日本の原生林と原生林的な自然林の一覧。森林の種類と基礎知識も。
2018/09/13
原生林とは人の手が入っていない手つかずの森林のことです。
日本の原生林といえば、世界遺産に登録された白神山地、知床半島、屋久島が有名です。日本の森林はスギやヒノキの人工林が多いイメージですが、案外、まだまだ原生林は残っているものです。
この記事では、日本各地の原生林を紹介するとともに、原生林と原始林・自然林・天然林・極相林などとの違いや、原生林に生えている樹木の種類などについて説明していきたいと思います。
気軽に原生林に触れてみたい人も、がっつりと原生林の奥深くに挑戦したい人も、知っておきたい基礎知識をまとめてありますので、ぜひ参考にしてください。
なお、樹木の名前がぜんぜんわからない、という人はこちらの記事
⇒「広葉樹の種類と名前の覚え方」
⇒「針葉樹の種類と名前」も参照してください。
原生林にでかける前に最低限知っておきたい基礎知識
原生林と自然林・天然林・自然林の違い
原生林は、長い年月のあいだ人の手が入っていない森林のことです。原始林という呼び方もありますが、原生林・原始林という言葉の定義は、実は、科学的にはあいまいまいです。
なにしろ、森林の再生力は強いので、人の手がまったく加わっていないかどうか?は、なかなか証明できないものです。また、古代より人は森を利用しながら暮してきています。そのため、完全に人跡未踏の森だとは、なかなか言い切れないのです。そこで、現状みたところは原生林といえるが、過去の歴史はわからない、あるいは多少人の手が入ったような森は「原生的な森林」と呼んだりします。
一方、「自然林」や「天然林」という言葉もあります。過去にあきらかに人の手が加わった森が、時間をかけて自然に再生していった場合は、原生林と呼ばずに、「自然林」「天然林」と呼び区別します。
原生林と極相林
さて、森林や樹木についての専門用語でぜひ知っておきたいものに「極相(きょくそうりん)林」があります。
極相林は、簡単に言えば「森の最終形態」です。
森林は、さまざまな樹木が生存競争をしながら造られていきます。限られた空間に、どの樹木が、より高く伸び枝を目いっぱい伸ばすか? そんなポジション取りの闘いが静かに繰り広げられているわけです。
はじめは日陰に弱く成長が早い陽樹が、優勢になります。陽樹が茂ると、林床は暗くなるため、陽樹は育たずに、今度は日陰でも成長できる陰樹に有利になります。
このようにして、森林はスタートから200~300年がたつと、陰樹の樹木が優勢した安定した状態になります。これが極相林です。
極相林になる前の、陽樹が優先している森林は、天然生林や二次林と呼ばれます。
極相林は、だいたい200年以上をかけて完成すると言われます。ですので、原生林は極相林だということになります。
ただ、極相林であれば、必ず原生林かどうか?といえば、そうとも言い切れません。たとえば、東京の明治神宮は100年前に造林された、いわゆる「鎮守の森」ですが、実は人工の常緑針葉樹林です。ただ、現在の明治神宮はすでに「極相林」になりつつあり、人工林とは思えないほどの立派な深い森になっています。このように、あきらかに人の手が加わった歴史がある森が、極相林になっていることもあるわけです。こうした森は、「原生林」と言い切るのは微妙ですので、「原生的な森」とか「自然林」とか表現するわけですね。
原生林の定義とその背景とは?
