルの代名詞とも言えるものです。

 この道を歩き通した女性シェリル・ストレイドの実録を原作にした映画「わたしに出会うまでの1600km」(2014年)が世界的にヒットして、ロングトレイルの存在が多くの人に知られるようになりました。

 また、米国東部のアパラチアン・トレイル(3,500km)は、アメリカ最古のロングトレイルで、映画「ロングトレイル」でも描かれ、世界中からハイカーが集まっています。

 これらアメリカのロングトレイルを踏破するには4カ月〜6カ月がかかります。

 半年間ただ歩き続ける日々。現代社会でそんな時間を過ごすことは、だれもができることではありません。それだけの休みを取れる人は社会人ではほとんどいません。アメリカのロングトレイルに挑戦することは、「会社を辞めてでも挑戦する」という、かなり「大それた計画」なものです。

 アメリカのロングトレイルを歩く人は、ある意味、現代社会の本流に反して、特別な人生を歩む人だ、とさえ言われています。保守的な仕組みや考え方にアンチテーゼをかかげ、つねに自由を求めるカウンターカルチャーの流れを汲んでいるのが、アメリカのロングトレイル文化なのです。

 また、ロングトレイルと「禅」の共通点を指摘する人も少なくありません。歩き続けることは、まるで禅の修行のように、自分と向き合うことでもあります。

 さらに、「トレイルトラッシュ」とは、ゴミのようにボロボロになった、スルーハイカー(踏破を目指す人)のことをあらわす形容詞ですが、これは、ハイカーにとっては賛辞です。つまり、アメリカのロングトレイルを歩くことは、日常社会から逸脱することが良いとする価値観を求めることでもあるのです。

 とは言え、ロングトレイルの走破が可能なのは、ハイカーひとりの力だけではありません。多くの人の支えや、その後ろに社会の営みがあってこそです。ロングトレイルを何カ月もかけて歩くには、ハイカー同志の助け合いはもちろん、ハイカーに差し入れをしたりさまざまなサポートをしてくれる地元の人たちや、ロングトレイル踏破の経験があるOBやOGたち、すなわち「トレイルエンジェル」の存在が欠かせません。

 このように、アメリカのロングトレイルは、ただの自然遊歩道ではなく、ハイカーの生き様が込められた「文化」なのです。

 もちろん、ロングトレイルの目的は、走破することだけではありません。自分の体力や時間にあわせたセクションハイクを計画すれば、アメリカのロングトレイルも、もっと身近なものになります。最低限のルールさえ守れば、テント泊も自由だし、テント無しで満天の空を見上げながら寝る「カーボーイキャンプ」など、日本では味わうことのできない旅を満喫することができます。

パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)
総延長:3,498km、標高差:2,000m、最高地点:2,025m、踏破日数:4ヶ月〜6カ月、時期:4月〜10月
 メキシコ国境から、カリフオルニア、オレゴン、ワシントンの4つの州を縦断しカナダへとつづく、歩行者と馬専用のロングトレイル。南カルフォルニアの砂漠地帯からシエラネバタ山脈の高山地帯まで、多彩な環境。難易度は高いコース。毎年1,000人以上がスルーハイクに挑戦し、約半数が完走しているという。日本人も毎年数名がトライしている模様。トレイルの走破には事前の許可が必要。環境の面かから焚き火は石組みのファイアーリングがあるところに限られる(新たにファイアーリングを作ってはだめ)また、熊対策として、食料を臭いがもれないようベアキャニスターという密封容器に入れて持ち運ぶことも義務づけられている。
ジョン・ミューア・トレイル(JMT)
総延長:340km、標高差:m、最高地点:4,418m、踏破日数:20日前後
 ヨセミテ渓谷から米最高峰ホイットニー山までのロングトレイル。ホイットニー山のアタックルートを除いた部分は、PCTとかぶっている。PCTにくらべて距離が短いため、まずこのJMTに挑戦する人も多い。
アパラチ・アントレイル(AT)
総延長:3,500km、標高差:m、最高地点: 2,025m、踏破日数:3〜6カ月、時期:4月〜10月
 アメリカ東部アパラチア山脈に沿って14の州を縦断するロングトレイル。PCTに比べて、雨が多い気候だが、砂漠や高山がないため比較的取り組みやすいといわれている。そのため、毎年およそ2,000人が踏破に挑戦しているが、完歩する人は10%とPCTよりも少ない模様。

