避難はしご(避難ハッチ)と避難階段。使い分けるポイントは?
2019/07/19
マンションの避難といえば、まず思いつくのが、バルコニーにある避難ハッチではないでしょうか? ハッチの中には折りたたまれた避難はしごが収納されていて、火災や地震の時は、避難の手段となります。
しかし、あくまで避難のメインとなるのは避難階段の方で、原則、そちらの方が安全に素早く避難できます。つまり、避難ハシゴは、他の退路が断たれた場合の予備的な手段です。
避難ハッチ(避難はしご)の役割や、避難階段との使い分け方について整理しておくことは、災害時に、混乱せず安全に避難するために、たいせつな基本となります。
この記事では、火災や地震でマンションや高層ビルから安全に避難するために、ぜひ備えておきたいこと、気を付けたいことについて、述べていきます。また、一戸建てやアパートの2階の避難対策についても、ふれています。
避難ハッチ(避難はしご)は、ほんとうに実用的なのか?
どこか違和感のある避難ハッチの設置状況
ベランダの避難ハッチ(はしご)は、避難器具です。避難器具は、消防法で規格などが定められていて、定期検査の対象となるものです。
ベランダの避難ハッチは、マンションであれば、たいてい設置されています。ただ、すべての部屋に設置されているのではなく、避難ハッチがある部屋と無い部屋があります。
非常の際は、ベランダの仕切りを足で蹴っ飛ばして破り、非常ハッチがあるベランダまで移動し、ハッチの中に折りたたまれた梯子を階下のベランダに伸ばし、降りて避難する仕組みです。
高級マンションでは、各部屋ごとに、避難ハッチが付けられていることもあるでしょう。しかし、多くは、他人のバルコニーを突き破っていかないと、避難はしごが利用できないパターンになっています。
ベランダはプライベート空間ではない?
避難はしごをシェアしているのは、避難はしごを全戸につける経費を削減するためです。
マンションのベランダは、事実上、プライベート空間です。いくら災害時とはいえ他人のベランダにずけずけ入って行ってもよいのでしょうか? 災害後になんかトラブルの元になりそうで、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)してしまいますよね。
しかし、実は、マンションのベランダはプライベートな占有空間ではないのです。
「マンション管理適正化法」にもとづく標準管理規約のなかで「ベランダは占有使用権が認められた共用部分」と定められています。
つまりほんらいは、廊下など同じ共有部分だけど、とりあえずプライベート空間的に占有してもよい、ということです。
なので、非常時に避難はしごへの通路として、他人の部屋のベランダを通過することは、法的になんら問題ありません。ベランダは他人の家だから、という遠慮は、実はいらないのです。
逆に、ベランダは通路としていつでも通れるようにしておかなければなりません。
避難はしごを降ろすのに邪魔になる位置にものを置いたり、隣とのパーテーションをふさいだり、避難の妨げになるような物の置き方は法的にもNGということになります。
このように、ベランダは共用部分であり、いざという時は避難通路になる、というのがマンションでの決まりなのです。
避難ハッチ(避難はしご)は、案外ハードルが高い避難ルート
しかし、そうは言っても、現実的には、ベランダはプライベート空間として使うのがふつうだと思います。
ですので、いくら緊急時とは言え、避難ハッチを利用するのは、気後れしてしまう可能性が高いです。そうした気の迷いは、スピディーな避難の妨げとなります。
また、避難はしごを降りるのは、案外、怖いことです。ベランダとはいえ、建物の外にあるはしごです。子供や老人などが、建物の外部にあるはしごを、スムーズに降りれるとは思えません。健康な大人でも、3階くらいならまだしも、10階とか高い階では、怖くてまともに降りられないでしょう。風が吹いていれば、ゆらされて、いっそう足がすくんでしまうでしょう。
このように、ベランダの避難ハッチを使った避難経路は、とてもハードルが高い、と言わざるをえません。
ベランダと避難ハッチ(避難はしご)は、消防法で定められた立派な避難経路なのですが、非常時にすんなり利用するのは、決して簡単ではないのです。
ですから、あくまで、最後の手段として、まずは、避難階段から逃げることを第一に考えて行動するべきなのです。
平時には「厄介者」扱いされる避難ハッチ
マンションを買う時のコツとして、「避難ハッチがある部屋は選ばない方が良い」と、よく言われます。
ほんらい、避難ハッチが自分の家のベランダに付いているのは、良いことです。他人の家のベランダを通らなくても下階までは速やかに避難できるので、非常時には、とても安心で心強いはずです。
しかし、平時はどちらかというと「やっかいもの」扱いされています。
・ハッチの周囲に物が置けない
・上階のハッチの下にも物が置けないため、ベランダの利用が著しく制限される。
・ハッチに乗ると、音が響くので気を遣う。上階のハッチの音がうるさい。
・上階のハッチから雨漏り・水漏りする。
・年に1〜2回、法定点検があるため、点検業者をプライベートの部屋内に入れなければならない。
・防犯上の不安。ベランダ伝いに外から侵入できる。
……いざという時に役に立つことはわかっていても、通常時は上記のようなデメリットばかり感じてしまうのも、仕方がないことだと思います。
避難はしごを訓練で使ったことある?
