立山の紅葉。混雑を避けつつ見ごろ時期のアルペンルートを楽しむ方法
2018/08/23
立山(たてやま)は北アルプスの北部、富山県と長野県にまたがりそびえる3000m級の連山です。
立山の東のふもとには黒部渓谷が広がり、秋には高山地帯の紅葉から渓谷の紅葉まで、さまざまなバリエーションを見せてくれます。
富山県の立山・美女平から、立山と黒部ダムを通り抜けて、長野県の日向山高原・信濃大町へと、ケーブルカー、バス、トロリーバスロープウェイを乗り物を乗り継いで、通り抜けることができます。このルートが「立山・黒部アルペンルート」です。
この記事では、気軽に雄大な大自然のなかを走破できる「立山〜黒部アルペンルート」の紅葉の時期や見どころ、また混雑を避ける方法などについて、まとめてガイドしています。
立山〜黒部のアルペンルートのポイント別の紅葉時期
立山〜黒部のアルペンルートは、標高475mの立山駅から標高2450mの室堂まで、標高差2000mもある壮大なルートです。
ですので、紅葉の時期は、ポイントによってぜんぜん違ってきます。
以下の表が、立山〜黒部の紅葉ポイントの、例年の時期です。(あくまで平年値ですので、毎年地元の観光協会や交通機関などに確認が必要です)
称名滝 | 350m | 10月下旬〜11月中旬 |
美女平 | 997m | 10月下旬〜11月上旬 |
弥陀ヶ原 | 1930m | 10月上旬〜中旬 |
室堂 | 2,450m | 9月下旬〜10月上旬 |
大観峰 | 2,316m | 9月下旬〜10月上旬 |
黒部平 | 1828m | 10月上旬〜中旬 |
黒部ダム | 1470m | 10月中旬〜下旬 |
扇沢 | 1,433m | 10月中旬〜下旬 |
日向山 | 839m | 10月下旬〜11月上旬 |
このルートでのメインの紅葉の見どころは室堂〜大観峰〜黒部平あたりになります。弥陀ヶ原、黒部ダム付近の紅葉も始まっている方が、紅葉の範囲は広くなります。なので、9月下旬では少し早いかなという感じで、10月上旬〜中旬が見ごろになります。
10月下旬だと、室堂〜大観峰などの高山の紅葉は終って、雪景色となっている可能性が高く、扇沢〜称名滝など麓近くに紅葉が降りてきています。高山の紅葉は観られませんが、タイミングがあえば10月下旬〜11月上旬では紅葉+雪を同時に楽しむことができます。
立山〜黒部のアルペンルートの基礎知識
各ポイントごとに紅葉の見どころを説明していく前に、立山〜黒部のアルペンルートの成り立ちについて、簡単に基礎知識を入れておきましょう。
ルートが複雑なので、まずは、基礎知識を簡単にさらってからのほうが、ポイントごとの特長を把握しやすくなります。
氷河を抱く山…立山
立山(たてやま)は北アルプスの北部にそびえる立山連峰で、雄山(3003)大汝山(3015)富士ノ折立(2999)の3つの峰を総称して立山と呼んでいます。
立山・雄山の東壁には全長約700mの御前沢(ごぜんさわ)氷河があり、氷河は黒部渓谷へとつながっています。「氷河」は日本には無いと長年言われていたのですが、立山の万年雪の下に氷河があることが2012年に学術的に証明されたのです。
現在わかっている範囲では世界で最も南にある氷河になります。
立山の紅葉を楽しむ場合も、氷河を抱きたたずむ立山と紅葉のコントラストが魅力のひとつになっています。
日本の氷河については、詳しくは⇒『日本の万年雪と氷河』の記事を参照してください。
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立山〜黒部アルペンルートの歴史
立山は氷河を抱くような、まさに日本アルプスの名に恥じない、本格的な高山で、もともとは人を寄せ付けない深山でした。
しかし昭和30年、電源開発のためにに黒部第四ダム(くろよんダム)建設が計画され、ダムの建設や運用のために、長野県信濃大町から黒部渓谷へ抜ける赤沢岳の下を抜けるトンネルが掘削されました。
トンネル工事は、映画「黒部の太陽」にもなったように難工事を究めましたが、この黒部トンネルの開通により昭和35年にくろよんダムが完成しました。
黒部トンネルは今でも、ダムの管理用道路として活用されていますが、トロリーバスが観光用にも運行されて、立山〜黒部アルペンルートの一部になっています。
その後、昭和46年には立山の下を通り抜ける立山トンネルが開通し、ケーブルカーやロープウェイと組み合わせて立山と黒部を結ぶ、「立山〜黒部アルペンルート」が開通し、雄大な自然のなかの紅葉も楽しむことができるようになりました。
立山トンネルは当初バスが運行されていましたが、環境への配慮から1996年にトロリーバスへ転換され現在に至ります。
立山〜黒部アルペンルートの乗り物
立山アルペンルートは、とてもたくさんの乗り物を乗り継いで進んでいきます。複雑なので、乗り物の順番を把握していきましょう。
富山地方鉄道 | 富山駅 ↓ 立山駅 |
65分 |
立山ケーブルカー | 立山駅 ↓ 美女平 |
7分 |
立山高原バス | 美女平 ↓ 弥陀平 ↓ 室堂 |
50分 |
立山トンネル・トロリーバス | 室堂 ↓ 大観峰 |
10分 |
立山ロープウェイ | 大観峰 ↓ 黒部平 |
7分 |
黒部ケーブルカー | 黒部平 ↓ 黒部湖 |
5分 |
徒歩 | 黒部湖 ↓ 黒部ダム |
15分 |
関電トンネル・トロリーバス黒部ダム | 扇沢 | 16分 |
アルピコ交通路線バス | 扇沢 ↓ 日向山高原 ↓ 信濃大町 ↓ 長野駅 |
100分 |
新幹線 | 長野 ↓ 東京 |
90分 |
これらの乗り物のうち、ふたつのトロリーバスと黒部ケーブルカーは、全線、トンネル内の通行となります。
また、この表にある所用時間は、あくまで乗ってからの時間です。紅葉時期は、これに「待ち時間」が加わってくるので、注意が必要です。
アルペンルートの紅葉の見どころポイントは?
