素潜りのコツと安全のための知識。シュノーケリングからの素潜り入門
2019/08/04
ボンベを付けずに、体ひとつで海の中を自由に泳ぎ回る、フリーダイビングやスキンダイビングが人気です。
本格的なフリーダイビングには、専門的な訓練が必要ですが、シュノーケリングの延長で、3~5mくらい潜る、いわゆる「素潜り」なら、独学でもなんとかなります。
この記事では、シュノーケルをしながら、数メートル程度、軽めに潜ってみる場合の、コツや注意点について、述べていきます。たとえ数メートルだからといって、何も知識がないまま潜ってしまうのは、とても危険です。逆に、リスクについて知っておけば、数メートルの素潜りであれば、比較的気軽におこなえます。
海面から水中を眺めるだけでなく、水中に潜ることで、違った海の風景に出会えます。素潜りのコツを覚えて、海に包まれた最高の癒し感覚を味わってみましょう。
【注意事項!!】
遊泳中の事故は、すべて自己責任です。水深5m程度の素潜りなら、手軽にはじめられますが、それなりのリスクがあります。少しでも不安がある人はスキンダイビング教室やツアーに参加して素潜りの実施講習を受けるようにしてください。当サイトの情報はあくまで閲覧者様の自己責任でご活用ください。
素潜りの楽しみ
ちょっと潜るだけで、海中の絶景に出会える
シュノーケルリングに慣れてくると、少し海のなかに潜ってみたくなるものです。(シュノーケリングそのものの初心者はまず⇒『シュノーケルを安全に楽しむために』)の記事を必ず先にお読みください。
まわりにシュノーケルの中級者がいて、その人がスイスイ潜っていくのを見て、自分もやってみたくなることもあるでしょう。
実際、潜れるようになると、シュノーケリングの楽しみは倍増します。
たとえばサンゴ礁地帯でシュノーケルをしている時は、美しい薄紅色のハナゴイが群れるユビエダハマサンゴの根が、数メートル下の海中にあったりします。わずか数メートル潜ることで、リーフ内やリーフエッジの水深が1m前後の浅いところには無いタイプのサンゴや魚種を、間近に見ることができるのです。
また、上から眺めるのと、水中のサンゴに近づいて見るのとでは、まったく風景が違います。潜ってサンゴにすぐ顔を近づけるように見るだけで、魚たちの表情がわかるような、そんな感じになります。上から見ていてはわからない、魚たちが泳ぐ姿を真横から間近に見れるのも新鮮です。
水中に光が射し込む様子を楽しむのも、素潜りならではです。光の帯と色とりどりの魚やサンゴが織り成す風景は、まさに竜宮城。とても美しく時に神秘的で、海面から見るのとは違った風景です。
そしてなによりも、慣れてくると、水中に「潜るという行為そのもの」がとても楽しくなってきます。水に包まれた感触は、何ものにも替えがたい至福感を味あわせてくれるのです。
素潜りは独学で大丈夫?
本格的なフリーダイビングでは、ボンベなしでどこまで深く潜れるか?どれだけ長時間潜れるか?にチャレンジします。こうした本格的なフリーダイビングをはじめるには、ダイビングスクールなどの主催する教室で、きちんとした指導と訓練を受けるべきです。
しかし、シュノーケルをしている流れで、軽く数メートルだけ潜る程度の「素潜り」であれば、とくに講習を受けずに独学でやっている人も、たくさんいます。
たとえば、海の近くに住む島の子供とかは、小さい頃から海で遊んでいるうちに自然に素潜りを覚えてしまいます。
私自身、かつて沖縄にリゾバをしながら住んでいた時に、シュノーケリングと簡単な素潜りを遊んでるうちに、覚えてしまいました。その時の友達も、泳ぎが得意な子であれば、とくに講習を受けることなく、みな3~5mくらいは潜れていましたので、なんとかなるものなのです。
ただし、注意したいのは、3~5mくらいだからといって、何の予備知識もなく潜るのは、たいへん危険だ、ということです。