そんなマイナス・イメージを払拭するためには、実際に使ってみることだと思います。マンションの避難訓練で、実際に避難ハッチ内のはしごを伸ばし、避難体験を実施している場合もあります。
ただし、避難はしごを使った避難訓練が行われるのは、決して多くはありません。よっぽど団結力があり仲の良い管理組合でない限り、避難はしごの実施訓練は行われませんし、また、たとえ実施されても参加しない人も多いでしょう。
そもそも、隣や上下の部屋にどんな住人が住んでいるか知らない……。とくに賃貸マンションなら、隣人と親密な関係を結ばないほうが、がふつうかもしれません。
防災マニュアルには、必ず、「いざという時のために隣近所とのコミュニケーションをとりましょう」と、ありますが、ワンルームの多い一人暮らし向けの賃貸マンションなどでは、まず、あり得ないことだと思います。
「隣が誰かわからない」都会の集合住宅は、どちらかといえば、不特定多数の人との人付き合いを避けることを好む人が、住んでいます。
いくら非常時だからといえ、震災や火災の時でも、隣や上下の住人と協力しながら、ハッチやはしごで避難する、というのが、やはりどうしても現実味が感じられないでしょう。
もちろん、避難ハッチとはしごで助かる命も現実に沢山ありますが、来るべき首都直下地震や、南海トラフ地震で、避難ハッチを、ほんとうに有効にフル活用できるかどうか?微妙な部分なのです。
避難ハッチと避難階段の使い分け
二方向避難の原則
ここまで見てきたように、実際の使用を考えると、なかなか難しいめんがありそうな避難はしごなのですが、どうして、多くのマンションでは、スタンダードな設備として設置されているのでしょうか?
