菊花展とは? その見所と楽しみ方。和菊・古典菊・盆養菊の特徴。
2019/10/24
菊花展は秋の風物詩として、全国各地で開催されています。
菊花展は、「盆養菊」など鑑賞用の品種の菊を、独特の仕立て方で栽培し、その美しさを競うものです。
一輪の大菊が整然と並んだ「花壇」や、一株の菊を1年以上かけて栽培し小山のように仕立てた「千輪咲」、小菊が滝のように流れ落ちる「懸崖(けんがい)」などの印象的な仕立て方は、菊花展ならではのものです。
この記事では、こうした伝統的な菊の品種や仕立て方をざっくり解説しています。この記事を読めば、誰でも菊花展を楽しめるようになります!
【参考記事】
菊花展と同時に展示されることも多い「菊人形」については、⇒『菊人形の楽しみ方と全国の菊人形展』の記事も参照ください。
菊花展とはどんなもの?
菊花展は、秋になると日本全国で開催されています。10月~11月の期間が多く、文化の日の頃がピークになります。
東京なら新宿御苑、大阪では国華園などの大規模な菊花展がとくに有名です。二本松や枚方のように⇒菊人形展とセットで開かれるところも盛大で、全国からお客さんが集まります。(菊人形は菊花園芸のなかでも独特の歴史があります。詳しくは、⇒『菊人形とは?』の記事を参照ください。)
菊花展は有名なものだけでなく、地元の公園・神社やお寺の境内や、小さな規模のものなら、ホームセンターや農協の軒先などでも行なわれます。
菊は、桜と並んで「国花」とされていて、皇室の御紋やパスポートのデザインにもなっています。そのため、皇室ゆかりの公園や神社では厳かな雰囲気のなか「国華」の美を競い合う祭典として繰り広げられます。
一方、農村地帯などでは、地域の愛好家が自慢の作品を持ち寄って楽しむアットホームな菊花展も多く見られます。
このように、日本中の多くの人々から愛されて、楽しまれているのが「菊花展」なのです。
ところが、菊花展が全国津々浦々で開催されているとはいえ、菊花展で展示されるキクは、一種独特の雰囲気があって、菊愛好家以外の方には、あまり馴染みの無い感じもあると思います。
最近では、とくに「マム」系の洋菊の方が眼にする機会が多く、菊花展に出される仰々しいイメージの品種は、いまひとつピンと来ない…という人もいるかもしれませんね。
そこでこの記事では、伝統的な菊花の魅力がわかるきっけになるよう、菊花展で出店される菊の品種や仕立て方について、基礎知識をまとめました。菊の品種の特徴や歴史を整理して知れば、菊花展の見所ポイントが、少しずつわかってきます。
爽やかな香りと厳かなで晴れやかなな雰囲気をもった菊の花につつまれた菊花展、なかなか他では味わうことのないパワースポットのような精気を感じます。菊は中国から日本に伝えられた当時、平安貴族のあいだで、菊の香りには不老不死の力があると考えられ、漢方の薬膳としても使われてきました。やはり、菊の花に触れることで精気を養うことができそうです。こうした菊の魅力を、菊花展で再発見してみましょう。
いろいろある菊の種類と、菊花展に出品される品種
和菊・家菊・盆養菊・洋菊・野菊の区別
まず、菊花展で使われる菊は、和菊・家菊、時には「盆養菊」などと呼ばれる品種で、洋菊や野菊とは区別されます。
学名でくくると、和菊も洋菊もchrysanthemum dgrandiflorum(またはChrysanthemum morifolium)になります。この系列の菊は、野菊の一種である島寒菊(シマカンギクChrysanthemum indicum)が原種とられ、中国から日本に渡り、主に日本で品種改良されました。洋菊の「マム」も、日本からヨーロッパに渡ったものが改良されたものです。
和菊のなかでも、とくに菊花展で使われる伝統的な品種は「盆養菊」と呼ばれます。もともと「盆養」とは、菊の仕立て方、なかでも最もスタンダードな大菊の3本仕立てのことを意味することばですが、菊花展で出品される園芸用の品種を広く「盆養菊」と指すようになりました。
菊園芸で使われる盆養菊は、大きく分けると、大菊・中菊・小菊に分かれます。
さて、菊花展に出展される園芸品種「盆養菊」に対して、切り花として流通する菊を「実用菊」と呼びます。
