花桃(ハナモモ)の名所と種類。訪れたい「桃源郷」関東近県8選。

      2018/04/08

花桃

 桃は春を代表する花のひとつ。

 ひな祭りに欠かせない桃の花ですが、最近は「花桃(はなもも)」の名所でのお花見も人気です。

 花桃が満開になるさまは、まさに「桃源郷」。桜や梅とはまたちがったテイストで、見ごたえがあります。

 そこでこの記事では、いちどは訪れてみたい花桃の名所と、花桃の特徴や種類についてまとめてみました。

春の花なら、こちらの記事もぜひ参照ください。
⇒「野生ツツジの魅力と名所」
⇒「ネモフィラ公園の穴場」
⇒「ポピーの種類と花畑12選」

花桃の特徴と魅力

花桃と実桃の違い

 花桃は、果実を食べる桃と同じ種属の植物です。ルーツは同じですが、実を収穫する桃と、花を観賞する桃とに、品種改良されています。

 花桃の名所のなかにも、長野県阿智村のように観賞用の花桃を植えたところと、山梨県笛吹市のように果実用の桃畑の花が名所になっているケースがあります。

 花桃にも品種によっては小さな実が付くものもありますが、原則、食べられるレベルの実はなりません(記事後半で紹介しますが例外的に、花桃・実桃どちらも対応した品種もあります)。

 このへんの花桃と実桃の関係は、梅の場合と同様ですので、こちらの⇒『花梅の種類と実梅との違い』の記事も参照してください。

花桃の見ごろ時期は?

 桃の花というと、3月3日のひなまつりで切り枝の桃の花が飾られます。

 ところが、花桃の名所の見ごろ時期は、3月下旬〜5月上旬です。ほんらい、桃の節句は旧暦でおこなわれていたので、新暦の3月下旬〜4月上旬が、桃の開花時期です。つまり、旧暦の3月3日頃が、ちょうど桃の花の開花時期なのですね。新暦3月3日は、桃の開花にはまだ早すぎます。

 今では、新暦の3月3日より前にも、活けるための桃の枝が生花店などに出回りますが、これは人為的に早く咲くように調整したものです。切り花農家が収穫後に、固い蕾(つぼみ)の枝を加温した促成室に5日〜1週間入れることで、つぼみをふくらませます。このような早出しの切り花向けの品種として「矢口」などがあります。梅や桜もそうですが、桃の蕾は秋までには作られていて、固い葉で覆われ春を待っています。それを人為的に春の訪れを感じさせて、蕾ををほころびさせるわけですね。

 自然状態では、花桃でも実桃でも、新暦の3月3日には咲かない、という点はおさえておきましょう。

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花桃の観賞のポイント(梅・桜との違い)

花のかたちの違いや香りの違い

 花桃は、梅、桜とくらべて、どんな楽しみ方ができるでしょうか?

 まず、桃・梅・桜の見分け方としては、一重のものであれば、花びらの先端のかたちで見分けられます。また、原則、香りがあるのは梅です。桜は山桜など一部の品種に香りがありますがソメイヨシノはありません。桃は実の香りが印象的ですが桃の花の香りはあたりに立ち込めることはほとんどなく、顔を近づければようやくかすかに香りを感じられる程度です。

 花桃は、梅に比べると、花が大きめで、ゴージャスな印象です。梅は一節に一花ですが、桃は一節に二花咲く性質があるため、桃の場合は、枝にみっしりと花が付きます。

 品種にもよりますが桃は緑の鮮やかな新芽と花が同時につきます。山桜と同じパターンですが山桜の葉は赤っぽいのに対して、桃の新芽の黄緑に近い鮮やかさは特徴的ですね。

 また、花桃は桜にくらべると木の高さが低いため、花が目線の先に入ってくるので、そのあたりも印象が異なります。

 桃・梅・桜の違いや見分け方については、品種により例外も多いのですが、下の表にざっくりまとめてありますので、あたまにいれておきましょう。

桃・梅・桜の見分け方
花びらの先端 尖っている 丸い 割れ目がある
香り 微弱 強くすごい良い香り 品種によりある
新芽 緑色の新芽と花が同時 新芽は花が終わってから 品種による。新芽の色は赤っぽい
花枝 短い 無い 長い
花のつき方 一節に2花 一節に1花 一節からたくさん