それでは以下に、アルペンルートのなかでも、とくに紅葉でチェックしたいポイントについて説明していきましょう。
弥陀ヶ原(みだがはら)
弥陀ヶ原の紅葉は、9月下旬からはじまり10月上旬が最盛期。高山植物の草紅葉を中心に観ることができます。
弥陀ヶ原は、標高1600m〜2000mに広がる南北2km東西4kmの高原。木道がしかれた湿原には大小の池が点在していて、渡り鳥や水鳥の生息地として重要な湿地として「ラムサール条約」に登録されています。
秋には湿原が橙色に染まる草紅葉がみごとで、ダケカンバ、チングルマ、ワレモコウ、キンコウカ、イタドリなど紅葉する樹木が豊富です。遠目に観る山肌はナナカマドやミネカエデで赤や黄色に染まります。
散策コースは、40分〜1時間の内回りコース、1時間20分〜2時間の外回りコース。
また20〜40分で行ける立山カルデラ展望台コースは、珍しい地形であるカルデラを上から見渡せます。
室堂(むろどう)
室堂は、標高2,450mに位置する、アルペンルートの中心地であり観光の拠点。剱岳や立山をはじめ、3,000m級の山々に囲まれていて、ホテルや山小屋など宿泊施設が多くあります。
散策路も豊富ですが、なかでも軽装で気軽に楽しめるのが、みくりが池を1時間ほどで周遊するコースです。
みくりが池は北アルプスで最も美しい火山湖と言われ、立山が鏡のように映し出される風景に見とれてしまいます。
みくりが池周辺もナナカマドの赤、ダケカンバの黄色、ハイマツの緑の、高山独特の紅葉風景が10月上旬〜中旬にばっちり観れます。雷鳥が多いところなので会えるかも。
また、1時間50分ほどで、室堂山展望台往復。9月下旬~10月上旬は草紅葉と白いヒゲのような胞子をつけたチングルマが楽しめます。
トレッキングになれている人は、弥陀ヶ原~天狗平〜室堂のコースもお勧め。こちらは、初心者オッケーですが本格的なトレッキングコースです。
大観峰(だいかんぼう)
室堂からトロリーバスに乗車してトンネルを抜けると立山の下を通り抜け黒部側に出ます。出たところが標高2316mの大観峰駅。
この駅は断崖絶壁のうえに突き出して建っていて、屋上以外には、外に出られないトロリーバスと立山ロープウェイの乗り換え専用駅です。
混んでいる場合は整理券が配られるので、順番まちの間、あせらずに展望をのんびり楽しみましょう。なお、整理券番号は放送で呼ばれますが、呼ばれた後であれば何時でも乗れますので、景色を満足いくまで楽しんでからロープウェイに乗りましょう。
屋上の展望と開放感は素晴らしいの一言。目の前の岩肌が赤やオレンジに染まり、遠目には後立山連峰と立山東壁との大パノラマ。眼下にタンボ平。アルペンルートのなかでもいちばんとの声も。
2階の展望テラスや売店側の窓からも斜面の紅葉風景も見逃せないもので、屋上とは違った角度から見渡せます。乗り換えのあいだ、ゆっくり時間をすごしたいものです。
大観峰の紅葉タイミングは例年10上旬〜中旬のとても微妙な時期。10月下旬からは雪にのシーズンになってしまいます。
立山ロープウェイ(大観峰〜黒部平)
立山ロープウェイは、途中に支柱がないワンスパンロープウェイ。1.7km高低差488mが、ワイヤーだけで吊られています。
ですので、邪魔するものが無いので見晴らしが良好!