ここまでを整理すると「原生林=明らかに人の手が加わっていない極相林」のこと、と言えそうですね。
ただ、難しいのは、人の手が加わているかどうか?の判断です。樹木を伐採した形跡は100年ほどで消えてしまいますし、かつて植栽したものか自然に生えたものかを区別することは難しいことです。
そこで、極相林のなかでも、次のように地理的・歴史的背景がある程度はっきりしているものが「原生林」と呼ばれるようになるわけです。
・地形的に人が容易に立ち入ったり、伐採した樹木を運び出すことができない場所
・神社の社有林など宗教的な理由で伐採が禁じられている森
・幕府や藩の直轄林・皇室の後料林などで「留山(とめやま)」として保全されてきたもの
以上ここまで、「原生林とは?」についてみてきました。森林の種類とともに以下の表にまとめてありますので確認しておきましょう。
天然林・自然林 | 極相林…陰樹の森(成熟した森) | 原生林的な自然林…過去に人の手が入っている。(時間がたっている場合は「原生林」と呼ぶこともある。) |
原生林・原始林…人の手が明らかに入っていない | ||
二次林…陽樹の自然林(若い森) | 天然林(天然更新林)…災害などで極相林が枯れたあとに、自然に更新したも | |
天然生林…天然更を人為的に手助けしたもの | ||
雑木林・里山林…二次林に手を加えて利用しているもの | ||
人工林 | 針葉樹人工林…戦後の拡大造林などで作られたスギやヒノキの森林 | 雑木林…武蔵野の平地林など造林して作った雑木林 | 鎮守の森(極相林)…明治神宮のように造林した照葉樹林が極相林になっているものもある |
なお、森林の種類については下記の記事も参照してください。
⇒「雑木林とは?その種類と成り立ち」
⇒「人工林は広葉樹林に戻せるか?」
日本の原生林と原生的な森の一覧
それでは次に、日本の代表的な原生林を具体的に紹介していきます。
前項で述べたように、地形の状態や宗教的な理由から人の手がほとんど入っていない極相林、という定義で絞り込んでいます。
また、人の手が入っているけれども、原生林さながらの状態になっている「原生林的な森林」もあわせて紹介しています。
自家用車ですぐ近くまでアプローチできてドライブがてら気軽に体験できる原生林もあれば、人数限定のガイドツアーに申し込まないと入山できない敷居の高い原生林まで、さまざまなタイプがあります。シチュエーションに応じて、行先を選ぶ参考にしてみてください。
白神山地ブナ原生林
●青森県鯵ヶ沢町・深浦町・西目屋村・岩崎村、秋田県・藤里町・八峰町・八森町 ●アクセス:<青森側>弘前よりバス90分アクアグリーンビレッジANMONより白神ラインへ入る、JR五能線・白神岳登山口駅・十二湖駅、<秋田側>JR奥羽線二ッ井駅、大舘能代空港など
白神山地は1993年に世界遺産に登録された日本屈指のブナ原生林です。ブナは木へんに無と書くように木材としては価値が無いといわれていました。また、白神山地は急峻な地形と造山運動のため山崩れが起きやすく、また1年の半分近くは雪に覆われています。険しい山林のブナ林であるため、人の手の開発がされずに、広大な原生林が残ったわけです。
白神山地のなかで、青森と秋田にまたがる1万ヘクタールの完全に手つかずの原生林が、世界遺産では「コアゾーン(核心地域)」と指定されました。また、その周囲のバッファーゾーン(緩衝地帯)4千ヘクタール、も含めて、今後一切の新たな開発などを行わないことになっています。観光やトレッキングなどで行くことができるのはほ緩衝地帯のみです。コアゾーンには、林道など車で行けるアクセスルートはもちろんいっさい無く、登山道も荒れているため、基本的に入山できないと考えてよいでしょう。実際に遭難者も出ているくらい人にとっては厳しい環境で、これこそがほものの原生林なのかもしれません。
白神山地を観るポイントとしては、主に次の場所があります。
・青森県側の拠点=アクアグリーンビレッジ付近…暗門(あんもん)の滝、世界遺産の径、高倉森
・青森の白神ライン沿いからのアプローチ…遊々の森、マザーツリ-(ぶな巨木ふれいあの径)、津軽峠、奥赤石展望所、資源保存林、天狗峠、一森峠、奥赤石展望台、天狗峠展望台
・青森日本海側からのアプローチ…五色沼(青池)、白神岳
・秋田側からのアプローチ…岳岱(だけだい)自然観察教育林、二ッ森、駒ケ岳、釣瓶落峠、留山
