馬蹄に込められた意味とは? 幸運を呼ぶ蹄鉄の歴史と最新の馬蹄
2018/08/27
馬蹄(=ばてい・英語ではホースシュー)は西洋ではラッキーアイテムとして定番中の定番です。
玄関などに魔除けとして馬蹄を飾ったり、結婚式の引き出物として幸運のお裾分け的に使われたりしています。日本ではホースシュー・ネックレスなど、アクセサリーが最近増えてきていますね。競馬ファンのあいだで縁起かつぎとしても人気があります。
この記事では、馬蹄が幸運を呼ぶという由来と歴史についてひもときながら、馬にとって快適な「馬のスニーカー」とも言うべき、最新の馬蹄などもあわせて紹介していきたいと思います。
馬蹄・蹄鉄の歴史と種類
馬蹄と蹄鉄の違いは?
馬蹄は、馬のひづめを補助する道具で、馬が走ったり重い荷物を引いたりするのをサポートする道具です。
ほんらい野生の馬に馬蹄は必要ありませんが、家畜として飼われる馬は、どうしても栄養が不足するため、ひづめが痛みやすく、補助具として馬蹄が必要なのです。
馬のひづめの補助器具としては、古くは革の靴のようなものだったり、日本では江戸時代までは馬沓(ばくつ)という馬用のわらじが使われていました。最近では、プラスチック製の「馬のスニーカー」のような馬蹄が蹄鉄に替わるものとして注目を集めています(⇒後述;最新の馬蹄)。
このように馬蹄にはいろいろな種類がありますが、なかでも、U字型の鉄製の器具を、「蹄鉄」(ていてつ)と呼びます。
蹄鉄は馬蹄のなかでも最も多く使われているものですので、言葉の意味としても、馬蹄と蹄鉄はイコールの意味として用いられることが多いです。蹄鉄のU字型のことを「馬蹄型」ともいうように、すっかり馬蹄といえば蹄鉄、なのですが、実は馬蹄にはいろいろな種類があるということを、頭に入れておいてください。
蹄鉄の歴史とラッキーアイテムになった由来
では、馬蹄のなかでも、ラッキーアイテムとされる「蹄鉄」について、詳しくみていきましょう。
蹄鉄の歴史は古く、ローマ時代にはじまり、鍛冶屋による鉄の加工技術が成熟していった中世には、西洋では一般的に広く使われるようになりました。
主要な交通機関が馬だったため、蹄鉄はとても身近な道具でした。
そのなかでも、古い馬蹄にとくに魔除けの効果があるとされ、玄関や家のなかに飾られるようになりました。蹄鉄そのものは日常の道具でしたので、新品の蹄鉄ではなく、納屋のなかから偶然見つかった「古い蹄鉄」に魔除けの効果があるとされていたようです。
20世紀に入って、人類の主要な交通機関が馬から車に替わったことで、古い馬蹄にこだわる習慣はすたれていったようです。替わりに、馬蹄(蹄鉄)型のものがラッキーアイテムとして定着し、現代に至ります。
日本では蹄鉄を飾る習慣はあまりありませんが、馬蹄型のネックレスやピアス、指輪は定番になっています。また、「金運が良い」というところまで拡大解釈されて馬蹄型のコインケースというのも多いですね。ちなみに、財布と金運については、こちらの記事⇒「金運財布は何色が良い?」も、参照してください。
★ホースシューのネックレスは、定番アクセ。 |
★ラッキーアイテム馬蹄は金運も? 馬蹄型コインケースが人気なのは、機能性が高いフォルムだから、というのもある。 |
蹄鉄と鍛冶屋技術の歴史
古い馬蹄に「魔除け」としての意味を見いだした背景には何があるのでしょうか?
それは「鍛冶技術」だと考えられます。
人類の鉄の利用は、起源前からヒッタイト(現在のトルコあたり)やインドなどではじまり、世界各地に広まって行ったと言われています。
鍛冶屋は、真っ赤に焼けた鉄をトントンカンカン叩いて「鉄を鍛えて」いるというイメージがありますよね。鉄を叩くのは、実は、鉄の中の不純物を叩き飛ばすことで、鉄の強度を増しているのです。
現代の製鉄技術では2000度Cもの高温で完全に鉄を溶かしてしまうことで、純度の高い鉄を自由な型に成形することができます。
しかし、炉の送風をふいごや水車などに頼っていた中世までの時代は、火の温度を鉄の融点まで上げきれないため、鉄を完全に溶かすことができませんでした。
そこで、柔らかくなった鉄を叩き、ふたたび焼き、を繰り返すことで、純度を高めながら、かたちを整えていくという、難しい鍛冶屋技術が必要だったのです。
鍛冶技術はとても特殊な技術で、習得するには熟練が必要で、ごく一部の人間しかその技術のすべてを知ることができない、いわば「奥義」だったわけです。
つまり、鉄を扱う鍛冶技術は一般の人々たちにとっては、まさに「神秘の技術」だったわけです。
そうした、鍛冶屋の製鉄技術に対しての畏怖の念から、身近な鉄具である「馬蹄」に神秘的な力がある、と信じられるようになった・・・このように考えられるわけです。
馬蹄にまつわる有名な伝説に、10世紀イギリスの大司教・聖ダンスタンが悪魔と取引きをして、馬蹄が掲げてある家には悪魔が近づけないように取引きをした、というのがあります。
聖ダンスタンは鍛冶技術の聖人とも言われている人物ですので、このとこからも、馬蹄の神秘化の背景には、神がかり的な当時の鍛冶屋技術があったと言えそうです。
幸運を呼ぶ馬蹄の向きはどちら?