3mというと、身長の倍くらいで、たいした深さでないように思うかもしれないですが、実際に潜ると、なかなかの深さです。ふつうの家の2階までの高さが2.5mぐらいですので、水深3mは、あんがい深いです。
水深5mともなると、信号機の高さになります。実際5mまで潜るには、かなりの慣れが必要ですし、水圧もけっこう感じてきます。
水深3m~5mとはいえ、息を止めて水中に長く潜る以上、ブラックアウトの可能性など、知っておかなければならいリスクもあります。
素潜りだからといって甘くみないで、以下にのべる知識をきちんと身に着けて、自分自身でひとつひとつ確認しながら、安全に素潜りを覚えていきましょう。
【大前提1】海での泳ぎに慣れていること
【大前提2】⇒シュノーケルクリアを浅いところでマスターしておく。
・ジャックナイフで潜る練習。
・耳抜きは必須。必ず地上で練習をしてから
・潜る深度や潜水時間は慣れながら段階的に増やしていく
・余裕を持ち、ギリギリまで潜らないこと(ブラックアウト対策)
・リラックスするためにレスキューブイを用意するなど安全確保を確実に
・体調万全で潜る
これらのコツや注意点について、以下に詳しく見ていきましょう。
素潜りのコツ~潜り方
すぐ浮いてこないようにするコツ
本格的なスキンダイビングでは、ウェイトを付けて沈みやすくして潜ります。ウェイトには、ウェットスーツの浮力を打ち消す目的もありますが、スキンダイビングの上級者になると、水深10m付近で中性浮力(水中で浮きも沈みもせずバランスがとれる状態)が出るようにウェイトの重さを調整していきます。
ところが、シュノーケルの延長で数メートル素潜りする場合は、ウェイトを付けづに潜りますので、「浮きにくくするためのコツ」を、まず覚える必要があります。
3m~5mの海中では、人間の体は浮力がとても強いので「がんばらないとすぐ浮いてくる」状態になります。シュノーケリングの時はフィンを付けているので、フィンの浮力もあって、いっそう浮きやすくなります。
プールで潜水する時の、けっこう力を込めて泳ぎ続けていく感じをまずイメージしてみましょう。止まるとすぐ浮いてきてしまいますよね? 海のなかでは、プール以上に浮きやすいので、潜ろうと思っても、すぐ浮いてきてしまうのです。
素潜りでは、できるだけ長く海中に滞在して、海中の景色を楽しむのが目的です。きばって泳ぎながら潜行をキープするのではなく、リラックスしながら、浮かないようにしたいものです。
そこで、ウェイトを付けづに潜水する時には、「頭の重たさを利用」するのが、最大のコツになります。
頭の重たさを利用した潜行の方法として有名なのが「ジャックナイフ」です。
ジャックナイフのコツ
ジャックナイフは、海のなかで逆立ちをするようにして、頭を下にする潜り方です。頭の重たさを利用して、できるだけ少ない労力ですんなり潜っていける、素潜りならではの潜り方です。
ジャックナイフは次の手順で行います。まず、おへそを見るようにして、上半身を垂直に曲げます。曲げすぎると、でんぐり返しのようになりますので、ちょうどよいところで、背筋を伸ばして一直線になるようにイメージします。そうすると、スッと海面にフィンの先が出た状態になります。
海面の状態が穏やかな場合は、そのまま一瞬待つようにすると、頭の重みで、フィンが海中に沈んでいきます。それから、フィンで漕いで潜っていきます。
慣れていないと、フィンが水面より上に出ているうちから、足を漕いでしまいますが、空中を蹴るぶん労力が無駄です。素潜りでは、酸素をできるだけ消費しないように、無駄な動きをしないことが鉄則です。慣れたシュノーケラーのフィンは、パシャパシャさせずに、そのままスッと沈んで行ききます。
ところが、これはあくまでも海面の状態が静かで、波や海流の流れがほとんどない時の場合です。