その理由は、実は、避難階段との関係でそうなっています。
そもそも、避難のための設備については、消防法と建築基準法で定められています。
たとえば、ひとつの階に10人以上居住しているマンションや、一定規模以上の商業施設では、「避難階段を2つ作る」と定められています。
これは、避難経路を設計する時の原則である「二方向避難」によるものです。
片方の避難路が火の手や煙にまかれても、もうひとつ別な避難路から逃げられるようにすることが、原則として定めれているのです。
避難階段は、直通階段とも言われて、そのまま建物の外に逃げられる階(=「避難階」という。通常は1階)に、直結しています。
避難階段は建物外までスムースに避難できるよう、避難階まで一気に降りられる直通階段としているのです。
避難階段の種類
外階段
避難階段で、もっともポピュラーなのは屋外の避難階段です。屋外階段は、非常口と書かれた扉の外に設置されています。
屋外非常口は防犯上の理由から施錠されていることもありますが、必ず中からキーをもっていなくてもロック解除ができるようになっています。
また、平時のいたずら防止や鍵の掛け忘れを予防するために、ドアノブにカバーをかけたものもあります。このカバーは簡単に外せますので、非常時は迷わず非常口の扉をあけ、外階段から避難するようにしましょう。
屋内の避難階段
避難階段が屋内にある場合は、外階段に比べて、厳しい防火基準が求めれます。
通常、ビルの階段は「竪穴防火区画」として指定され、火災時には、階段と廊下が防火戸や防火シャッターで遮断される仕組みになっています。階段が煙突の役割を果たし、火や煙の通り道となって延焼(えんしょう)してしまうことを防ぐためです。(防火区画や延焼防止について詳しくは⇒「防火シャッター(防火戸)の基礎知識」の記事を参照してください)
屋内避難階段は、通常の階段の防火性をさらに高めたもので、予備電源による照明を義務づけたり、窓は「はめ殺し」の窓で、炎や煙の延焼を防ぐ構造を強化しています。
特別避難階段
15階以上では、特別避難階段という、より防火性を高めた避難階段の設置が義務づけられています。
特別避難階段は、廊下から階段へつながる部分に、付室(またはバルコニー)が備えつけられていて、煙や火の手が非常階段内に直接侵入することを、厳重に防いでいます。
付室には排煙装置も付けられているので、滅多なことでは、階段室に煙や炎が入らないような、二重バリア構造になっているのです。
避難ハッチは避難階段の代替品?
消防法で定める避難路確保のルールでは、防火性を厳重に高めた避難階段を、別方向に二つ用意しておく……それが、ワンフロア10人以上の居住の規模がある建物では、必須となっています。
でも、実際には、よっぽどの大型の建物でない限り、避難階段がふたつあることは、まれです。
建築のコストやスペースの問題もあるので、避難階段をふたつ作るというのは、なかなか簡単ではありません。
そこで、別の防火対策をすれば、避難階段は1箇所でも良い、と次善策が用意されています。
避難階段の数をひとつにできる次善策としては、
・避難はしご、避難シューター(救助袋)、緩降機などの避難器具を用意する
・スプリンクラーの設置
・部屋の防火性を高める
・防火区画をより細かく設定する
……などがあります。
こうした別の防火対策を組み合わせることで、ほんらいは二つあるべき避難階段を、ひとつに省略しています。
ベランダを利用した避難ハッチも、避難階段を一つに省略するために設置されている場合が多いのです。
極端な見方をすれあ、ベランダの避難ハッチは、実際の避難のことよりも、消防法の審査を通すにはどうしたらよいか?を基準に設計・施工されているめんがあるのではないか?ということです。
ベランダから積極的に避難させようということでなく、避難階段をひとつ省略するための、代替案として、とりあえず避難ハッチを設置しておく……だから、各部屋ではなく、ワンフロアに一か所で、現実には使いにくいかたちで、避難ハッチが設置されているのです。
他人のベランダを通ってしか使えない避難ハッチは、避難のことを第一に考えるよりも、コストを最小限におさえて消防法をクリアするために付けた、と言えるわけです。
理想のベランダ避難の方法とは?
ほんらい、ベランダからの避難路を、避難階段の代替として用意するのであれば、まず最低限、各戸のベランダに避難ハッチを設置するべきでしょう。
そして、ハッチの中身は、はしごではなく、救助袋タイプのものを用いるべきです。3階くらいまでならなんとかハシゴが使えても、それ以上の階になると、ふつうのハシゴは、恐怖で使えない人も少なくないからです。
救助袋は、避難階段に替わる避難器具のひとつです。布製の筒のなかを、滑り降りるもので、ベランダがないところでも、たとえば3階の窓から一階まで、一気に直通で降りるタイプのものが多いです。
しかし直通型の救助袋は、スピードも出るため、怪我などの心配もあり、これもなかなかハードな避難器具となっています。
そこで、避難ハッチのように、ベランダからベランダへ各階ごとに救助袋を設置すれば、避難はしごのように恐怖心もなく、最もスムーズに避難できるようになるでしょう。
子供や高齢者などが、みな安全に避難できるとしたら、「ベランダの避難ハッチに避難はしご、でははなく「救助袋を設置する」、この方法しかないはずです。
こうして考えてみると、「ワンフロアに一か所だかけ避難はしごを付け、いざという時は、ベランダの壁を突き破って逃げてください」という、現状スタンダードな避難ハッチの設計は、あまりにもおざなりで、やっつけ仕事感がぬぐえません。
ベランダからの避難ルートは、より確実に避難できるように、改善が必要でしょう。
玄関から安全に避難するため、知っておきたいこと
玄関のドアは耐震枠にすべき!
