耐震基準と耐震等級の違い。木造とRC造で必要な耐震等級は違う?
2018/03/14
耐震基準は、建築基準法で定められていて、家を建てるときに守らなくてはならない決まりです。「地震で倒壊して建物の下敷きになる最悪の事態」を避けるために、法律で義務となっているのが耐震基準です。
一方、耐震等級は、地震が来ても、倒壊しないことはもちろん、無傷に近い状態で家が守られることを目標にした指標です。耐震等級は住宅の性能を示すものであり、義務ではありません。
ほんらい性格が異なる耐震基準と耐震等級ですが、現実には
耐震基準 ≦ 耐震等級
という形で、使われることが多いです。
この記事では、耐震基準と耐震等級の違いを整理しつつ、防災・減災の観点から耐震等級は何級が良いのか? また、木造と鉄筋コンクリートでの強度の違いはあるのか?など、誰もが最低限知っておきたい耐震基準と耐震等級の基礎知識についてまとめています。
耐震基準と耐震等級の関係とは?
耐震等級と耐震基準の違い
耐震基準と耐震等級は、どちらも住宅の耐震性にかかわるものです。耐震基準と耐震等級は、セットで用いられることが多いのですが、ほんらいは別々の法律にもとづく基準です。
ふたつの違いを、表にまとめてみました。
耐震基準 | 耐震等級 | |
法律 | 建築基準法 | 住宅品格法 |
施行年 | 1950年 | 2001年 |
強制力 | 義務 | 任意 |
目的 | 人命を守る | 建物も守る |
レベル | 最低限 | プラスアルファ |
RCの場合 | ほぼ問題ない | 1が多い |
木造の場合 | 不充分 | 3が望ましい |
優遇措置 | とくになし | 長期優良住宅 |
資産価値 | とくになし | 高まる |
どちらも建物の耐震性を表す基準なのですが、いろいろ違いがありますよね?
以下に、耐震基準と耐震等級の違いと関係について、詳しくみていきましょう。
耐震基準と耐震等級の関係
法律的には上記の表のように、本質的な違いがある耐震基準と耐震等級ですが、現実には、どちらもともに耐震性を表すものとして、紐づけたかたちで用いられることがほどんどです。
つまり、
……という理解の仕方が一般的です。
厳密には耐震基準と耐震等級はニュアンスが違うのですが、まずはざっくりこのような理解の仕方で問題ないでしょう。
現行の耐震基準は、
・震度7クラスで倒壊しない
・震度5〜6クラスで、ほとんど破損しな
い
ことを目標に定められています。
この耐震基準を満たしているものを耐震等級1とします。
そして、
耐震基準の1.25倍の強さは耐震等級2、1.5倍の強さが耐震等級3と定められています。
ちなみに耐震等級2は、学校など避難所に指定されれるレベル、耐震等級は消防署など防災拠点に指定されるレベルです。
・耐震等級1=耐震基準を満たしているもの
・耐震等級2=強度1.25倍
・耐震等級3=強度1.5倍
耐震等級ができた理由
さて、ここで疑問なのは、せっかく耐震基準があるのに、なぜ、それよりもさらに強力な、耐震等級2〜3が必要なのか……? ということです。
それは、耐震基準だけでは充分ではないからです。
実は、耐震基準をクリアしているからといって、耐震性が充分確保されているか?というと、そうでもないのです。とくに木造住宅では、耐震基準をクリアをしても地震で心配いら無いレベルにはなりません。
つまり、耐震等級1では不充分なのです。
耐震基準より上の耐震等級2級、3級が作られた理由のひとつは、そこにあります。
木造住宅の耐震基準と耐震等級
木造住宅の耐震基準は不充分
耐震基準=耐震等級1は、震度5で無傷、震度7で倒壊しないことが目標です。
ただ、これは、あくまで目標であって実際には、木造住宅では、この目標は達成されていません。
そもそも木造住宅は、地震のたびに倒壊するイメージがあると思います。
木造住宅に住んでいて「大地震が来たら崩れても仕方がない……」とはじめからあきらめている人もいるのではないでしょうか?
実際のところ、木造住宅の耐震性はどの程度なのでしょうか?
