日本の万年雪と氷河の場所と行き方。多年生雪渓ができる条件とは?

      2019/07/27

万年雪と氷河

 万年雪は、高山に降り積もった雪が夏の間も溶け切らずに、秋の初冠雪まで残るものです。

 日本には万年雪を抱く山がいくつかあります。万年雪のなかには、年によっては、夏に消えてしまうものもあります。その一方で、まったく溶けない万年雪もあって、つい最近になって、それらの万年雪のいくつかが「氷河」であることがわかってきました。

 温帯地域の日本で、しかも標高がそれほど高くはないところに氷河や万年雪があることに、ダイナミックな大自然の力を感じます。

 この記事では、日本の代表的な万年雪と氷河をピックアップしながら、それぞれの万年雪や氷河について、特徴をまとめてみました。また、実際にそれぞれの氷河や万年雪を訪れる方法についても調べてあります。

日本で万年雪があるエリアは?

 日本の万年雪は、おもに北アルプス(剱岳や白馬岳など)、上越地方~東北地方の日本海側、北海道などにあります。

 万年雪ができる条件は、深い谷があり、冬に豪雪があることです。ですので、日本のなかで万年雪が最も多いのは北アルプスになります。日本の氷河もすべて北アルプスにあります。

 標高や緯度が高ければ万年雪が多いというイメージかもしれませんが、そうとも限りません。たとえば富士山の万年雪は近年は夏に消失することが多く微妙な状態ですし、北海道の万年雪も大雪山などごく一部に限られます。

 万年雪ができるには、緯度や標高よりも、雪が多いことが最大の条件です。ですから万年雪は、日本では以下の地域がメインとなります。

・北アルプス(剱岳、白馬、穂高、etc)

・越後山脈(谷川岳・八海山・飯豊山、etc)

・出羽山地(月山・鳥海山)

・北海道の大雪山系・北見山系

 この他にも、

・北海道利尻島
・中央アルプス(乗鞍・御嶽山)
・南アルプス(北岳)
・富士山
・白山(富山県)
・大山(島根県)
 などにも、小規模ながら万年雪があります。

日本の万年雪

万年雪と雪渓の違い

 万年雪は雪渓の一種です。

 雪渓とは、谷間に降り積もった雪が春から春~初夏の間も溶けずに残るものです。北アルプスだけでも600の雪渓があります。春先の「残雪」として美しい風景を演出しているのが、雪渓です。こうした雪渓の多くは、8月の終わりか9月頃には溶けてしまうのがふつうです。

 ところが、雪渓のなかには、9月を越えて、10月頃の初冠雪まで溶けずに残るものがあり、これを越年性雪渓と呼びます。越年性雪渓のなかでも、数年以上に渡り毎年雪が残るものが多年生雪渓、つまり万年雪です。

万年雪と雪渓と氷河の種類と分類
雪渓

夏〜秋に消えてしまう雪渓
越年生雪渓

まれに初冠雪まで残る雪渓
多年生雪渓(ひんぱんに初冠雪まで残る雪渓)

万年雪 氷河ではない万年雪
氷河
山頂の池の付近などの吹きだまりによる万年雪

 実は万年雪には正確な定義はないのですが、国土地理院では9月の段階で50m×50m以上の面積が残っているものを万年雪として地図に記載しています。がしかし、地図には記載されていないような、小さくなって毎年残る極小の万年雪もあります。

 また、雪渓のように谷間に溜まる万年雪ではなく、山頂付近の池の周りに吹き溜まった雪が溶けずに残るタイプの万年雪もあります。白山や御岳山山頂の万年雪がこのタイプにあたります。

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氷河と万年雪の違い

 さて、万年雪と言うと1万年以上も雪が溶けていないイメージですが、実は氷河でも数千年の歴史ですから、「万年」というのは、あくまで比喩です。

 日本の多年性雪渓つまり万年雪の多くは数十年に一度、夏に完全に溶けて無くなってしまうものがほとんどです。

 ところが、立山・剱岳(つるぎだけ)の三ノ窓雪渓や、三大雪渓とされる白馬大雪渓など、いくつかの雪渓は、毎年しっかりと雪が残り、これまで一度も溶けていないとみられてきました。