「実用菊」はポットマムやスプレーなど洋菊系が多いですが、供花では洋菊のほかに中菊(江戸菊)の系列のものが使われることもあります。
園芸用の菊は盆養菊・実用菊・洋菊は、いずれもchrysanthemum dgrandiflorumに含まれる雑種になりますが、一方、「野菊」は、別な系統のキクです。もともと野生の花なかで「菊に似ているもの」を「野菊」と呼ぶようになった流れがあります。そのため、キク科キク属以外のシオン属、ヨメナ属、キンポウゲ科アネモネ属のなかにも「野菊」があります。
園芸菊 | chrysanthemum dgrandiflorumまたはChrysanthemum morifolium | 盆養菊 | 大菊 | 厚物(あつもの)、厚走り(あつばしり)、大掴み、管物(くだもの)など |
古典菊 | 江戸菊、伊勢菊、嵯峨菊肥、後菊、丁子菊 など | |||
小菊 | ||||
実用菊 | 和菊の供花など | 中菊系の和ギク・実用菊 | ||
洋菊 | ポットマム、ガーデンマム、アナスタシア、ピンポンマム、スプレーマム | |||
食用菊 | 延命薬(もってのほか)、阿房宮 | |||
野菊 | キク属 (クリサンセマム属) Chrysanthemum | シマカンギク(島寒菊〜indicum)、イソギク(磯菊〜pacificum)、ノジギク(野路菊〜japonenseなど)、キクタニギク、コハマギク、リュウノウギク | ||
その他のキク科 | ●シオン属…サワシロギク、ノコンギクなど ●ヨナメ属…ヨナメなど ●タンポポ属…シロバナタンポポ、セイヨウタンポポなど |
|||
キンポウゲ科アネモネ属 | シュウメイギク(秋明菊〜Anemone hupehensis var. japonica) |
盆養菊の種類と品種
さて、この記事のテーマである菊花展に出品される盆養菊は、大菊・中菊・小菊がさらに細かく次のような品種に分かれます。
なかでも大菊の品種は、なかには愛好家が自分で選抜して作り出すものもあり、とても数多くあります。品種にもブームがあるため、時代とともに次々と新しい品種が出てくるのも特徴です。
下記の表であげた品種名はごく一部ですが、独特の雰囲気のネーミングになっているところも、おさえておきたいですね。
大菊 |
厚物 |
兼六香菊、三笠山、国華金光、草庵清談、大芳の里、白銀の月、国華越山、国華金山、富士の新雪、東海の夕雲、国華吉兆、精興右近、国華新春、駿河の名峰 | |
厚走り | 国華由季、泉郷筑前、大芳飛鳥路、国華松園、兼六白菊、太平の太古、国華の煌めき | ||
管物 | 太管 | 泉郷夢芝居、泉郷稲妻、清水青柳、開竜王妃、泉郷山径、清美の名曲 | |
間管 | 清美の山瑞、開竜京の宮、岸の虹、、泉郷人魚姫、天女の花鏡 | ||
細管 | 清水の錦水、高音美香、玉穂の村雨、岸の海峡、聖光桃娘、天女の名所 | ||
針管 | 泉郷深草、玉穂の粋、聖光玉泉 | ||
大掴み | 富士の雲、大天竜、瑞流 | ||
一文字 | 玉光院 | ||
美濃ギク | 美濃の錦 | ||
古典 | 肥後菊 | 千代寿、高砂、三保の美、三保のふじのね、宮の松 | |
江戸ギク | 江戸葵、聖代の徳、江戸小唄、江戸薄化粧、八幡山、宿の一本、下谷花川戸、清水の池、下谷詩人、 | ||
伊勢ギク | 乱れ糸、初日の出 | ||
嵯峨ギク | 大覚の夢、嵯峨の虹、嵯峨の姿 | ||
丁子ギク | 桃鹿の子、岸の鳥海、宝美雪の精 | ||
小菊 | 紅梅、雪達磨、松の雪、貴婦人、神代の衣、黄金丸、白王冠、黄金の里、 |
大菊…厚物・管物・広物
菊花展のメインの品種は大菊です。大菊には、厚物(あつもの)や管物(くだもの)など、花びらの形状や色により、いくつもの種類があります。京都を中心に関西で選抜が進んだ品種群です。
花の大きさは30㎝ほどで大きいものは40㎝にもなります。盆養菊の花びらは立体的に盛り上がっていたり、下に長く垂れ下がっているため自然状態では支えきれません。そのため輪台とよばれる輪っか状の支えを蕾の時に仕込み、花を仕上げます。
厚物(あつもの)