実は、地震で倒壊している家屋の多くは、震度7を想定しない1981年以前の旧い耐震基準で建てられたものです。(耐震基準の新旧については⇒「耐震基準の変遷」の記事を参照してください)
古い耐震基準の家屋が倒れてしまうのは仕方がないことで、いわば、想定内です。
一方で、新しい耐震基準の木造住宅であれば、倒壊する可能性がグンと少なくなっています。
つまり耐震基準を強化すれば、建物はそれだけ地震に強くなることは、間違いないのです。
しかし、新耐震基準であれば、震度7でもほぼほぼ倒壊しないか?といえば、そんなことはありあせん。
木造住宅は、最新の耐震基準でも、何パーセントかは倒壊してしまうのです。ちなみにRC(鉄筋コンクリート造)は耐震基準を満たしていれば、ほぼほぼ倒壊しません。RC造では、ほぼほぼ目標達成している耐震基準なのですが、木造住宅では、耐震基準が100%ではない、ということなのです。
先の熊本地震で震度7を2回連続で記録した震源地の益城町のデータでは、最新の耐震基準の木造住宅のうち7%が倒壊してしまいました。
木造住宅の最新の耐震基準は、阪神淡路ので経験とその対策を盛り込んで、2000年に改正されたものです。
あらためて木造の耐震化の難しさを知らしめる結果でした。
木造耐震基準はまだまだ試行錯誤中
そもそも、木造家屋に耐震性をもたせるには、どういう方法を用いるのでしょうか?
まず、柱や梁の結合部に強度をもたすために
補強金具を用います。また、家が横からの力に強くなるよう、随所に耐圧壁を入れて設計します。
このように補強金具や耐圧壁によって耐震性を増していくのですが、これらの耐震補強の量やバランスのとり方が、耐震性を微妙に左右します。
木造家屋は、鉄筋コンクリートのビルやマンションに比べて、形状や間取りも複雑なため、耐震対策のバランスをとることが難しくなります。
ですので、耐震基準をクリアしていても、微妙な設計上のバランスの取り方によって、震度7で倒壊する建物と倒壊しない建物が出てくるのです。
このあたりは、地震のたびに検証され、一歩一歩改善が進んでいます。
今回の熊本地震の後も、耐震基準の結果が検証されていることですので、近いうちに、熊本地震の結果をふまえた木造住宅の耐震基準がまた更新されるはずです。
このように、木造建築に限って言えば、耐震基準は、まだ試行錯誤している、過渡期的な段階だと言えるのです。
木造マイホームの「格差」
木造住宅の耐震基準は100%ではない……その現実をふまえて、耐震等級が設定されました。
木造建築のなかには、充分な柱や梁を使い、耐圧壁の量もしっかりと増やした、あきらかに耐震基準をはるかにうわまる丈夫な家屋もあります。
また、壁量計算ではなく、より複雑な構造計算をして設計した木造家屋もあります。
耐震基準をうわまわり、充分な耐震性をもった家を評価できるように、耐震等級2級、3級を設定したわけです。
耐震基準クリアの建物が実際に地震で倒壊している以上、「耐震基準クリア!」だけでは、住宅の耐震性をアピールできません。
たとえば、通常の木造建築よりも、耐震性の高い家を設計してほしい場合、「耐震等級3で設計してほしい」とオーダーができるようになっているのです。
木造住宅を新築する場合には、耐震等級は、いまや、はずせないマストの基準になています。
木造住宅においては、耐震基準クリアは、ほんとうに最低限の基準でリスクがあるレベル、一方耐震等級2・3は耐震性についてはある程度安心できるレベル、です。 もちろん、耐震等級を上げれば、それだけ設計や建築コストは上がります。
言い換えれば、金銭的に余裕がある人だけが、より安全な木造住宅を新築できる、というわけです。
マイホームを持つのにも、「格差」があるのは、これも、時代の流れなのでしょう。
木造住宅は耐震等級3がマストな理由とは?
