花梅の種類や実梅との違い。花色や開花時期など、梅の花の入門知識。

      2023/01/03

花梅

花梅」とは、梅のなかでも、花を観賞する目的で作られた品種の総称です。一方、梅干しや梅酒にする実を収穫する品種を「実梅」と呼びます。

ただ、花梅と実梅の境界はあいまいです。花梅だからと言って実がまったく穫れないわけではありません。また、なかには、花梅として楽しめ、なおかつ良い実が収穫できる、花梅と実梅を両立している品種もあります。

また、よく言われる梅の花の分類の仕方には、諸説あって、一概にどれが正解か?ともいえないのですが、結局のところ、「野生の梅に近い種類」「杏(アンズ)や李(スモモ)との交配種に近い」にざっくり分けられます。

この記事では、花梅と実梅の違いや、品種ごとの花の色や開花時期などについて述べていきます。梅を楽しむための基礎知識が身に付きます。

なお、花梅や実梅を実際になまで観て楽しむポイントについては、⇒『関東地方のおすすめ梅林と梅を楽しむコツ』の記事も参照してください。

梅の花を知るためのポイントは?

梅の花の話になると、まず必ず出てくるのが「野梅系(やばいけい)」「緋梅性(ひばいせい)」などの、花梅の分類方法です。

この分類法は、諸説あって説ごとに微妙に異なり、どれが正解というのがあるわけではありません。

実は、この分類方法は、初心者にとっては、いきなりマニアっぽくなってしまうので、もう少しシンプルに梅の花を分類して、その特徴をつかんでいきたいと思います。

まずは、以下のような項目で、梅の花の特徴や品種の歴史について、基礎知識をつけていきましょう。

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▲紅色の鮮やかな花梅。紅色は花梅のみ。

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▲白い実梅の花は、3月頃からの遅咲き。

花梅と実梅の区別は?

花梅と実梅の共通点と違い

まず、花梅と実梅の違いから。

花梅も実梅も、もともと同じ梅です。

ですから、花梅とされている品種でも実がつくこともあり、それを食べることも不可能ではありません。ただ、味がイマイチだったり種が大きすぎたりで、食用に向きません。

授粉さえうまくいけば、ほんらい梅は結実するものです。なかでも、とくに食用に向く実をつける品種を「実梅」として区別しているわけです。

そして、実梅も、もちろん美しい花をさかせますので鑑賞用としても楽しめます。たとえば『花香実』という品種は、淡紅色の八重の美しい花を咲かせつつ、梅酒にむいた良い実も収穫できます。

このように、花梅と実梅の境界はあいで、はっきりとした区別や定義はできません。

ただ、ざっくりとした傾向として、次のような花梅・実梅のそれぞれの特徴があります。

花梅と実梅の違い
種類 花の色 開花時期
花梅 紅、ピンク、白 12月下旬〜3月
実梅 ピンク、白 2月〜3月

花梅・実梅それぞれの花色と開花時期

梅は桜や桃よりも一足早く咲く早春を告げる花です。
「百花魁」(ひゃっかさきがけ)という呼び方もあって、1年のなかで最も早く咲く花として知られています。

雪景色や寒空のなか美しい花をつける梅には、生命力の強さを感じることから、縁起の良い花とされ、正月の飾りとしても重宝されます。

この時期に花を咲かせる梅は、「冬至梅」とも言われる、超早咲きの品種です。

白色系なら『冬至』『初雁』、紅色系なら『紅冬至』『八重寒紅』などの品種が有名で、12月中旬〜2月中旬頃が開花時期になっています。

▲雪のなかでさく超早咲きの花梅「八重寒梅」。

これに対して、実をとることを目的にした梅の品種は、遅咲きのものがほとんどです。

梅干しで有名な『南高』をはじめ『玉英』『白加賀』『豊後』など実梅の定番品種はいずれも、2月中旬〜3月上旬ごろが開花時期になります。

ちなみに、実梅として栽培される品種は、花色は白か薄紅(ピンク)です。

紅色の花の実梅というのは原則ありません。紅色であれば観賞用の花梅だということになります。

一方で、白やピンクだからと言って実梅だとは限りません。白やピンクにも、実が食用に適さない観賞用の品種がいろいろあります。

いずれにせよ、少なくとも言えることは、12月や1月に咲いている紅梅は、実梅ということはあり得ず、必ず花梅だ、ということです。

では、どうしてこのような原則になるのか? 次項で、梅の歴史をひもときながら、梅の品種の仕組みについて見ていきましょう。

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梅の品種の歴史

梅の花は、もともとは白

そもそも花梅と実梅は種類が違うわけではなく、ルーツは同じです。
・実が食用に向くもの
・実はイマイチだが綺麗な花が咲くもの
…とに、品種改良や品種選抜を経て分かれてきたものです。