 こうしたまったく溶けない万年雪の下には、氷の塊が蓄積され、ゆっくりと谷へ動いているのではないか? つまり雪渓の下に「氷河がある」かもしれないと推測されてきたのです。

 近年、GPSなどの測定技術が進歩したおかげで、氷河の確認が容易になったことで、万年雪のなかから氷河が次々と「発見」されています。

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▲日本ではじめて氷河と認定された立山の御前沢雪渓
日本の氷河一覧
氷河名 場所 氷の厚さ 大きさ 認定年
三ノ窓氷河 剱岳の東 60m 長さ1600m、幅100m 2012年
小窓氷河 剱岳の東 30m 長さ1200m、幅200m
御前沢氷河 雄山(立山)の東 30m 長さ700m、幅200m
カクネ里氷河 鹿島槍ヶ岳の北東 30m 長さ790m、幅280m 2018年
池ノ谷右俣氷河 剱岳の北西 40m 長さ800m、幅30〜50m
内蔵助氷河 雄山(立山)の北西 30m 長さ150幅、幅150m

 ただし、溶けない万年雪がすべて氷河かというとそうではなく、雪渓の下を常に雪融け水が流れて氷ができない万年雪もあります。谷が大きいと、集まる水の量が増えるため、ずっと溶けない万年雪でも氷河にはなりません。白馬大雪渓や剣沢雪渓は溶けない万年雪ですが、氷河ではありません

 また、万年雪や氷河の多くは、よほどの登山熟練者でない限り近づけないところがほとんどです。ただ、下の表にあげるように、いくつかの万年雪は、アプローチがしやすく「観光名所」となっています。

代表的な万年雪
(氷河以外の多年性雪渓)
雪渓名 場所名 広さ 特徴
白馬大雪渓 白馬岳南東 長さ3500m、幅100m 登山入門者でも数時間のトレッキングで 日本三大雪渓
剱沢雪渓 剱岳の東 長さ1000m、幅100〜200m 上級者向け
針ノ木小屋 針ノ木岳北東 長さ700m、幅80m 上級者向け/小さくなる年も
涸沢カール 穂高の東 長さ500m 紅葉時期は是非一度は行きたい。最低限の登山経験は必要で一泊の日程。 行きやすい雪渓
乗鞍大雪渓 乗鞍の東 長さ300m バスですぐ近くまで行ける
一ノ倉沢 谷川岳の東 長さ500m 軽装で林道を徒歩1時間ほどで。小さくなったり消失する年もある
大雪城 月山 長さ125m×70m リフトを使って比較的楽にトレッキングできる

 それでは次項から、全国各地の万年雪と氷河について、エリア毎にさらに詳しくみていきましょう。

北アルプス(立山・剱岳)の氷河と万年雪

 日本の万年雪と氷河の中心地と言えるのが、北アルプスの立山・剱岳・毛勝三山エリアです。谷が無数にある険しい山岳地帯で、なおかつ冬期は10mを超えるような豪雪が降り積もるところのため、万年雪のメッカとなっています。また、日本に6つ確認されている氷河のうち5つは、剱岳・立山にあります。

剱岳〜三ノ窓氷河、小窓氷河、池ノ谷右俣氷河、剱沢雪渓など

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:× (到達は上級者のみ) 
●所在地:富山立山町、上市町
●アクセス:室堂ターミナル〜剱御前小舎〜剱沢雪渓〜真砂沢ロッジ〜二股のルートで三ノ窓雪渓下部まで到達できる。さらに仙人峠から池平山への途中、小窓氷河を近くから見下ろすことができる。いずれも登山上級コース。