ところで、山岳の観光地といえば、とかく、滝やら巨木やらシンボリックなものを求めがちですが、白神山地はもともと景勝地ではなく、言ってしまえば、ブナを中心とした原生林しかありません。逆にいえば、純粋に、ブナ林の緑や紅葉を楽しんだり、トレッキングをしながら森のパワーを感じ取るためには、ぴったりの場所なのです。
知床半島の原生林
●北海道斜里町・羅臼町 ●アクセス:女満別空港からウトロ温泉までバス200分
知床半島は最後の自然の聖域と呼ばれ、人を容易に寄せつけない急峻な地形の半島で、開発を逃れたたために、原生林に覆われています。植生は主に、ミズナラとトドマツを中心にした針広混合林です。
知床は」2005年に世界遺産の自然遺産に登録されました。原生林と多種多様な動植物はもちろん、豊な森が、栄養豊な海を作り出していて、海洋の魚種や海獣など海の生態系も豊なことも特徴です。知床の原生林は、いわゆる「魚付き林」でもあることが、世界遺産での評価ポイントになっています。
知床の定番ドライブコースである、羅臼峠、オシンコシンの滝、五色沼の高架歩道、カムイワッカの湯滝などからも知床の原生林を垣間見ることできます。よりしっかりと原生林を楽しむなら、レクチャーを受けてから入場する五色沼の地上遊歩道や、地元ネイチャーガイドの案内による独自ルートの原生林のトレッキングに参加するのが良いでしょう。シーカヤックと組み合わせた森林ツアーもあります。
ちなみに知床でもエゾジカが増えすぎて、森林の植生に影響を与え始めていることが課題になっています。その背景にはヒグマが開発の影響で草食化したのが原因であると、最近言われています。
屋久島・照葉樹の原生林と屋久杉
●鹿児島県屋久島町 ●アクセス:鹿児島より高速船2時間、フェリー4時間など
世界遺産の屋久島は、有名な縄文杉だけでなく、標高1936mの宮之浦岳全体に広がる、亜熱帯から亜高山帯まで、変化に富んだ森がその魅力です。
島では昭和40年までは林業が盛んで、天然スギを中心に山の多くの木が伐採されていましたが、昭和54年の台風で大規模な土砂災害が起こったことを契機に、森林を保全する方向に転換されました。現在では、かつて人の手が入ったところも原生的な様相を取り戻して、島全体が美しい森林の島となっています。
屋久島の原生林といえば白谷雲水峡が最も有名です。標高600m~1000mに位置する雲水峡はシイ、カシ、イスノキ、タブノキ常緑照葉樹に屋久杉が混じる植生で、最も見応えがあります。「もののけの森」や「原生林コース」は、トレッキング経験者ならガイドなしでも気軽に歩けるコースです。
また、標高1000m~1300m付近のヤクスギランドは、原生林ではありませんが自然休養林として保全地域になっていて、スギ、ツガ、モミなど雲水峡とは違った植生が見られます。
よりディープなコースとしては、「淀川原生林」「花山原生林」など、ガイド付きのコースがおすすめです。
また、島西部の瀬切川右岸域は、屋久島の自然保護の象徴ともなった地域で、過去に人の手がまったく入ったことのない正真正銘の原生林。もちろん素人には入れない領域ですが、沢登りやビバークの経験者であれば、熊がいない屋久島ですので安心して原生林探検ができます。
奥只見のブナ原生林
●福島県只見町、檜枝岐村 ●アクセス:上越新幹線+上越本線+只見線、東武浅草駅から会津田島駅まで直通特急+会津田島よりバス、磐越自動車道・会津坂下ICより国道252線を80分
紅葉や新緑の美しさでは日本一とも言われる秘境ダム奥只見湖で有名な只見町は、実はブナ原生林のメッカでもあります。「自然首都」を名乗る只見町は、平成17年には世界ブナサミットも開催され、平成26年にはユネスコエコパークに登録され、注目を集めています。町内の90%が森林である只見町には、白神山地の4倍の面積のブナ原生林があります。ユネスコエコパークの登録地域は、コアが3千500ha、バッファーが5万haとなっていて、コアの面積は白神山地及びませんが、バッファーを入れた総面積では、白神山地をはるかにしのぐ規模です。
コア地域は、会津朝日岳と駒ケ岳を結ぶ「駒・朝日三群」を中心としたエリアです。ちょうど、尾瀬の北側に位置する山塊で、標高では1600m級ですが、夏も雪渓が残り素人は寄せつけない深山となっています。そのため、開発の手を逃れ、ブナの原生林が広く残されました。会津朝日岳は健脚向けの登山道として整備されていますが、そこから先のコア地域の縦走は、登山道すら無く、まさに人を寄せつけない状態になっています。
手軽に只見のブナ林を観るには、奥只見湖の遊覧船からの眺めや、湖に沿う樹海ライン352号線で尾瀬へ抜けるルート沿いでブナ林を垣間見ることができます。