大観峰から黒部平へ降りるコースでは、黒部側の前方に人が集中します。
なので、黒部側の景色は、待ち時間に展望テラスからじっくり眺めておいて、ロープウィでは敢えて空いている大観峰側に陣取りましょう。山腹にはりつくように作られている大観峰駅のスゴさがよくわかります。
黒部平
ロープウェイとケーブルカーの乗り換え駅となります。ケーブルカーはずっとトンネルの中で400mほど下がって行きますので、高山帯の景色はこのあたりが見納め。
黒部平では、まずは屋上の展望台へ。さきほど大観峰から見た景色を下から観ることになります。
駅の外には駅前の庭園の他に、黒部平高山植物が栽培され植物園があり、高山植物の名前が良くわかりますので、絶対に立ち寄りたいところです。
黒部ダム
黒部平からケーブルカーで黒部ダムまで下がります。ここから次の関電トロリー駅まで、ダムの堤防を歩いて行きます。
10月上旬ですと、このあたりは紅葉がまだ始まったばかり、逆に10月下旬だとこのあたりが見ごろで大観峰あたりは終っている、というのが例年の標準的なパタンーです。
黒部ダム周囲は、遊歩道や展望台が沢山あるので、時間がある限り、トロリーにすぐには乗らずに、ダム周囲で遊んで行きましょう。
10月15日まであれば、基本的には放水をしているので、虹がかかる壮大な放水風景が観れるかもです。
湖畔遊歩道もおすすめで、カンパ谷のつり橋を渡りロッジくろよん前で折り返せば、片道30分ほどの散策です。特に10月中旬〜下旬であれば、たっぷりの紅葉の中を歩くことになります。
紅葉時期のアルペンルートの注意点
紅葉時期のアルペンルートは予想以上に寒い!
以上、立山〜黒部アルペンルートの紅葉の主な見どころを観て来ました。
9月下旬〜10月下旬の紅葉時期に、このルートを縦貫するためには、次のふたつに注意しましょう。
1●時刻表はあてにならない…紅葉シーズンで混雑しますので、特にロープウェイとケーブルカーに乗るまでに待ち時間が出る可能性があります。待ち時間を1時間は想定して、スケジュールをたてましょう。
2●とにかく寒い…たとえば10月上旬の室堂の平均気温は8度〜9度。中旬になると朝の平均は5度まで下がります。冬向けの防寒具は必携です。
紅葉時期の混雑を避けるには
立山〜黒部アルペンルートは、乗り物だけで気軽に高山の縦貫を楽しめるとあって、とても混雑します。
最近は海外からのツアー客も急増しているので、特に混雑を避けたいものです。
そこで、混雑を避けるためのコツを3つほど紹介します。
夜行バスを利用して、始発行動!
できるだけ始発に近い便を使って、山に入っていくというのは、山歩きの基本ですね。最近は、多くの山の観光地がマイカー規制で、公共交通機関で山に入っていくことが多いので、とにかく、始発に近い便に乗っていくことで混雑を避ける努力は、どこでも必要です。
立山・黒部アルペンルートの場合は、富山へ早朝着く夜行バスか扇沢へ着く夜行バスを利用すると、ほぼほぼ混雑は避けられます。扇沢への夜行バスは週末のみの臨時便で本数が少ないので注意してください。
立山の標高2500mで一泊
夜行バスの予約はなかなかとれないので、新幹線などで、富山や長野からアプローチせざるをえない場合も多いと思います。
その場合は室堂で宿をとりましょう。室堂にはホテルから山小屋まで13の宿泊施設があり、紅葉期でも予約はとりやすいです。ただし、室堂ターミナルから離れている施設も多いので、場所は要確認。
2,450mの高地に宿泊すれば、天気に恵まれれば、満天の星や雲海に落ちる夕日など、泊まらないと味わえない光景を体験できます。たとえ天気が崩れても、山の天気の厳しさを味わえ、それはそれで良い体験になるはずです。
室堂に宿泊すれば、乗り物の時間に追われることがなくなるので、アルペンルートを余裕でリッチな気分で楽しめます。
立山ロープウェイ往復
混雑を避ける3つ目のプランは、立山ロープウェイ往復を狙うコースです。
立山ロープウェイは紅葉の大観峰〜黒部平という立山アルペンルート最大の紅葉の見どころです。
ここに狙いを集中して、扇沢から入り、黒部ダムを経てロープウェイを大観峰駅で折り返してきます。
このロープウェイがいちばん混むので待ち時間が発生しますが、時間帯によっては、往復のうちどちらかは空いていることが多いので、片道どちらかはゆったりと景色を楽しめる可能性が高まります。
また、ロープウェイの整理券は、番号が呼ばれてすぐ乗車しなくても良いので、大観峰と黒部平でゆっくり紅葉を楽しみながら時間調整をして、ちょっと時間をずらすだけで空いているロープウェイに乗れる可能性が高まります。
以上、立山黒部アルペンルートの紅葉についての情報でした。
なお、黒部の紅葉については、トロッコ列車のある宇名月温泉〜黒部渓谷では、10月下旬~11月中旬が見ごろです。
アルペンルートの名にふさわしい壮大な紅葉の旅を、ぜひ楽しんでみてください。