雪囲い・冬囲いの種類と方法。こも巻きや雪つりの意味と樹木の耐寒性

      2017/12/20

雪囲い

 冬囲い(雪囲い)は、樹木の冬支度です。街路樹や公園や庭の樹木を、竹や縄やコモを使ってガードして、雪や寒さから守るものです。

 樹木の冬支度は、北海道では10月から、東北や北陸では11月からはじまります。関東でも、12月頃になると、樹木の胴にムシロのようなものを巻いているのが、よく見られます。これも冬囲いの一種です。

 冬囲いは、冬の風物詩として季節を感じる風景ですが、雪国の人々にとっては大仕事です。なんとか冬囲いを簡単にできないものか?と考えている人も雪国には少なくないでしょう。

 この記事では、いろいろな雪囲い(冬囲い)について、おもに非雪国人向けに紹介するとともに、雪国の人向けには、雪囲いを簡素化するためのヒントについて、述べていこうと思います。

雪囲い・冬囲いの種類と方法

 樹木の冬支度は「冬囲い」「雪囲い」などと言われます。支柱を立てたり、菰(こも)や寒冷紗(かんれいしゃ)で覆ったり、さまざまな方法があります。

 ひとくちに「冬囲い」と言っても、その目的は、雪対策、風対策、病害虫対策とさまざまです。まずは、下の表で、雪囲いの種類と目的について、整理しておきましょう。

冬囲い・冬囲いの種類
雪対策 冠雪害 雪吊り 仕立てた枝に雪が積もって折れないように支柱から縄で吊る。
雪透かし 降雪前に、枝を間引いておく。
雪圧害 雪囲い(3本立て) 樹木を囲うように竹などを三脚状に立て支柱として、雪の重みに耐えれるようにする。
結束 枝を束ねてまとめ雪による折れをふせいだり、灌木の場合は複数の木を束ね雪の圧力に対して強くする。
雪圧防止杭 街路樹の道路面側に杭をうち、道路除雪の雪の重みから街路樹を守る
風対策 寒さ囲い こもや寒冷紗で樹木をくるむように囲う
わらぼっち わらで傘とミノのように樹木を覆う寒さ対策。本格的な寒さに対する効果は弱く、実用性より装飾的要素が大きい。が、逆に、暖かい地方では「霜よけ」として活用できる。
害虫対策 こも巻き 主に松の幹にコモを巻き、害虫(マツケムシ)のトラップとする伝統の技。ただし近年はその実用的効果は疑問視されている。

雪の重み=沈降圧の対策が、雪囲いの最大のポイント

 冬囲いのなかでも、とくに重要なのは、雪対策です。雪囲い・冬囲いの主な目的は、雪の圧力に耐えるためのサポート、といってもよいでしょう。

 樹木が受ける雪の害には「冠雪害」と「雪圧害」があります。

 冠雪害は枝に雪が積もり、雪の重みで枝が折れてしまう害です。冠雪害の対策として、枝を吊る「雪吊や」枝を間引く「雪透かし」があります。

 一方、雪圧害は、積もった雪の圧力で、幹が曲がったり枝が折れたり、枝の根元から引きちぎられるように「枝抜け」してしまうものです。

 積もった雪はどんどん重たさをまして、積もった雪の中で、ものすごい力がかかります。これを「沈降圧」と言います。積もった雪の下では、ガードレールを引きちぎったりぐにゃりと曲げたりするほどの力がかかるのです。

 こうした積雪沈降圧で、幹が折れたり曲がったりしないように、添え木や三脚状に支柱をします。また、枝が抜けたりするのをふせぐために、枝をまとめて縛ります。

 とくに、屋根からの落雪や、除雪の雪が溜まるところでは、支柱の本数を増やし、雪の圧力に厳重に備えます。

 このような雪の圧力への対策が「雪囲い」のなかで最も重要で、メインとなる部分なのです。

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常緑樹と落葉樹で冬囲いの方法が違う?