日本のロングトレイル

 日本のロングトレイルといえば、環境省が整備する全国10ブロックの「長距離自然歩道」が、最も歴史があります。「自然歩道」の一部とは気づかずに、トレッキングやハイキングのルートとして歩いていたことがある人も、実は多いでしょう。

 全国に張り巡らせた長距離自然歩道の総延長は27万km。1970年代より「東海自然歩道」の整備が開始され、震災後に復興事業のひとつとして整備が進められている「東北太平洋岸自然歩道」まで、バラエティに富んだ路程が楽しめます。

 ただ、長距離自然歩道は、泊りがけで何日も歩き通す「スルーハイク」というようりは、「セクションハイク」で、ブロックごとに歩き、何年もかけて制覇するという楽しみ方をしている人がほとんどです。

 スルーハイクを前提とした宿泊地の設定がなされておらず、県によってはキャンプ禁止のところもあるので、どうしても、一旦、ロングトレイルの旅から、エスケープしなければなりません。

 また、一部、維持管理が追いつかずに荒れ果てて消滅しかかっているルートがあったり、野営もできず、そのくせ交通機関が無くエスケープもできない箇所もあるため、スルーハイクで歩き通すロングトレイルとしては、いまいち使い勝手が悪い、という感じなのです。

 このように、長距離自然歩道が、どちらかというとスルーハイク向けではないことから、近年、自然歩道とは別に、テント泊で連泊するスルーハイクを前提としたロングトレイルが少しずつ整備されつつあります。

 以下に代表的なロングトレイルコースをみてみましょう。

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テント泊でスルーハイクができる日本のロングトレイル

信越トレイル
総延長:80km、標高差:471m、最高地点: 1,000m、踏破日数:4泊5日、時期:6月下旬〜10月下旬
 全泊テントで4泊5日の歩き旅が満喫できる日本を代表するロングトレイル。新潟県妙高市と長野県の野沢温泉村にはさまれた、千曲川沿いの関田山脈にある。美しいブナ林がつづく尾根と里山の農村をつなぐルートは、新緑の6月や紅葉の10月がベストシーズン。1382m斑尾山、黒倉山1242m、1129m菱ケ岳など1000メートル級の山を結ぶルートは、本格登山ほどの重装備は必要なく、かつ、大自然にどっぷりとつかれる、まさに理想的なロングトレイルです。

北根室ランチウェイ
総延長:71km、標高差:730m、最高地点:約800m、踏破日数:2泊3日、時期:周年(冬はスノーシューツアー)
 摩周湖外輪山と根室の広大な牧場地帯を通る、北海道ならではの光景を満喫できるロングトレイル。なかでも牧場のなかを通れるのは魅力的で、サイロや牛舎、マンパス(牧柵をくぐりぬける戸)など牧場施設を間近で体験でき、山歩きとは違った楽しみ方ができる。宿泊ポイントとなる佐伯農場の牧草トレイラーを改造したバンガローも楽しみのひとつ。宿泊は、バンガロー・山小屋泊となるのでシュラフのみでOK。逆にキャンプ泊は、開陽台キャンプ場があるのみで、位置的にスルーハイクの宿泊ポイントに組み込むには工夫が必要。
高島トレイル
総延長:80km、標高差:600m、最高地点:約959m、踏破日数:4泊5日、時期:周年(冬はスノーシューツアー)
 琵琶湖と福井県若狭湾の間に位置する中央分水嶺(太平洋側・日本海側の両方の水源を持つ山のこと)を踏破するルート。1000m未満の山が連なる尾根のコースで、昔から利用されていたいくつもの峠をつないでいく。ブナの原生林や雲海が魅力で、また早春の座禅草、初夏のカキツバタ、エドヒガン、タムシバ、シャクナゲなど山野草の花が楽しみめるもの特徴的。低山だが、案外アップダウンがきつく、どちらかという健脚向き。途中、林道脇などにテント可能ゾーンが設けられているため、全泊テント泊できる数少ないロングトレイルのひとつ。水場が少ないのが難点で、浄水器は必携。
八ヶ岳スーパートレイル・霧ヶ峰〜美ヶ原トレイル
総延長:240km、標高差:471m、最高地点:約1500m、踏破日数:7泊8日、時期:4月〜11月
 八ヶ岳を7泊かけて一周する240kmのロングトレイルで、テント連泊でスルーハイクできるルートとしては、今のところ日本最長のルート。コースの一部である霧ヶ峰〜美ヶ原トレイルは、日本とは思えない高原風景が人気。ただし、南側の清里、野辺山周辺は、舗装道路を歩く距離も長い。