消防法の規定では、2方向の避難階段を用意するのが原則です。このことから、廊下側に避難階段がふたつあれば、ベランダの避難ハッチは無くても良いわけです。
実際に、避難階段がふたつあり、ベランダのハッチが無い設計のマンションもあります。
このような構造の場合、もし玄関のドアが開かなくなったらどうする?という心配が出てくると思います。
とくに地震では、ドアがゆがんでしまい、ドアが開かない現象が頻発します。
実は、地震でドアが開かなくなることは、かなりの高確率で起こることが、阪神淡路や熊本地震の結果からわかっています。
そこで最近は、「耐震枠」を使った地震に強いドアを使うようになってきています。
耐震枠はドアと枠の間に隙間をもたせて、建物がゆがんでも、ドアが開かなくならないようにしているものです。
マンションを購入したり賃貸する場合は、玄関扉に耐震性があるかどうか? を確認するのが防災上、かなり重要なポイントです。
耐震枠はあとからリフォームでも取り付けられます。持ち家マンションの人は、管理組合とも相談しながら、耐震枠のものへとリフォームしていった方が良いでしょう。
ベランダに避難ハッチがあるマンションでも、原則的には、玄関〜避難階段のルートが、メインの避難路です。廊下から避難できる状況なのに、玄関のドアが開かなかったために、避難ハッチを利用せざるをえない状況は、できれば避けたいものです。
とくに、3階以上になってくると、避難はしごを使うリスクが高まってきます。ぜひとも、玄関の耐震性を強化して、地震で玄関扉が開かなくならないよう、対策をしておきましょう。
玄関ドアが開かない時のために、備えておきたい道具は?
また、地震での玄関扉の閉じ込め防止としては、中型〜大型のハンマーを用意しておくのがおすすめです。
よく防災対策で閉じ込め対策にバールを用意しておいた方がよい、というのがあります。が、実は、マンションではバールよりも、ハンマーを用意するべきです。
というのも、マンションの玄関は、家の中から外に開きく、「外開き」になっています。ですから、閉じ込められた場合は、バールでこじ開けるのではなく、中から外に向けてハンマーで叩かないと、開けることができないからです。
ちなみに、ホテルのドアは、廊下の通行を確保するために内側に開くものが多いです。各部屋にバールを備えているホテルがあれば、そこは防災意識の高いとても良いホテルだということになりますね。
また、廊下側に窓がある場合は、面格子を内側からはずせるタイプのものに変更しておくことができます。玄関ドアが万が一開かなくても、窓から廊下に出ることができます。
廊下に煙が? 避難階段まで突破できるか?ベランダの避難はしごを使うか? どう判断するべき?