波や潮の流れがある時は、ジャックナイフで逆立ちの姿勢になった瞬間フィンが流されて態勢がくずれてしまうのです。体が斜めになってしまうと、浮力が生じて、すぐ浮いてきてしまいます。
ですので、波や潮の流れがある時は、逆立ちの姿勢を崩さずキープすることがポイントになります。そのためには、逆立ち姿勢になると同時に、足を蹴るか、あるいは、手でひとかきして、フィンを水中に沈めて、積極的に潜っていくようにします。そうすれば、流れや波に足をすくわれずにすみます。
素潜りの練習に焦りは禁物~リラックスできるまで慣れる
さて、逆立ち姿勢になり、フィンが海中に沈めば、あと3~5漕ぎすれば水深3m、8~10漕ぎくらいすれば、水深5mくらいに達します。もちろん、「耳抜き」をしながら潜っていきますが、耳抜きについては、また次の項で説明します。
フィンの大きさ、潮の流れ、個人のキックのパワーによって漕ぐ回数は違ってきますが、案外、少ない回数で、どんどん潜っていくことができます。
ジャックナイフの場合、頭を下にすることで頭が重しになり、垂直に潜っていくことで、少ないパワーですいすい潜れていくのが実感できると思います。プールでやる潜水のように斜めに3mから5m潜ろうとすると、それだけでへとへとで途中で息も切れてしまいますが、ジャックナイフで逆立ち姿勢で潜れば、3mや5m地点に着いても、まだまだぜんぜん息の余裕があるわけです。
もちろん慣れないうちは、緊張のあまり、必要以上に酸素を消費してしまうため、潜ったらすぐ息苦しくなり、反射的にすぐ浮上してしまうでしょう。もちろん、素潜りに無理は禁物ですので、はじめてやる場合は、むしろ、水中で滞在しようとせず、すぐ上がるくらいがちょうどよいでしょう。
とにかく素潜りの練習で、焦りは禁物で、マイペースで一歩一歩、自分自身のセーフティーゾーンを確認しながら、少しずつ、潜る深さや時間を延ばすようにしてください。
実際にやってみれば、何度かジャックナイフで潜る練習を繰り返しているうちに、緊張が解けてくるのが実感できるでしょう。リラックスできるようになると、潜ったあとも、水中で滞在する時間が、自然と長くとれるようになってきます。
水中でとどまるには
ウェイトをつけていない状態で水中でとどまるには、
1・そのまま逆立ちの姿勢をキープする
2・岩などに捕まり浮かないようにする
3・水平に泳ぎながらとどまる
などの方法があります。
水平姿勢をキープしようとすると浮力を打ち消すためにエネルギーを使ってしまうので、逆立ちしたままの状態を保つのが長く水中に滞在するコツのひとつです。ただし、耳などに違和感を感じる場合は、ふつうの体制にもどしましょう。
また、浮かないように岩などにつかまることもあります。注意したいのは、つかまる岩がサンゴやサンゴの残骸だと、どうしても破壊してしまうので、硬い岩を慎重に見分ける必要があります。また、つかまる場所にハブ貝やオコゼなどの危険生物がいるかもしれません。初心者は無暗に岩などにつかまらないで、ある程度余裕が出てきてからにしましょう。
さて、息に余裕が出てくると、ジャックナイフで潜ったあと、水中を水平に泳いで移動することができるようになります。この時、頭の重たさを利用して、斜め下に頭を入れるようにして泳ぎます。体を水平にしたとたん、どうしてもすぐ浮いてくるので、また頭を下方に突っ込むようにして、浮くのを防ぎます。実は、この動きに近いのがドルフィンキックです。シュノーケラーがドルフィンキックを好んで使うのは、推進効率が良いのと、浮きにくい泳ぎ方だから、というのもあるわけです。もちろん、ドルフィンキックが苦手な場合は、バタ足でも構いません。その場合でも、頭を下方に突っ込んでいくようにしながら泳ぐと、浮きにくくなり、快適に水中を進むことができます。
水平にフィンを動かしながら水中を泳ぐ場合は、サンゴなどを傷付けないように、細心の注意をはらうことはもちろんです。
素潜り時のシュノーケルの使い方
シュノーケルはくわえたまま潜る?