一般向けの
トレッキングなら、「森林の分校ふざわ」を起点に2~3時間ほどの行程で散策できる「癒しの森」「恵の森]や、林床のユキツバキも美しい浅草岳山麓の「沼の平ブナの森」をガイド付きで楽しむのがおすすめです。
大佐渡山脈原生林のスギ巨木
●新潟県佐渡市 ●アクセス:両津港よりレンタカー30分~60
佐渡北部を縦貫する標高1000mクラスの大佐渡山脈は、もともとスギやヒバの天然林の豊富なところです。昭和初期に乱伐され、ヒバの原生林などは消滅していてしまいました。そんななか、江戸時代は幕府直轄林、明治時代は御料林として伐採が制限されてきた北部エリアが、昭和30年からは、新潟大学の演習林として厳しく管理され、珍しい「スギ原生林」として残っています。
風雪で独特のかたちにねじ曲がったスギ巨木の姿は、写真家・天野尚氏に紹介され一躍有名になりました。とくに霧に包まれる曇りの日に観られる幻想的な風景が印象的です。
新潟大学演習林は、年間2000名(1日16名)ほどに入場者数が制限されていて、佐渡エコツアー協会のツアーに参加することのみで見られます。気軽に参加できる「原生林ハイキングコース」と、健脚向けの「外海府コース」「内海府コース」の3コースがあります。
より気楽に佐渡の森林浴を楽しむには、「石名天然スギ遊歩道」があります。こちらは原生林ではなく、ある程度人の手が入っている「天然林」です。が、雪により曲がった独特の樹形のスギも見られますし、時期によっては、カタクリ、シラネアオイ、ユキザサ、タニウヅキなど高山植物なども多いコースです。
8月14日,佐渡の「神秘の大自然 原生林と杉巨木トレッキング~外海府コース~」に参加しました。3名以上で催行決定。心配しましたが私を含めて5名の参加。自然の素晴らしさを満喫しました。 pic.twitter.com/sfEiPmhrKC
— Yutaka KATO (@yuch_nii) 2017年8月26日
春日原始林
●奈良県奈良市 ●アクセス:近鉄奈良駅よりバスで「春日大社」遊歩道入り口まで徒歩10分
春日大社の社有林として1000年以上にわたり伐採がおこなわれていない原始林。照葉樹林の極相林として貴重で、国の特別天然記念物と文化遺産とあわせた複合遺産として世界遺産に指定されています。
基本的に伐採は行われていないようですが、過去に人の手で植えられたスギやナギ、ケヤキやカエデが一部で観られるため、100%手つかずの原始林ではないようです。しかし、スダジイ、コジイ、アラカシ、シラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、クスノキ、タブノキ、シロダモ、ツバキ、イスノキなど常緑照葉樹で構成される極相林は、ほぼ1000年以上自然のままの姿となっています。社有林ですが、入場規制的なものは無く、奈良の街からもすぐですので、日本で最も手軽に見れる原生林、と言えるでしょう。
春日山原生林を手軽に見るには、奈良奥山ドライブウェイ(有料)からアプローチするのが簡単です。原生林の中のハイキングは、遊歩道北口から入る「春日山コース」と、南口から入る「桐生街道コース」の遊歩道が2コース整備されています。
那智原始林
●和歌山県勝浦町 ●アクセス:紀伊勝浦駅よりバス30分
熊野信仰の拠点であり日本三大瀑布のひとつ那智大滝をまつる熊野那智大社の社有林として守られて続けている原生林。現在も立ち入りが制限されている価値の高い原生林です。植生はシイ、イスノキを中心にヒメシャラ、クスノキ、カゴノキ、シロダモなど常緑広葉時にスギも混じる混交林です。
原生林はご神体である那智の滝の上流部分に広がるためほんらいは入山禁止ですが、春先の3~5月だけ開催される、「那智の滝・神秘ウォーク」のツアーに参加することで、特別に見学をすることができます。このツアーは「熊野那智ガイドの会」に申し込むか、那智勝浦観光協会または各旅行会社が主催しています。
ツアーは、ご神体内部に立ち入るため、那智神社の本殿で通常の参拝とは異なる正式な参拝を受けて身を清めてから入山することになります。また、コース途中に沢を渡る箇所が数カ所あり、増水時はコース途中で引き返すことも。それだけに、ほとんど人が入らないほんものの原生林に触れることができる貴重なコースです。
富士山原始林・青木ケ原樹海
●山梨県富士河口湖町・鳴沢村 ●アクセス:富士急河口湖駅よりバス