厚物厚物は「匙(さじ)弁」または「平弁」と呼ばれるスプーン状の平な花弁が幾重にも重なり半球状に盛り上がっています。大菊の代表種で、菊愛好家以外も目にすることが多い花型です。厚物はさらに「厚物」「厚走り」「大掴み」に分類されます。
「厚走り」は、厚物のバリエーションで、厚物の下側に、管状の長い「走り弁」が出ているものです。走り弁の先端が尖っていてとくに美しいものは「剣走り」とよばれます。
「大掴み」は中央の花弁がさらに盛り上がり、ヘアースタイルの「盛り髪」のようになったものです。奥州菊とも呼ばれます。
管物(くだもの)
「管物」の花弁は、花びらが縦に細く丸まって筒状態になり、さらに先端がカールしている繊細でありながら華麗な美しい形をしています。
花弁の幅によって、大管(ふとくだ)、間管(あいくだ)、細管(ほそくだ)、針管(はりくだ)に分類されます。太管では7~8ミリ、針管では1ミリ未満のももあります。
広物(ひろもの)
「広もの」は、花弁が平で幅広いタイプの大菊です。一重で花全体が平らな「一文字」、八重咲で中央が盛り上がる「美濃菊」があります。
中菊(古典菊)…江戸菊、嵯峨菊、肥後菊、伊勢菊、丁子菊
中菊は古典菊とも呼ばれ、江戸時代の前期、江戸の大名屋敷を中心に園芸大ブームが起きた時代に、選抜改良され誕生した品種群です。
各地の大名が、それぞれの藩で育種育成につとめたことから、藩の名前で呼ばれます。
「江戸菊」は、「正菊」とも呼ばれます。ひとつの花に、匙(さじ)弁、管弁、広弁といろいろなかたちの花弁がまじりあって、時間の経過とともに、花のかたちがダイナミックに変化するのが特徴です。蕾から花が開ききった状態が「咲きおろし」、そこから数日すると花弁が立ってきて「狂い」と呼ばれる状態になります。最後は「狂いの完成」となり花弁が花芯を包み込んで外側の管弁は垂れ下がる見事なかたちになります。
その他の古典菊には、細い平弁と管弁が垂れ下がる「伊勢菊」、細い管弁が箒状に咲く「嵯峨菊」、小さな花芯を細い花弁が囲む「肥後菊」、花芯が大きく筒状に盛り上がる「丁子菊」があります。また、大菊の「美濃菊」「奥州菊(大掴み)」も大名が育成したこという観点からは「古典菊」に分類されます。
小菊
小菊は、切り花ではスプレーマムなどで、今や菊のメインになっていますが、園芸菊では、小菊は主に「懸崖」と「盆栽」に仕立てられます。また、菊花展で同時に展示されることの多い菊人形も小菊で飾りますが、菊人形の小菊は菊人形用の品種になります。
江戸時代までは小菊は野趣があるほうが良いとされ、ほとんど改良されていませんでしたが、大正~昭和にかけて、ゴージャスでモダンな「懸崖仕立て」が盛んになってから改良が進みました。小菊には、「一重」「八重」「丁字菊」「魚子菊」「貝咲」など、さまざまな花弁や花姿の品種があります。
菊の品種改良
一般に植物を品種改良する場合、「交配」と「選抜」の二種類の方法があります。
交配は、目的とする形質を持った親株どおしを掛け合わせて種を作る方法です。「ハイブリッド」「F1」とも呼ばれ、親株を管理する種苗会社から種を供給してもらいながら栽培します。
一方、突然変異でできた良い形質の樹を、接ぎ木や挿し芽などの「栄養生殖」で増やしていくのが、「選抜」です。選抜は栽培者自身で接ぎ木苗を管理することができます。前年咲かせた株から生える脇芽を翌年の苗にしながら、その品種を、みゃくみゃくと後世に伝えていくことができます。
さて、菊は、栽培される花のなかでもとくに「栄養生殖」ががやりやすい花です。実際の栽培でも、前年の花を咲かせた株を冬のあいだ養生し、春先に出る脇芽をとり、挿し芽苗を作り、そこからその年の秋に咲かす株を育てます。このように種からではなく、芽をとりつづける「栄養生殖」で作るのが菊栽培の基本ですので、菊の品種は、「選抜」方法で作られることが多いのです。
もともと中国から渡来した菊は、京都の宮中で品種選抜しながら育てられ、さらに、江戸時代の園芸ブームの時に、菊花の選抜改良の技術が進歩しました。明治になり、江戸の菊の選抜改良技術は、ヨーロッパに伝えられ、ヨーロッパの品種改良技術にも大きな影響を与えたのです。