震災後も住み続けられる指標が耐震等級
このように、耐震等級は、不充分な耐震基準を補うかたちで使われるようになったのですが、もうひとつ、耐震等級には重要な意味があります。
それは、震災の後も、住み続けることができるか? を基準にしているという点です。
耐震基準は、あくまで建物の倒壊を防ぎ、中にいる人の人命が守られることを目的にしています。逆に言えば、耐震基準が保証しているのは、震建物そのものはかろうじて崩壊しないということだけです。地震の後に、そのまま住み続けるかどうか?までは、耐震基準では考慮されていないのです。
それに対して、耐震等級は、地震で倒壊しないのはもちろん、その後も、住み続けることができるかどうか?をチェックする評価基準になっています。
耐震等級1の基準では、命は助かっても、家の再建に莫大な時間やお金がかかったり、最悪は、補修するコストがあわずに、持ち家を失う可能性が高いです。
また、家がかろうじて倒壊を免れても、地震直後の応急危険度判定で危険と判断されれば、自宅避難をすることもできません。マイホームがあるのに、避難所暮らしや仮設住宅で暮らさなくてはならないかもしれないのです。
このように、とくにマイホームでは、震災後にも、家としての機能をきちんと維持できるか?が、とても大切なことです。
だからこそ、「震災後も大丈夫」を保証するものとして耐震等級が制定されたわけです。
木造建築で必要な耐震等級は?
長期優良住宅は耐震等級2が必須だが…
ここまでの説明で、木造住宅では、建築基準法で定める耐震基準以上の耐震性が必要だということは、理解できたと思います。
とくに、いまから木造戸建てのマイホームを建築しよう、あるいは建売を購入しようと考えているなら、耐震等級2以上であるべきです。
またこれからは、借家でも耐震等級が公表される時代になってきますので、家を借りる場合も、耐震等級2以上を選んだ方が、震災時には、はるかに安全です。
国の住宅政策でも、耐震等級2以上を推奨しています。
2009年に定められた「長期優良住宅」は、新築したり、増改築したりするさいに、できるだけ長持ちする家を想定して設計・施工することで、税制上の優遇措置が得られる仕組みです。
これまでの戸建て木造住宅では、問題無く住める期間は25年〜30年ほどを想定していました。それに対して、長期優良住宅は75年〜100年は問題なく住めることを目標にしています。
長期優良住宅は、品確法にもとづいて、さまざまな性能を評価して認定されますが、耐震等級は2以上となっています。
これはつまり、「耐震等級2以上でないと地震で倒壊する可能性が高い」ということを国も認めていることともとれるわけです。
仕様規定と構造計算
ところが、熊本地震で、建築関係者を驚かせたのが、耐震等級2の建物が倒壊してしまったことです。
この原因については、詳細が特定されていないようですが、ひとつ考えられるのは、耐震等級2,3を取得する際に用いられる「仕様規定」が、甘い、ということが考えられます。
木造住宅では、耐震基準をクリアするには、壁量計算で可能でしたが、耐震等級2・3をクリアするには、より厳密な耐震計算が必要となります。
ただし、耐震等級2・3をクリアするための計算方法には、「構造計算」と「仕様規定」による準簡易計算の2種類があります。
ほんらい耐震性を完璧に計算するには「構造計算」のなかでも許容応力度計算という、たいてん手間のかかる設計をしなければなりません。
鉄骨や鉄筋コンクリートでは「構造計算」と許容応力度は耐震基準法で定められるマストの耐震設計方法なのですが、2階建て以下の木造住宅では、より簡易な耐震計算が認められています。
木造(2階建以下) | 耐震性 | RC | 耐震性 | |
耐震基準1級=耐震基準 | 壁量計算・N値計算など | △ | 許容応力度等計算など構造計算 | ◎ |
耐震等級 2級,3級 |
仕様規定による簡易計算 | ○ | ||
許容応力度等計算など構造計算 | ◎ |
戸建て木造住宅で耐震設計の簡素化が認められているのは、構造計算はあまりにも手間がかかり、こなせる建築士も限られることから、一戸建て木造住宅で構造計算を義務にしていたら、住宅供給が間に合わない……という事情もあるようです。
いずれにせよ、知っておかなければならないのは、耐震等級をクリアしたから安心というわけではなく、「仕様規定」ではなく、「構造計算」でクリアした耐震等級でないと、意味がない、ということなのです。
以上のことから、木造住宅で、耐震性を充分に確保するには、
耐震等級3級(許容応力度計算による)が望ましい
という結論になります。
鉄筋コンクリート造の耐震等級
RC造は耐震等級1でも大丈夫
さて、ここまで、木造住宅について、耐震基準と耐震等級の関係をみてきました。
木造住宅が耐震等級3以上でないと、充分な耐震性が得られないことは、理解できたと思います。
一方で、マンションやビルなどRC造(鉄筋コンクリート)では、耐震等級2,3というのはめったになくて、耐震等級1=つまり耐震基準クリアのもの、がほとんどです。
木造住宅にくらべると、RC造の耐震性は、もともとはるかに高いというのが理由のひとつです。
実際のところ、阪神淡路震災以後、最新の耐震基準を満たしたRC造で、崩壊した建物は、ほとんどありません(活断層の真上で地殻変動したケースを除く)。
また、マンションで震災後に修理が必要な割合を見てみると、東日本では約3%、熊本でも約5%と、かなり低い割合なのです。
RCが丈夫なのは「許容応力度計算」がマストだから
では、なぜRC造は耐震等級1で大丈夫なのでしょうか?