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▲鹿島槍ヶ岳から見た三ノ窓雪渓(左)と小窓雪渓

 北アルプスを代表する山=剱岳(2999m)は、古い時代から氷河で削られた地形の跡であるカールや「窓」と呼ばれるU字谷が多くある、岩と谷の峰です。豪雪地帯でもあることから、万年雪を抱き、近年、そのなかに氷河が発見されました。
 剱(つるぎ)岳付近には国土地理院の地図に万年雪として記載されているだけでも17の多年性雪渓があります。このうちの3つ(三ノ窓雪渓、小窓雪渓、池ノ谷右俣)は氷河です。剱岳の北にある池平山(2555m)の北西に大窓雪渓など4カ所、池平山の西には西千人谷雪渓。剱岳北西には小窓雪渓と三ノ窓雪渓ほか2カ所、剱岳の西には池ノ谷雪渓など4カ所、南東には剱沢雪渓など4カ所です。
 小窓雪渓・三ノ窓雪渓ともに近づくのは容易ではありませんが、黒部渓谷をはさんで東側にある後立山連邦の稜線、種池(たねいけ)小屋〜岩沢小屋岳付近から、ふたつの氷河を見ることができます。
 池ノ谷右俣雪渓は剱岳の西側にある唯一の氷河で、氷河への到達へは難しいですが、この氷河は上市町から見ることができます。登山をしないで平野部から見られる日本で唯一の氷河です。
 また、剱沢雪渓は氷河ではありませんが、日本最大級の雪渓で万年雪です。こちらの雪渓は上級者向けのトレッキングコースの一部になっています。

立山〜御前沢氷河、内倉助氷河など

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:○(本格登山)
●所在地:富山立山町
●アクセス:室堂ターミナルより雄山〜大汝山〜真砂岳まで3時間30分 途中尾根伝いから、御前沢氷河、内倉助氷河を見下ろすことができる。

 立山には、雄山(3015m)の北東の御前沢(ごぜんざわ)雪渓と、真砂岳(2861m)の東の内倉助雪渓(長さ150幅150m)のふたつの万年雪の多年生雪渓がありますが、いずれも氷河として認定されました。アルペンルートを使い、室堂までは気軽に観光気分でアプローチできる立山ですが、これらの雪渓はアルペンルートの北東側にあるため、残念ながらアルペンルート沿いからは見ることができません。本格的な登山ルートで、室堂から雄山〜大汝山〜真砂岳の稜線から見下ろすか、後立山の稜線にある岩小屋沢岳からその姿を見ることができます。
 室堂平やミリガイケ付近は冬には15m〜20mの積雪があり6月まで雪が残る雪のイメージですが、8月〜9月にはすべて溶けてしまいます。ただ、室堂平から一ノ越へ向かう立山登拝道の途中、祓堂(はらいどう)の手前2530m付近に年により万年雪となる雪渓があります。こちらの万年雪へは、立山ターミナルから1時間弱ほどで、登山道も整備されていて比較的容易に到達できます。

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▲立山登拝道ルート上の雪渓が万年雪となることも。室堂から1時間ほどで、登山初心者でも行ける。

毛勝山の多年生雪渓

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:×(到達困難) 
●所在地:富山県魚津市
●アクセス:かなりの登山上級者向けのコース

 アルプスの北端エリアで、黒部渓谷を挟んで白馬の西側に位置する毛勝山(2414m)は、残雪期の登山が上級者に人気です。毛勝谷、大明神谷など東西に5カ所ほどの多年生雪渓がありますが、登山道などは整備されておらず、沢登りなど特殊な技術がないと万年雪へは到達できないようです。標高1400~1500m地点で海から約20kmしか離れていないところの万年雪ですが、中規模のしっかりとした多年生雪渓群です。

北アルプス(後立山連峰・槍穂高)の氷河と万年雪

 白馬から針ノ木岳の後立山連峰には、白馬大雪渓、天狗沢、不帰沢、唐松沢、大黒沢、カクネ沢、鉢の木大雪渓と19カ所の大型の雪渓が続きます。いずれも雪崩が凝縮された多年性雪渓で、ほとんど溶けることのないしっかりと万年雪と言えるものです。なかでもカクネ沢雪渓には氷河があることが近年わかりました。犬ヶ岳、朝日岳 雪倉岳、周囲にも小規模な吹きだまり型の万年雪があります。

白馬大雪渓

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:○(雪渓入り口までは軽トレッキングで。雪渓登坂も初心者挑戦可能)
●所在地:長野県白馬村
●アクセス:JR大糸線白馬駅よりバス30分猿倉。猿倉より1時間20分のトレッキングで雪渓入り口まで。