日本の伝統的な菊園芸は、世界的にみてもとても水準の高い文化だというわけです。
盆養菊の仕立て方
さて、ここまで、盆養菊の品種についてみましたが、仕立て方についても見ていきましょう。仕立て方のことを「盆養」とも呼びます。
菊花展でしか見ることのできない仕立てや展示方法も多く、独特の世界観を演出しています。また、菊花展はただたんに園芸菊の展示会ではなく、菊の仕上がりを競い合うコンクールでもあります。仕立て方は菊花展の主催者ごとに細かいルールが決まっていて、審査基準にもなっています。
大菊の仕立て方(盆養)
大菊三本仕立て盆養
三本仕立ては、ひとつの株を摘芯して3本仕立てに。枝はそれぞれ天・地・人と呼ばれます。鉢底から140~160㎝の草丈にします。展示する時は、同じ品種の三本仕立てを整列させた「花壇展示」にします。
七本立て盆養
2回摘芯して、一株を7本に仕立てます。
福助作り
福助作りは、一本立の大菊を、矮化剤を用いて草丈20㎝~30㎝の低い丈で花が咲くように調整します。コンパクトに大菊を仕立てる新しい仕立て方法ですが、狭い場所で大菊が楽しめるため、一般の菊愛好家の間ではスタンダードな方法になっていて、菊花展でも多く出品されます。
福助作りでは矮化処理により開花期が遅れるため、日照時間をコントロールして菊花展にタイミングが合うよう調整します。8月下~9月上に夕方4時から8時まで段ボールやヨシズで鉢を覆って暗くする「短日処理」という手法を使うのです。福助作りは、なかなか手の込んだ方法で、とくにやりがいがあるため、人気のある仕立て方です。
3本だるま作り
福助作りを3本仕立てにしたもの。こちらも菊花展の定番です。
千輪咲き
ひとつの株を何度も摘芯して、半球状に仕上げて、数百個の花を咲かせます。千輪咲きと言いますが、花の数は、実際は、さすがに千輪まではいかないようですが、とても迫力のある仕立て方です。1年半かけて栽培するもので、伝統ある大規模な菊花展のメインの展示物となっています。
中菊の仕立て方
中菊は9本から15本と多めに仕立てることが多いです。2段階の摘芯で、1回目に3~4本にして、2回目はさらに分岐させる手法がとられます。
菊の品種ごとに定番の仕立て方が決まっていて、江戸菊は花の高さを揃えた7~15本仕立ての「篠作り」、伊勢菊は花を段違いにする「天地人作り」、嵯峨菊・肥後菊はスプレー状に仕上げる「ほうき作り」や「七五三作り」となっています。
小菊の仕立て方
菊花展で小菊は「懸崖(けんがい)作り」が最も定番の仕立て方になります。鉢から垂れ下がったハンギングポットのようなモダンな感じの仕立て方ですが、ほんらい上にまっすぐ伸びるし菊を、蔓植物のように下に伸ばすために摘芯・曲げつけ・誘引を何度も繰り返す手のこんだ仕立て方です。
垂れ下げるまでは、支柱をして横に育て、先端の蕾がほころびかけたころに最終のまげつけをして垂れ下げます。曲げつけのタイミングを逃すと花が上を向いたり下をむいたりするため簡単ではありません。
小菊はその他にも、丸く仕上げる「玉づくり」、たてに長く仕上げる「木立作り・ローソク作り」があります。
盆栽菊
盆栽は樹木を小さく仕立てミニチュアの世界観を表現するものです。菊は樹木ではなく草なのですが、その樹勢の強さを利用して、盆栽風に仕立てるのが盆栽菊です。山菊という小菊を前年の9月に挿し芽をして、1年かけて作ります。1年のうちに茎の緑の茎は木質化して、樹木のような風合いになってきます。はじめに石を抱かしておくなどの技も駆使されています。
以上、菊花展で出店される盆養菊の品種や仕立て方についてみてきました。
品種のもつ歴史や、手の込んだ仕立て方についてちょっとした知識をもっておけば、菊花展の見方がわかってくると思います。
現代のセンスとはまた違った雰囲気を持つ「菊花園芸」の世界。花を支える輪台を使ったり、何度も摘芯・誘引して人工的に仕立てたりと、ナチュラル感を重視する現代の感覚からすると、ちょっと古い感じがするかもしれません。
しかし、菊花の歴史をひもといていみれば、菊花展には、世界に名だたる江戸の園芸文化の粋(すい)が集まっていることが見えてくるわけです。この機会に菊花展で、それを感じてみてください。