なぜ紅葉する?紅葉の種類と仕組み。日本の紅葉が世界一の理由。
2019/10/24
紅葉は木々が冬支度をはじめる前の段階です。冬支度の関係で、葉が黄色や赤に染まるのですが、そのメカニズムについて、この記事では図解しながら簡単に説明しています。
また、とくに、日本の紅葉は世界一の美しさと言われていますが、その理由と特徴についても述べています。
さらに、赤く紅葉する樹木の種類、黄色に染まる樹木の種類を簡単に表にまとめました。
紅葉は自然が見せるとても芸術的な風景。山や庭園の木々が赤や黄色に染まり、奥深い色彩のハーモニーを奏でるさまは、他にかえがたい景色です。紅葉を観に行く時に、紅葉の基礎知識を知っておくと、景色の見方も一段と奥深く感じられますので、ぜひこの機会に紅葉の仕組みを知っておきましょう。
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紅葉の仕組み。葉の色が変わるのはなぜ? そもそも落葉するのはなぜ?
紅葉は、植物(主に樹木)が、冬のあいだ休眠して、激しい寒さや乾燥に耐えるための適応現象です。葉の部分はとくに乾燥や寒さに弱いので、落葉樹(夏緑樹)は、冬の休眠に入る前に、葉をすべて落としてしまうのです。
落葉は、夏の光が多い時期に大きな葉で光合成をたくさんして、冬は葉っぱを捨て無駄なエネルギーを使わなくてすむような、とても効率の良い樹木のライフスタイルのひとつです。
とうぜんですが、常緑樹は落葉しないので紅葉しません。常緑樹というとスギやマツのような針葉樹がまず思いつきますが、シイやカシのように広葉樹でも落葉しない「照葉樹」があります(広葉樹と落葉樹の種類と違いについては⇒「山の木の名前の覚え方(広葉樹編)」
の記事も参照してください)。また、イチョウ、カラマツのように落葉する針葉樹もあります。
さて、紅葉とは 、落葉樹が葉っぱを落とす前の準備です。葉っぱの役割を停止していく過程で、葉色が緑から黄色へ、さらに赤へと変化し、その後、枯れて落葉していきます。
葉が黄色くなるのと赤くなるのは、それぞれ違ったメカニズムによります。
黄葉(おうよう・こうよう)のメカニズムと黄葉する樹木
紅葉は、樹木の種類によって、黄色くなるものと紅くなるものがありますが、まず緑から黄色に変わってから赤になります。種類よっては黄色のまま落葉するものもあります。いずれにせよ、紅葉は、まず黄変するのが第一段階だと言えます。
では、「黄葉(おうよう・こうよう)」の仕組みをみてみましょう。
まず葉っぱの主要な仕事である「光合成」を停止することで、光合成をつかさどるクロロフィル(葉緑素)が減っていきます。
もともと葉には緑色のクロロフィルだけではなく、黄色いカロチノイドも含まれています。
クロロフィルの役割は光合成ですが、カロロチノイドは、クロロフィルをサポートする役割をしています。特定の波長の光を集め光合成を補助したり、葉の日焼けを防ぐ働きがあります。
さて、樹木は冬支度のため、葉での光合成活動を低下させます。それによりクロロフィルが分解され、緑の色素が無くなります。そして、残ったカロチノイドの黄色が目立つようになります。この過程が「黄葉」です。
イチョウなどに代表されるように、黄色に色づいて落葉していく種類の落葉樹は無数にありますが、日本で見られる代表的な「黄葉樹」には、次のようなものがあります。
イチョウ、アオギリ、アオハダ、アカメガシワ、アブラチャン、アベマキ、アワブキ、イタヤカエデ、イチョウ、イヌザンショウ、イヌシデ、イヌブナ、ウリカエデ、ウワミズザクラ、エゴノキ、エノキ、カツラ、カバノキ、カマツカ、カラスザンショウ、カラマツ、クヌギ、クマシデ、クリ、クロモジ、ケヤキ、コアジサイ、コシアブラ、コブシ、ザクロ、サワグルミ、シナレンギョウ、シバヤナギ、シラカバ、シラキ、ダケカンバ、タマアジサイ、ダンコウバイ、チドリノキ、トサミズキ、トチノキ、トネリコ、ニガキ、ハギ、ハリギリ、フジキ、ブナ、プラタナス、ヘラノキ、マンサク、ムクノキ、ムクロジ、ムラサキシキブ、モクレン、ヤマコウバシ、ユリノキ……etc
【図解】黄葉と紅葉の仕組み
2 秋になり日照が減ると光合成の活動が弱まる
3 光合成が弱まりクロロフィルが減ると、もとからある黄色の色素カロチノイドが目立つようになる。この状態が「黄葉」。
4 クロロフィルが無くなり光合成が終わったことで、葉柄には「離層」が作られ炭水化物(糖)は樹に送られなくなる。糖からアントシアニンにが作られる(アントシアニンが作られる理由は下の本文で述べています)。
5 糖からかわったアントシアニンが増え、葉が赤くなる。この状態が「紅葉」
6 やがて葉は離層から切り離されて落葉する。
赤く紅葉する樹木の種類とその仕組み