 冬囲いは、おもに、冬でも葉っぱが落ちない「常緑樹」に対して行われます。

 常緑樹にはマツやイチイやコニファー類などの針葉樹と、たとえばツバキやサザンカやシマトネリコのような広葉樹があります。常緑樹のなかでも、種類によって、耐寒性が違うので、

・雪圧対策と寒さ対策の両方が必要なもの

・雪圧対策だけで寒さ対策は必要ないもの
とがあります。

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▲耐寒性のある常緑樹なら、雪そのものや寒さは大丈夫。雪の圧力で木が折れることを防ぐために「雪囲い」をする。

 一方、葉が落ちる「落葉樹」は、原則、人の手による「冬囲い・雪囲い」は必要ありません。落葉樹は越冬するために葉っぱを落とし(その前段階が紅葉ですね)、糖分や脂質を体内に溜め込みます。多くの落葉樹は春が来たらすぐ花を咲かせられるように、夏から秋の間に、枝に花芽が準備されています。花芽は寒さや雪に耐えられるように、鱗片葉と呼ばれる堅い葉でガードされます。このように落葉樹には、雪や寒さのなかで春を待つ仕組みが自然に備わっているのです。

 ただ、庭や公園に植えられ、剪定されている落葉樹の場合は、雪の重みを減らすために、竹で垣根状の雪囲いをしたり、枝を間引く「雪透かし」を行うこともあります。

雪吊り・わらぼっち〜植木屋さんの伝統工芸としての雪囲い

 「雪囲い」で最も有名なのは、石川県金沢の「兼六園の雪吊り」です。

 兼六園の雪吊りは、樹齢170年とされる高さ9m枝張り20mのクロマツを、5本の支柱をたて総計800本の縄で吊り、松の枝が雪の重みで折れるのを防ぎます。

 植木職人が高い支柱の上から縄を扱う姿は、文字通りの職人芸で、兼六園の冬囲いは伝統技術が結集された見ても美しい芸術作品でもあります。

 兼六園の雪吊に代表されるように、雪囲いには、雪や寒さから植物をガードする目的だけでなく、見せるための「装飾的要素」があるわけです。

 植木屋さんの伝統工芸ともいえる、藁で作る「わらぼっち」も、芸術的・装飾的要素の高いものです。

 関東以西では、公園のソテツの保温のために、葉を落としたソテツの幹をコモで巻き、その上にわらぼっちを被せたものをよく見かけます。また、庭園などで、苗木や花木の霜除けとしても、使われます。

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▲庭園の風景を壊さず霜対策・風対策ができる「わらぼっち」

 都内の公園などでは、ぼっちの他にも、竹と縄で美しく組んだ冬囲いが見られますが、温暖化して、積雪がほとんどない昨今、どちらかと言えば実用的な意味はほとんどなかったりします。「冬の風物詩」的な意味合いが大きいですね。

「こも巻き」は効果がない?

 雪が降らない地域で広く行われている、樹木の冬支度が「こも巻き」です。これも冬の風物詩として、お馴染みの風景ですね。

 松などの幹にムシロ状の胴巻きをする「こも巻き」は、樹木の腹巻のように見えるので、「防寒対策」だと思ってしまいますが、実は「コモ巻き」に防寒の効果や意味はありません。

 まかれたコモは、マツの害虫であるマツカレハの幼虫=松毛虫を捕まえるトラップなのです。寒い冬に、温かいところを求めて、松毛虫がコモのなかに集まってくることを狙ったものです。春に、集まった毛虫ごとコモを燃やしてしまおう、という段取りですね。

 ところが最近の調査では、コモには、毛虫を捕食する益虫のクモやヤニサシガメ(カメムシの一種)ばかりが集まって、害虫トラップとしては「かえって逆効果」ということが言われています。

 農業でも害虫が益虫を食べることを利用して農薬を使わない「天敵農法」が盛んになっています。そうした意味でも、害虫より天敵をたくさん集めてしまう「菰巻(こも巻き)」は、あまり実用効果のないものだと考えられます。

 ですので、街路樹など公費で行われている「こも巻き」については、今後、費用対効果のめんから見直されてくるのではないでしょうか。

 しかし、一方で、「こも巻きは」江戸時代の大名屋敷ではじまった植木職人の由緒ある伝統芸でもあります。冬の季語にもなっている菰巻を、後世に伝えて残すことも大切でしょう。

樹木の耐寒性が案外スゴイ

東北地方でも太平洋側は雪囲い・冬囲いをしない?