シュノーケリングで素潜りをする場合は、シンプルなシュノーケルを使うべきです。弁がついたドライシュノーケルは、素潜りでは、安全のため使わないほうがよいと思います。弁がなく波よけだけのドライトップなら素潜りしても大丈夫です。シュノーケルの選び方についてはシュノーケル入門〜シュノーケルの種類の記事を参照してください。
素潜りをする場合、弁付きのシュノーケルは原則使いませんので、きちんとシュノーケルクリアができることがまず大前提です。シュノーケルクリアがよくわからない人は、必ずシュノーケル入門〜シュノーケルクリアの練習方法を読み、練習してください。
さて、シュノーケリングからの素潜りで、疑問が多いのが、潜水中シュノーケルをくわえたままにするかどうか?です。
シュノーケリーングで数メートルの素潜りをする場合は、ふつうは、シュノーケルをくわえたままにします。本格的なフリーダイビングで10mなど深く潜る場合は、シュノーケルを外して口を完全に閉じて安全を確保します。しかし、5mくらいまでであれば、シュノーケルをくわえたまま潜り、水中から目を離さずに息継をすることができます。
はじめて素潜りに挑戦する場合は、まずジャクナイフと耳抜きをマスターすることに集中するため、はじめからシュノーケルはずして練習するのも、ありです。
ただ、最終的には、シュノーケルをくわえたまま潜れるよう、練習しましょう。そのほうが、なにかと便利で快適です。
素潜り時のシュノーケルクリアについて
シュノーケルをくわえたまま潜水した場合、もちろん息継ぎの前には、シュノーケルクリアが必要です。
潜水に慣れないうちは、海中から帰ってきた時にシュノーケルクリアをするための空気が残っていないように感じるかもしれませんが、たとえ酸素は少なくなっていても、空気は必ず残っていますので、慣れてくれば全然問題ありません。また、素潜り中は、あまり息をはかないので、酸素は減っていても、空気は残っています。
10mなど深くもぐる場合は、息を強く吹き出す一般的なシュノーケルクリアでなく、水中置換法(ディスプレイスメント方法)という方法でクリアします。ディスプレイスメント法は少ない息でクリアが可能で体内の急激な圧力変化によるブラックアウトを避けるために利用しますが、5m程度の潜水であれば、通常のブレスト式のシュノーケルクリアで充分です。
そもそも、競技としてスキンダイビングをやるのでなければ、息が続くギリギリまで潜るべきではありません。シュノーケリングの延長で素潜りをする場合は、安全を確保するために、少し余裕をもって浮上するべきです。シュノーケルクリアのぶんの息を残しておくイメージで、はやめのタイミングで浮上するようにしましょう。
シュノーケルをくわえたまま潜る場合のコツ
シュノーケルをくわえたままで潜る場合、口は開けっぱなしの状態になります。実際に潜ってみるとわかりますが、不思議なことに、口を閉じなくても、溺れることはありません。
口の入り口付近までは海水が入ってくるのですが、敢えて飲まなければ、それ以上は入ってこない、そんな状態です。
はじめてシュノーケルをくわえたまま潜る場合、いちばん不安な部分はこのあたりでしょう。慣れてしまうとあまり考えなくなりますが、はじめての場合は、充分な練習が必要です。必ず、素潜りをする前に、足が着くところで何度か練習をするようにしてください。また、とうぜんのことですが
必ずシュノーケルクリアが完璧にできるようになってから、ジャックナイフでの素潜りに挑戦するようにしてください。(シュノーケルクリアの練習について、詳しくは「シュノーケルクリアの練習方法」の記事を参照してください)
それから注意したいのは、耳抜きです。シュノーケルをくわえて口をあけっぱなしの場合では、口を閉じた状態と、耳抜きの感触がだいぶ違ってきます。耳抜きについては次項で詳しく述べますが、必ずシュノーケルをくわえた状態で耳抜きの練習をしておくこと、これは、必ず守ってください。
なお、10m前後以上の水深を潜る場合は、万が一ブラックアウトした時に備えて、シュノーケルははずして、口を閉じて潜る方が良いとされています。
素潜りの必須技術~耳抜き
耳抜きのコツと練習
耳抜きは、ダイビングでも素潜りでも、潜水する場合の必須スキルです。耳抜きとは、耳の中の空気圧を調整することで、たとえ3m~5mの深さでも、しっかり耳抜きをしないと、たいへん危険です。
耳抜きを怠ると、最悪、鼓膜が破れてしまいます。鼓膜は破れても再生するからまだよいのですが、耳抜きを怠ることで、潜水中に三半規管に異常をきたし平衡感覚を失い溺れてしまうことがあります。