梅の栽培の歴史をみてみると、ほんらい梅は、白花で実を穫る目的でした。そこから観賞用の紅梅が品種改良で作られてきた歴史があります。

もともと梅は、中国で紀元前から薬用として利用されていました。日本にも梅は自生していたという説もありますが、薬用の実梅として中国から伝わったとする説が有力です。

当時は、花の色は白で、実をとることを目的にしていたはずです。

万葉集にも梅のことを読んだ歌が多数残されていますが、いずれも、白い花だったようです。

つまり、ほんらいの梅は、白い花の実梅だ、ということなのです。

紅梅や花梅は後から出来た

紅色の梅の花が登場するのは、平安時代です。紅色の梅は、観賞用として貴族のあいだで広まっていきました。

9世紀半ばの平安時代中期までは、梅は主役でした。「花」と言えば桜ではなく梅のことを指していました。

しかし、儚(はかなさ)を好む平安貴族文化のなかで、「花」の主役は、やがて、梅から桜へとシフトしていきます。

貴族の世が終わり、応仁の乱戦〜国時代と混乱期に入ります。この間は、まさに戦争の時代だったわけですが、合戦の食料としても、食用として、あるいは薬用として、梅はとても重宝したようです。

江戸時代になると、梅の品種は一気に増えていき、その数は数百種類におよびます。

江戸時代には庶民の間で梅干しを食べる習慣が定着して、各地で実梅の栽培が盛んになります。

一方で、観賞用の花として、梅の品種改良が進み、武家から庶民まで、梅の花を楽しむようになります。お正月を祝う早咲きの品種も、この時代に生まれてきました。

早咲き品種が花梅なのはあたりまえ。その理由は?

ところで、12月や1月の真冬の厳寒期に咲く品種は、明らかに実梅ではなく花梅なのですが、その理由は何故でしょう?

というのも、そもそも果実は、実を結ぶためには授粉が必要です。授粉のためには虫や鳥の活動が活発でなくてはなりません。

生き物の動きが活発でない12月〜1月の厳寒期に花が咲いても、自然に受粉されることは、あまり期待できないですよね?

このことこから、12月〜1月の早咲きの品種は、はじめから受粉して実を結ぶことは期待していない花梅だということになります。

逆に言うと、実梅の開花期は、授粉を助ける昆虫や鳥の動きが活発になる3月以後が中心になってくるわけですね。

このように、もともと白花の実梅から、観賞用の紅梅が生まれ、さらに紅梅の早咲き品種がもてはやされるようになった、という梅の歴史があるわけです。

この流れで、

・花梅は早咲きで紅色と

・実梅は遅咲きで白色

という大原則ができてきたわけですね。

(樹木の花については、こちらの記事
⇒『花木の種類・開花時期や香り一覧』も参照してください)

紅花ができるわけと咲き分け品種

ここまで説明したように、梅の花はもともと白色でしたが、そこから突然変異で紅色が生まれてきました。

ここで疑問なのが、白花から紅花に、どのように変異するのか? ということです。

白から紅に変化する仕組みについて簡単にみてみましょう。

紅色のもとはアントシアニン

紅色は、植物がほんらいみな持っている「アントシアニン」という紫〜紅色の色素です。赤キャベツの色素が代表的で、抗酸化物質であるポリフェノールのひとつとしても有名なやつですね。

アントシアニンは、植物が強い光線に当たったり、栄養分が不足すると、自己防衛機能のひとつとして、植物体内で増えてきます。ふだんは緑の植物でも、環境により葉や茎が紫に変わるのはこのためです。

こうしたアントシアニンの出現が、突然変異で出てきて、ほんらい白い梅の花が咲くはずの枝に、紅梅が咲くわけですね。

なぜ接ぎ木や挿し木で増やすのか?