マンションで玄関から避難する場合に、もし廊下が炎や煙で充満してたら? という心配があるでしょう。
しかし、日本の建築基準・消防基準に添って建物を建てていれば、まず廊下までなかなか火が回わらない、ということを覚えておくべきです。
マンションは厳しい防火区画が設定されていて、たいてい、一戸の家がひとつの防火区画となっています。ですのでキッチンなど火元から出荷した火は、その部屋で長時間、食い止められるます。日本の防火基準では、建材の耐燃性などがしっかりしているため、またたくまに同じフロアに広がっていくということは考えにくいです。
2017年に英国ロンドン郊外でおきた高層マンション火災は多くの犠牲者を出しましたが、防火基準が日本にくらべてはるかに甘かったようです。
高い防火基準を持つ日本のマンションでは、避難するための時間が充分とれるように考えぬかれています。
マンション内で火災が発生し、警報などでそれを知った場合は、慌てることなく粛々と玄関⇒避難階段を使って避難すれば、問題なく避難できます。
まんがいち廊下に煙が出ている場合でも、避難階段の入り口まで、突破した方が、ベランダの避難ハッチを使うよりも、早く安全に避難できることもあります。濡れたタオルで口を覆い、顔を低くして、避難階段まで駆け抜けます。
もっとも、この場合、煙がどこまで安全か? 判断するのは、少し難しい部分です。有毒性のある煙を吸い込むことで、意識が無くなるケースもあるため、煙はあなどれません。
あくまで自己責任の判断となりますが、煙を突破するか? ベランダのパーテーションをけ破って避難ハッチを使うか? を選択する必要があるでしょう。
ただ、地震などの場合、揺れが収また直後から、廊下に煙が蔓延するることは考えられません。揺れが収まった後、とりあえず、玄関⇒廊下⇒避難階段の避難ルートを確認しておきましょう
避難階段の注意点
玄関⇒廊下とスムーズに避難ルートを移動できれば、避難階段へ通じる防火扉にたどりつきます。
避難階段への入り口は防火扉で閉じられていますが、この戸は階段へ向けて押せば開くようにできています。避難経路上にある扉はは必ず、避難方向に向かって押して開くようになっていることは覚えておきましょう。
マンションの玄関扉と同じで、地震のゆがみで開きにくい場合は、けやぶるかハンマーで叩くなどします。
防火扉をくぐり階段室に入ったら、防火戸を忘れずに閉め戻しておきます。
階段は戸外へ通じる避難階へ通じる直通となっているので、慌てず降りていけば、無事に建物外へ脱出できるでしょう。
地震の場合は、部屋に留まった方が安全?
震災の場合は、ビル内での火災発生の情報などがすぐに伝わらない可能性があります。
余震のことを考えれば、新耐震設計のマンションであれば、建物内に留まった方が安全とも言えます。(新耐震については⇒「耐震基準の変遷と建物の丈夫さ」の記事を参照してください)
ただし、火災報知器やスプリンクラーなどの機能が地震により停止している場合は、火災発生の情報がなく、初期消火もできないため、建物内で火災が広がる可能性があります。
建物内の火災の状況が把握できない場合は、マンションの外へ避難するべきです。
館内放送などで、自主防火組織からの指示が出るようなケースもあるでしょう。その場合は、その指示に従いましょう。
避難する場合は、避難時間は充分あると考え、慌てず落ち着ていて非常袋を持ち、一次避難場所や防災公園(詳しくは⇒「防災公園とは?」を参照)へと向かいましょう。
部屋を後にする場合は、
・ブレーカーを切る
・玄関扉を閉じる
ことを忘れないようにしましょう。
高層階からの避難のポイント
高層階は避難路がひとつだけ?
一定規模以上の集合住宅や商業施設では、2方向避難の原則に従って、ふたつの非常階段があるか、非常階段+ベランダの避難ハッチによる避難ルートが確保されています。
しかし、実は避難階段・救助袋・緩降機などの避難器具は、10階までが設置可能です。つまり、11階以上はベランダや窓からの避難はできないのです。
そもそも、11階以上の高層階になると、はしご車も届かず、ベランダそのものが無いことも多く、避難経路が限られてくることがわかります。
また、高層階ではコストなどのめんから、避難階段をひとつにすることが多いです。そのぶん防火区画をより細かく設定し、各部屋の防火性能を高めて、スプリンクラーを充実させることで対応しています。
高層階では、避難以前に、火事が延焼しない、すぐ鎮火できることに重点を置いているわけです。
言い方をかえれば、高層階で火災が出ても、失火した部屋からの延焼をスプリンクラーで消火できるので、避難の必要はない……という考えが前提になっているとも言えます。
しかし、万が一消火に失敗した場合、また、震災などでスプリンクラーがうまく機能しないことがあるかもしれません。
あの9.11のビル崩壊も、スプリンクラー機能が飛行機の衝突で壊れ、スプリンクラーによる消火ができなかったため、延焼し、結果、ビルそのものが崩落したのではないか?と考えられています。
それを考えると、スプリンクラーを当てにしすぎるのも問題でしょう。とはいえ、高層階になればなるほど、階段で避難することも決して簡単ではなくなってきます。
高層階の避難方法については、現状よりも、もっと充実させる必要がありそうです。
非常用エレベーターを避難で使えるようにすべき?