花桃といえば三色桃など咲き分け品種が定番

 ひとつの木に、赤・白・ピンクと3色の花が同時に混じって咲く「咲き分け」。源平合戦の紅白戦ちなんで「源平咲き」とも呼ばれます。こうした咲き分け品種は、梅をはじめ、つつじ、サクラ、アサガオ、オシロイバナ、サルスベリなどでたまに見られます。ただ梅などでも「咲き分け」はかなり珍しく、どこにでもあるものではないです。一方、花桃の場合は、咲き分けが「定番」となっているほど、どの名所でもよくみられます(実桃産地を除く)。

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 これは、もともと、観賞用の花桃が広がるきっかけっとなった元祖「花桃」が、咲き分け種だったことにも関係してるようです。長野県・木曽川大桑村の須原地区に植えられた咲き分け品種が、長野県一帯に広がり、花桃の里作りが盛んになり、「花桃といえば咲き分け」という流れができたようですね。

 もともと花桃の品種じたいは観賞用に江戸時代から作られていましたが、春の花木の代表の座は、梅や桜におされぎみでした。花桃は、近年、見直されて、名所作りが進められているような状況です。ですから、花桃の名所は、梅や桜にくらべると歴史的には比較的新しいところ多いです。桜や梅の名所に差別化する意味で、花桃の場合は咲き分け品種を積極的に植えているめんもあるわけですね。

 では次に、ぜひとも訪れてみたい花桃の名所8選(関東近県)を紹介していきましょう。

花桃の名所〜いちどは訪れたい桃源郷

阿智村・花桃の里(清内路・月川温泉・昼神温泉)〜日本一の花桃の里

●本数:1万本 ●開花時期:4月中~5月中 
●JR上諏訪駅・茅野駅、南木曽から温泉宿泊者用シャトルバスまたはタクシー30分 ●中央道園原インター10分

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 阿智村は長野県の南部、中津川と飯田にはさまれた山村です。阿智村は日本一の花桃の里として知られていて、文字通りの「桃源郷」。村内の清内路(せいないじ)・月川温泉・昼神温泉の各ポイントを中心に、総合計1万本の花桃をたっぷりと楽しむことができます。各ポイントごとに開花時期が微妙にずれているため、村内のどこがでおよそ1カ月間にわたり桃のお花見ができます。

 清内路(せいないじ)の花桃街道は、国道256号線に沿って花桃のトンネルをドライブで楽しめます。歩いて花桃を楽しむなら、標高750m~1000mの山肌4kmにわたり花桃が広がる月川温泉がおすすめです。また月川温泉よりワンテンポ早い時期であれば昼神温泉が見所となります。また、ロープウェイ・ヘブンスそのはらで富士見台高原にあがれば、花桃と同時に水芭蕉も楽しめるとあって、見所が多い春を楽しむ山あいの里となっています。

 アクセスはマイカー・レンタカー利用がベターですが、シーズンの休日は渋滞が激しいので注意が必要です。公共交通+徒歩の場合は、昼神温泉などに一泊する日程を組みたいところ。星空が美しい村としても知られているので、充実した春の旅が楽しめます。JR上諏訪駅(または茅野駅)、南木曽駅から昼神温泉へのシャトルバスがあります。

渡良瀬鉄道〜花桃トンネル

●開花時期:4月上~中 
● 群馬県みどり市 ●上野からJR高崎線・両毛線で桐生駅まで110分。渡良瀬鉄道・桐生~神戸60分神戸駅徒歩5分

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 渡良瀬(わたらせ)鉄道は桐生から足尾銅山まで渡良瀬川に沿って進む絶景の渓谷鉄道。トロッコ列車も人気。神戸(こうど)から、沢入(そうり)駅方向へ歩いて5分のところ、草木湖の手前あたりが花桃トンネルと呼ばれるポイント。約300本の花桃のトンネルのなかをローカル線が走り抜けます。神戸駅をベースに、鉄道を降りて、鉄道と花桃や湖の風景など満喫できます。一日フリーきっぷが便利。