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 白馬大雪渓は日本三大雪渓のひとつで日本最大規模の雪渓。幅100m全長約3.5km標高差600m。谷が広く雪解け水が多く流れるため、氷はなく、氷河ではありません。白馬岳(2,932m)と杓子岳(2,812m )の谷間にあり、白馬山への登山ルートのひとつとして人気があります。大雪渓を登る登山は防寒対策やアイゼン、ヘルメットなど本格的な登山装備が必要ですが、大雪渓の入り口までは、猿倉から白馬大雪渓遊歩道が整備されています。大雪渓の入り口でまでなら、高山植物を楽しみながら約1時間半の軽トレッキングで到達可能です。

カクネ里雪渓(鹿島槍ケ岳)

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:×(到達困難) 
●所在地:長野県大町市
●アクセス:到達困難 【見るには】JR大糸線神城駅徒歩5分、上信越道長野IC50分で五竜テレキャビン。山頂駅から1時間ほどのトレッキングで小遠見山より。

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 北アルプス後立山連峰の盟主とされる鹿島槍ヶ岳(2988m)の北東には古代の氷河による削られたカクネ里カールがあります。そのカクネ里の万年雪が、2018年に日本で4例目の氷河として認定されました。幅280m長さ790m。厚さ30mの氷河が年間2m前後動いていることが確認されています。
 鹿島槍ヶ岳じたいが、上級者向けの山であり、雪渓に近づくことは容易ではありません。ただ、雪渓を向かいの小遠見山(2007m)から見ることはできます。小遠見山はロープウェイ五竜テレキャビンの山頂駅から1時間ほどのトレッキングとなるので、こちらは初心者でもアプローチ可能です。

針ノ木大雪渓

●万年雪コンディション:○
●到達難易度:△(本格登山)
●所在地:長野県大町市
●アクセス:【扇沢まで】信濃大町駅よりバス40分、長野自動車道豊科IC【扇沢から】3時間で雪渓入り口。針木岳山頂へはトータル5時間ほど。

 日本三大雪渓のひとつ鉢ノ木大雪渓は、後立山連峰の南端にあたる針ノ木岳(2821m)と蓮華岳(2799m)の東面の谷にあります。ちょうど黒部湖の東側にあたるアルペンルート東入り口・扇沢から針ノ木岳への登山ルートにあり、1時間以上雪渓を登ります。もちろんアイゼンが必須のコースです、ガスも出やすいたいめ中級者以上向けのコースですが、夏でもひんやりした雪渓コースとして、登山通のあいだでは人気があります。雪渓は、年によってはかなり溶けてしまうこともあるようです。

涸沢カール(穂高/槍ヶ岳)

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:△(トレッキング経験と装備があれば可能。ただし混雑する)
●所在地:長野県松本市
●アクセス:上高地より徒歩6時間

 穂高から槍ヶ岳にかけては、最もアルプスらしい景観として、登山のメッカとなっているエリアです。横尾尾根の氷河公園や涸沢カールなど、過去の氷河でできた険しい地形が見られます。この地域には、現在は氷河はありませんが、多くの雪渓があります。なかでもが万年雪として越年するものは穂高周辺では、涸沢、岳沢、前穂高、奥又など東面の谷に5カ所ほど、槍ヶ岳周辺では天上沢など3カ所ほどあります。
 なかでも涸沢の万年雪は前穂高〜奥穂高〜北穂高に囲まれた大渓谷を紅葉とともに見れれる絶景として知られています。

中央・南アルプスの万年雪

 中央アルプス・南アルプスは、標高は高いですが、冬期の雪が少ないため、万年雪はほとんどありません。唯一規模が大きいのが乗鞍大雪渓で、その他にも御岳山や北岳に多年生雪渓があります。ただ、温暖化の影響もあって、降雪の時期までに溶けてしまう年も増えてきているようです。

乗鞍大雪渓

●万年雪コンディション:○
●到達難易度:◎(バス亭よりすぐ。車窓からも)
●所在地:長野県松本市
●アクセス:アルピコ交通新島々駅よりバス1時間10分、肩の小屋入口より徒歩すぐ