さて、白花の樹木に紅花が咲くのは、あくまで、突然変異なので、紅梅の種を植えたら、ほんらいの白花に戻ってしまいます。

そこで、枝を接木挿し木で、増やしていくことになります。

「接ぎ木」とは、台木となる梅(台木の品種は何でもよい)に、突然変異でできた形質をもつ枝を継ぐことです。

切った枝から根っこをはやす「挿し木」でも増殖できますが、梅は、品種により挿し木では根がつかないものもあります。

いずれにせよ、梅の品種は、種から育てると、咲いたものとは違う色や形になるということです。逆に、種をまくと、新しい品種の梅ができるわけですね。

ひとつの樹に紅梅と白梅が混在!? 咲き分け品種の仕組みは

さて、このように突然変異からできた紅梅が、さらに突然変異して、紅梅のなかに白梅が混じって咲くことがあます。

これが、咲き分け品種です。紅花と白花が入り混じって咲く様子をも、源氏と平家にたとえて「源平咲き」とも称されます。

咲き分けでは『想いの儘(まま)』『日月(じつげつ)』『春日野』『源氏絞り』などの品種が有名です。

咲き分け品種は、ほんらいは白から変異で派生した紅花が、ふたたび変異して、アントシアニンを作る機能がなくなり、白花に先祖帰りしたものです。

紅梅と白梅のふたつのことなる遺伝形質をもった細胞が、ひとつの枝に混在している状況です。このような状態をキメラとも言います。

梅以外にも、桃、つつじ、つばきなどでも見られる現象ですが、梅の咲き分けがもっともポピュラーですね。

梅林などに観梅に行く場合も、咲き分けの樹があるところを狙っていくのも良いでしょう。

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▲ひとつの樹に紅梅と白梅、さらに紅白が混じった花が咲く「咲き分け」。

授粉と自家不合和

さて、花梅でも、実はなることはなる、という説明をしてきましたが、逆に、実梅でも実がつかないことがあります。

それは授粉が関係しています。

梅の品種の多くは、「自家不合和」という性質をもっています。

「自家不合和」は、同じ樹のなかの花粉では受粉しない、という性質です。

植物は、種類によっては、ひとつの花のなかで雄しべから雌しべへ受粉します。これを「自家受粉」と言いますが、たとえば、野菜は自家受粉するものがほとんどです。

一方、果樹は、同じ樹の花粉では受粉しない、つまり自家受粉しない「自家不合和性」のものが多いです。

梅も、自家不合和性のものが多いので、一本だけぽつりと梅の木があっても、受粉・結実しないことが多いです。

実梅でも花梅であっても、自家不合和性の品種であれば、実がつかないことがあるわけです。

ところで、前項の咲き分けのところで説明しましたが、梅の品種は、挿し木か接ぎ木で増やしていきます。

つまり、ひとつの品種であれば、もともともは同じ樹木で、遺伝子的にみればクローンということになります。

たとえば、梅干しで有名な南高梅も、もとは一本の梅の木だったわけです。

梅の場合、同一品種=同じ樹(クローン)ということになりますので、自家不合和性の品種であれば、同じ品種が何本あっても、実がつかないことになります。

そこで、自家不合和性の品種で実を穫るためには、近くに別品種の「授粉樹」を植えておく必要があります。

授粉樹は、花粉をたくさん出す品種であれば花梅でも実梅でもかまいません。

実の形質は、母親である実が成る樹木の性質しか遺伝しませんので、花粉の品種はなんであっても、結実する実に対して、花粉の遺伝子は影響を与えないわけですね。花粉の性質が遺伝するのは、種からです。

このように、結実には受粉樹を必要とする果樹は多いですが、梅の場合も、代表的な実梅の品種、『豊後』『南高』などは自家不合和性になっているため、花粉をあたえる授粉樹を近くに同時に栽培しないと、実がつかないということを、覚えておきましょう。

一方、実梅のなかでも、自家受粉する、つまり一本だけ育てても実がなる品種に『甲州最小』『竜峡小梅』『花香実』などがあります。庭木に植える場合は、自家不合和性ではない(つまり、自家受粉する)品種を選ぶと良いでしょう。

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梅の花の一重と八重。八重の花弁はももと雄しべだった。

梅の花には、五枚の花弁が端正に咲く一重咲きと、何枚もの花弁が重なって咲く八重咲のものがあります。

一重と八重は、花の色が紅と白のどちらでもあります。

八重咲というとやはり、花梅のイメージなのですが、実梅にも『花香美(はなかみ)』のように、八重の花が咲きなおかつ実梅としても楽しめる品種もあります。

★★実も良し、薄紅の八重の花も良し、自家受粉するので一本でも結実、と3拍子そろった優良品種「花香実」 自分で育てるなら、この品種が一押し!

ところで、八重の花はどうしてできるのでしょうか?