富士山北麓の西湖と本栖湖のあいだにひろがる3000ヘクタールの原生林。ネガティブなイメージのある「青木ケ原樹海」ですが、その規模からしても日本有数の原生林のひとつです。
平安時代864年の大噴火で流出した溶岩が冷えて固まった後にできた、比較的新しい原生林です。溶岩の上の樹海であるため、地面はでこぼこでいたるところに風穴があり、人の手が入りにくい環境です。樹種はツガやヒノキなど針葉樹林を中心に一部にブナ・ミズナラの極相林もあります。針葉樹で暗めの苔むした林床は独特の雰囲気です。
一般的なコースとしては西湖コウモリ穴から西湖湖畔へ抜ける散策路が整備されていてハイキング感覚で歩けます。最近は、観光コース以外を歩く、ほんらいの富士原生林の魅力を伝えるガイドツアーも増えてきています。
まだまだある日本の原生林
森林名称 | 所在地 | 主な樹種 | 難易度 | 特徴 |
東大北海道演習林 | 北海道富良野市 | トドマツ、ヤチダモ、ハルニレ、エゾマツ、ハイマツ | ● | 原生林を保存して観察するだけでなく、自然状態を維持し間伐する天然林型林業の実践研究林としても有名。 |
野幌森林公園 | 札幌市・江別市 | ミズナラ、カツラ、シナノキ、トドマツ | ◎ | 都市近郊の平地林としては広大な2000ヘクタールの森林。自然林と人工林からなり、温帯から寒帯までさまざまな樹種がみられる。 |
利根別原生林 | 北海道岩見沢市 | ミズナラ | ◎ | ミズナラを中心に、アサダ、シナノキ、エゾイタヤなど100種の広葉樹。 |
眺望山ヒバ植物群落保護林 | 青森県青森市 | ヒバ | ◎ | 青森ヒバの100年あまり手つかずの保護林。樹齢180年~300年のヒバが多い。 |
葛根田・玉川源流ブナ原生林 | 岩手県雫石町 | ブナ、オオシラビソ | ● | 八幡平南部の手つかずの原生林。ブナとオオシラビソの針広紅葉樹 |
十二神山自然観察教育委林 | 岩手県宮古市 | ブナ | ◎ | 太平洋側タイプのブナ天然林が観られる散策コース |
夏油渓谷 | 岩手県北上市 | ブナ | ◎ | ブナ原生林に囲まれた秘湯・夏油(げとう)温泉がある |
白神山地留山ブナ林 | 秋田県八峰町 | ブナ、ミズナラ | ● | 地元のガイド同行が必須条件で入山できる樹齢200年のブナ巨木自然林。 |
県立自然博物園ブナ園 | 山形県西川町 | ブナ | ○ | 月山のブナ原生林。樹齢200年以上の豪雪地帯ならではのブナ林。 |
栗駒古道(世界)谷地 | 宮城県栗原市 | ブナ、ミズナラ | ○ | 千年近い歴史のある古道がブナ原生林の中を抜ける。日本一のクロベ巨木があり |
船形山原生林 | 宮城県大和町 | ブナ、サワグルミ | ○ | 山形県との境にある船形山腹。原生林のなかの旗坂キャンプ場をベースにバリエーションにとんだ森林コースを楽しめる。 |
尾瀬・ブナ平 | 福島県檜枝岐村 | ブナ | ◎ | 御池からの散策コースでモーカケの滝などともにブナの原生林の森林浴ができる。また沼山峠に向かうシャトルバスからの眺めも秀逸。 |
尾瀬・燧裏(ひうちうら)林道 | 福島県檜枝岐村 | クロベ、ブナ、ダケカンバ | ○ | 奥尾瀬の湿原と森林が繰り返される木道コース。 |
阿武隈川源流原生林 | 福島県西郷村 | ブナ | ○ | 渓谷にそった散策路ではブナ・ミズナラ・トチノキやサワグルミなど渓畔林がみられる。 |
塩原自然研究路 | 栃木県那須塩原 | ブナ | ○ | 塩原温泉と新湯富士を結ぶ自然探索路沿いのブナ原生林。ほかに、アスナロ、サワラの針葉樹など。 |
中禅寺湖南岸 | 栃木県日光市 | ミズナラ・ハルニレ | ○ | 日光中禅寺湖西の千の森~湖南岸にかけては、ほぼてつかずの森が広がる |
北沢渓谷シオジ原生林 | 群馬県上野村 | シオジ | ○ | モクセイ科の落葉樹シオジ。250年ほどの手つかずの計渓流沿いの原生林。6時間ほどの本格トレッキング |
真鶴半島 | 神奈川県真鶴町 | クロマツ、クスノキ、スダジイ、タブノキ | ◎ | 100年以上、御料地の魚つき林として保護されてきた海岸性の常緑樹林 |
清川村堂平ブナ・モミ林 | 神奈川県清川村 | ブナ、モミ | ○ | シカの食害による生態変化を自然保護策で守りながら保存している自然林。モミの原生林は貴重 |
大山モミ原生林 | 神奈川県伊勢原市 | モミ、カシ、ツガ | ○ | 大山阿夫利神社の所有林として保護されてきた。標高340m付近のカシとモミの林、800m付近はツガブナを含むモミ林となる。 |