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 中央アルプスの乗鞍岳は3000m級の連山。乗鞍高原から乗鞍スカイラインが伸び、バスで到達することができる高山観光地として人気です。乗鞍岳東壁の2500m〜2700付近に、乗鞍大雪渓があり、畳平へ向かうバスの車窓からもしっかりと見ることができます。夏スキーや紅葉のなかでのスノボができる万年雪としても有名ですが、リフトは無いので、自力で登山しながらのバックカントリースタイルとなります。雪渓を超えて乗鞍岳山頂を目指す登山も可能です。

御嶽山・二の池の万年雪

●万年雪コンディション:△
●到達難易度:○(本格登山)
●所在地:長野県木曽町
●アクセス:【御岳ロープウェイまで】JR中央本線木曽福島駅からバス65分、中央道伊那IC80分【御岳ロープウェイから⇒御岳ロープウェイ14分⇒ロープウェイ山頂「飯森高原駅」より本格登山で180分

 2014年に大噴火をおこした御獄(おんたけ)山ですが、その美しい景観から人気は途絶えません。日本で最も高い2905mにある湖・二ノ池の湖畔には、年によっては万年雪が残ります。独特のエメラルドグリーンの火口湖と万年雪のコラボが登山者に人気です。

北岳

●万年雪コンディション:△
●到達難易度:△(本格登山)
●所在地:山梨県南アルプス市
●アクセス:中央本線甲府駅からバスで120分で広河原⇒広河原より本格登山180分

 日本で二番目に高い北岳(3192m)の登山道コース内にある雪渓。夏山登山で雪(氷)の上を歩けるコースとして人気ですが、アイゼンは必須です。20年ほど前までは万年雪でしたが、近年は溶けて翌年まで残らない年も増えているようです。

越後山脈・出羽山地の万年雪

 新潟〜山形にかけての日本海側の2000m級の山地に、万年雪が残ります。月山や鳥海山が有名ですが、飯豊山や越後山脈も万年雪ができやすい条件がそろっているところです。

一ノ倉沢

●万年雪コンディション:○
●到達難易度:○(軽装ハイキング)
●所在地:群馬県みなかみ町
●アクセス:JR水上駅よりバス30分でロープウェイ土合口駅まで。そこから徒歩約60分

 谷川岳の一ノ倉沢にある雪崩形雪渓。日本三大岩壁のひとつ一ノ倉沢は多くの遭難者を出す危険な絶壁としても知られていますが、谷の下までは気軽に行くことができます。ロープウェイの山麓駅・土合口駅からハイキング程度の軽装で徒歩1時間ほど歩き雪渓の絶壁を見上げる谷下へ。過去83年間で4回消失したことがありますが、ほぼ万年雪と言える雪渓です。

八海山〜荒沢岳付近の万年雪

 魚沼と奥只見湖の間に位置する、八海山〜越後駒ヶ岳〜荒沢岳一帯は豪雪地帯の2000m級の山々で、数多くの雪渓があります。国土地理院の地図に記載されている万年雪記号だけでも30カ所。温暖化のためもあり、地図に万年雪記号があっても雪が残っていなことも多いようですが、そのうちのいくつかは年により万年雪として越年します。雪が多い翌夏が冷夏だったりすると、有数の万年雪エリアとなることが推定されます。

越後駒ヶ岳の万年雪

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:△(本格沢登り)
●所在地:新潟県魚沼市
●アクセス:【駒ノ湯山荘まで】JR上越線 小出駅バス30分、関越自動車道小出IC30分 【駒ノ湯山荘より】車道1時間、沢登り1時間半

 越後三山のひとつ越後駒ヶ岳(2003m)には多くの雪渓がありますが、佐梨川上流の桑の木沢雪渓は、比較的アプローチしやすい万年雪です。北西部の絶壁に囲まれた深い谷、桑の木沢の標高800m付近の雪渓にある長さ300m前後、幅60m前後の雪渓。駒ヶ岳登山口の駒ノ湯山荘から佐梨川に沿って車道を3km進み、そこから渓流釣りの踏み跡を辿りながら、いくつもの滝を見ながら1時間30ほど登ると、雪渓にたたどりつきます。雪渓は囲まれた急峻な崖からの雪崩が積もってできた雪崩形雪渓。10年一度ほどのペースで夏に消失することがあります。