笛吹・一宮の桃畑〜桃産地の花風景

●本数:20万本 ●開花時期:4月上~中 
●山梨県笛吹市一宮 ●JR中央線春日居駅より徒歩、中央道一宮御坂IC5分

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 山梨県笛吹市一帯は花桃ではなく実桃の花の名所で、生産量日本一を誇る桃の産地です。20万本の桃の木があるといわれ、南アルプスの山を背景に扇状地に広がるいちめんの桃畑が、標高差におうじてだんだんと開花して、ピンクの絶妙なグラデーションが見られます。また、菜の花とのコラボも楽しめます。メインのポイントは、みさか桃源郷公園・一宮花見台・八代ふるさと公園・花鳥の里スポーツ公園・県道桑戸大野線(ピーチライン)など。また中央道釈迦堂PAからも絶景と、歩いていける桃園があります。

 同時に、日本一早い水芭蕉、「笛吹桃源郷春まつり」では、武田と上杉の川中島合戦の再現劇などのイベントも催されます。

秩父市小鹿野~花桃の参道

●本数:約1000本 ●開花時期:4月中~4月下 
●埼玉県秩父市 ●JRまたは西武秩父駅からバス40分終点停栗尾下車、関越道花園ICより国道299号経由

 秩父札所31番観音院の参道2㎞にわたり約1000本の花桃が植えられています。里山と寺社に混じって咲く花桃で春を満喫することができます。花桃の丈がやや低めなのでツツジに見えるものもありますが、花を目線でしっかりと見られるのが特徴です。

 観音院は日本最大の石仏の仁王像があるところで、寺社巡りも楽しいところ。4月20日前後には小鹿野春祭りがおこなわれ、小さな村とは思えないほど見事な笠鉾や屋台曳き、小鹿野歌舞伎の上演にあわせていいくのも良いですね。

 また、秩父地方は花桃が多く、東秩父村の大内沢地区も「花桃の里」として有名です。小鹿野町の長留地区のしだれ桜と花桃のコラボも隠れた名所として話題です。

大桑村の三色桃と産業遺構

●開花時期:4月中~下 
●長野県大桑村 ●中央本線須原駅10分

 木曽川沿いの大桑村の須原地区は、一本の木が赤・ピンク・白に咲き分ける「三色桃」の発祥の地として知られています。花桃ブームのルーツになっている場所とも言える、元祖「花桃の里」です。

 このあたりは木曽川の水力を活かした発電のメッカとして大正時代から電源開発が盛んで、いまでも大正時代の発電施設が産業遺産として残されています。そのなかのひとつ須原発電所周囲に当時の電源開発リーダーだった福沢桃介氏(福沢諭吉の親戚)が、ドイツからとりよせた三色桃を植え、ここから花桃が長野県全体に広がっていった歴史があります。花桃の郷で有名な阿智村の花桃も、この大桑村の花桃がルーツになっています。

 花桃の見所は、須原発電所周囲と木曽川べり、発電所から大桑村スポーツへ通じる道の途中・和村地区の60本のハナモモ街道、大桑村スポーツ公園の木曽川沿いなどがビューポイントになっています。また、近くの天白公園では当地の固有種である赤紫のナギソミツバツツジも見事。

花見山公園〜春の花木が百花繚乱

●見頃時期:4月上~4月下 
●福島県福島市 ●JR福島駅よりバス花見山入口より徒歩25分。花見時期は臨時バスで駅より15分、東北自動車道福島西ICより30分

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 地元の花木農家が植えはじめ、1959年より一般公開されているいろとりどりの花木の山。散策路を30~60分かけて歩きながら、花桃をはじめ、梅、桜(カンヒザクラ、ヤマザクラ、ヒガンザクラ)、レンギョウ、ボケ、サンシュユ、モクレンと春の花木が咲き誇る桃源郷の雰囲気を満喫できます。