 雪囲い・冬囲いというと、コモや寒冷紗で樹木を囲って、樹木を保温することをイメージする人もいるかもしれませんが、はじめに述べたように、雪囲い・冬囲いの主な目的は、雪の圧力から樹木の枝や幹を守ることです。

 たとえば、東北地方でも、大雪が少ない太平洋側のほうでは冬囲い・雪囲いをする習慣はありません。

 つまり、ソテツやヤシなどのような、よっぽど南方性の樹木でない限り、寒さ対策は特に必要ないのです。

 樹木の耐寒温度を記した、下の一覧表を見てください。

樹木の耐寒性
種類 樹木名 限界温度(度C) 北限地
常緑広葉樹 バナナ -3.8 会津
フェニックス(カナリーヤシ) -3.9 東京都
サツキ -9.4
クチナシ -9.4
ソテツ -9.4 関東
シマトネリコ -9.5 仙台
ゲッケイジュ -9.5
オリーブ -12.2
クスノキ -12.2 福島いわき
タブノキ -12.2 秋田・岩手
カシ(アラカシ) -12.2
シイノキ -17.7 新潟
ツバキ -17.7 青森
サザンカ -17.7
キンモクセイ -17.7
ジンチョウゲ -17.7
モッコク -17.7
ナンテン -23.0
ソヨゴ -28.8
キンシバイ -28.8
常緑針葉樹 ゴールドクレスト -17.7
カイズカイブキ(ビャクシン) -26.1
ヒバ -28.8
クロマツ -28.8 下北半島
イチイ(オンコ・キャラ) -31.6
トウヒ -37.2
落葉広葉樹 ヒメシャラ -23.0
カエデ -23.3 宮城県北部
ハナミズキ -28.8 東北〜旭川
ウメ -23.3 青森〜旭川
ブルーベリー -23.4
ドウダンツツジ -23.0
ヤマボウシ -28.8
ミズナラ -28.8
シナノキ -28.8
ソメイヨシノ -28.8
ブナ -34.4 道南黒松内町
ニシシギ -34.4
イチョウ -39.9
落葉針葉樹 メタセコイア -28.8
カラマツ -34.4

上記表の耐寒性温度(摂氏)はアメリカの農務省が発表する植物耐寒性地帯地図(USDA Hardiness Map)のデーターをもとにまとめたもの。

 この表を見ると、案外、樹木は耐寒性が強いことが、よくわかると思います。

 もちろん、この耐寒温度は、あくまで指標であって、植物の耐寒性は気温だけでなく風や湿度などいろいろな条件がかかわってきます。確実にこの温度まで大丈夫、ということではないので注意してください。

 それにしても、バナナですらマイナス3.8度Cまでもつわけですから、北国で一般的に植えられている庭木類であれば、そこまで寒さを気にする必要はありません。

 まして、降雪地帯で、草木がすっぽり雪に覆われるようなところでは、むしろ安心と言えます。

 なにしろ、外気がマイナス20度Cでも、雪の下の地表付近は0度C前後に保たれているからです。「雪の下は温かい」わけですね。

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植物は凍らない? 凍っても大丈夫?

 もうひとつ、ここで疑問なのは、樹木は凍らないの?ということです。

 植物は、細胞と細胞の間にある水分は凍ってしまうことがありますが、細胞内が凍らなければ、枯死することはありません。

 樹木だけでなく野菜などもそうですが、植物の細胞のなかの水分は、ただの水ではなく糖分などを含んだ水なので、そのぶん、凍る温度がゼロ度より低くなります。純粋な水ではないので、ゼロ度では凍らないのですね。

 このように一見、凍ってしまっているようでも、細胞内は生きている状態を「器官外凍結」と呼んでいます。

 種子を冷凍してもまた発芽するのは、これと同じ仕組みです。また、白菜や大根は、雪の下で凍らないように、みずから、植物体内の糖分濃度を濃くします。その結果、甘い野菜ができます。

低温対策よりも大事なのは風対策

 このように、想像以上に、植物は低温に強いわけですが、注意したいのは「風対策」です。

 地吹雪などで痛めつけられることが、最もダメージが強いといえます。風のあたり方次第では、耐寒温度より高い気温の時でも、植物は痛んで枯れてしまうことがあります。

 雪圧対策さえしておけば、むしろ雪にすっぽり覆われてしまったほうが、風にさらされるより、植物にとっては居心地が良いわけですからね。

 ですので、積雪地帯では、雪に埋もれるまでの間の地吹雪対策をどうするか?がポイントとなります。

 具体的には、枝を縛ったうえで、寒冷紗やコモで覆ってしまうのがひつの方法です。樹をひとつひとつ覆うのではなく、フェンスにネットを張って、防風垣とする対策もできるでしょう。