函南原生林 | 静岡県函南市 | ヒノキ、ケヤキ、ヤマボウシ、ヒメシャラ、エゴノキなど | ● | 箱根外輪山の国指定の特別保護地区に指定された1000年以上の極相林。保護林は一般立ち入り禁止だが隣接する「原生の森公園」で散策できる。 |
天城山ブナの原生林 | 静岡県伊豆市 | ブナ、ヒメシャラ | ○ | 天城山・八丁池付近の特別保護地区。ブナ原生林のほかヒメシャラの自然林も。 |
櫛形山 | 山梨県南アルプス町 | コメツガ、シラベ、カラマツ | ○ | 亜高山帯の針葉樹原生林のほか、山麓付近では美しい二次林が。カエデの種類が豊富なことでも知られる森。 |
奥裾花自然園 | 長野県長野市 | ブナ、トチ | ◎ | 81万本の日本一のミズバショウ群落でも知られる奥裾花にある、樹齢300年クラスのブナ原生林 |
乗鞍高原 原生林 | 長野県松本市 | コメツガ、シラビソ | ◎ | 標高1600mの原生林。樹木札が整備されr15分ほどでで通り抜け出来る。 |
蓼科大滝 | 長野県茅野市 | サワラ | ◎ | ビーナスライン・プール平の駐車場から10分ほど行ける。 |
蓼科・白駒池 | 長野県佐久穂町 | コメツガ・トウヒ・シラビソ | ◎ | 駐車場から15分ほどで手軽に訪れられる原生林。苔の森ともしられ485種の苔が生息する。 |
雨飾山鎌池ブナ原生林 | 長野県小谷村 | ブナ | ◎ | 鎌池周辺のブナ林は自家用車でアクセスしやすい。雪融け5月にブナの根の周りだけ溶ける「根開け」が見やすい。 |
志賀高原・信州大学志賀自然教育園 | 長野県山ノ内町 | コメツガ、シラビソ、クロベ | ○ | 志賀高原の亜高山帯針葉樹林の原生林。木島平村のカヤノ平のほうではブナの原生林が観れる |
苗場山麓ジオパーク・トチノキ原生林 | 新潟県津南町 | トチノキ | ○ | 苗場山麓ジオパーク内にある10ヘクタールにわたるトチノキ原生林 |
立山美女平 | 富山県立山町 | ブナ、スギ | ○ | ケーブルカー駅からアクセスが便利な立山溶岩台地のぶにゃ、ミズナラやスギ、クロベ、オオシラビソ、コメツガなどの針広混合の原生林が広がる。 |
千振尾根 | 石川県白山市 | ブナ | ○ | 白山山系の山麓の、比較的容易に歩けるトレッキングコースで、ブナ原生林を味わえる。 |
岩谷国有林 | 福井県南越前町 | ブナ | ○ | カツラ、トチノキなど渓畔林を沢沿いに登りながら、ブナ原生林に囲まれた夜叉ヶ池までのトレッキング。 |
面ノ木原生林 | 愛知県豊田市 | ブナ | ◎ | 天竜奥三河国定公園の特別保護地区。樹齢300年クラスのブナ林。 |
段戸裏谷(だんどうらだに)原生林 | 愛知県設楽町 | モミ、ツガ、ブナ | ◎ | 太平洋側タイプのブナ林に、モミ、ツガの原生林、ヒノキ、サワラなどが豊富な樹種が観察しやすいルート |
天生(あもう)県立自然公園立自然公園 | 岐阜県飛騨市・白川村 | ブナ、ダケカンバ、オオシラビソ | ○ | 一年の半分は雪に閉ざされる飛騨高地の山奥の湿原と渓畔林とともに、300ヘクタールのブナ原生林が広がる。 |
白山中居神社 | 岐阜県郡上市 | ブナ、スギ | ◎ | ブナ原生林とスギの巨木が混交する社そう林。 |
木曽ヒノキ備林 | 岐阜県中津川市 | ヒノキ | ● | 天然の木曽ヒノキの森林。300年前の江戸からの留林で、伊勢神宮の備林となっている。一般立ち入りは禁止で見学会のみで観覧可能 |
朽木・葛川県立自然公園・生杉ブナ林 | 滋賀県高島市 | ブナ | ○ | 三国山中腹の原生林。ブナ以外にもミズナラ、イタヤカエデ、トチノキ、ホオノキなど広葉樹が豊富で紅葉の名所としても知られる。 |
奥山愛宕神社ブナ原生林 | 三重県伊賀市 | ブナ、カエデ | ◎ | 青山高原山腹の奥山愛宕神社の寺社林として残るブナやコハウチワカエデの落葉原生林。西日本では標高が低いところにあるブナ林として貴重。 |
大台ケ原 | 奈良県上北山村 | ウラジロモミ、ブナ | ●◎ | 豊富な年間降水量が育む太平洋型ブナ原生林やウラジロモミの原生林が混在する。ドライブウェイを利用して気楽に訪れられる東大台と入山制限がある西大台に分かれている。 |
芦生研究林 | 京都府南丹市 | ブナ、ミズナラ、トチノキ、ホオノキ、スギ | ● | 京都大学フィールド科学研究センターが管理する4200ヘクタールの森林。立ち入りは許可制。トロッコ列車の廃線あとをたどり灰野集落まで行き、そこから先は2000ヘクタールの原生林。 |