八重の花弁は、おしべが花弁に変化したものです。

授粉してくれる昆虫などをより多く誘えるように、おしべが変化して、花弁(はなびら)に変わっていったものと考えられています。

ただ、皮肉なことに、八重咲の梅は、ほとんど結実しない花梅ばかりです。

せっかく訪花昆虫にアピールするために、花を豪勢に着飾っても、結実して実梅として利用されることはありません。つまり、八重咲の花梅は、わたしたち人間を楽しませてくれるために、八重の花を咲かせてくれるというわけです。

もうひとつ、おしべの変化といえば、梅の「旗弁(きべん・はたべん)」も、おもしろく美しい花の形状です。

おしべの一部が小さな花弁をもって、まるで、花のなかで旗を立てているように見えます。

これももちろん、昆虫や鳥などを誘うためのものです。

ちょうど一重と八重の中間に位置するような形状で、この旗弁がさらに変化して八重になっていったと考えられます。

旗弁は『紅千鳥』『烈紅梅』などの品種で、よく見られます。

ここまでみてきたように、八重や旗弁の花梅は、見て楽しむために、かなり作りこまれた品種だということがわかります。

観梅にでかけたら、花のかたちもしっかりみて、せっかくの花梅をたっぷり楽しむことにしましょう。

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▲雄しべが変化した旗弁

梅の分類。野梅系と杏(あんず)系・李(すもも)系

梅の品種をシンプルに二種類に分類

梅の分類としてよくもちいられる「野梅系(やばい)」「紅筆性」などの分類方法についても、簡単にみてみましょう。

これは、梅の先祖の系列ごとに3〜4の系列に分け、さらに花や枝の形状などから2〜4の性に細かく分類するものです。

系列では
野梅(やばい)系・緋梅(ひばい)系(または紅梅系)・豊後(ぶんご)系・杏(あんず)系などの分け方があります

さらに系ごとに性を分け
野梅系=野梅性・難波性・紅筆性・青軸性
緋梅系=紅梅性・緋梅性
豊後系=豊後性・摩耶紅性・唐梅性・杏性(杏系に分ける場合も)
などと分類します。

分類方法には諸説あって、本ごとによって微妙に違っていますので、どれが正解ということはありません。

一般的にはあまり細かい分類までは必要ないですが、ポイントとして最低限おさえておきたいのは、

・野生に近い野梅系

・あんずとの交配が進んだ豊後系(杏系)

のふたつに大きく分けられる、ということです。

さらにいえば、スモモとの交配種があります。これは、スモモウメとして、梅とは別種として区別されることもあります。

スモモもアンズも梅のうち?

実は、梅とアンズとスモモは、植物学上とても近い種類で、自然の状態でも、互いに交じり合って雑種化しています。

ですので、そもそも純粋な梅というのは存在せず、多かれ少なかれ、アンズやスモモの血がはいっています。

もともと白い梅の花に紅の花が咲くようになったのも、アンズとの交雑によるとする説もあります。

このように、純粋な梅というのは無いのですが、交雑具合、つまりどれくら混じっているか? を基準にざっくり分類することができます。

もともとの野生の梅に近いものを「野梅系」、あんずとの交配が進んでいるものを「豊後系・杏系」と分類できるわけです。

野梅系は、野生に近い品種で、花の色はもともとの白が多く、香りも強いのが特徴です。

また緋梅系は、野梅系から派生した紅花を中心としたグループです。ただ、野梅系と緋梅系は、花の色ではなく枝を折った時のなかの軸の色で区別するので、野梅系のなかにも紅花、緋梅系のなかにも白梅がふくまれます。

いずれにせよ、野梅系と緋梅系のふたつは、野生の梅に近いほうのグループになります。

一方、豊後系は、アンズとの交配種です。寒さに強く、香りが少な目です。

さて、これらの野梅系・豊後系というグループ分けの仕方は、もともと花梅の品種を整理するためにできた分類方法ですが、実梅もこの分類にあてはめることができます。

『南高』『白加賀』『玉英』『長束』など多くの実梅の品種は、野梅系のグループです。

アンズ系では『豊後』『大平』、スモモ系では『露茜(つゆあかね)』『李梅』が有名です。

実梅の用途と系列の使い分けとしては、ざっくりした傾向として、野梅系のものは梅干しに、杏系のものは梅酒やスイーツに向いています。また、スモモ系は果肉が赤く、赤い梅酒を作ることができます。

★実梅の大部分は野梅系に分類できる。実梅として安定の人気がある「白加賀」も野梅系

★杏(あんず)系梅の代表品種。大粒の「豊後」

★スモモウメの代表的品種「露茜(つゆあかね)」。果肉が赤く赤い梅酒が作れる。

以上、梅を楽しむために、最低限知っておきたい品種や梅の花の性質につて述べてきました。

梅を観に出かけたり、梅を育てたりして、梅をぞんぶんに楽しむ参考になれば幸いです。

また、関東地方の梅林について、こちらの記事⇒『関東のおすすめ梅林リストと観梅のコツ』も、ぜひごらんください。

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