 逆に言えば、庭木などで、風当たりが弱いところは、雪圧対策の支柱だけをやっておけば、問題ないわけですね。

▲雪にすっぽり埋もれてしまえば、寒さ的には、地吹雪にさらされるよりは、ぜんぜんマシな状態。

雪囲いフリーを目指す庭作り

 さて「冬囲い」は、雪の少ない地方では「冬の風物詩」として植木屋さんの伝統技術を楽しむという、どちらかといえばのどかなものですが、雪国の冬囲いはもっと切実で、とても大変なものです。

 一般家庭では、庭の冬囲いのために、せっかくの秋の週末や連休を忙しく過ごすく人も少なくありません。実家に戻って冬囲い手伝ったりする人も多いでしょう。

 公共関係でも、冬囲いは毎年、大きな課題です。街路樹や公園などのの雪囲い・冬囲いの管理費用をいかに安くおさえるか?が、これからますます、とても深刻な財政上の課題になっていくでしょう。

 そのため、北国の自治体では、これまで慣例的に行われてきた、過剰な雪囲いを見直す方向に動いています。

 たとえば、従来、支柱を建て丁寧に縄で縛っていた雪囲いをビニールテープでらせん状に巻くことで、コストを抑えて同様の効果を出すことが試みられているようです。

 また、樹種によっては雪囲いが必要ない種も多くあることから、樹種選定の段階から「雪囲いフリー」を目指していくのが、雪国ではトレンドになりつつあるわけです。

 

 家庭での冬囲いも、「簡素化」したい、という意見も強まってきています。

 親の代からやってきた、とか、近所も皆やっていることなのでやるのが当然、という風潮もなきにしもあらずです。

 もちろん、冬囲いは、実際に施工してみると、その木それぞれの大きさや状態で戦略や段取りを組み、案外手のこんだ行程で、タスクを完了させていくという、とてもやりがいのある作業です。見方によっては「趣味」として、かなり奧が深いので、ハマる人も少なくありません。

 しかし、逆を返せば、庭木の冬囲いは思った以上にたいへんで、雪国では負担になると感じる人が多いのも事実です。

 子供が育った年金暮らしの老夫婦では、植木屋さんに頼むコストも節約したいところですが、なかなかの重労働。雪国では、毎年繰り返される「雪囲い」の手間を考えると、一戸建てや庭をもつのを躊躇してしまう、という人が多いようです。

 このように、雪国では負担となっている「雪囲い・冬囲い」ですが、ひょっとすると過剰なやり方をしている場合があるかもしれません。

 それぞれの植物の耐寒性などを見ながら、「雪囲い・冬囲い」の方法を、一度、見直してみると、簡素化できる部分が見つかるかもしれません。

 最低限必要な雪囲いのポイントをまとめると次のようになります。

雪囲いの方法を簡略するヒント

・積雪地帯では沈降圧に対して、最低限の支柱などを立てる。

・枝を縛る場合は、ビニールテープを使うと効率が良い。

・雪に埋もれた状態なら、たいていの樹木は寒さにより害をほとんど受けない。

・風あたりの弱いところでは、コモや寒冷紗が必要でない植物も多いはず。

・はじめから冠雪害に強い樹形に剪定する。

・地元の自然林に生える落葉樹などを中心とした雑木の庭にすることで、冬囲い・雪囲いがほぼ不要な庭作りも不可能ではない。

 

 

 以上、樹木の冬支度〜「雪囲い・冬囲い」について、見てきました。

 植木職人の伝統的な技法として現代に残されている、鑑賞的要素が強い「雪吊り」や「わらぼっち」。その一方で、雪囲いの手間を少なくするための、自然林に近い「雑木の庭」が模索されています。

 雪囲い・冬囲いにも、できるだけシンプルにナチュラルな方向に向かっていくのが、ミニマムライフを指向する時代の流れ、というわけです。

  

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