中荒沢(銀山平)の万年雪

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:○(軽装ハイキング)
●所在地:新潟県魚沼市
●アクセス:【銀山平キャンプ場まで】JR上越線浦佐駅から奥只見壱岐バス、小出IC奥只見シルバーラインで40分 【銀山平キャンプ場から】軽装ハイキングで40分

 越後三山の東に位置する荒沢岳(1969m)の北の谷、中荒沢の万年雪は、軽装で気軽にトレッキングでき、真夏に冷んやりした雪渓のうえを歩けます。銀山平キャンプ場内の登山口から40分ほどで雪渓の展望台へたどりつきます。入山料200円が必要ですが、軽装で気軽に観に行くことができます。雪渓と夏秋の高山植物が咲き乱れる花が豊な万年雪です。10月初旬の紅葉時期には雪渓と紅葉と高山植物が入り混じる不思議な光景が見られます。

飯倉連山の石転び沢雪渓など

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:△(連泊の本格登山)
●所在地:
●アクセス:登山道入口までJR磐越西線山都駅からバス50分、 弥平四郎登山口・JR磐越西線徳沢駅からバス50分 登山行程10時間以上(2〜3泊)

武藤 貴之さん(@mutotakayuki)がシェアした投稿

 東北のアルプスと呼ばれる2000m級の飯豊(いいで)連山。豪雪地帯のため、万年雪を抱きどっしりとした山容に魅了される山です。密教の修行地で信仰の山としても知られています。飯豊山や、御西岳から大日岳には万年雪の雪原と高山植物のお花畑のコラボした不思議な景色が広がります。また、石転び沢雪渓は北アルプスの雪渓に匹敵する規模と迫力があるものとして登山家には人気があります。飯豊山登山は、連泊の縦走が基本となるため、通好みの登山ルートです。

月山の大雪城

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:○(初心者可の登山)
●所在地:
●アクセス:【月山口まで】山形駅よりバス50分、山形自動車道【月山口から】シャトルバス30分で月山リフト口。リフト約15分で

 豪雪地帯の月山(がっさん)。森林限界が低いため、標高1500m〜1900mでも高山の草原とお花畑が広がります。リフトで1,500mまで上がれるため、気軽に尾根伝のトレッキングを楽しめる山です。初夏まで谷筋には多くの残雪が残り、高山植物のお花畑と雪の美しい風景は人気があります。なかでも山頂下の南東面にある大雪城(おおゆきしろ)は代表的な万年雪で、15m〜30m以上の冬のあいだの積雪が、万年雪となっています。お盆すぎまで夏スキーができ、9月には初冠雪と、まさに万年雪の代表とも言えます。
 また、雪どけの水は、ブナ林のフィルターを通して名水として、麓にコンコンと湧き出しています。万年雪や雪渓が水源としても機能していることがよくわかります。

鳥海山の心字雪雪渓など

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:△(本格登山)
●所在地:
●アクセス:酒田駅または酒田中央ICより車で1時間で鳥海高原ライン車道終点。そこから心字雪雪渓まで1時間半ほど。山頂までは2時間半ほど。

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 鳥海山(新山2236m)には、多い年で20もの万年雪があります。
 なかでも、酒田の町から見ると「心」の字に見える「心字雪雪渓」は江戸時代から親しまれてきました。また、ふきだまり雪渓としては日本最大規模の大股雪渓があります。貝形雪渓も有名で、こちらは消失する年も多い多年生雪渓ですが、雪渓内部に小さな氷河が形成されることもあります。心字雪を見るコースとしては、公園道路の車道終点(標高約1200m)から新山まで4時間ほどかけて登るルートがあります。雪渓が多い鳥海山登山は夏山でも軽アイゼンは必須で、中級者以上向けの登山コースです。

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北海道の万年雪

 北海道は夏が短く万年雪が多そうなイメージですが、標高が高い山が少ないため、大雪山や北見山地・利尻島だけに万年雪が見られます。

大雪山・雪壁雪渓など

●万年雪コンディション:◎〜△
●到達難易度:△(中級以上向け本格登山)
●所在地:北海道東川町
●アクセス:【雪壁雪渓の例】石北本線上川駅より車90分大雪高原温泉。そこから4時間ほどの登山で雪壁雪渓へ。