大山寺(たいざんじ)原生林 | 兵庫県神戸市 | シイ、カシ | ◎ | 神戸市西区の名刹の寺社林が、常緑広葉樹と落葉樹の混合原生林となっている |
若杉天然林 | 岡山県西粟倉村 | ブナ、カエデ、ミズナラ | ◎ | 天然の落葉広葉樹林。駐車場から3kmと5kmの周遊コースがある。 |
宮島・弥山原始林 | 広島県広島市 | シイ、カシ | ◎ | 厳島神社の森として手つかずの常緑照葉樹林が残されている。ヤブツバキ、マツブサ、ツガなど。 |
大山(だいせん)・横手道 | 鳥取県大山町 | ブナ、ミズナラ | ○ | 大山(だいせん)のふもと、大山寺からのびる旧作州街道(横手道)の、周囲はブナ・ミズナラの原生林が広がる |
安蔵寺(あぞうじ)山 | 島根県・津和野町・益田市・吉賀町 | ブナ、スギ | ○ | 島根を代表する山の尾根伝いにひろがるブナ原生林と天然スギの混交林 |
剣山一の森 | 徳島県美馬市・三好市・那賀町 | ブナ | ○ | 関西第二の1955m剣山。ブナのほかミズナラ、ミズメ、ウラジロモミなど、多彩な樹種。 |
橡尾山北斜面ブナ林 | 愛媛県四国中央市・高知県大豊町 | ブナ | ○ | 100haのブナ林やシャクナゲ自生地をめぐる4時間ほどの登山道。ミズナラ、ハリギリ、トリノキ、コハウワカエデ、ヒメシャラ、ツガ |
四万十川源流・鷹取山植物群落保護林 | 高知県高岡郡 | モミ・ツガ | ○ | 四万十川支流の北川川ぞいの天然林。モミ・ツガに混じり、ホオノキ、シイ、カシなど広葉樹もみられる。 |
立花山 | 福岡県福岡市 | クスノキ | ◎ | 珍しいクスノキの群落地。原生林というよりは、江戸以前に植林された留め山の可能性も高いが、手つかずのクスノキ林は貴重。 |
阿蘇北向山原始林 | 熊本県南阿蘇村 | シイ、カシ | ◎ | 国天然記念物指定の照葉樹林の原始林。原生林入口の駐車場までは阿蘇市内から40分。 |
綾照葉樹林 | 宮崎県綾町・小林市 | カシ,タブ、イス | ◎ | 原生林ではなく昭和30年代まで林業で栄えたトロッコ線路が残る森。2000haの日本最大の照葉樹林を再生するプロジェクトが進められている。100年後には原生林と呼ばれるはずのところ。 |
双石山(ぼろいしやま) | 宮崎県宮崎市 | カシ、シイ | ◎ | 照葉樹林の自然林。修験道の聖地だったため守られてきた森だが、100年前までは多少人の手が入っていた痕跡はある。 |
金作原原生林 | 鹿児島県奄美市 | シイ、ヘゴ | ○ | 奄美大島の山中の亜熱帯性常緑原生林。手つかずの自然感 |
西表島・浦内川 | 沖縄県竹富町 | シイ、ヘゴ | ○ | マングローブ林を観る川登り船を下り、原生林の中を散策できる。 |
原生林の樹木の種類は?
ここまでの原生林リストを見て気づいた方もいるかもしれませんが、原生林を構成するメインの樹木は、ある程度限られています。そこで、この項では、「原生林の樹木の種類」について整理しておきましょう。
まず、原生林の主要構成種となるには、「陰樹」または「半陰樹」であることが原則になります。
陽樹の森は、たとえ長らく手つかずであっても、やがて、陰樹にとってかわられる運命にあります。つまり、陽樹の森はまだ若い森ですので、原生林とは言い切れません。陽樹の林は、原生林ではなく二次林や自然林・天然林と言うべきです。
たとえば、たまに「シラカバの原生林」という表現も見かけますが、シラカバは陽樹ですので極相林を構成しません。シラカバはやがてミズナラなどの陰樹に入れ替わる運命ですので、「シラカバの原生林」は存在しないわけですね。
つまり原則的には、原生林の主要種は「陰樹」に限られるわけです。ですので、日本の原生林のメインの樹木は、植物帯とに、次のような種類になることがわかります。
・亜寒帯…針葉樹林…トドマツ、コメツガ
・亜高山帯…針葉樹林…シラビソ、トウヒ
・冷温帯…針葉樹林…モミ、ツガ、トウヒ
冷温帯…落葉広葉樹林(夏緑樹林)…ブナ、ミズナラ、カエデ
・暖温帯…常緑広葉樹林(照葉樹林)…カシ、シイ、クス、イス、タブ
ここで、注意したいのは「スギ」です。スギは、屋久島のイメージで原生林のメインとなりそうな樹種ですが、実はスギは陽樹ですので、自然状態のスギだけの極相林は、論理上存在しません。針葉樹の原生林はツガ、トウヒ、シラビソなどの陰樹でできています。ただ、スギは寿命がとても長い樹木であるため、広葉樹の原生林に巨木として残っていることが多いのです。陽樹は一般的に寿命が短いですが、スギは例外的に寿命が長い陽樹のため、原生林のなかで巨木になっているわけです。