 見学は自由ですが、周囲が住宅地のため見学時間に注意。開花時期は環境整備協力金300円が入園料となります。

飯坂温泉はなももの里

●本数:200本 ●開花時期:4月上~5月上 
●福島県福島市 ●福島交通飯坂温泉駅より徒歩15分

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 飯坂温泉はなももの里には、ピンク、赤、白のカラーバリエーション一重、八重、菊咲など花弁の色、樹のかたちなど、バラエティに富んだ世界の40品種が200本以上植えられています。宇都宮大学農学部の研究農園もかねています。4月には「飯坂温泉花桃まつり」も開催。

古河総合公園~江戸時代から続く桃の伝統

●本数:1500本●開花時期:3月下~4月上
●茨城県古川市 ●JR宇都宮線古川駅徒歩30分・桃まつり期間中は臨時バスあり。東北道館林ICより30分

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 22ヘクタールにおよぶ広大な自然公園。1500本の花桃林は、古川市には江戸時代に当時の藩主が桃の植樹を推奨したことにちなみ植えられているもの。品種は、矢口、源平、菊桃、寿星桃、寒白。

 開花にあわせて「古河ももまつり」が催され、園内では熱気球、人力車、歌謡ショーや野点などが開催されます。古川駅駅前には観光用の無料貸し出し自転車があり、利用すればハート型で有名な「渡良瀬遊水地」をあわせて観光もできます。

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花桃の分類や品種

桃の仲間バラ科サクラ属の特徴

 桃は、桜、梅と同じように、バラ科サクラ属に分類されます。プルヌス属・スモモ属と分けられることもありますが、サクラ属と同じことです。

 バラ科サクラ属には、桃のほか、サクラ、梅、あんず、プラム、アプリコット、ネクタリン、プルーンなどがあり、これらはみな真ん中にひとつだけ硬い殻をかぶった核があることから核果果実と呼ばれます。核を割るとなかから柔らかく食べられる「仁」が出てきます。梅干しの仁を食べたりしますが、実は有名なアーモンドは、バラ科サクラ属の植物でナッツとして食べているアーモンドは仁の部分なのです。

 花桃も、ほんらいはこうした核果実の仲間ですが、花を観賞しやすいように改良されてきています。桜・梅と同様、自然交雑で新しい品種が生まれやすいのもバラ科サクラ属の特徴で、江戸時代から多くの品種が作られてきました。品種の形質は、種にすると先祖返りしてしまうので、ハナモモの場合も、接木苗で増やしていくのが基本になります。

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▲縦に真っ直ぐ枝が伸びる「ほうき桃」は花桃ならではの特徴。

花桃の代表的な品種

 ハナモモの品種は梅や桜ほど多くはありませんが、たとえば次のようなものがあります。古くからのもの他に、近年の花桃ブームで、新しい品種も随時発表されています。

花桃の品種

寿星桃(じゅせいとう)…唐桃(からもも)とも呼ばれ鉢物や盆栽で使われる低木で花が密集する品種

枝垂れ桃…庭木などで主に使われる観賞用の花桃。食べられる果実がなる「ひなのたき」など

ほうき桃…ほうきを逆さにしたような縦長の樹形になる。梅や桜では見られない梅ならではの樹形。「照手姫」が代表品種。

矢口系…新暦3月3日に向けて早出しする品種。促成室で蕾を動かしてから出荷する。

菊咲き…花びらが細く菊のようなかたち。「京舞妓」「菊桃」など

八重咲き…花桃は基本八重咲きになっているのものが多く、同一品種で一重と八重があるもものも多い。「黒川矢口」など。

源平咲き…ひとつの木に赤・白・ピンクが混じって咲く咲き分け系の品種の総称。白いハナにピンクの班が混じることもある。咲き分けができる仕組みはまだ解明されいない。

 

 

 以上、花桃の特徴や名所について、まとめて紹介しました。

 花桃もの名所は、ここで紹介したところにも、まだまだたくさんあります。とくに最近は、地域おこしの起爆剤として、花桃を植える集落や施設も増えてきています。梅や桜にくらべると、少しマイナー感のある花桃ですが、これからは春を感じる花木の定番になっていくのではないでしょうか?

 

 なお、早春の花木については、⇒『山桜の自生地と名所』⇒『花木の名前と種類』の記事も参考にしてみてください。

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