 北海道の大雪山系(層雲峡のある黒岳からトムラウシにかけて)には、標高1600m〜2200mの間に多数の雪渓があり、多年性の雪渓も数多くあります。なかでも有名なのは、高根ケ原東斜面の雪壁雪渓、北鎮岳北部、白雲岳北部、白雲岳から忠別岳への稜線の東、トムラウシ山のヒサゴ雪渓などです。いずれも、山頂付近の谷などの窪地にたまった雪が溶けずに残る「吹きだまり型」の雪渓です。大雪山系は夏山遭難やクマ被害のリスクが高く、いずれの雪渓も観に行くには本格的な登山の経験・技術・装備が必要です。

北見山地ウエンシリ岳の万年雪

●万年雪コンディション:△
●到達難易度:×(上級者向け本格登山)
●所在地:北海道西興部町
●アクセス:宗谷本線名寄駅よりバス60分西興部バス停から車30分 3〜4時間ほどの登山で氷の雪渓へ

 ウエンシリ岳 (1,142m)東面の越年生雪渓(年により越年)は、夏の間、雪渓底部が溶け、トンネル状になることから「氷のトンネル」と呼ばれています。

利尻島ヤムナイ沢の万年雪

●万年雪コンディション:◎
●到達難易度:○(軽装ハイキング)
●所在地:北海道利尻富士町
●アクセス:港や空港のある鴛泊/沓形から車20~20分で島南部の鬼脇地区へ。林道を車で40分、山道から沢伝いに登り40分。

 利尻島の独立峰利尻富士(1721m)は北の海にそびえる高山植物が咲き乱れる美しい花の山ですが、南島斜面標高300~400mの位置には小規模な万年雪があります。アイヌ語で冷たい川と呼ばれる「ヤムナイ沢」の万年雪で、とても神秘的な風景は人気のあるポイントです。所要時間数時間(徒歩は1時間強ほど)のトレッキングツアーを利用すれば気軽に訪れることができます。

その他各地の小規模な万年雪

 ここまで、山岳地帯の雪渓の万年雪を主に紹介してきましたが、この他にも小規模な万年雪が各地で確認されています。これらの小規模万年雪は温暖化の影響で存続が危ぶまれるものもあります。

富士山の万年雪

●万年雪コンディション:△
●到達難易度:○(本格登山)
●所在地:
●アクセス:富士五合目より本格登山で7時間

 富士山のてっぺんは雪に覆われているイメージですが、夏の間は、基本的に雪の無い岩だらけの山になります。万年雪は剣が峰北の火口斜面と、9合目万年雪荘裏などごく一部に限られます。近年は年により万年雪とならないことも。

白山千蛇ヶ池の万年雪

●万年雪コンディション:○
●到達難易度:○(本格登山)
●所在地:石川県白山市
●アクセス:【別当出合登山口まで】金沢駅からバス200分、北陸自動車道白山I.Cより1時間【別当出合登山口より】登山5〜6時間

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 白山(2702m)は富士山・立山とならぶ日本三名山のひとつで信仰の山としても知られます。山頂付近の千蛇ヶ池(せんじゃがいけ)の脇には、ふきだまりの万年雪があり、白山を開いた泰澄上人が、悪い蛇を千匹閉じ込め雪でフタをしたという伝説があります。近年、千蛇ヶ池の池の中に夏でも氷があることがわかり、池の底は永久凍土になっているのではないかとされています。その一方、温暖化で万年雪が50年以内に消失してしまうのでは?とも危惧されています。
 白山の万年雪はごく限定的で小さなものですが、白山は春先の残雪が豊富な山です。ただ、3月中旬以後の春先に雲に隠れてしまい残雪をいただいた姿はふもとから年に数回しか確認できないことから、幻の残雪ともされ、霊山の趣きをいっそう幻想的なものとしています。

鐘釣の万年雪(黒部万年雪)

●万年雪コンディション:△
●到達難易度:◎(黒部鉄道駅よりすぐ)
●所在地:富山県黒部市
●アクセス:富山地方鉄道宇奈月温泉駅⇒黒部峡谷鉄道宇奈月駅より55分で鐘釣駅。