その他の日本のロングトレイル

セクションハイク向けの日本のロングトレイル
東海自然歩道…1697km
みちのく潮風トレイル…700km
塩の道トレイル…120km
山陰海岸ジオパークトレイル…40km
国東半島峯道ロングトレイル…131km
南房総ロングトレイル…65km
大阪ダイアモンドトレイル…45km
整備中の日本のロングトレイル
浅間八ヶ岳パノラマトレイル…116km(整備中)
浅間ロングトレイル…80km(整備中)
南アルプスフロントトレイル…70km(整備中)
ぐんま県境稜線トレイル…100km(整備中)

世界各地のロングトレイル

 海外のロングトレイルのなかで、人気が高いのは、ニュージーランドラップランドのロングトレイルです。いわゆる「ウィルダネス」と呼ばれる、手着かずの自然のなかにどっぷりと身をおきつつ、なおかつ、トレイルをさりげなくサポートする仕組みが充実していて、快適なロングトレイルの旅が満喫できると言います。

 とくに環境先進国であるニュージランドのロングトレイルは環境保護のめんからしっかりとしたルールが作られているのが特徴で、なおかつベースになる街からトレイルヘッドへのアクセスも良く、歩き旅を楽しむ環境が整っています。一方、ラップランドでは、テント泊に規制がなく水場も豊富で危険な動物もほとんどいないという、天国のようなトレイルです。

 海外の代表的なロングトレイルをみてみましょう。

ニュージーランドのロングトレイル
ミルフォード・トラック…美しい湖と滝、雪を頂いた山を眺めながら渓谷を進む「世界一美しい遊歩道」と称されるロングトレイル。約50kmを2泊3日でスルーハイクできる
ルートバーン・トラック…美しいフイョルドランド国立公園内のルート。緯度が高いため標高が低くても森林限界となっていて、フィヨルドの渓谷を見下ろしながら歩く開放的な景観が続く道。32kmと短めだが、2泊3日で満喫するのがおすすめ。
エイベル・タズマン・トラック…手付かずの自然が残る海岸線にそって歩くロングトレイル。ほとんどすべての海岸線を開発してしまった日本では味わえない海辺のウィルダネスを体験できる。
テ・アラロア…3000kmのニュージーランドを北島・南島あわせて縦断するロングトレイル。80日〜120日かかる。

ラップランドのロングトレイル
クングスレーデン…ラップランドは、スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・ロシアにまたがる北極圏に近い地域。クングスレーデンはスウェーデンを中心にした450kmのコースで「王様の散歩道」とも呼ばれる。白夜と氷河に見守られながら北極圏のウィルダネスを歩く旅。テント泊に規制がなく、沢の水は飲料可能なので、完全に自由で、それでいて安心安全な旅ができる。
フェールラーベンクラシック…クングスレーデンの一部110kmのコースを使って、毎年8月におこなわれるトレッキングレース。
ノルドカロット・レーデン(北極圏トレイル)…ノールゥエイ・フィンランド・スェーデンの3カ国故郷地帯を縫うように走る800kmのロングトレイル。
その他の海外のロングトレイル
サンティアゴ・デ・コンポステーラ…800km フランスからピレネー山脈を超えスペインのキリスト教聖地を至る巡礼のロングトレイル。
ザンスカール・トレイル…148㎞kmヒマラヤ山脈のふもとインドのカシミール地方の3000mの高山地帯の川沿いの断崖をすすむルート
パブリック・フットパス…イギリスの農村地帯にある公共の遊歩道。農地など私有地のなかを通行できるようになっていて、自由に田舎歩きを楽しめる。
ウェストハイランドウェイ…154kmスコットランド山岳地帯を歩くルート。

 

 

 以上、アメリカ、日本、そして海外のロングトレイルの代表的なコースを紹介してきました。

 ロングトレイルを歩くことは、人生にとって、とても大きな意味をもつはず。

 ぜひ、じっくりと計画をたてて、ロングトレイルを歩く夢を、実現させていきたいものですね。

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