さて、ラッキーアイテムとして伝統がある馬蹄(蹄鉄)。玄関や部屋に飾ることで、魔除けになり、幸運を集めると言われています。
常に問題になるのは、飾る時の向きはどちらが良いか?ということです。
西洋でも両方の説があって、国や時代によってU向きが良い、∩向きが良い、と諸説あります。
Uの上向きが良いとする説では、幸運を溜め込むから、∩の下向きにするのは、幸運が下を通ってくるとか、玄関の上に飾る場合は幸運が下を通る人に降り注ぐように∩向きにする、などいろいろあるようです。
まぁ、結局のところ、馬蹄が幸運を呼ぶ、ということに科学的根拠があるわけでもなく、しょせんは、伝説・迷信の範囲ですから、どちらでも気に入った向きで飾れば良いと思います。
馬蹄を飾るのはなかなかお洒落で雰囲気が良いものです。馬蹄を飾ったり身につけることでテンションがアップするのであれば、ラッキーアイテムとして効果が期待できそうですね。
蹄鉄は馬にとって実は負担になっている? 最新の「馬のスニーカー」に注目
さて、ここまで、馬蹄の歴史や、馬蹄がラッキーアイテムとされる由来などについて見てきましたが、この記事では、ラッキーアイテムとしての馬蹄よりも、ぜひお伝えしたいことがあります。
それは、鉄製の馬蹄、すなわち蹄鉄は、もはや過去のものだ、ということです。
馬蹄といえば、鉄でできた蹄鉄がポピュラーなのですが、最近開発された、樹脂製の馬蹄が、馬にとっても負担がなく、高い機能を発揮するとして注目を集めているのです。
長いあいだ使われてきた蹄鉄は、馬にとっては負担がほとんどないものと考えられていました。釘で打ち付ける蹄鉄ですが、ツメの部分に打つため馬も痛がりません。そのため、蹄鉄は問題ないというイメージなのかもしれません。
ところが、実際は、馬が病死する原因の50%が足やヒズメのトラブルが原因になっているのです。
ほんらい野生の馬には馬蹄は必要ないわけですから、ひづめや足のトラブルの原因が、蹄鉄にあることは否めません。蹄鉄は、馬に負担を強いるものだったわけです。
近年の研究で、馬のひづめの底は常に真っ平らではなく、凹凸にあわせてフレキシブルに動くものだということがわかっています。そういえば、ラクダのひづめはとても柔らかくできています(詳しくは、⇒「ラクダの種類と特徴と世界のキャメルライド」についての記事を参照ください。)。馬の場合はラクダほどでないにしても、ほんらい、ひづめがフレキシブルなものだと考えるほうが、むしろ自然ですよね。
つまり、鉄製の蹄鉄は、本来の馬のひづめがもっているこの特性を殺してしまっています。それが、馬にとってのトラブルの原因になっているらしいのです。
そこで、新しい馬蹄のかたちとして最近開発されたのが樹脂製の馬蹄です。下の動画をご覧ください。
まさに「馬のスニーカー」ともいえる最新のホースシュー。馬と人類の歴史が、新しいステージとなるような、革新的な発明であると言っても過言ではありません。
ホースランナー(horserunnners)と名付けられたこの新しい馬蹄を開発したのはオーストリアのMegasus(メガサス)というベンチャー企業です。インターネットで資金を集めながら、世界的に新しい「馬のスニーカー」を普及させていこうとしているようです。
蹄鉄に替わるあたらしい馬蹄のスタンーダードとなり、馬にとってもより快適でリスクがない道具として、普及していってほしいものです。
★幸運を呼ぶ馬蹄。ちょっとしたプレゼントに馬蹄クッキー。 |
以上、ラッキーアイテムである伝統的な蹄鉄について、また、「馬のスニーカー」である最新の馬蹄について見てきました。
馬は長いあいだ、人々の生活を支えてくれてきた、人類にとって大切な家畜です。馬にとってもよりよい馬蹄が普及していくことを願いながら、ラッキーアイテムとしての馬蹄に願いを托していきましょう。