11階以上の高層階で必ず設置されているものに「非常用エレベーター」があります。
非常用エレベーターは、独立電源で動くエレベーターで、消防隊の消火活動に使われるものです。
はしご車が10階までしか届かないため、それ以上の階は、消防士が建物内に入って消火活動をする必要があるからです。
連結送水管という専用の防火用水で、階下から送水し、エレベーターで階上に上がった消防士によって消火活動が行われるのです。
ですので、11階以上には、必ずこの非常エレベーター設置されています。
一方で、通常のエレベーターは、地震や火災の時には、運転を停止しています。
そこで、速やかに避難するために、非常用エレベーターを避難に使えないか?とふつうは考えます。
しかし、法的には、「非常エレベーターは避難に使ってはいけない」となっているのです。避難はあくまで避難階段からするように定めれられています。
ところが、たとえば世界一高いドバイのブルジュ・ハリファなど、世界の高層ビルでは、エレベーターを積極的に避難装置として使っています。
高層階でエレベーターを使って避難することは、当然と言えば当然ですよね。
日本でも、ようやくエレベーターの避難利用の流れがはじまり、東京では、ビルの防火管理組織の指示のもとでは、非常用エレベーターを避難に使えるように、運用の規則が変わりつつあります。
非常用エレベーターを避難に使えるようになったとしても、人を運搬するのには限度があります。弱者を優先して降ろすなどの、モラルのある運用ができるかどうか?は、市民ひとりひとりの意識にかかわってくるところです。
そのためにも、日頃から防災に関心をもち、建物の耐震性や防火性能について、必要最小限の知識をもっておくことが必要です。そうすれば、いざという時に、パニックになったり、慌てたりせず、落ち着いて行動できるはずです。
自宅やアパートの2階から避難するには
さてここまで、高層建物やマンションの避難経路についてみてきました。
集合住宅では、防火性の高い避難階段をメインに、避難器具や非常用エレベーターなど複数の避難方法が用意されていることが、よくわかったと思います。
ところで、案外、盲点になっているの2階建ての個人の住宅やアパートなど小規模の集合住宅です。
こうした小規模の住宅には、二方向避難の義務はないため、二階から一階へは通常の出入り口にしている階段がひとつあるのみです。
この階段が火災等でふさがれた場合は、逃げ場を失うことになります。
二階からですので、飛び降りても死なないというレベルでしょうが、子供や高齢者の場合は、そのまま飛び降りるわけにもいきません。
そこで、
二階に住んでいる人は、家庭用に、二階からの避難はしごを準備しておくべきです。
それほど高額のものではないですので、まず、準備しておくことをお勧めします。
また、実際の使用では、ベランダの柵からハシゴをたらして、ベランダの柵をまたぐようにして降りなくてはなりません。
ベランダの柵から、うまくハシゴに降りれるように、台座型の脚立もあわせて用意しておくことをおすすめします。
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以上、ベランダの避難ハッチを中心に、避難階段や非常エレベーターなど、建物からの避難の方法について、いろいろ見てきました。
いざ、実際の災害時には、イレギュラーな要素がたくさん入ってくるため、思惑どおりに、避難の仕組みが上手く機能しないこともあるでしょう。
そうした場合にも冷静に判断できるよう、まずは、日頃から、避難ルートについてイメージトレーニングをしておくことです。
とくに、避難の要となる避難階段は、常日頃確認をしておくべきです。
複数の避難ルートをシュミレーションしておき、しっかりと心構えしておくことが、防災の基本であることを、忘れないようにしましょう!!