耳抜きは個人で感じ方が違うようで、簡単にできる人もいれば、なかなかコツがつかめない人もいて、個人差がはげしいものです。基本的には、あくびをかみころすあの感覚です。まずは、地上で、鼻をつまんであくびをかみころす練習をくりかえすと、自然と耳抜きが身についてくると思います。
また、ジャックナイフで潜行する場合、頭を下にしての耳抜きはやりにくい、と言われています。個人差はあるようですが、そのことも頭に入れておきましょう。ジャックナイフに挑戦するには、充分に耳抜きができるようになってからが安全です。
・基本はあくびをかみころす時の耳の奥の動き
・まずは地上で鼻をつまんで練習。
・次にマスクをつけシュノーケルをくわえた状態(口が開いた状態)で練習。
・斜めに1~2mもぐりながら耳抜きの練習を何度かする。
・両耳が確実に抜けるように。抜けにくい側の耳を上にするよう顔を傾けると、抜きやすくなる。
・上記ができるようになってから、ジャックナイフで潜りながら耳抜きをしていく。
耳抜きは、習うより慣れです。地上でも練習できますので、苦手な人は、日頃から鼻をつまんで耳抜きの練習に取り組んでください。
耳抜きの回数
耳抜きを何度やればよいか?は個人差がありますが、耳抜きは、一度だけではなく、潜りながら何度も行うのが基本です。
耳が痛くなる前に耳抜きをするのが原則です。慣れてくると、あまり考えずに、癖のように耳抜きをするようになってきます。
私(筆者)の場合、だいたい3mまでなら最低2回、5mまで行くときは4~5回耳抜きしていると思います。その日の体調とかによって耳抜きの回数も違う感じがします。「ズコッ」と耳抜きが決まる時もあれば、「スンスン」となんとなくしか耳が抜けない日もあります。なんとなくの日は多めに回数をしていると思いますが、結果として、5mでも耳が痛くなっていないので、耳抜きできているはずです。逆に、耳が痛くなるなら、耳抜きができていない、ということです。
深度を深めていくには、息が続くか?がもちろん大きな要素ですが、耳抜きがきちんとできるか?もとても大事です。逆にいえば、耳抜きを繰り返していきさえすれば、どんどん深いところに潜っていけるようになります。
まずは水深3mまでで耳抜きが完璧にできるようにしてから、5m付近まで進めていくようにしましょう。
息が長く続くコツ
素潜りでもっとも大事な部分は「息がどれくらい続くか?」です。ただ、シュノーケルの延長で素潜りをする場合は、「決して無理をせず、余裕の範囲で潜る」ということを徹底しましょう。
競技としてのスキンダイビングやフリーダイビングに取り組む場合は、息の長さを競い、その限界に挑むために、科学的・医学的な専門知識をもとに、さまざまな訓練を積んでいきます。
シュノーケリングで素潜りの場合は、そこまでの専門的な訓練はしないため、あくまで自己責任で、余裕の範囲で潜るようにしましょう。
さて、シュノーケリングで息が長く続くためのポイントは、次の二点です。
・ゆっくり動く
・安全・安心を確保する
まず大切なのは「ゆっくり動く」ことです。ウェイトを着けない素潜りでは、水中に潜っている間は、浮力に対抗していかなければなりません。そのためそれなりのエネルギーを使う必要があるのですが、初心者はどうしても動きに力が入ってしまいます。力が入れば入るほど、酸素を消費してしまい、息が続かなくなります。
逆に言えば、リラックスすればするほど、長い時間潜水を続けることができるのです。
素潜りのフィンの長さはどれくらい必要?
すくない酸素消費量で長く潜るためには、フィンの長さも、大きなファクターになります。
フリーダイバーが、長さ1m以上もあるロングフィンを使うのも、もちろんできるだけ少ない酸素消費量でより深くもぐるためです。
ただ、フィンが長いとそれだけ漕ぐ力は必要になり、慣れていないと、フィンが長いためかえって体力を使ってしまうこともあります。
水深5m程度までのシュノーケリングの素潜りであれば50㎝~70㎝ほどの長さのフィンで充分ですし、それくらいの大きさのものが初心者にもバランスがとりやすいでしょう。
携帯用のフィンでは長さが30㎝ほどの短いものもあり、このクラスでは、さすがに潜る時に漕ぐ回数も増えてしまいます。短い携帯用のフィンを使う場合は、そのぶん潜水可能時間は短くなる、ということも知っておきましょう。
★水深5mくらいを潜るのにちょうどよいサイズのフィン。自分にしっくりくるフィンを選ぶのも、より長く潜るためのポイント |
リラックスするための安全確保とは?