 黒部峡谷鉄道の鐘釣(かねつり)駅から、川を挟んで東側に、黒部万年雪があります。これは百貫山(1969m)から続く百貫谷の雪が、黒部川になだれ込んで、万年雪となったものです。黒部峡谷鉄道を途中下車して見る人も多い、気軽にアクセスできる万年雪として貴重なものですが、年によっては8月で消失してしまうこともあります。

伯耆大山

●万年雪コンディション:○
●到達難易度:△(本格登山)
●所在地:鳥取県大山町
●アクセス:【大山寺まで】山陰本線米子駅から50分、米子ICより15分 【大山寺から】本格登山5時間

 中国地方鳥取県の秀峰伯耆大山(ほうきだいせん)は標高1729mで、なおかつ西日本という温暖な地域としては不思議なことに万年雪があります。南壁の二ノ沢ゴルジュや北壁の「砂滑り」です。なかでも、滑走する下山道として有名な北壁の「砂滑り」は、雪渓の上に砂が積もっているもの。ふだんは雪は見えませんが、大雨などで砂が流された跡に、万年雪が露出することがあります。いずれのポイントも落石など多い急な沢ですので、沢登りなどの経験やある程度の装備が必要となります。

柵口(ませぐち)の万年雪

●万年雪コンディション:△
●所在地:新潟県糸魚川市

 権現岳(1104m)の東斜面にある45度の急斜面の1トン弱という極小の万年雪。集落や畑から数キロの位置にあるめずらしいもの。過去に集落を雪崩が襲った災害のあった地域で、雪崩を誘導する堤防などもある。

白神山地

●万年雪コンディション:△
●所在地:青森県鯵ケ沢町

 白神山地、菱喰山(ひしくいやま)の沢筋の標高500m付近にある万年雪。トラック一台程度の極小の万年雪で、世界最小の氷河とも言われています。

万年雪のでき方

 万年雪はどんな場所にできるのでしょうか? 世界的な万年雪や氷河の分布を見ても、日本は緯度や標高が低いわりには、案外、多くの万年雪があります。万年雪が出来る条件は、必ずしも緯度や標高だけではないわけです。

 万年雪ができる条件として、次のようなものがあげられます。

万年雪が作られる条件

・豪雪地帯

・雪崩が凝縮される深く急な渓谷

・冬期に風下で、雪が積もりやすい谷間(主に東面)

・夏の日射が少ない、北東面

・標高が高い

・気温が上がりにくい高山の池の周囲

 こうした条件が重なった場合に、万年雪が形成されます。より厳密に言えば、雪崩が降り積もって作られる「雪崩型」と、吹雪の雪が積もる「吹き溜まり型」、さらにそれぞれの組み合わせで、いろいろなタイプに分類されます。このことは、万年雪のでき方が、決して単純なものではなく、絶妙な条件が組み合わせたってできていることがわかります。

 日本の万年雪は、標高が1000ⅿに満たないところにも多く存在しているため、とくに繊細な万年雪だと言えるでしょう。

万年雪の歩き方

 万年雪の雪渓には、登山ルートの一部になっているものも少なくありません。

 雪渓の上は、原則、ふつうのトレッキングシューズでは歩くことはできませんので、アイゼンの装着は必須です。

 春先の雪渓や夏の万年雪を歩くルートは、涼しくてとても魅力的なトレッキングです。しかし、雪渓の上は想像以上の滑りやすいものです。とくに、雪渓を横切る場合(トラバース)は、重心もとりにくく滑落する危険がとても高いので、アイゼンは必須だと考えましょう。

 真夏の登山では、雪渓にクレパスの穴がぽっかり開いていることも多く、足を滑らせてクレパスの穴に落ちれば、生還が難しいことも考えられます。

 万年雪を歩く場合は、地元の状況に詳しい人から情報を得るなど、万全の体制で望む必要があります。不安な人は、ネイチャーガイドツアーなどに参加しながら、万年雪トレッキングに挑戦してみましょう。

 

 

 以上、日本の万年雪と氷河について見てきました。ここで紹介したもの以外にも、8月下旬〜9月には消えてしまうものの、夏まで残雪が残っている雪渓は数多くあります。

 春や初夏にも雪山登山やバックカントリーを楽しめてしまうのは、とても貴重な環境です。万年雪や氷河に注目しながら、ほんとうに表情が豊な日本の自然を味わいましょう。

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