また、気温ごとの植生を示す植物帯は、沖縄と北海道という緯度の区別だけでなく、垂直分布で植生ががらりと変わることもポイントです。標高が数百メートル変わると、植物帯が変わるので、高原などでは礼温帯のブナの原生林と、亜寒帯のツガの原生林が両方見れる場合もあるわけです。
原生林を訪れる注意点
原生林の訪れる場合は、基本的には山歩きのスタイルが必要になります。トレッキング・シューズや上下のレインウェアは必須です。
ただ、コースによっては、駐車場からほとんど標高差の無い平坦な所要時間が30分ほどのものもあります。そうしたコースであればスニーカーでも充分でしょう。とにかく、コースにより標高差や距離がいろいろですので、原生林を訪れる際は難易度をしっかり確認して、装備を整えましょう。
また、北海道・本州ではクマが頻繁に出没するので注意とクマ鈴などの備えは必須と考えておきましょう。ドライブがてらたまたま森に入ることになった場合なども、「クマ鈴アプリ」を利用して、対策することをおすすめします。
南西方面の常緑樹の原生林では、ヤマビルが多いので、こちらも要注意。ヒルがついたら、ライターであぶるとポロッと取れます。
原生林を守って行くために
無意味な利権がらみの乱開発は止まったか?
日本の主要な原生林は、国の特別天然記念物、世界遺産の自然遺産や複合遺産、またはユネスコのエコパーク指定されいたりして、新たな開発や伐採や現状の変更が禁止されています。
数十年前までは、「荒れた山を維持する」との名目で、やたらと林道を作り土木業界の利権を潤すような、そんな政治的判断で、どんどん林道が作られていました。今では、人工林の路網整備のための林道整備こそ計画されていますが、現状が原生林であったり原生的なところへの新たな道路計画は慎重になる傾向です。
国民的創意のもとで守るべき自然は守っていこうという方向性になっているので、原生林が乱開発される心配は以前よりは少なくなっています。
しかし政治的なサジ加減と業界の動向ひとつでは、またいつでも目先の利益だけを求めた無意味な開発計画がもちあがるとも限りません。日本の原生林は地元はもとより、日本国民すべての宝ですでの、乱開発には常に目を光らせて監視する国民的な風潮を作っていくことは、とても大切です。
外国資本の買い占めは大丈夫なのか?
また、最近気になるのが、外国資本による民有林の買い占め問題です。
外国資本による買い占めは、原発事故で一時下火になっていたものが、またぶり返しています。表向きは日本人が所有しているものが裏で海外資本などとつながっているため、実情すら正確に把握できていないようです。
マスコミなどであまり問題なっていないようですが、国家の権利や安全保障上の問題だけでなく、自然保護の観点からも厳しく監視して、国土を外国資本の手に渡さないように守って行く必要があるはずです。
原生林を脅かしているものナンバーワン? シカ問題
それから意外なことに、人間以上に、近年、原生林の脅威となっているのが「シカ」の存在です。
シカは自然の象徴のようで山でみかけると嬉しかったりしますが、増えすぎてもはや森を荒らす存在となってしまいました。木の皮をはいだり、下草を食べ尽すため、植生が変わってしまうことが心配されています。
原生林の状態を維持するためにはシカ除けネットが必須になってきているのも、皮肉なことです。
もちろんシカが悪いわけではなく、長年かけてバランスを崩してきた人間にその責任のすべてがあります。
シカ問題は抜本的な解決の糸口が見いだせていませんが、バランスがとれた生態系を取り戻すつとめが、われわれにはあることを、忘れてはいけません。
以上、日本の原生林について、お伝えしました。案外、まだまだ日本にも原生林があることがおわかりいただけたと思います。
こうした原生林を後世に守り伝えていくためにも、まず、原生林を訪れ自分自身でその魅力を確かめてみることが、いちばんだと思います。
では、原生林へでかけて行きましょう!
【参考記事】 森を楽しむ方法のひとつとして、トロッコ列車やレールバイクがあります。森林浴もしたいけど歩くのはたいへん、という人におすすめの旅の方法が、トロッコ列車やレールバイクです。
⇒「トロッコ列車とレールバイク」の記事を参照してみてください。