シュノーケルでの潜水時間を延ばすために、もうひとつ重要なことがあります。それは「安心安全を確保する」ということ。
不安があると、どうしても緊張し、脈拍も上がり、酸素消費量が確実に増えてしまいます。
安心してリラックスできるように、その大前提となる安全を整えることが、とても重要なのです。
シュノーケルツアーに参加するのが最も安全です。が、いろいろな理由で、個人でシュノーケルに出かけることもあるでしょう。もちろんその際は100%自己責任になりますが、次のような方法で、安全を確保していきましょう。
・浮き輪やレスキューブイを準備…紐をつけて持って行く。シュノーケルポイントについたら海中の岩などに括り付けておくだけで安心。(紐が足にからまらないよう、太さや材質に注意)
・泳ぎに不安がある人を連れていかない…海では自分の身は自分で守るのが基本。素潜りを行う場合は、自分自身の安全管理に集中する。初心者を連れて行く場合は、自分は監督することを優先する。
・体調が悪い時はさける…体調に不安がある時の潜水は極めて危険です。低海水温による神経麻痺や、水圧による三半規管のトラブルなど、溺れる原因となるリスクが高まります。もちろん飲酒時は論外。
・潮の満ち干…あたりまえですが、必ず潮の状況や、満潮時間干潮時間を正確に把握しておく。
・気象の短期予報…こちらもあたりまえですが、必ず向こう数時間のポイント予報をチェックしておきます。海で天気が急変することはよくあります。サードパーティーの天気予報はタイムラグがあるので、必ず気象庁のサイトからレーダーや短期降水予報・短期雷予報を確認しましょう。
・慣れた海で泳ぐ…はじめて泳ぐポイントと慣れた場所で泳ぐ場合、緊張度が比較にならないくらい変わります。できるだけマイポイントを決めて、海中の地形を覚えるくらいになると、安心できるようになる。
・海中生物の知識…時として大型の魚やウミガメ、エイやサメ、ウミヘビなどに遭遇することがあります。海中ではより大きく見えることもあり、どうしても「ギョギョッ」となってしまいますが、予備知識は、「出るかもしれない…」という心がまえがあるだけでだいぶ違います。確率としてはほぼないと考えてもよいですが、万が一サメに出会った場合はどうするかも、あらかじめ自分なりに決めておきましょう
以上のような備えをしておくだけで、安心感や安全性がずいぶんと違ってきます。
もちろん、最低限の緊張感を保ことが前提ですが、リラックスすればするほど楽に長く潜れるのが素潜りのセオリーです。安心安全を確保して、潜りやすい環境を整えて、ぞんぶんに楽しみましょう。
★緊急時に紐を引っ張ると浮力体があらわれる「レスチューブ」も、頼もしい安心安全対策のひとつ。 |
ブラックアウトの基礎知識
素潜りで、もっとも怖いのがブラックアウトです。
潜水に慣れてくると、不思議なもので、「水中で息を止めていても苦しくない」と感じるようになります。このなんとも言えない不思議な感覚こそが、素潜りにハマるポイントなのですが、そこに最大のリスクがあることも忘れてはいけません。
ブラックアウトを簡単に言うと、潜水していて、既に酸素が無くなっているのに、そのことを感覚で意識できずに、潜水の途中で酸欠により気絶してしまうことです。
また浮上する時に、急激に減圧することで、血液中の酸素濃度が急激に変化して、瞬間的な酸欠状態になることでも起こります。
ブラックアウトしてしまうと、そのまま溺れてしまうか、もしバディーに発見されたとしても、気絶の長さによっては、脳に重大な障害が残る後遺症となります。
10m以上の本格的なスキンダイイビングを行う時には、浮上中の5m~3m付近でブラックアウト状態になることがしばしばあります。5m以上潜る場合は、ブラックアウトを防ぐために、専門的な訓練やスキンダイビングを行う環境づくりがとても重要になってきます。
さて、シュノーケリングの延長で3m~5mの潜水を行う程度の素潜りでは、ブラックアウトのリスクは比較的低いといってよいでしょう。ただ、慣れてきて息苦しさを感じなくなれば、100%無いともいえません。そのため、潜水時間には、常に余裕をもって行うことが、とても重要になってきます。
また、水深の浅い素潜りでも、5m付近から急激に浮上すると、減圧により、頭に血がのぼった感じになることがあります。ウェイトをつけていないと、つい急浮上になってしまいますので、手足を広げるなどして浮上時に少しブレーキをかけることも、安全に素潜りを楽しむコツのひとつです。
以上、シュノーケリングをしながら数メートル素潜りをするコツや注意点についてみてきました。
シュノーケルで潜水をする場合はあくまでも、水中のサンゴや海中生物を間近で見たり、水の中の光の感触や、水中の感触を楽しむことが目的です。
潜水時間や深度を追い求めるには、フリーダイビングの正しい指導を受ける必要がありますので、ぜったいにがんばりすぎないようにしましょう。友人同士で、潜水時間や深度を競ったりするのも、ぜったいにやめましょう。より長く、より深く潜りたくなった人は、ダイビングスクールなどが主催する、フリーダイビングの教室などに入るようにしましょう。
シュノーケルからの素潜りは、安全第一。しっかりと安全を確保して、安心してリラックスして海を満喫しましょう。