次に、赤く色づく紅葉の仕組みについてみてみましょう。
赤くなるのはアントシアニンの色素によるものです。
葉が光合成を停止して、その機能を終える段階で、葉の中でのアントシアニンが急増して、それが黄色のカロチノイドをうわまり、赤く見えるようになるのです。
では、なぜ、アントシアニンが増加するのでしょうか? 実は、この部分は、まだはっきりとした理由が解明されていないのです。
が、現在最も有力な説は、「葉緑体(クロロフィル)が分解される過程で出る活性酸素を抑えるために、抗酸化作用のあるアントシアニンが分泌される」、というものです。
葉が落葉する前に、植物は幹の部分に葉のなかの有効成分を全部、回収しようとします。そのなかにクロロフィル分解の過程で生じた活性酸素が多いと、悪影響を与えます。そこでアントシアンニンで有害な活性酸素の発生を抑え、有害なものを葉から幹に取り込ませないようにしているらしいのです。
紅く色づくさまは、最後の最後まで活躍する葉っぱのラストスパートの色合い、と言ってもよいでしょう。
赤く色づく樹木の種類は、代表的なモミジやカエデをはじめ、次のようなものがあります。
アカシデ、オトコヨウゾメ、カエデ、カキノキ、カシワ、ガマズミ、カマツカ、ケヤキ、コバノガマズミ、コマユミ、ゴヨウツツジ、コナラ、サクラ、サルスベリ、シラキ、スノキ、ソメイヨシノ、ツタ、ツタウルシ、トウカエデ、ドウダンツツジ、ナツヅタ、ナツハゼ、ナナカマド、ナンキンハゼ、ナンテン、ナンテン、ニシキギ、ニワウメ、ヌルデ、ハナノキ、ハナミズキ、ヒメシャラ、ヘビノボラズ、マユミ、マルバウツギ、マルバノキ、ミズナラ、ミツバツツジ、ムシカリ、メグスリノキ、メギ、モミジ、ヤマウルシ、ヤマコウバシ、ヤマザクラ、ヤマハゼ、ヤマブドウ、ヤマボウシ、ユキヤナギ……etc
日本の紅葉が世界中から賞賛を浴びているのはなぜ?
多様な紅葉が観れるのは日本だけ?
紅葉する樹木の種類は上にリストアップしたのは代表的なもので、他にもまだまだ数多くあります。
たとえば、モミジとひとことで言っても、太平洋側に多く分布するイロハモミジ、オオモミジ、日本海側に多いヤマモミジなど種類があって、モミジの場合葉っぱの切れ込みやかたちが微妙に違ってきます。そして、葉のかたちだけではなく、紅葉の仕方も微妙に変わってくるんですね。
また、モミジはカエデの仲間ですが、カエデの仲間は日本には約28種類もあって、紅葉の時には、それぞれが微妙な色合いの違いを見せてくれるわけです。(詳しくは⇒『カエデとモミジの種類とその違い』を参照)
このように、たくさんの種類の落葉樹が入り混じって、山や庭園の紅葉の色彩に微妙な変化と奥行きを与えて、紅葉の景色をより美しいものにしているんですね。
ところで、こうしたバリエーションに富んだ紅葉の風景は、実は、日本ならではだということを、わたしたち日本人は、あまり気づいていません。
実は、これだけ多くの紅葉する落葉樹があるのは、地球上でも日本だけなのです。
多様な紅葉が観れるのは日本だけ?
そもそも、紅葉が大規模に観られるのは、地球上でも、日本を中心とする東アジア、ヨーロッパ、北米の東側だけに限られています。意外なことに、どこにでもあるものではないのですね。
紅葉がある地域のなかでも、日本は、ヨーロッパや北米に比べて、ダントツに紅葉する樹木の種類が多いのです。
たとえば、赤く葉が染まるカエデの種類は、日本では28種類あるのに対して、ヨーロッパや北米では13種類しかありません。実際、ヨーロッパはほとんが黄色く紅葉する樹で、赤はあまり観られません。カナダなどではスケールの大きな赤い紅葉が観られますが、単一の樹木であるため、日本のような奥行きのある微妙な色彩が味わえる紅葉の情景は、なかなか観られないのです。
もともと氷河期までは、地球全体に落葉広葉樹が分布していたのですが、氷河期でほとんどが死滅してしまったとされています。しかし、日本は、黒潮が流れていたおかげで奇跡的に多くの広葉樹が生き残り、世界のなかでも類を観ない落葉樹の山林の植生ができあがったとされています。
また、自然林の紅葉だけでなく、京都などに観られる寺社の庭園に植えられた木々の紅葉と日本の伝統建築が織りなす風景は、まさに芸術そのもので、世界中のひとびとに感動を与えています。
身近すぎて多くの日本人が気づいていませんが、日本の紅葉は、世界の宝、だったのですね。
以上、紅葉の仕組みや種類、そして、日本の紅葉の多様性について述べてきました。
また、各地の紅葉する時期の例年の基準値などについては、こちらの記事⇒「紅葉前線の予測をどうする?」を参照してください。
世界一の紅葉が日本で観られることを再認識して、紅葉を楽しみにでかけてみましょう。そして、この美しい自然の贈り物を守っていくことも、改めて考えていきましょうね。