理由のひとつは、鉄筋を芯にしてコンクリートを型枠に流し込んで作るRC造では、構造が一体なので、パーツを組み合わせて作る木造よりも、本質的に頑丈だといううことです。
もうひとつの理由は、RC造では、「許容応力度計算」が、耐震基準の義務になっていることです。このため、RC造の耐震等級1は、ほとんど心配がないレベル、といえるのです。
こうしたことから、マンションやビルなど、ほとんどの鉄筋コンクリート造では、耐震等級1がスタンダードになっています。それで、耐震性には問題なく、これまでの地震でも倒壊被害はありません。
RCの場合、耐震等級をあげるのには、木造以上にコストがかかるために、耐震等級2、3のマンションはごくわずかな高級マンションにとどまっています。
住宅性能評価とホームインスペクション
さて、ここまで耐震等級と耐震基準についてその強度の読み解き方について、詳しくみてきました。
この項では、「耐震等級に象徴される、今後の住宅のあり方」について、みておこうと思います。
100年長持ちする家を作ろう
耐震等級を含む住宅品確法が制定された2001年以後、国の住宅政策では、住宅の品質を客観的に評価していこうと流れになっています。
2006年には住生活基本法で、これまでの住宅政策を大きく変更しました。それまでは、増え続ける人口を前提に新築住宅を短いスパンでどんどん建て替えていく方針でした。しかし今や、高齢化社会や人口減少などで、空き家が急増する時代です。新築を短いスパンで建て替えるのではなく100年長持ちする住宅を目指して新築したりリフォームしていこう、という方向性に舵をきったのは、当然の流れといえます。
2009年には長期優良住宅の普及に関する法律を制定し、新築やリフォームで、長期に渡って維持できる住宅には税制や融資の優遇をする制度をスターとさせました。
このように、「長持ちする家を建てよう!」というのが、これからますます強くなる傾向だと言えるのです。
地震多発国ならではの住宅政策
そして、住宅政策転換の、もうひとつの柱が、「中古住宅市場の適正化と活性化」です。
2013年には既存住宅インスペクションのガイドラインを定め、中古や賃貸市場で、住宅の品質を客観的に示す仕組みを導入、2018年からは、建物状況調査(住宅診断)が、中古売買での重要事項説明に含まれることになったのです。
これまで、どうしても当たりはずれが多かったり、ともすれば悪徳な業者が暗躍しがちだった中古住宅市場が、一気に透明化されます。
中古住宅の品質がはっきりと示されるようになることの意義は大きいでしょう。
以上のように、地震国日本において、100年長持ちする住宅を目指していこう、古い家を大切に使っていこう、新しい流れになってきています。
すべての住宅が、震度7でも崩れずに、地震の後も住み続けられる性能になれば、「地震と共存」している国、と言えるようになります。
地震もある意味では自然現象です。自然と調和することで文化を築き技術を高めてきた日本ならではの、「地震と住宅の共存」を目指していくべきなのかもしれません。
以上、耐震基準と耐震等級の違いについてみてきました。
とくに木造住宅では、耐震等級の重要性が高いことは、しっかり理解しておきたいポイントですね。
耐震基準と耐震等級はマイホームをもたない借家住まいの人でも、最低限知っておけば、防災・災害に役立てることができます。
宅建法の改正で、耐震基準や耐震等級についての、賃貸の場合でも情報公開する流れになってきています。
ぜひとも、自分が今住んでいる建物の耐震基準や耐震等級について、いまいちど確認してみてください。